最近、日本で「LGBT」という言葉が浸透しつつあります。教育や企業でもさまざまな取り組みが行われたり、メディアでも取り上げられるようになってきました。

認知度は高くなってきたものの、同時に日本では同性間の結婚が認められていない現状を忘れてはなりません。自分ごと化して問題意識をもつことはなかなか難しいですが、日本ではLGBTを自認する当事者は13人に1人という結果も出され、かなり多くの人数であることがわかります。

そこで、今回は海外と比較した日本のLGBTにおける取り組み、同性婚などについて解説します。

初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」について解説するため、表記が混在しております。

LGBTとは?

LGBTとは?

LGBT

LGBTとは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった言葉で、セクシュアルマイノリティを表す総称の1つとなります。

  • レズビアン(Lesbian):「女性同性愛者」とも呼ばれ、性自認が女性で、女性に恋愛・性的感情を抱く人のことをいいます。
  • ゲイ(Gay):「男性同性愛者」とも呼ばれ、性自認が男性で、男性に恋愛・性的感情を抱く人のことをいいます。
  • バイセクシュアル(Bisexual):「両性愛者」とも呼ばれ、性自認にかかわらず、2つ以上の性に恋愛・性的感情を抱くことの人をいいます。ここで注意してほしいのが、必ずしも“男女のみ”に限らない場合もあるということです。「自分のジェンダーとそれ以外のジェンダーを好きになること」「恋愛・性的感情を抱く対象は1つの性別だけではない」など、さまざまな定義が存在します。
  • トランスジェンダー(Transgeder):生まれたときに割り当てられた性と、自認している性が一致しない人のことをいいます。

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LGBT以外のセクシュアリティ

「LGBT」以外にも「LGBTQ」や「LGBTQIA」、「LGBTQ+」といった言葉も聞くことでしょう。実は、セクシュアリティにはLGBT以外にも多種多様なあり方が存在します。必ずしもセクシュアリティをラベリングする必要がないことを前提に、あらゆるセクシュアリティのなかには、カテゴライズできる言葉もあるということを頭に入れておきましょう。

以下、いくつかのLGBT以外のセクシュアリティになります。

  • クィア(Queer):LGBTQの「Q」を指し、もともと海外では「風変わりな」「奇妙な」という意味合いで使われていました。現代では、LGBT含むセクシュアルマイノリティの総称として使われることが一般的です。
  • クエスチョニング(Questioning):クィアと同様、クエスチョニングはLGBTQの「Q」を指し、英語では「Questioning」と表されます。性のあり方がわからない、枠に当てはめたくない人のことをいいます。
  • アセクシュアル(Asexual):他者に対して、性的な感情を(ほとんど)抱かない人のことをいいます。
  • アロマンティック(Aromantic):他者に対して、恋愛感情を(ほとんど)抱かない人のことをいいます。
  • パンセクシュアル(Pansxual):「全性愛者」とも呼ばれ、性別に関係なく恋愛・性的感情を抱く人のことをいいます。バイセクシュアルと同様、さまざまな定義が存在しています。「その人の個性に惹かれる」「フェミニンな人を好きになる傾向があるが、相手のセクシュアリティは関係ない」など、人それぞれであることを頭に入れておきましょう。

関連記事:「【解説します!】LGBTって何?さまざまな性のあり方を知ろう

4つの要素

性のあり方を表すセクシュアリティは、LGBTだけではありません。一般的に4つの要素で区分されることが多いですが、性のあり方はグラデーションであるため、一概にもカテゴライズしきれないのです。ここでは、4つの要素を紹介します。

  • 戸籍上の性:身体的特徴などにより、出生時に割り当てられる性のことをいい、戸籍上では男性もしくは女性に区分されます。外性器や染色体によっては性別を判断できない場合があります。
  • 性自認:戸籍上の性とは関係なく、自分が自認する性のことをいいます。
  • 性的指向:恋愛・性的感情を抱く対象となる性のことをいいます。
  • 性表現:服装、髪型、振る舞いなど、自分がどう表現したいかについてです。

