近年、LGBTsフレンドリーを掲げる不動産会社は増えてきました。ですが、LGBTsと一括りにしても、その中でもそれぞれが抱える問題はさまざま。ネット上では、レズビアンやゲイカップルの住まい探しに関する情報は見つかるものの、LGBTsのT、つまりトランスジェンダーの同棲についての情報には容易にアクセスできないのが現状です。
ここで簡単にトランスジェンダーについてお話すると、トランスジェンダーとは、生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が異なるセクシュアリティのことをいいます。
日本では、法律上の性別を変更するために、6つの要件に該当する必要があり、中には性適合手術を強制したり、移行する性別の性器の外観に似たものを備える必要があったりと、当事者の人権を侵害するような条件が存在します。
性別変更のハードルが高い現状で、多くの当事者が自身の望む性別でサービスが受けられない、社会の目を気にしながら過ごさなければならない、というような問題が生じます。特に生活していく中で欠かせない住環境には、大きな影響を及ぼすことを忘れてはなりません。
過去にパートナーとの同棲を経験したという、IRISのルームアドバイザーを務めるMtFの斉藤亜美さん。自身が経験した住まい探しや、トランスジェンダーにおける同棲の実態について伺いました。
同棲を決めたきっかけ
ー同棲を決めたきっかけについて教えてください。
私は男性として生まれ、女性を自認しているMtFです。当時、同棲していた相手はシスジェンダー※男性なので、異性カップルとして過ごしていました。同棲を考えた理由は至ってシンプルで、一緒に住んだ方が家賃を安く抑えられるからです。
※生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致していること
ー同棲するまではどのように過ごしていましたか?
私の場合、お互いの家に行ったり来たりしていました。ですが、トランスジェンダーの中には、手に職が得られないことから部屋を借りづらい、手術の期間は仕事ができないため、数ヶ月間だけパートナーと住むなど、さまざまな状況があります。
ートランスジェンダーの方が職に就くことが難しいとされる理由は何でしょうか?
主に考えられる理由は、社会から受け入れられないことで自信を無くしてしまう人が多いということです。どのように見られているか、職場でどの性別のトイレを使用したらいいか、さまざまなことを気にして、正社員として働くことに抵抗感をもつ人がいます。
結果、人の目につかない職業を探して、深夜の工場のバイトや夜の仕事を選ぶケースは珍しくありません。社会で受け入れる体制が整っていないと、当事者の過ごし方に大きな影響を及ぼしますし、結果的に住まい探しの選択肢も狭まるように感じますね。
トランスジェンダーに対する不動産会社の理解
ーどのような不動産会社で住まい探しを行いましたか?
当時はトランスジェンダーであることを公にしていなかったので、LGBTsフレンドリーな不動産会社を選ぶことはなく、一般的な不動産会社を利用しました。手続きは戸籍上の性別である男性として進めていたので、不動産会社から見た私とパートナーは友人関係で、契約はルームシェア扱いでした。
ー不動産会社に自身の性別について伝えなかったのには、理由があるのでしょうか?
不動産会社がトランスジェンダーについて理解しているかわからないので、隠したまま手続きを行った方が楽だと感じていました。
ーLGBTsの中でも特にトランスジェンダーについての問題は表に出にくい印象があります。その背景として考えられることはありますか?
そもそもトランスジェンダーの割合は少なく、100人に1人※といわれています。そのため、LGBTsの中でも特に理解されにくいセクシュアリティであると感じています。
また、一般的なトランスジェンダーのイメージとして、自身の見た目を自認する性に一致させる、いわゆる“移行”を完了した人たちが挙げられます。しかし、戸籍上の性別と自認する性別が異なる人、手術を受けて法律上の性別を変えている人、戸籍上の性別は変えずに外見を変える人、外見を変えている途中の人など、トランスジェンダーのあり方というのは一枚岩には語りきれません。
一般的なトランスジェンダーのイメージが定着することで、さらにトランスジェンダーへの理解はされにくい現状があります。その結果、認知が広がりにくく、さらに多くの当事者が自身の性を公にする機会を逃してしまうのです。
参考:電通ダイバーシティ・ラボ「LGBTQ+調査2020」
トランスジェンダーのお部屋探しにおける問題
ー実際にお部屋探しをしていた際、トランスジェンダーであることで困難だと感じた点はありますか?
どこまでを話すかは多くの当事者が悩む点です。当時の私は、見た目が女性になる移行期間の途中だったので、男性としてサービスを受けることもあれば、女性として過ごすこともありました。
トランスジェンダーであることを話すことで、不動産会社からどのように思われるかわからない、言わない方が何事もなく丸く収まる可能性があるなど、常にどのような扱いを受けるかわからない不安感はあります。
ー仮にトランスジェンダーであることを伝えることで、不動産会社からはどのような対応をされるのですか?
このご時世だからこそ、明らさまに態度を変えることはないと思います。ですが、世間一般的な女性/男性像に遠ければ遠いほど、当事者を見る目は変わるような印象です。
例えば、私のようなMtFの人の中には、トランスジェンダーではなく女装趣味だと認識された経験を持つ人もいます。そのように思われないためにトランスジェンダーであることを隠す人や、そう言われないように世間の理想とする女性/男性像に近づいて馴染もうとする当事者は多いですね。
ーそのほか、困難に感じた点はありますか?
緊急連絡先を提出する際です。私の場合、自分の名前を変えているのですが、親にはそのことを伝えていません。そのため、親に緊急の連絡が入った時のことを考えると戸惑いました。
トランスジェンダーのお部屋探しにおける課題
ーさまざまな問題がある中で、課題として感じていることはありますか?
見た目や性別で判断するのではなく、その人が部屋を借りられるかどうかで判断してほしいです。
ーLGBTsフレンドリーを掲げる不動産会社は増えてきましたが、そのような課題はまだまだあるのですか?
LGBTsフレンドリーな不動産会社は増えていて認知も進んでいますが、十分な理解はないと感じます。例えば、トランスジェンダーの同棲も受け入れていると言っていたとしても、実際にトランスジェンダーが部屋を借りることに対しての課題や、どのように対応すべきかはあまりわかっていないんですね。
なので、LGBTsフレンドリーを謳うのであれば、当事者に対して明確な手段を提供し、安心感を与えなければならないと思います。
ー不動産業界がトランスジェンダーのお部屋探しにおける理解を進めるために、必要なこととは何でしょうか?
東京都パートナーシップ制度が導入されたことは大きな前進だと思います。と同時に、体質や金銭面などさまざまな理由により、性別適合手術を受けられず、戸籍上の性別を変えられないトランスジェンダーの場合の婚姻関係についても議論されるべきです。そのことも含め、法整備が行われることで少しずつ理解の幅は広がると思います。
ー不動産業界ができることはありますか?
不動産業界に共通したマニュアルがあると対応しやすくなると思います。例えば、通称名でお部屋が借りられるなど、明確な基準があることが求められます。ですが先ほどお話したように、トランスジェンダーの数は100人に1人と少ないため、優先順位はどうしても下がってしまうように感じます。
今後の社会
ー今後、どのように不動産業界は変化していくと思いますか?
私はIRISに入社して3年目になるのですが、少しずつではあるもののLGBTsの認知は広がってきているように感じます。今後、紹介できる物件は増えるのではないかと思います。
トランスジェンダーの中でも一人一人のあり方は違っていて、それぞれに異なる課題があります。そのため、属性ではなく個人として部屋を借りられるかが重要視される業界になって欲しいです。