トランスジェンダーと聞いて、どのようなことを思い浮かべますか。トランスジェンダーとは、生まれた時に法的に登録された性別とは異なる性別を生きている人のことをいいます。
「トランスジェンダーとは? 性別違和や性同一性障害など、当事者が解説」でも紹介しているように、「MtF」「FtM」「FtX」「MtX」とも表現できます。LGBTQという言葉と一緒に語られることは多いものの、性的指向を表す「LGB」と性別がかかわる「T」は全く異なるのです。
また、いくつかの調査※では、日本のトランスジェンダーの割合が人口の1%以下であると報告され、当事者の数が少ないことがわかります。数が少ないとはいえ、世の中には確実に当事者が存在するにもかかわらず、当事者の声が届かない形で議論が進められてしまっているのが現状です。
特にトイレやスポーツなど、性別による区分を巡って、トランスジェンダー当事者が「問題」として攻撃され、さらにデマや誹謗中傷が拡散されてしまうことも。ですが、トランスジェンダーそのものが問題なのではなく、当事者を不平等に扱うことそのものが問題なのです。トランスジェンダー当事者が直面する問題というより、直面“させられている”問題と認識する方が正しいのかもしれません。
最近では、歌舞伎町タワーのジェンダーレストイレ改修と、「LGBT法ができたら『心は女』で女湯に入れる」とSNS上で拡散されたという2つの出来事が話題となりました。
参考:https://news.yahoo.co.jp/articles/a346498e890e4ad717df814dd8af525fe65e4579
https://www.tokyo-np.co.jp/article/267703
本記事では、第二東京弁護士会、弁護士法人梅田総合法律事務所東京事務所所属の佐藤 樹弁護士監修の元、多くのトランスジェンダー当事者が経験したことのある問題を「社会」「法」「心理」「教育」「医療」「人間関係」「経済」に分けて紹介します。事例はごく一部であることを踏まえ、一緒に考えていきましょう。
参考:「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート(2019)」、「LGBTQ実態調査(2020)」
初めに |
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IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」について解説するため、表記が混在しております。 |
トランスジェンダー当事者が立ちはだかる社会の問題
「the more we are seen, the more we are violated.(私たちが表に出れば出るほど、社会から侵害される)」
この一文は、映画『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』の中でトランスジェンダー男性であり作家のTiq Milanから引用したものです。冒頭でもお話した通り、トランスジェンダーの人口は少なく、さまざまな差別や偏見が見過ごされてきました。その現状に立ち向かおうと当事者が声をあげても、攻撃の的とされてしまう中でできることは、当事者ではない人たちが正しい情報を身につけることです。
トランスジェンダーに対する偏見や差別
先ほど説明した差別や偏見はいまだに多く存在します。最近では、「自分が女性だと言ってしまえば、誰でも女子トイレに入れてしまう」のように、トランスジェンダーと犯罪を結びつけるような意見も目にします。
多くの人は「トランスジェンダー女性=心が女性で男性の見た目をした人」と想像するかもしれませんが、社会的に女性として生活できるような見た目をしている人や、女性へ移行途中の人など、一人一人の状態が異なることを覚えておきましょう。
トランスジェンダーコミュニティの中で「パス度」という言葉があるように、自身が自認している(もしくは希望する)性別として社会から認識される度合いが当事者の社会生活を左右することもあります。
例えば、見た目が完全に女性である当事者は、男子トイレに入ることの方が難しい場合もありますし、移行期間中の人はそもそも男女で区分されたトイレは利用する選択肢がないこともあります。
TOTO株式会社が実施した「性的マイノリティのトイレ利用に関するアンケート調査(2019)」によると、トランスジェンダー当事者が外出先のトイレ利用に関してストレスだと感じることの多くは、「トイレに入る際の周囲の視線」(31.1%)、続いて「トイレに入る際の周囲からの注意や指摘」(23.5%)、「男女別のトイレしかなく、選択に困ること」(21.4%)であることがわかりました。