LGBTの割合

「LGBT当事者とは会ったことない」「周りに当事者はいない」という意見をよく耳にしますが、実は日本には多くのLGBT当事者がいるのです。

冒頭でもお話しましたが、電通の「LGBTQ+調査2020」によると、国内のLGBTの割合は13人に1人という結果が出ています。その数は、左利きの人と同じ割合となります。ということは、もしかしたら当事者に出会ったことがないのではなく、周りにいるけど知らないだけである可能性も考えられます。

日本では海外に比べてLGBTが浸透しておらず、現に同性婚が認められていないという現状があり、なかなかセクシュアルマイノリティであることを公にできない当事者も多く存在するのです。

日本と海外のLGBTへの対応の違い

日本と海外のLGBTへの対応の違い
日本には多くのLGBTがいることがわかったところで、実際に当事者へどのような対応がなされているのでしょうか。海外と比較し、法律や現状などの違いについても紹介します。

日本の現状

法律

日本では、LGBTを取り巻く問題が可視化されていない現状があります。その根拠の1つとして、OECD各国のLGBTQの法整備ランキング(2021)では、日本は35か国中34位とワースト2位でとなりました。

日本では同性婚を認める法律やLGBT平等法はありません。また、トランスジェンダーが戸籍上の性別を変更する法律はあるものの、ほかの先進国と比べると、その内容はかなり遅れています。

2003年に制定された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」によると、戸籍上の性別を変更するには、以下6つの要件を満たす必要があるとされています。

  1. 二人以上の医師により,性同一性障害であることが診断されていること
  2. 18歳以上であること
  3. 現に婚姻をしていないこと
  4. 現に未成年の子がいないこと
  5. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  6. 他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

引用:最高裁判所「性別の取扱いの変更

しかし、トランスジェンダー当事者のなかには手術を望まない人もいます。反対に、手術を望む当事者でも結婚をしていたり、未成年の子どもがいる場合、戸籍上の性別変更が不可能となります。多くの当事者からは「手術要件なくして」との声が上がり、今後再検討すべき課題となるでしょう。

SOGIハラ

セクハラ、モラハラ、パワハラなどの言葉が誕生するなか、セクシュアリティに関するハラスメント「SOGIハラ(ソジハラ・ソギハラ)」も問題視されています。SOGIとは、「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity (性自認)」の頭文字をとった言葉で、それらに関連した差別やいじめ、精神的・肉体的嫌がらせのことをSOGIハラといいます。以下、5つのSOGIハラを紹介します。

  1. 差別的な言動や嘲笑、呼称
    「あの子ってレズ/ホモらしいよ」「あなたオカマみたい」など、相手が望まない言動は差別にあたります。ホモやレズ、オカマは蔑称であるため、少しでも本人が不快に思うと考えられる場合は使うべきではありません。たまに当事者同士で、これらの言葉を使うシーンをみますが、相手との関係性や文脈、ニュアンスなどが含まれているため、誰でも使っていいというわけではありません。
  2. いじめ・無視・暴力
    職場や学校などで、いじめや無視、暴力を経験したLGBT当事者は68%*との調査結果が出ています。最悪の場合、自ら命を落とすことも。体と心が変化する時期でセクシュアリティに悩みを抱える学生は多いものの、学校でLGBTを学ぶ機会が少ないのが現実です。安心できる環境が整備されていないことから、周りに助けを求めることが困難な状況にあります。
  3. 望まない性別での生活の強要
    書類の性別欄、制服など、日本ではまだまだ性別による区別が著しくあります。また、「男/女はこうあるべき」といった偏見から、好きなメイクや服装を選べないという人もいます。
  4. 不当な異動や解雇、入学拒否や転校強制
    就活の際、セクシュアルマイノリティであることをカミングアウトしたことで内定取り消しになったという当事者の話を耳にしたことがあります。特に男女共有スペースについては多くのトランスジェンダー当事者が気にすることで、入社前に相談するケースも珍しくありません。会社としては対応ができないなどの理由で断ることが多く、新しく環境を整備したり、問題を一緒に考えるまでには至らないことが現実としてあります。
  5. 誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
    先述した一橋アウティング事件も、これに値します。例え、当事者が自らのセクシュアリティを誰かに公言したからといって、誰かに言っていいとは限りません。親しい友達は知っているけど、親戚や家族には伝えていないなど、個々によってカミングアウトの幅は異なります。

