「性同一性障害」という言葉。マイノリティか否か関係なく、一度くらいは聞いた覚えがある方もいらっしゃるかと思います。
そして、セクシュアリティのうちの1つである「トランスジェンダー 」については、数多くの記事が存在しており、何かしらニュースになったり議論されたりしているので、知っている方も多いでしょう。
今回は、そんなトランスジェンダー 、性同一性障害の違いと、性適合手術について解説していきます。
トランスジェンダーとは?
まず、トランスジェンダー について説明していきます。
セクシュアルマイノリティの総称「LGBTs」のうちの「T」に該当するトランスジェンダー 。
時代と共にその捉えられ方は変化しており、現在は広義の意味を持つセクシュアリティであるとされています。
生まれ持った身体と心が不一致であるものの、心身の一致は望まない人。
そもそも性自認がなく、生まれ持った身体の性別とは関係なく性別を有さない無性の人。
男性でもあり女性でもあると自認する中性の人。
などなど、トランスジェンダー と一括りに言っても様々な人々が内包されるので、一様に「トランスジェンダー とはこういうものである」とは言い切れません。
FtM(Female to Male)とは
様々な状態にある人が内包されるトランスジェンダー の中でも、「女性という性を与えられて産まれてきたものの、男性として生きることを望む人」のことを『FtM』といいます。
国際的には「トランスジェンダー男性」と表記されることが増えていると言います。
MtF(Male to Female)とは?
こちらは「男性という性を与えられて産まれてきたものの、女性として生きることを望む人」のことになります。
先ほどと同じく「トランスジェンダー 女性」と表記されることが増えていると言います。
注意したいのは、「男性として」「女性として」生きることを望んでいるからと言って、恋愛対象が必ずしも異性であるとは言えないということ。
あくまで、本人の性別への自認・意志の話であって、恋愛対象の話はまた別の事として捉える必要があるということです。
「MtFなら男性が好きなんだね」「FtMなら女性が好きなんだね」と断定した言い方をしてしまう事で、相手を深く傷つけてしまうことにもなりかねません。
トランスジェンダーが性別適合手術を受ける理由
先ほど、「心身の一致を望まない人もトランスジェンダー である」というようなお話をしました。
ですがもちろん、手術をすることで心身の一致を望む人々も存在するのです。
手術はリスクが高いのでは……と思う方もいるかもしれませんが、それでも必要とする人がいるのも事実です。
より自分らしい生き方をする為
身体の性別が女性であれ男性であれ、服装や言動など、いわゆる「性表現」によって自分らしさを表現し生きる人々もいる一方、それでもやはり手術を受けたいと願う人もいるのです。
海外に住む方のお話になりますが、幼い頃からスカートを履いたり、いわゆる女の子がするような遊びが好きで、からかわれるとすぐに泣いてしまうような男の子だったというハーさん。
2度、男性に恋慕を抱くもどちらも失恋に終わり、2度目の恋だった親友との関係は、ハーさんの告白により愕然とした親友がハーさんの前から姿を消すという悲しい形で終わったと言います。
ワンピースを着てメイクをし、髪を伸ばしたハーさんはその後の就職活動でも、書類を見て男だと思っていた面接官たちが、いざハーさんを前にするとこぞって首を横に振るなど、大変な苦労をしたそうです。
彼女は人生設計の中で、25歳で性別適合手術を受ける予定だとしています。
手術は寿命に影響があると言われているそうですが、『本当の自分を隠して80歳まで生きるより、自分らしく堂々と60歳まで生きたいの。若い時に一番輝いていられたら、私は何も後悔しないわ。』とコメントしています。
受けざるを得ない、が近い
戸籍上の性別変更に関わる、日本で適用されている条件をご存知でしょうか?