調査結果からもわかるように、SNS上で目にする非当事者による意見とトランスジェンダー当事者の意見には、かなりの差があるように感じます。トイレを利用する当事者は、なるべく周囲に迷惑をかけないよう、それぞれの状態やその日によってリスクがない選択肢をとっているのです。つまり、どちらのトイレにも居場所がないのが現状です。
関連記事:「【当事者執筆】トランスジェンダーでトイレに困ったときどうする?どんな問題を抱えているのか?」
トランスジェンダーに対するサポートが足りていない
職場や学校、公共施設など、トランスジェンダー当事者が日常生活で生きづらさを感じることも多くあります。IRISがサポートするLGBTsの住まい環境に関しても、特にトランスジェンダーの課題は多いのが現状です。
IRISでは、LGBTs当事者を対象にした「IRIS認知度調査(2022)」を実施。半数の人たちが当事者の住まいに関して何らかの課題を知っているという結果になりました。
その中でも、「同性パートナーと入居するときに、緊急連絡先や連帯保証人に同居の事実が伝えられ、意図せずセクシュアリティが伝わってしまうリスクがある」といったアウティング(本人のセクシュアリティを第三者が勝手にバラす行為)リスクを懸念している人が総定数いることがわかりました。
実際に、IRISで働くMtFの齋藤さんは、過去に不動産会社を利用した際、手続き上は戸籍上の性別である男性で進めていたといいます。さらに、名前を変えていることを両親に伝えていなかったため、親に緊急の連絡が入った際の不安も抱えていたとのこと。
このように「住」1つ挙げても、住まい探しから賃貸契約、その後の生活など、さまざまな場面でアウティングの被害に遭う可能性が考えられます。
関連記事:「【同棲経験者にインタビュー】トランスジェンダーの住まい探しの現状とは」
トランスジェンダーが立ちはだかる法律の問題
現状、日本ではトランスジェンダーひいてはLGBTsに関する法律は、6月に成立した「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)LGBT理解増進法)」と「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、性同一性障害特例法)」しかありません。
LGBT理解増進法が成立されたことは大きな前進であるという意見がある一方、当事者にとっては不安に感じる要素も。また、性同一性障害特例法に関しても、トランスジェンダー当事者の精神や肉体に負担を及ぼす可能性もあり、見直しが求められています。
LGBT理解増進法
過去に差別や偏見に晒されたという経験を持つ、トランスジェンダー含めたLGBTs当事者は少なくありません。このような不当な扱いをなくすためにできたのが、このLGBT理解増進法です。一見、当事者の人権を守るための有効な法律だと捉えられますが、実はこの法律には罰則規定はなく、理念法でしかありません。
さまざまな視点から「LGBT理解増進法は後退だ」と反対の声が挙げられているのはなぜでしょうか。1つ目は、法律上の「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意する」という文言についてです。この文言ができる背景には、一部保守派などによる男女別トイレや公衆浴場などの利用に関する懸念が上がってきたからです。
弁護士の佐藤 樹さんは「このマジョリティの不安を払拭するためにできた文言の裏には、LGBTs当事者が多数派を脅かす存在であるかのような文言が含まれています」と指摘しました。それは「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」という文言で、一見、問題がないようにみえます。
しかし、佐藤 樹さんはこの文言により、LGBTsではない国民への配慮が求められることとなり、「LGBTsへの理解を増進する」という法律の本筋から離れてしまい、LGBTsへの理解増進には程遠い結果となったことを問題視しました。上記でも記載した通り、LGBTsが多数派を脅かす存在となり、多数派に向けた施策が優先されてしまう可能性が出てきているのです。
関連記事:「トランスジェンダーとは? 性別違和や性同一性障害など、当事者が解説」
性同一性障害特例法
性同一性障害特例法では、性同一性障害者のうち、以下にあげられる全ての「特定の要件」を満たす人を対象に、戸籍上の性別を変更することが可能となります。
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18歳以上であること
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現に婚姻をしていないこと
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現に未成年の子がいないこと