*ReBit「多様な性に関する授業がもたらす教育効果の調査報告」(2019)

2015年に起きた「一橋大学アウティング事件」では、相手のSOGIを許可なく他人に広める「アウティング」により、ゲイを自認する同級生が自殺したという痛ましい事件が起こりました。ただし、この事件のような出来事は日本では決して珍しいものではありません。

教育現場や会社で、当事者が精神的安心を確保できる環境は整っておらず、1人で悩みを抱えることもあるのです。

関連記事:「『SOGIハラ』って何?LGBTsとハラスメントについて

海外の現状

日本では、2019年度より、文部科学省の教科書検定に合格した中学校道徳の教科書にLGBTを記載するなどの動きがみられ、2020年度からは小学校保健体育の教科書にもLGBTの内容が盛り込まれるようになりました。とはいえ、全ての教科書が対象でないことが課題として挙げられます。その理由は、学習指導要領にLGBTが必須で入っていないため、各学校の教科書の採択に委ねられます。

日本ではまだまだ初等教育から触れることが少ない一方、海外ではさまざまな取り組みが行われています。例えば、フランスでは科学や歴史など、あらゆる文脈でLGBT教育が行われたり、GDI(ジェンダー開発指数)世界第1位のフィンランドでは、中高で人間生物学と健康教育の側面からLGBTについて学びます。

寛容な国が存在する一方で、世界には日本よりも厳しい現状を待ち受けている国も多数あります。先進国であるシンガポールでは、男性間の性交渉を禁止したり、メディアでは同性愛のコンテンツが規制されるなど、多様な人種や文化が混ざっている国からは想像できないような現実が許容されています。またインドネシアでは、男性の同性カップルが法律に反したとされ、公開で鞭打ちの刑を執行されました。

このように、日本では馴染みのない宗教などからもLGBTが受け入れられない国が存在します。

関連記事:「【2022年5月最新】日本のLGBT教育の全貌と世界のLGBT教育
関連記事:「海外のLGBTs事情をご紹介!同性愛が罰せられる国も・・・

日本の同性婚への対応と海外の違い

日本の同性婚への対応と海外の違い
G7(主要7カ国)のなかで、同性婚が認められていないのは日本だけという話はよくされます。なぜ、先進国が続々と同性間の婚姻制度を導入しているなか、日本は制度導入に至らないのでしょうか。また、同性パートナーシップとの違いとはなんでしょうか。海外の結婚制度と日本を比較して解説します。

日本の結婚制度

日本では現状、同性婚は認められていません。法律は認められていませんが、自治体では続々と同性パートナーシップ制度を導入し、東京都では全自治体を対象に今年11月に制度の運用開始予定です。パートナーシップに基づき、異性カップルと同じように同性カップルにも制度を提供する企業も増えてきています。

同性婚の法制化に反対する人のなかには、「パートナーシップ制度と変わらないから法制化の意味はない」との意見があるそうです。ですが、制度と法律は全く異なるものです。以下に、違いをまとめました。

法律婚 パートナーシップ
配偶者控除 ×
遺族年金 ×
公営住宅に住める
病院での面会、手術同意
カップルとしての賃貸契約
生命保険の受取人
家族割、サービス

自治体によって異なりますが、特に同性のパートナーが亡くなった場合、遺産を必ず相続できるのは法律上の配偶者となります。同性カップルだと、遺言書がない限りは遺産を相続することは不可能なのです。このように、法律婚では当たり前のようにできることが、制度だけでは実現できないことも多く存在します。

関連記事:「同性婚が認められるべき理由とは?パートナーシップ制度との違いを解説

海外の結婚制度

世界で1番始めに同性婚を認めた国はオランダです。2001年以降、ヨーロッパを中心にベルギー、スペイン、スウェーデン、そして大陸を渡ってカナダ、南アフリカなど、20の国・地域※で同性婚が認められています(2020年時点)。

