ここ数年、世界中でLGBTについて語られるようになり、日本でも少しずつ変化が見られてきました。

日本では現状、同性婚は認められていませんが、各自治体における同性パートナーシップ制度が導入されつつあり、東京都は全自治体において制度を導入する意向も示しています。また、小学校、中学校の義務教育でも多様性の観点から、セクシュアリティやジェンダーなどのテーマが取り上げられるようになりました。

ですが、教育面でまだまだ課題があるのも事実。そこで、日本のLGBT教育はどのようなものか、海外と比較してみましょう。今後、どのような取り組みが求められるかを一人ひとりが認識することで、社会の流れはよい方向へと流れていくはずです。

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初めに
IRISではLGBTにも、その他のマイノリティにも親切な企業でありたいという気持ちからLGBTsフレンドリーを掲げていますが、本記事はLGBTに関する内容の為、LGBTsではなくLGBTという言葉を使用していきます。

LGBT教育の現状


小学生、中学生で、思春期を迎える人たちは多いはず。好きな人や気になる人が1人、2人はできることも珍しくありません。それと同時に、同性が好きであることや、自分の性自認に違和感をもち始める当事者もいます。

そんなとき、学校でLGBTについて知る機会が十分になかったり、先生や生徒などから理解が得られないことから、一人で悩みを抱え込んでしまう生徒がいることを忘れてはなりません。

学生にとって一日の大半を過ごす学校は、誰もが過ごしやすい空間であるべき。だからこそ、全ての人が尊重されるべきだということを学ぶ場として提供されるべきなのです。現時点でのLGBTにまつわる教育を知ることで、今後の課題が見えてくるかもしれません。

性の多様性は教科書に盛り込まれていない

2019年度から、文部科学省の検定に合格した中学校の道徳の教科書では、8社中4社※(1)がLGBTについて取り上げていることが明らかになりました。また、2020年度からは小学校の保健体育の教科書にLGBTにまつわるテーマが追加される※(2)など、授業のなかでも触れる機会は増えています。

  1. 『「性的少数者」道徳教科書で初の掲載 8社中4社で』朝日新聞DIGITAL
  2. 『教科書検定「LGBT」初登場 多様な性、高校で学んで』毎日新聞

2015年のLGBT意識調査では、教員5,979人が回答。そのうち、半数以上が授業でLGBTについて取り扱うべきだとしています。

必要性を認識している教師は多いものの、全ての教科書にLGBTの内容が盛り込まれているわけではありません。実際、同性愛を無視した記述が書かれている教科書は多く存在しています。その理由は、学習指導要領にLGBTが入れられていないから。つまり、各学校の教科書の採択が大きなポイントとなり、LGBTについて学べる学校と学べない学校があるということなのです。

「同性愛を前提とした表現を変えるべき」「LGBTを全ての教科書に盛り込んでほしい」という意見はあったものの、文科省により却下されてしまいました。海外の教育を参考に、日本では教育内容を早急に見直すべきです。

性教育の担当の先生がLGBTを理解できていない

上記で述べたように、教員の半数以上が教育内容にLGBTを盛り込む必要性があると回答しました。ですが、同調査では同性愛者を自認する生徒と関わったことのある教員はたったの7.5%だという結果が出ています。

関わったことがないのは、本当に当事者がいなかったのか、当事者だけど言える環境がなかったのか……。学校ではLGBTへの差別や偏見が全くないわけではなく、学校でのカミングアウトを困難に感じるLGBTの学生は多く存在します。LGBTの存在を可視化しづらい環境があることは否めません。

さらに、約7割の教員が同性愛者、異性愛者は本人の選択によるものだと回答しています。ですが、セクシュアリティやジェンダーは、“なりたくてなる”、“なりたくないからやめる”のように、個人で選択できません。このような誤った認識が生徒に伝わる危険性や、個人の見解で授業が進んでしまうのは今後懸念されることでしょう。

また、半数以上の教員が「子たちにおける同性愛への差別的な言動はない」と回答していますが、本当になかったと言い切れるのでしょうか。テレビでは、ゲイのタレントが「オカマ」「ホモ」と言われ、笑いの対象として取り上げられている場面を見た人は多いはずです。

学校だけでなく職場や友人間でも、ゲイが一緒くたに認識されたり、当事者が望んでいないような言動を向けられることは珍しくありません。多くの教員が差別的言動はなかったと回答していますが、実際に自殺を考えたことのあるゲイ、バイセクシュアル男性は約70%※にも及びます。

教員は生徒に教えるという構造が顕在化しつつある教育現場ですが、役割にかかわらず学ぶ姿勢が求められます。

※日本のゲイ・バイセクシュアル男性対象の調査(2015)

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学校全体でのLGBT教育が求められる


日本のLGBT教育の現状について先述しました。まだまだ課題があることは実感できたはずです。教員の適切な理解を促し、それらを生徒や保護者に伝えることが大事です。

さらに、授業内だけで理解を終わらすのではなく、学校におけるさまざまな場面で、LGBT生徒含む全ての生徒が過ごしやすい環境づくりに励むことが求められます。

教師やスクールカウンセラーがLGBTについて理解を深める

LGBT生徒が安心して学校で過ごすためには、周りの理解が必要となります。例えば、生理や体の変化など、成長期を迎える学生時代。そんなとき、実際に経験した人、理解を示してくれる人が周りにいたら、アドバイスを求めやすいですよね。LGBT当事者も同じように、相談できる誰かがいれば心が楽になるかもしれません。ですが、なかなか見つからないのが現実問題にあります。