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生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
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その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること
性同一性障害とは、身体的性別と自認する性別が一致しないために苦悩している状態のことをいいます。持続的な不快感や反対の性に対する持続的な同一感を抱くなどの特徴が挙げられます。
戸籍上の性別を変えるには、性別適合手術が前提になるものの、経済面や健康面など、さまざまな理由で性別適合手術が受けられない当事者もいますし、身体にメスを入れるというやり方で解決するのは乱暴すぎると考えられます。
関連記事:「【当事者執筆】トランスジェンダー男性(FtM)とは?戸籍変更の要件や海外と比べた日本の現状について知っていますか?」
トランスジェンダーが立ちはだかる心理的な問題
日本にはまだまだトランスジェンダーにまつわる情報が少ない中、ショーン・フェイによる『トランスジェンダー問題』が高井ゆと里により翻訳されたことは、画期的ともいえるでしょう。本には、LGBTsの慈善団体であるストーンウォールが2017年に行った調査が引用され、5人に4人以上※[1]の英国のトランスジェンダーの子供たちが自傷行為をしたと述べられていました。
日本でも岡山大学ジェンダークリニックを受診した身体的治療を希望するトランスジェンダー当事者を対象に行ったアンケートでは、自殺念慮を持っていたことがある当事者が約60%、自傷・自殺未遂が約30%、不登校が約30% といずれも高率であることがわかりました。トランスジェンダー当事者は、幼少期から自身のメンタルヘルスと向き合うことを余儀なくされてきたのです。
ハラスメントや困難を経験
メンタルヘルスの問題は当事者の実体験と密接につながっています。その例として、トランスジェンダーの就職を挙げます。Rebitの「LGBTQ子ども・若者調査2022」によると、就職・転職を経験したトランスジェンダーの75.6%が、採用選考の際に困難やハラスメントを経験。
具体的には、「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須で困った」(41.2%)、「選考時に、セクシュアリティを伝えられなかった・隠さなくてはならず困った」(35.3%)、「選考時にカミングアウトをすべきか、どの範囲ですべきか分からず困った」(33.0%)、「性自認と異なるスーツ・服装、髪型、化粧をしなくてはならず困った」(27.3%)、「性自認とは異なる性別として、就職活動をしなければならず困った」(26.8%)のように、周りからの理解が得られないがゆえの困り事が目立っている印象です。
また、就労時のハラスメントや入社後にも継続的支援が必要な状況に陥るなど、さまざまな現状が紹介され、こうした困難が当事者のメンタルヘルスの悪化につながっているのです。
関連記事:「男なの?女なの?トランスジェンダーのつらい就活事情」
トランスジェンダーは自殺率が高いことが示唆されている
高井ゆと里が翻訳した『トランスジェンダー問題』では、「トランスジェンダー当事者は、一般集団よりも高い割合で自殺を試みる傾向にある(p.20)」ことが明記され、ストーンウォールが2017年に公表した調査によれば、若いトランスの24%が、少なくとも一度は自殺を試みたことがあるという結果が出されています。
日本では、トランスジェンダーを対象とした調査は少ないですが、Rebitの「LGBTQ子ども・若者調査2022」では、10代のLGBTsは、過去1年に48.1%が自殺念慮、14.0%が自殺未遂、38.1%が自傷行為を経験したと回答。ここではLGBTs全体の結果となりますが、自殺を試みる傾向にあるトランスジェンダーは当然含まれており、その割合は高いことが予想できます。
トランスジェンダーが立ちはだかる教育の問題
2019年度より、文部科学省の検定に合格した中学校では、道徳の教科書でLGBTについて取り上げられるようになりました。学校でLGBTsに触れる機会が増えたことにより、当事者への理解が進んでいると考える人も多いかもしれませんが、当事者が安心して学校で過ごせるには程遠い現状があります。
トランスジェンダー学生への理解
上記の「トランスジェンダーが立ちはだかる心理的な問題」にて参考にしたRebitの「LGBTQ子ども・若者調査2022」では、多くの10代LGBTsが自殺念慮、自殺未遂、自傷行為を経験したことがわかりました。相談できる場所がある当事者に比べ、相談できる場所がない当事者の方が、自殺念慮が12.2ポイント、自殺未遂が2.2ポイント、自傷行為が8.0ポイント上がっていることからも、普段からセクシュアリティについて安心して相談できることが当事者の生きやすさにつながることがわかるでしょう。