実は、この条件の内容が「性別適合手術」を受けざるを得ないと考えられるものになっているのです。
その条件というのは5つあります。
1.年齢要件:18歳以上であること(2022年4月1日の成人年齢引き下げにより)。
2.非婚要件:今現在、婚姻をしていないこと。
3.子なし要件:今現在、未成年の子どもがいないこと。
4.手術要件(生殖不能要件):生殖腺がないこと。又は、生殖腺の機能を永続的に欠く状態であること。
5.外観要件:その身体について他の性別に係る身体の性器部分に近似する外観を備えていること。
この5つの条件のうち、4と5に関しては手術を受けるしかありません。
また、女性の身体のまま、或いは男性の身体のままであると、トランスジェンダー への偏見の目や疑いの目によって、就職に不利になってしまったりもするようです。
そのため、手術を望もうが望むまいが、戸籍上の性別の変更を希望する場合はどうしても手術を「受けざるを得ない」というのが、日本の現状であると言えるかもしれません。
ちなみに、調べてみたところ性別適合手術による寿命への影響については関連が認められないとのことでしたので、あまりこのあたりは気にしなくていいかもしれません。
トランスジェンダーが性別適合手術を受けるメリット
ここからはメリットとデメリットについて触れていこうと思います。
結婚の可能性
現在、同性婚が問題になっていますが、性別適合手術を受けることで結婚をできる可能性も出てきます。
恋愛対象が彼女彼等から見て異性である場合ですが、性別適合手術を受けることで好きな人と結婚することが可能になるため、それをメリットとみる人もいます。
トランスジェンダー の方も様々ですし、同性愛者の方であれば今の段階では結婚は難しい状況ではあるので、全員にとってのメリットとは言えないかもしれません。
精神衛生上の問題の解決の可能性
自由が丘MCクリニックさんのサイトで紹介されていた『性別違和を持つひとにおける生活の質、メンタルヘルスに及ぼす性別適合手術SRSへの影響』という研究によると、多くの研究でホルモンを含む治療を受けていると、精神病理的症状の発現率が低下することが示されていると言います。
この研究では性別適合手術(SRS)を受けていないFTMの人は、生涯のうつ病の割合が高く精神科紹介の割合が高いことを示しており、従来公表されているデータと一致するのだそう。
性別違和に対する性別適合手術は、うつ病症状を軽減させるのによい影響を及ぼす可能性があり、個人の精神衛生上、保護的な効果が期待できるとのこと。
術後一番大きなメリットは、精神面の問題が前向きになる可能性があることとも言えるかもしれません。
トランスジェンダーが性別適合手術を受けるデメリット
続いてはデメリットについてです。
後悔の可能性
医学研究論文を要約したサイトからのお話になります。
全体的に満足度の高い結果になっているものの、少なからず後悔する人がいるということが、サイトで紹介されていた5つの医学研究論文には記されているようです。
特に、MtFに多いという結果が出ていると言います。
また、性転換を望む時期が遅く、家族や友人からのサポートを受けられていない方に多かったようです。
こういったことからも、やはり手術を受けるかどうかの判断は慎重に行うべきなのでしょう。
費用がとても高い
保険を適用してもらえることもあるそうですが、そこには条件があり、審査にも時間を要します。
そして、手術を受けるためにはカウンセリングにも通い、診断書を出してもらわなければなりませんので保険適用があってもトータルではやはりある程度の金額を準備する必要となります。
手術の内容によって、金額も変わってきますので、ご自分が何を望むのかを明確にして正確に判断をしなければなりません。
傷跡が残る
身体にメスを入れるのですから当然ですが、手術痕が身体に残ります。
プールや海へ行くとき、温泉へ行くときなどに気になってしまう可能性がある、大きな傷ができてしまうこともあります。
今は傷跡やタトゥーを隠すためのファンデーションテープなども、種類多く販売されており、ネットなどでも簡単に購入できますから、そういったものを使えば公共の場では気にならないかもしれません。
【FtM向け】トランスジェンダーの性別適合手術