大学生でセクシュアルマイノリティであることを自認した筆者は、インターネットでLGBTについて調べたり、コミュニティを自分で探す力があったため、そこまで悩むことはありませんでした。ですが、もしセクシュアリティに気づくタイミングが小学生や中学生だったらと考えると、生きづらさを抱えていたかもしれません。そんなとき、気軽に相談できるスクールカウンセラーや教員がいたら、心が楽になれるLGBT学生が増えてくるはずです。

そこで、周りに必要なことはLGBTの理解を深めること。社会全体にも当てはまることですが、異性愛や男女で区分することが前提となっていることで、困ってしまう当事者は多くいます。

学校でいうと、制服、トイレ、着替え、呼び名、名簿など、男女で判断されるシーンがあります。これらの制度がすぐに変えられなくても、当事者から相談を受けた際に気をつけられることはあります。例えば、学生のセクシュアリティやジェンダーを決めつけない、本人の許可なく第三者に言いふらさない、その人の心地のよい呼び名で呼ぶなど。今日からでも意識は変えられます。

多目的トイレの設置

障害者や高齢者などが使う多目的トイレですが、実は多くのLGBT当事者も必要としています。性自認と出生時に割り当てられた性が異なるトランスジェンダーの人には、戸籍上の性別のトイレを使用することに対し、違和感を抱くこともあるのです。

それが学校となると一日の中で必ず使う空間となり、かなり苦痛を抱くことでしょう。性別関係なく、誰でも気兼ねなく使える多目的トイレが学校に導入されれば、そういった苦悩を抱く当事者は減るはずです。

制服や水着、体操服の選択肢を増やす

こちらもトランスジェンダー当事者を悩ませる服問題。ほとんどの学校では、制服や水着、体操服が男女によって異なります。服装の強要は、その人が自認する性を否定することにつながります。

男性を自認している学生が、女性が身につける制服のスカートの着用を強要されたら、違和感を抱くことは容易に想像できます。同様に、女性を自認している生徒が、プールの授業で男性更衣室を使って水泳パンツのみを履かされたらどうでしょう。最近では、制服でスラックスを選べる学校が増えてきました。水着や体操服も、なるべく露出度の低い、男女兼用で着用できるデザインや形が増えることを願います。

世界のLGBT教育


日本ではLGBTの取り組みが徐々に増えてきてはいるものの、世界と比べると遅れている印象があります。事実、日本はG7で唯一同性婚が認められていない国として知られています。国が上がってLGBTへの制度や法律をつくっているところは、教育面も充実しています。日本は海外の取り組みに目を向け、変わる必要があるのではないでしょうか。

フランス

フランスは、同性愛者を犯罪者として扱う時代を乗り越え、2013年に「みんなのための結婚法」を成立させました。

教育面では、LGBTが科学の生物領域という科目で教えられています。そこでは、生命の誕生の仕組み、性自認、セクシュアリティ、ジェンダーなど、さまざまな性のあり方について学習できるカリキュラムが備わっています。さらに、歴史や社会、倫理などのあらゆる観点から教育が行われていることも特徴です。

フィンランド

人間開発における男女格差を表す「GDI(ジェンダー開発指数)」で、世界トップのフィンランド。さらに、GGI(ジェンダーギャップ指数)では、世界4位。性別にかかわらず、全ての人が平等に過ごせる社会の実現を目指しています。

教育にもLGBTを取り入れ、人々の理解を促進させる取り組みを行っています。LGBTについて扱う科目は人間生物学と健康教育。授業では、歴史的変遷を辿りながら同性婚や社会的制度を学んでいきます。

アメリカ

自由の国ともいわれているアメリカですが、実はまだまだ同性愛嫌悪は深く根付いていることが現状。とはいえ、2017年にはカリフォルニア州教育委員会は、中学までの教科書にLGBTを取り入れることを認めていますし、LGBTの歴史を扱わない教科書の使用を禁止しています。

学生でLGBTについて触れることは多いですが、まだまだ差別的な言動が見られる現実は、教育だけでなく人々の根本的な考え方が変わることの重要性を再認識させられます。

日本のLGBT教育の全貌と世界のLGBT教育のまとめ


いかがでしたでしょうか。本記事では、日本におけるLGBT教育の現状を海外と比較して紹介しました。大人になると自主的に情報を得ることが求められる一方、小学校、中学校は義務教育という全ての学生が通過する門があります。だからこそ、LGBTに関する適切な認識を広めていくことが必要なのです。

日本では、既にあるルールを変えることを恐れる傾向があるのかもしれません。「もし失敗したらどうしよう」「批判を浴びるかもしれない」と考えるこはたしかに理解できます。ですが海外に目を向けると、新しいことにチャレンジし、仮に失敗しても軌道修正する流れができていると感じます。

今後、日本では間違えることが悪だと考えるのではなく、誰もが過ごしやすい環境をつくっていく意識にシフトチェンジすることが求められます。国単位でなくても、学校単位で制度をつくることも可能です。

人々の意見を反映させることで、少しでも過ごしやすいと感じられる人が増え、社会全体が変わる第一歩となります。