「【2022年5月最新】日本のLGBT教育の全貌と世界のLGBT教育」でも紹介したように、日本では世界の先進国に比べると、教師側のLGBTsへの理解が十分ではない現状があります。「周りにはLGBTsがいない」という声はよく聞きますが、本当にそうなのでしょうか。
「トランスジェンダーとメンタルヘルス(2022)」では、MtFの 93.5%、FtMの 82.0% が小学生の頃に自身の悩みを言葉で伝えることはできなかったと報告され、中でも「変な目で見られるのでは」「いじめられるのでは」「言ってもわかってもらえない」との思いから、伝えられない現状があります。当事者がいないのではなく、理解が不十分な環境で伝えられないという問題が出ているのです。
関連記事:「スカートを初めて着た小学校時代|トランスジェンダーとして生きてきた軌跡 vol.2」
トランスジェンダー学生を受け入れる教育環境の整備
実際に学校で生活するトランスジェンダーの学生が直面する問題は、マジョリティが普段経験しないことであるため、なかなか配慮が行き届かない現状があります。
例えば、自分の着たい制服が着れないという当事者もいます。最近では、「ジェンダーレス制服」と呼ばれるような、従来の男女に区分されたデザインの制服を廃止し、好きな制服を選べる制度が導入されるようになりました。
しかしながら、考えるべきことは「本当に制服が必要であるかどうか」です。仮に自分の着たい制服を選んだとしても、それがアウティングにつながってしまう可能性があることも問題視されるべきではないでしょうか。従来のあり方を見直し、不要な男女区分は減らすことから始めることが求められます。
関連記事:「【当事者執筆】トランスジェンダーが直面するいじめを詳しく解説します。」
トランスジェンダーが立ちはだかる医療の問題
トランスジェンダー当事者の中には、自認する性別として社会で過ごすため、治療を望む人もたくさんいます。小学生時代には二次性徴(思春期になって現れる身体の変化)、性器への嫌悪感、中高生時代には恋愛、大人になると社会への適応や結婚など、ライフステージにより抱える悩みは異なります。
自身の希望する性で生活するため、身体的治療を希望する当事者は多いものの、あらゆる側面から受診できないケースも珍しくありません。医療の問題というのは、トランスジェンダーの生活を左右させるものでもあるため、慎重に向き合うことが必要です。
性別適合手術のハードルが高い
トランスジェンダー当事者を苦しめていることの1つとして、性別適合手術のハードルの高さが挙げられます。日本では2004年に性同一性障害特例法が成立。これまでに1万人以上の当事者が手術を受け、戸籍上の性別を変更しました。
しかし、戸籍上の性別を変更できるのは、婚姻関係にないこと、未成年の子供がいないこと、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることなど、5つの要件を全て満たした人のみです。
精巣や卵巣の摘出は体に負担がかかるため、手術を望まない当事者も多くいます。しかし、戸籍上の性別を変更するためには手術が必須であり、リスクを負ってまで法律に従うほかありません。
関連記事:「【MtF / FtM】トランスジェンダーの性別適合手術を解説します!」
医療費が高い
性別適合手術の費用は100万円以上、1〜3週間に1度受けるホルモン治療は、1回に1000〜5000円がかかるとされ、経済的な負担がかかります。いずれも完全に実費であり、ホルモン治療に関しては生涯続けていかなければならないため、保険適応を望む当事者の声が上げられています。
経済的な事情から薬を安く手に入れようと、海外から輸入するケースもありますが、薬の用法、用量、使用上の注意など、外国語で書かれている場合、正確に理解することが難しいでしょう。また、副作用や不具合が起きた場合、日本で対処できない可能性があるため、副作用やそれによる障害などのリスクが生じてしまいます。
「FtMが男性ホルモンを打ち始めて後悔したことは?」では、当事者による実体験をもとに詳しいリスクが書かれているので、こちらも参考にしてみてください。
トランスジェンダーが立ちはだかる人間関係の問題
職場や学校など、人生の大半は誰かと関わりながら過ごしています。つまり、日常を過ごす中で人間関係は切り離せないものであり、誰もが重視していることといえるでしょう。日本ではLGBTsに関連する法律が0ではないものの、いずれの法律も当事者への理解を深めるには不十分といえる内容となっています。
そのため「もし私がトランスジェンダーであることを知ったら……」と周囲の反応を気にしてしまい、なかなかカミングアウトできない現状があるのです。また、トランスジェンダーであることを周囲が受け入れたとしても、社会の制度上、生活に支障が出る可能性もあります。
