2022年11月、セクシュアルマイノリティのカップルを対象にした東京都パートナーシップ制度宣誓が開始されました。現状、日本では同性カップルが法的に婚姻関係を結ぶことはできませんが、本制度により異性カップルと同様、同性カップルもパートナーとして認められ、LGBTsがさまざまなサービスを受けられるようになりました。
会場で配布した資料
私たちの生活を司る衣食住の中の住まいに焦点を置き、豊島区で国が定めた男女共同参画週間と男女平等推進センター(エポック10)の開館を記念し、毎年6月に開催される「エポック10フェスタ」のイベント「『僕たちはここにいる』~LGBTsの住宅課題と不動産業界の未来~」の様子をレポート。LGBTsフレンドリーな不動産会社IRISの代表取締役CEOであり豊島区男女平等推進センター運営委員会委員を務める須藤啓光さんと、パートナーであり弁護士の佐藤樹さんが意見を交わしました。
初めに |
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IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。 |
LGBTsを取り巻く住宅課題
不動産会社IRISの代表取締役CEOの須藤啓光さん
同性カップルは、親族同士、血縁関係、男女カップルよりも入居のハードルが高いといわれています。また、住まいを探す過程で、不動産会社とのコミュニケーションや手続き、審査などでも不快な経験をしたという当事者の声も。住まいを確保する際に、どのような問題や課題があるのだろうか、BADケースとGOODケースをそれぞれ紹介しました。
BADケース①悪意のない差別的言動をされた
後にIRISを使用することとなった都内在住のトランスジェンダー女性Fさん。ある不動産会社の担当者にカミングアウトをしたところ、小馬鹿にされたような態度を取られてしまい、一時的に住まい探しを中断するまでに追いやられたといいます。
須藤「Fさんはトランスジェンダー女性ですが、戸籍上は男性のままでした。担当者に自身の性別のことを伝えたところ、半笑いでオネエだと言われたそうです。さらに、Fさんの性自認を無視して、男性ならセキュリティ等は気にならないだろうという憶測を立てられ、男性扱いをされたということです。ショックを受けたFさんは住まい探しを中断し、弊社に相談しに来てくれました。
おそらくこの担当者の方は、テレビに出演するいわゆるオネエタレントに対する扱いから、トランスジェンダー女性は笑い物にしても良い存在として認識してしまった可能性が高いかと思われます。このように差別的な言動を知らないが故に起きる、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)は世の中に根強く残っています」
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BADケース②個人的な思想が会社全体の問題になった
2つ目のBADケースは、内見を希望したゲイカップルが担当者から不適切な言動をされ、会社全体の問題に発展したという事例です。管理会社さん立ち合いのもと物件を内見したところ、担当者から同性カップルかと質問され、困惑しながらも「はい」と答えたところ、内見はできないと追い出されてしまったとのこと。
須藤「この言動に怒ったゲイカップルは、会社に問い合わせをし、あまりにも屈辱的な言動に対して訴訟も辞さない態度で強く抗議しました。最終的には、管理会社側は正式に謝罪しました」
須藤さんは、この言動が個人的な見解によるものなのか、それとも管理会社によるものなのか、直接連絡をしたところ、このような回答が返ってきました。
須藤「状況を確認したところ、その場にいた担当者の個人的な見解だったそうです。ここでの問題は、業務外の行為を個人的な見解により行ったということと、差別的言動を行ったことです。仕事中に差別的な言動を社員がとった場合、会社側にも膨大な信用や毀損につながるという認識は持つ必要があると感じました」
昨今、LGBTQやSDGsの取り組みは増えてきているものの、いまだに当事者への偏見は少なくありません。須藤さんは、東京23区内でも地域差があることを指摘。渋谷区や世田谷区、中野区ではお部屋の紹介がしやすくなったとのことですが、中小の不動産会社や都心から離れた場所では、まだ差別的な言動はあるとのこと。
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GOODケース①改名の際の契約書変更に対応した
ここからはGOODケースを紹介します。1つ目は、入居後に改名があった際、契約書変更に対応した事例です。
