「戸籍上の性別を変更したい」「今の体に嫌悪感を抱いている」「なりたい姿がある」など、さまざまな理由からSRS(Sex Reassignment Surgery)を選択する人がいます。

SRSは「性別適合手術」とも呼ばれ、性別の不一致を感じているトランスジェンダーに対して行う内外性器に関する手術のことをいいます。

「1ヶ月後に性適合手術を控えるMtF当事者にインタビュー|トランスジェンダーとして生きてきた軌跡 vol.5」では、SRSを1ヶ月後(8月取材)に控える齋藤亜美さんの心境を伺いました。そして、今回のvol.6ではSRSに必要な準備や手術までの流れなどを聞いていきます。LGBTお部屋探し

渡航前の手続き

ー手術までの大まかな流れについて教えてください。

2023年9月10日にタイに渡航し、12日の午後に手術を行う予定です。タイでSRSを受けるにあたって、2〜3月にはアテンド会社を吟味していました。アテンド会社を使ってタイでSRSを受けた友人がいたこともあり、既にSRSについての情報はなんとなく知っている状態から本格的な手順を踏んでいった感じです。

ーアテンド会社での手続きは?

まずは各病院の術式、費用の見積もりを取ります。そのうえで本予約をした方がいいのか確認しつつ、予約するにあたって掛かる頭金や支払い方法を比較しました。病院によっては現金しか受け付けないところもあるので、カードでも支払い可能な場所を選びました。

ー渡航前に必要な検査などはありますか?

極論、検査は受けなくてもいいです。なぜかというと、タイで手術前に検査を受けるから。ただ、そこでもし何か問題があったら手術は受けられないので、先生からは事前に受けておいた方がいいと言われています。どんな検査かというと、血液検査とエイズ検査です。おそらく、輸血で気をつける必要があるため、受けることが推奨されているのかなと。

あとは、つい最近では性同一性障害の英文診断書を取ってきました。私が行く予定の病院はあまり細かい取り決めなどはないのですが、通院歴まで記載した診断書を提出しなければならない病院も中にはあります。

ー通院歴を診断書に記載しなければならない理由は何ですか?

通院歴がなくても診断書だけあればいいとなると、手術直前でドタキャンされてしまうこともあるそうです。なので、しっかり診断され、かつ通院している人でないと受け付けないという病院が増えてきました。

診断書に関していうと、BMIによって追加費用がかかります。やはり年齢を重ねれば重ねるほど、健康のリスクや持病も増えていきます。なので、ある一定の年齢を超えると、さらに検査が必要になることもあるそうです。

ー日本では医師との面談はありますか?

ないですね。タイに行って初めて医師と面談することになります。どれくらい面談して、何を話すのかはわからないですが。友人によると、医師と話してその場で術式を変えたり、SRSに加えて豊胸手術も受けたり、そういう人もいるそうです。

豊胸手術に関しては美容整形に近いと思うので、ダウンタイムを考えるのであれば早めにするのがいいという意見もあります。2つの手術を短期間の中でやるので、かなりしんどいとは思いますが。

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渡航前の準備と生活

ーSRSに向けて、何か生活に変化はありましたか?

1ヶ月前からお酒とホルモン注射をやめました。これまでは2週間に1回、ホルモン注射を打ちにいっているのですが、今はそれがないのでそわそわした気持ちもあります。不安感や涙もろさみたいなのが強くなった感じがします。

ーすでに渡航の準備は始めていますか?

一応、暇つぶしグッズとしてSwitchを買いました。ネット環境があればなんとか入院生活も乗り越えられるかなと。あとは現地で同じ手術を受ける人たちと知り合うこともあるそうです。

ー同じ人がいると心強いですよね。

私の友達も同じタイミングでタイにいます。彼女は8月後半に出国すると言っていたので、ちょうど現地で被る時期がありまして。最初はタイに来て観光する人もいるみたいですが、手術後は痛みがあるので歩行訓練やリハビリに励まなければなりません。慣れるまでに3週間ほどはかかると聞いたので、日本に帰ってからになると思います。

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SRSは人生の通過点

ー手術後のアフターケアもあるのでしょうか?

手術後タイにいる間は検診に来てもらえるみたいなのですが、帰国後は友人に聞く限りだと、何かあった時はアテンド会社経由で聞いたら答えてくれるそうです。

ー手術を検討している人に向けてメッセージを伝えるとしたら?

手術を受けるにあたって、さまざまなことを相談する必要がありますが、個人的には早い方がおすすめです。女性に戸籍を変えることで男性と法的に結婚できる人もいるので、選択肢の幅が広がります。パートナーができた時に、結婚できる自分でいたいと考える人もいると思うので。

なので、私はSRSを視野に入れつつも、トランスを始めた時ほどSRSを受けたいという気持ちの温度感は高くないんですよ。手術は通過点であって、ゴールではないということです。現状、ものすごく実生活で困っているわけではないのですが、戸籍を変えたことによるメリットは全てクリアになるので、手術を受けられる環境が整った今のタイミングでやっておきたいなという気持ちはあります。

ータイミングが来た時に考えるのはいいかもしれないですね。

国内で手術を受ける予定だった友人は、手術したい旨を問い合わせてから3日後には手術を受けていました。やはり環境が整ったタイミングは、人生で何回来るかわからないじゃないですか。手術は人生の中で大きなライフイベントではあるものの、そこからどうやって死ぬまで生きていくかの方が大切だと考えています。なので、そのための準備をしておけば後悔しないと思います。

とはいえ、必ずしも手術を最初にすべきだとは思いません。人それぞれの価値観はありますが、手術に過度な期待を持ちすぎてしまうことで、手術が終わった後に想像と違ったという人もいます。手術したからといってトランスジェンダーとしての人生が完結するわけではないので、人生うまくいくわけではないということは常に肝に銘じておきたいなと。

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