2019年には、アジアで初めて同性婚が認められた国、台湾がクローズアップされ、日本でも法制化に向けた声がより一層高まりました。とはいえ、同性婚が死刑となる国は12カ国※もあり、国によっての認識に差がある印象です。

※Marriage for All「世界の同性婚

関連記事:「LGBTsをカミングアウトするハリウッドスターたち

日本企業と海外企業のLGBT支援制度の違い

日本企業と海外企業のLGBT支援制度の違い
日本では同性婚が認められていない現状のなかでも、あらゆる人のあり方を尊重しようとする考え方に移行しつつあります。「LGBTフレンドリー」を掲げる企業は増えてきたものの、何に基づいているかが不透明であることも。

そこで、具体的にどのような施策が導入されているか、LGBTフレンドリーの定義などについて紹介します。また、海外企業の取り組みについても見ていきましょう。

日本企業

PRIDE指標

企業などの団体において、セクシュアルマイノリティに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援する任意団体「work with Pride」は、2018年「PRIDE指標」を策定しました。PRIDE指標とは、職場におけるLGBTの取り組みを評価したもので、5つの評価指標である

  • 「Policy (行動宣言)」
  • 「Representation (当事者コミュニティ)」
  • 「Inspiration (啓発活動)」
  • 「Development (人事制度・プログラム)」
  • 「Engagement/Empowerment(社会貢献・渉外活動)」※

に基づいています。

これら5つの指標を細分化すると、「Policy (行動宣言)」では「経営トップが社内外に対し方針に言及している」「会社としてLGBTQ+等の性的マイノリティに関する方針を明文化し、インターネット等で社内外に広く公開している」、「Representation (当事者コミュニティ)」では「社内のコミュニティ(LGBTQAネットワーク等)がある」「社内外を問わず、当事者が性的指向または性自認に関連した相談をすることができる窓口を設けている」など、さまざまな評価項目に基づき、点数を加算していく仕組みとなります。

企業は応募フォームより応募でき、ゴールド・シルバー・ブロンズが表彰され、認定ロゴマークが与えられます。企業としてLGBTの取り組みを既に実践しているか、具体的な施策内容や当事者が安心して働ける職場環境が備わっているかなどを確認でき、転職や就活時の参考にもなる点がメリットです。

※出典:work with Pride 「PRIDE指標

パワハラ防止法

2020年には「パワハラ防止法」が大企業に適用され、厚生労働省の定める「セクハラ指針」にはLGBTに関する内容も明記されています。パワハラ防止法は、「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3つに該当することが定義され、アウティングやSOGIハラも含まれます。

これらのハラスメントを防止するためには、企業におけるLGBTへの理解が求められることでしょう。例えば、本人のセクシュアリティをどこまで共有していいか、通称名の使用を希望しているかなど、さまざまな点において配慮が必要となります。

関連記事:「男なの?女なの?トランスジェンダーのつらい就活事情

海外企業

アメリカのニューヨークでは世界的規模のプライドパレードが開催され、報道によると2019年は700団体、15万人の参加者で賑わったそうです。アパレルやコスメ関連の企業は、関係者にLGBT 当事者が多いこともあり、ほかの業界と比べて理解が早いことが想像できます。

同時に、いわゆる“堅めの企業”もパレードに参加することが増えてきて、ニューヨークではLGBT当事者がいることを前提とした認識に移り変わっているようです。

関連記事:「【2022年版】日本のLGBTを取り巻く環境!LGBTの困ること【20選】

まとめ

まとめ
今回は、日本のLGBT事情についてお話しました。政治という分野になかなか手を出しづらいと感じてしまう人も多いかもしれませんが、日本では同性婚が認められていないことで、職場や学校といった、身近な環境に直接的に影響します。社会は自分の人生に関わることであり、少しずつ改善していく必要があるのです。

LGBT当事者が声を上げるだけでなく、当事者以外の人たちや企業などがどう行動するかも重要となります。G7で唯一同性婚が法制化されていないという現状のなか、これからさらに取り組みを強化し、当事者にとって過ごしやすい社会をみんなでつくっていくことが求められます。