須藤「これは2年ほど前の事例となります。神奈川県在住のトランスジェンダー女性のCさんは、賃貸住宅に入居中、家庭裁判所から名前の変更が認められました。引越し当初は、ホルモン治療を開始したばかりということで、カミングアウトせずに男性として契約。改名のタイミングで管理会社に事情を説明し、契約者の変更に応じてくれたとのことです」
トランスジェンダー当事者は、2人暮らしの問題だけでなく、単身の入居の際にもこのような課題があります。そんな時、どのように管理会社や不動産が対応するかが求められるとのこと。
須藤「性別の変更だけ対応し、名前の変更には応じない会社も一部あるそうです。婚姻や離婚といったイベントだけでなく、あらゆるケースを想定して柔軟に応じる姿勢が重要なのではないでしょうか」
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GOODケース②関係性を正しく表記する
2つ目のGOODケースは、賃貸住宅の契約書上の入居者関係性を家族と表記した事例です。都内在住の40代レズビアンカップルと子ども含む3人で、IRISを通して申し込みをした時の出来事をお話していただきました。
須藤「お客様の了承を得たうえで3人の関係性を管理会社さん、貸主の代理人の方にお話したところ、十分な理解を示してくれました。そして、契約書上でもカップルさんが望む関係性を明記してもらえたとのことです」
ここ最近、契約書の続柄に同性カップルの関係を認めてくれる企業が増えてきたものの、まだまだ関係性を明記する事例は少ないそうです。
須藤「実務上、多くが友人、縁故者など、濁した表記をしています。何か直接リスクにつながるわけではないのですが、精神的な安心面を考えると、関係性を正しく理解し、その姿勢を示すという今回の事例は本来あるべきでしょう」
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パートナーシップ制度の取り組みと現状
先ほどの話にも出た同性パートナーシップ制度ですが、2022年11月には東京都の全自治体で導入されるようになりました。具体的な活用方法を、都の事業を通して利用できるサービスと、民間事業を通して利用できるサービスの2つに分けて紹介します。
①東京都の事業を通して利用できるサービス
この東京都の事業を通じて利用できるサービスは、都営住宅、生活保護の世帯認定、里親の認定、登録などがあります。
須藤「実は豊島区は、今年から里親の認定、登録ができるようになりました。まだ同性カップルが利用した事例は聞いたことがないですが、今後子育ての選択肢として増えるでしょう」
区政のサービスとして区営住宅を挙げました。
須藤「区営住宅に同性カップルのパートナーも入居が可能になりました。これまでは法律上の婚姻関係ではないと利用できませんでしたが、日本では同性婚が認められていない現状があります。区政のサービスに区営住宅が加わったことで、実務上の効力が得られたと考えられます。
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②民間事業を通して利用できるサービス
生命保険を例に挙げると、保険金を同性パートナーに指定したり、携帯電話の家族割が受けられたり、同性カップルが受けられるサービスが増えました。住宅に関しても選択肢が広がったといいます。
須藤「同性カップルが住宅ローンをペアローンとして収入合算できるサービスが増えました。昨年の12月に発表されたフラット35は、同性カップル間の収入合算を実現する住宅ローンとして知られています」
住宅だけではなく、各金融機関にも変化が起きています。2017年には、みずほ銀行が最初に同性カップルに向けた住宅ローンのサービスを開始。その後、各ネット銀行や地方銀行など、さまざまな金融機関でサービスが展開されるようになりました。メリットが感じられる一方で、こんなデメリットも。
須藤「同性カップルがペアローンや収入合算を利用する際には、男女間のカップルでは必要のない公正証書が必要となります。この書類を取得するのに、20〜30万円ほど金額がかかってしまうことがあります。このコストは、司法書士や行政書士の先生方に書類の取得を依頼する時にかかります。さらに、登記で約10万円がかかってしまいます」
これらの手続きには、最短3週間、最長で1ヶ月半ほどかかることから、家を買いたい時にほしい物件が買えない可能性もあるそうです。
須藤「家を買う際、住宅ローンの審査が通らなかった場合に、契約が白紙になるという特約が織り込まれます。ですが、この特約期間があまりに長いと、売り主さんはほかに買えそうな方を優先してしまうケースがあります」
そういった現状で、フラット35が有効に利用できるといいます。
須藤「フラット35は東京都パートナーシップ制度の書類で完結するため、要件が緩和されました。 東京パートナーシップ制度は、全ての手続きがネット上で完了します。