ここからは手術の内容に触れていきます。
まずは、女性から男性への性別適合手術についてです。
乳房切除術
女性として生まれた身体には、女性の特徴としての乳房があります。
この手術は、大きさやどのくらい垂れ下がっているかによって、術式が変わるそうです。
また、同時に乳頭の縮小も行われます。
子宮卵巣摘出・膣閉鎖術
男性の身体へ近づけるため、女性機能を失います。
乳房切除手術と同時に産婦人科チームによって行われることもあるようです。
尿道延長術
陰茎の形成を前提とし、尿道を延長する手術を行います。
陰茎形成術
施設によりことなると言いますが、腕や太腿から皮弁を採取し、筒状にして陰茎を形成するそうです。
勃起機能までは不可能ですが、尿道を作られることで立ったまま用を足すことができるようになります。
また、再建方法によってはある程度の知覚がつくことがあるそうです。
その他
男性ホルモン療法による月経の停止、ひげ・体毛の発毛、声の変化、そして筋肉質になることにより、外見上男性と見分けが付かなくなると言います。
【MtF向け】トランスジェンダーの性別適合手術
続いては、男性から女性への性別適合手術の内容です。
陰茎・睾丸摘精巣切除術
男性の特徴である陰茎と睾丸、精巣を切除することで男性機能を失う手術になります。
この手術により、外陰茎が女性に近づくとされているとのことです。
膣形成術(陰茎・精巣切除術後)
こちらは方法が2通りあります。
皮弁方:陰茎・精巣切除、周囲の余剰皮膚を利用し、成形していきます。
S状結腸法:膣を結腸で再建します。
豊胸術
シリコンバックを挿入することで、女性乳房を成形していきます。
その他
・整形手術
・喉仏の切除
・声を高くする手術
・女性ホルモン投与
などによって、更に女性に近づけていきます。
女性ホルモン療法によって体毛は薄くなり、乳房も張ってくるので女性らしくなってきますが、骨格を変えることはできません。
また、女性ホルモンの働きによって精神面が不安定になる場合があるようです。
ホルモン療法による、それぞれの効果
ホルモン療法というものがでてきましたが、ほとんどの方がまずこのホルモン療法から入るそうですので、どういった効果が得られ、どういった副作用が出るのかということについて、もう少し触れていこうと思います。
男性ホルモン投与の効果と副作用
男性ホルモン投与の効果としては、以下があげられます。
・声が低くなる
・頭髪減少
・体格の男性化、筋肉の増強、体重増加
・月経停止
・陰核誇大
・皮膚色素の沈着
・ひげや体毛の増加
・皮脂分泌の増加、それに伴うニキビの増加
・体脂肪の男性化(皮下脂肪型から体脂肪方へ)
・子宮委縮、卵巣の無機能化
・性欲亢進
副作用として男性ホルモン投与中は多血症、肝機能障害、血栓症、高コレステロール血症、動脈硬化のリスクを高めると言います。
また、皮脂が増えることでニキビも増え、体臭も変わり、人によってはホルモンバランスが乱れることで精神的に不安定になり、うつになってしまう可能性もあるようです。
女性ホルモン投与による効果と副作用
続いて、女性ホルモン投与による効果です。
・乳房が膨らむ
・髭や体毛が薄くなる
・体型の変化(腰回りの脂肪の増加)
・性欲減退、生殖機能の喪失
・肌のキメが細かくなる
・筋力低下
・精巣・前立腺が委縮
副作用としては、女性ホルモン投与中は血栓症、肝機能障害、心不全、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧のリスクが高まるそうです。
どちらも病気のリスクを伴ってくるようで、いくつかのクリニックの内容も確認しましたが、やはり「定期的な検診を」というような内容が添えられていました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
専門的なお話にもなりますので、専門家ではない身からお話できることは限られてきますが、「手術ってこんなことをするのか」「そんな問題も残るか」など、ご自身の今後の判断の一助になればと思います。
コロナ禍でプチ整形をする人は増えたと聞きますが、それとはまた別格のお話になってきますので、判断は慎重に行ってください。
そして、ご自身のための最善の選択と、最良の未来を選んでくださいね。