同性婚が認められない日本。世界中で法制化が進むなか、日本は停滞する一方です。異性カップルと同じように、同性カップルも結婚したいと思うのは、おかしいことではありません。同性婚でなくても、パートナーシップ制度を利用すればいいのではないかという意見も見られますが、法律と制度は全くの別物。制度では受けられない権利がたくさんあるのです。そこで、法律として結婚が認められることは何を意味するのか、どのようなことが実現されるのか、具体的に解説していきます。

日本の同性婚の現状

2019年、台湾でアジア初となる同性婚が認められました。世界を見ても、同性婚の法制化の動きがみられるなか、主要7カ国(G7)のうち日本だけが同性婚を認めていないという現状があります。

同性婚が憲法に違反するとも言われていますが、憲法24条の解釈については議員のなかでも意見が異なります。憲法24条「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定められていることから、「同性婚を禁止するとは書かれていないから認めるべき」という声と、「男女間にのみ適用されるべきだ」という声があります。

同性婚を認めないことこそが憲法違反とし、2019年には日本弁護士連合会が『同性の当事者による婚姻に関する意見書』を法務大臣、内閣総理大臣、衆議院議長および参議院議長宛てに提出しました。さまざまな議論がなされるなか、「全国民の人権を確保するための法律の働きとは何か」ということについて、改めて考える必要があると感じます。

同性婚で実現されること

EMA日本の調査によると、法的な婚姻では約60の権利・社会保障給付が認められていることがわかりました。それらの全ては、基本的に同性カップルには適用されません。具体的な法的な権利、社会保障給付、民間企業などのサービスについては、EMSのホームページから確認できます。では具体的に同性婚が認められないことで、当事者はどのような壁とぶつかってしまうのでしょうか。

住まい探しにおける選択肢の幅が狭まる

住まいを探す際、同性カップルであることを伝えると、消極的な反応を示す不動産会社や大家さんも珍しくありません。同性カップルへの偏見を抱えることで、同性カップルが部屋を使ったら汚されてしまうと思うこともあるようです。さらに同性カップルがカップルとしてではなく“他人”と認識されることで、ペアローンが利用できなかったり、同居親族を有することを条件とした公営住宅に入居できなかったりというケースもあります。

相続人となることができない

民法では、被相続人が死亡した場合に、遺産を必ず相続できるのは配偶者となります。本来ならパートナーとしている同性の方にも適応されるべきなのですが、法律上の婚姻関係にある配偶者にしか当てはまりません。なので、同性カップルの場合は遺言書がない限りは、遺産を相続することは難しいとされます。

子どもの親権がどちらか一方となってしまう

同性カップル間に子どもがいる場合、どちらか一方の親権となってしまいます。民法上「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う」(818条3項)とされていますが、同性カップルは共同親権を行使することができません。

アウティングの危険性

アウティングとは、第三者が本人の了承なしにセクシュアリティを他人に暴露する行動のことをいいます。アウティングの原因の一つは、同性愛やLGBTsが社会的に十分に認知されないことでしょう。法律で同性婚が認められないことは、セクシュアルマイノリティの人権が確保されないことを意味し、当事者が社会的な理不尽を被ることにもつながります。

同性婚に反対する人の声

同性婚を認めることで、他の人が不利益を受けることはありません。むしろ、より多くの人が住みやすくなる社会へと近づく第一歩になると考えられます。ですが、いまだに同性婚の法制化に反対する人は存在するのです。反対する人たちは、どのような意見をもつのでしょうか。

伝統に逆らう

同性婚に反対する人のなかで多いのが「伝統的な家族の形を壊してしまう」という声。この声の背景には、結婚は男女間のものであるという固定観念の擦り込みがあります。人間の自然な本能として、異性に惹かれるという言説がまだまだ多いようですが、仮に男女間の結婚が伝統だとしてそれに逆らうことが、人々にとってどのようなデメリットがあるのでしょうか。

時代は流れ、進んでいきます。人の価値観や環境、情報などが変化していくなかで、いつまでも停滞することは人々にとって苦しさを感じることもあるでしょう。多くの国では、すでに現代に合わせて法律や価値観がアップデートされています。法律や政治がなんのために存在しているのか。国民の人権を守るという本来の役割を忘れてはいけないのではないでしょうか。

自分には関係ない

同性婚を認めることに関して「どちらでもいい」「認めない」と言う人の多くが、自分には関係のないことだと認識しています。LGBTsについて語られる際にも「私にはLGBTsに肯定的でも否定的でもない」といった意見を聞くことが多いのように思います。悪意なく言う人がいるのは事実ですが、「もし自分の家族や親友が同性愛者だったら」と考えてみてください。自分の話ではないからといって、こういった問題を見過ごすことはできないのではないでしょうか。

これは政治レベルでも同様です。はっきり否定することはなくても、法制化までには進まない。この裏には「法制化を明確に反対することはないが、多くの人が抱える問題ではないからこのままにしておこう」といったメッセージがあるように感じます。法律を変えることは大きなことです。ですが、社会のなかではLGBTsが受け入れられないことで、苦しさを感じる当事者が多くいることも忘れてはなりません。手のかかることでも法的に認められることで、全ての人が本来もつべき権利が保障されるという大きな進歩となります。

少子化の懸念

自民党の杉田水脈衆院議員が「同性カップルには生産性がない」との差別的な主張をしたことで、議論が起こりましたが、本当にそうなのでしょうか。「結婚するこ=子どもを産むこと」といった認識が浸透しているのも事実ですが、子どもを産まないと決めているカップルも多く存在します。

さらに自由恋愛が主流な現代では、婚姻制度が異性間のみであることから、同性愛者が異性と結婚し強制的に子どもを作ることは現実的ではなく、「同性婚が認められることで少子化が進む」と考えるのには無理があると感じます。今の婚姻制度を継続させることが、直接的な少子化の問題にはつながらず、他の対策を検討する必要があると考えることもできます。

同性婚が認められるには

現在、同性婚の法制化に向けて、さまざまな自治体でパートナーシップ制度が取り入れられたり、法律を変えるための裁判が行われたりしています。昔と比べると少しずつ問題意識が高まった印象ではあるものの、まだまだ政治家による差別的な発言や、世の中の偏見というものはなくなっていません。「自分には関係がないからと」知ることを放棄してしまっては、法制化への道のりは、さらに遠くなってしまいます。ですが、意外にもLGBTsを自認する当事者は多く、皆さんの周りにもいるかもしれません。そんな身近な存在の人々と共に、生きやすい社会の実現のためにも、一緒に声をあげていくことが大事なのだと思います。