ただ、戸籍謄本を取り寄せる必要があるため、地区によってはコンビニではなく郵送で申請しなければならないこともあります。私の場合、私が宮城県に戸籍がある関係で、郵送で手続きをしたために約2週間ぐらいかかりました。とはいえ、知人の方は3ヶ月ほど期間を要したと言っていたので、スピード感はまちまちかもしれません」
住まいの領域では、これまでの火災保険の要件に変化が出てきました。
「今までは、男女間の結婚しているカップルは1人の名義で家族全体の保証が適用されていました。例えば、家族で利用しているテレビを子どもが壊してしまった場合でも、火災保険の家財の対象として補償がされていましたが、同性カップルの場合は一人一人が保険に加入する必要があります。つまり、コストが2倍かかってしまうということです。
ですが、保証の範囲を緩和する動きがみられるようになりました。各企業が用意するフォーマットがあるのですが、その必要書類を提出することによって、保証の対象に含まれるという工夫がされています。現状、全ての企業で採用されているわけではありませんが、大手の保険会社で選択肢が広がりつつあります」
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パートナーシップ制度が実現したこと
2015年に渋谷区、世田谷区から始まった同性パートナーシップ制度。今では47都道府県中41県の自治体で導入されるようになりました。新宿区在住の須藤さんと佐藤さんは、これまでパートナーシップ制度がなかったものの、11月に東京都がパートナーシップ制度を導入したことで、利用できるようになったといいます。今までとは異なり、結婚できる希望を見出したと語ります。
須藤「自分がゲイだと気づいたのが18歳の頃でしたが、認めるまでには時間がかかりました。当時は、オネエタレントの方がテレビで活躍されていたので、世の中にはゲイ=オネエという認識が広まっていたことから、ゲイの人たちを揶揄するような仕草で表現されることもあり、自分がゲイであることは言えないのだと負のループに陥ってしまいました。結婚もできない、家の購入もできない、子どもも育てることができない、いずれは1人寂しく死んでいくのだと。
そこから16年経った今、まだ結婚はできませんが、パートナーとパートナーシップ制度を結べたことは未来への希望につながりました。昔であれば指輪を購入することもハードル高く感じていましたが、以前パートナーと指輪を購入した際、店員さんから同性カップルだからといって特別扱いされることもなく、ほかのお客様と同じように接客していただきとても嬉しかったです」
須藤さんは、パートナーシップ制度は法的な効力はないものの、実務的な効力はあると語ります。そのことは、利用されるお客様の9割がLGBTs当事者だというIRISを通しても感じるそうです。
須藤「電話や対面でお客様の状況をお聞きし、私たちがそのニーズに合う物件を調べます。それから1件ずつ不動産会社や管理会社に電話をかけたり、実際に会いに行ったりし、物件を提携させてもらって紹介できるようにします。そういった中で、やはり交渉材料が必要になるので、その際にパートナーシップ制度が活躍するんですね。住宅だけでなく医療現場などでも、この制度を利用しているだけで市民的安全性がずいぶん変わってくるのかなと思います」
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実際にあったお客様からの相談
実際にIRISがお客様から受ける相談を、弁護士という立場から佐藤さんが回答しました。
①パートナーに不幸があった場合、退去が必要?
1つ目は、パートナー名義で賃貸物件に住んでいる方から「入居者として契約書上に名前は記載されているが、もしパートナーに不幸があった場合は、私自身も退去しなければならないのでしょうか」という質問がありました。
佐藤「法的にいうと、まずカップル間で遺言書があったのかどうかがポイントになります。片方のパートナーさんの物件であっても、賃借権の相続対象になるので、遺言で移動できます。ですが、遺言書に特定遺贈※という書き方をしてしまうと、大家さんの承諾が事前に必要とされます。包括遺贈※という形であれば、大家さんの承諾はいりません。なので、実は遺言書があるだけでは意味がなく、書き方が結構大事なのです」
遺言書がなかった場合はどうなるのでしょうか。
佐藤「婚姻関係にない夫婦の片方が亡くなってしまった裁判例があります。これに対し、裁判所は賃借権はないものの、居住権を引き続き認めました。なので、同性間であっても婚姻実態のようなものがあれば、裁判になった時に裁判所が同様の判断をして、遺言がなくても住み続けられるような判断をしてくれる可能性はあると思います。
特に相談者様のケースですと、入居者として記載しているので、法的な賃借権はなくても、引き続き居住できる権利があると裁判所が認めてくれる可能性はあるのかなと。不動産会社から退去を申し出されても、名義変更をするなど、交渉の余地はあると考えられます」