家族からのサポートや理解が得られづらい
特に子供にとって、家族の存在は大きいといえるでしょう。「トランスジェンダーとメンタルヘルス(2022)」によると、トランスジェンダーの子供が家族に対して思うこととして「申し訳ない」が51.6%、「理解できないだろう」が46.8%、「困るだろう」が45.2%、「恥ずかしい」が4.8%でした。
トランスジェンダーであることが必ずしも理解してくれるとは限らないため、カミングアウトをすることで、家族との関係性が今までとは変わってしまう可能性もあることから、カミングアウトという選択肢を取らない当事者もいます。
また、家族にトランスジェンダーであることをカミングアウトをした人のきっかけとしては、「自身がタイミングを見計らって」が70.6%。そのほかにも、問い詰められてカミングアウトせざるを得なかったという人もいます。また、カミングアウトに対して両親より、兄弟や姉妹の方が肯定的な反応を示してくれたと感じた比率が高く、「父親が肯定的な反応を示してくれたと感じた」当事者は26.7%、「どちらとも言えない」との回答は55.6%にも及びました。
このことからも、家族内でも世代によって受け止め方が異なることがわかります。
結婚ができないトランスジェンダーも
日本では同性間の結婚が法的に認められていません。トランスジェンダーの中には、戸籍上の性別を変更したことで、パートナーとは同性同士となることもあるため、現状の日本では同性同士の結婚はできません。
3人の子どもたちを持つ米国人女性のエリンさんと、日本人女性のみどりさんは、戸籍上の性別を変更することで今までの婚姻関係が解消されてしまう事態となり、日本で訴訟を起こしているカップルです。エリンさんは男性として生まれ、国籍のある米国で性別移行をしましたが、日本では同性婚が認められないことから、手続きを終了することができず、二重性別のまま過ごしています。
2人の新しい家族の形を綴った『エリンとミドリ ジェンダーと新しい家族の形』には、戸籍上の性別を変更し婚姻関係が解消されてしまうことで、エリンさんの在留資格も同時に失ってしまうことも書かれており、トランスジェンダーとしてだけでなく、外国籍を持つ当事者としてのダブルマイノリティについても言及しています。
反対に、性別適合手術を受けない当事者の中には、戸籍上の性別を変更することができないことで、パートナーと婚姻関係を結べないケースもあります。
関連記事:「『ゲイのトランスジェンダー男性』『レズビアンのトランスジェンダー女性』について解説します」
トランスジェンダーが立ちはだかる経済的な問題
トランスジェンダーの経済状況にも着目しましょう。高井ゆと里訳の『トランスジェンダー問題』では、トランスジェンダー当事者はシスジェンダーよりも収入が低く、貧困を経験しやすいと指摘(p.170)。
さらに、アイルランドではトランスジェンダー当事者の失業率は50%[1]にも達しているなど、複数の報告からもトランスジェンダーと貧困が結びつくことがわかります。
雇用問題
認定NPO法⼈虹⾊ダイバーシティと国際基督教⼤学ジェンダー研究センターの共同調査「niji VOICE 2020」によると、過去1年間で貯金の総額が1万円以下になったことのあるトランスジェンダーの割合は約30%、トランスジェンダー女性は45%との結果が出されました。
日本では、トランスジェンダーの貧困を引き起こす1つのきっかけとして、就職活動が挙げられます。就職活動では、自分の着たいスーツを着るべきか、身体の性に合わせたスーツを着るべきか、多くの当事者が悩むことです。さらに、求人では「女性社員も大活躍」「男性の育休制度もあり」など、バイナリー(性別を男女のどちらかに分ける)な表現を目にすることも多く、就職活動の時点で居心地の悪さを感じてしまうことも。
同調査からもわかるように、17.3%のトランスジェンダー当事者は就業しておらず、42.53%が非正規雇用であることから、経済状況の悪循環が伺えます。就職活動だけでなく、職場でもカミングアウトしづらかったり、SOGIハラや望まない身体接触を経験したりするなど、心理的安全性が守られない状況が続くことで、貧困に陥るケースもあります。
関連記事:「トランスジェンダーあるある。就活で悩むことは?」
まとめ
本記事では、トランスジェンダーが直面させられているさまざまな問題について紹介しました。日本では、トランスジェンダーの正しい情報が十分に浸透していません。とはいえ、当事者が声を出すことのリスクも大いに考えられます。そのため、当事者ではない人たちもアライとして、ともに考え行動することが大切です。世の中の情報に左右されるのではなく、「本当にそうなのか」と一度問題そのものを提起し、LGBTs団体やメディア、当事者など、信用できるリソースから知ることも意識すると良いかもしれません。