遺言書がなくても賃借権は認められる可能性がある点で、入居者として記載されているかどうかも重要な要素であることがわかります。
須藤「10年ほど前は、1人で借りて実際はパートナーと2人で住むこともありました。その方が物件が借りやすかったのですが、リスクはあります。契約書の中にもう1人がその物件に住むことが織り込まれていないと契約違反を主張されて、退去を命じられる可能性があるからです。なので、2人で住むのであれば、そのことを明記した方が長い目で見て安心です」
リスクを回避するためにも、IRISではお客様が承諾したうえで関係性を大家さんや管理会社に伝えているそうです。
須藤「IRISでは、アウティングにならないように細かいところまで調整したうえで契約に至ります。高級賃貸や分譲賃貸はマンションの規約上、管理組合が入るので、1人名義で借りた方が審査が通りやすいことも稀にあります。ルームシェアや民泊はNGといったところで、総会で協議したうえで入居を判断し流れてしまったこともあるのですが、やはりリスクを考えると可能であれば2人を入居者として明記した方が安心かなと思います」
※特定遺贈は、特定された財産のみが遺贈されるだけなので、包括遺贈のように遺言者の債務が相続されることはありません。遺言書で特定された財産をそのまま受け取る権利が発生するということです。「A銀行の預金額200万円を娘であるBに遺贈する」と遺言すると特定遺贈、「全財産をAに遺贈する」という書き方は包括遺贈になります。
関連記事「【LGBTs】同性パートナー向け住宅ローンを徹底解説!LGBTsが使えるローンと条件をまとめてみました」
②里親制度を利用して子どもを育てる場合、親権は得られる?
2つ目は、里親制度を利用する予定の同性カップルは、特別養子縁組(養子となる子どもの生みの親との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度)は可能かといった相談内容です。里親認定登録をして里子を迎え入れようと考えている須藤さんと佐藤さんに、詳しく説明してもらいました。
須藤「2つポイントがあると思っています。まずは住環境です。子ども部屋が必要ということで、お部屋の数が要件の1つに挙げられると思います。もう1つが、どの里親の種類を利用するかということです。その中で私は特別養子縁組を前提とした里親になりたいと思っているのですが、親権を取れるのかどうかは正直、疑問として残ります」
佐藤「法律上、特別養子縁組の要件として、配偶者がいることが前提にあります。なので同性カップル間では現状、特別養子縁組は組むことはできません。一方で、普通養子縁組は配偶者がいることは要件にないため、同性カップルでも利用できます。しかし、普通養子縁組は、原則としてパートナーのいずれかが親権を得る形となります。」
さらに、未成年者を里子として受け入れる場合、家庭裁判所の許可が必要になると指摘。
須藤「私も佐藤さんも、養子縁組をやっている同性カップルを見たことがないので、家庭裁判所の許可が下りるかどうか不確実な点が不安要素としてあります。レズビアンカップルとゲイカップルの方々が表面上結婚して、協力し合って子供を産んで育てているパターンは聞いたりします」
佐藤「特別養子縁組は、実の親との親子関係を解消したことを国が公式に認め、養親とだけ親子関係があることになります。一方で、普通養子縁組は、実の親との関係は切れません。ただ、法的な実親の親権は停止されるので、実質養親の親権だけが生きる状態になります」
須藤さんは、実の親から急に子どもを返すように言われた時、それが子どもにとって幸せではない選択なら子どもを手放してしまうことになると話しました。とはいえ、現状の法律では応じるほかないといいます。
佐藤「子どもをちゃんと育てるのであれば、同性婚が法的に認められて特別養子縁組と いう制度で子どもを守るのが一番良いのですが、普通養子縁組だとどうしても実の親との関係が残ってしまうので、例えば実の親から虐待を受けていたがまだ愛着みたいなものが残っている子どもだと、悩ましいですね。なので特別養子縁組が認められるためにも、同性婚が実現したら選択肢は増えますよね」
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③住宅ローン返済期間中にパートナーが不幸にあった場合、所有権は相続される?
最後の相談内容は、パートナーと収入合算し、それぞれが団体信用生命保険に加入した状態でマンションを購入。返済期間中にどちらかが不幸にあった場合、所有権は相続されるかという質問です。
佐藤「前提としてパートナーと収入合算で各々が団信(万が一のことが発生した場合に、保険で住宅ローン残高をゼロにできる制度)といったところで、共有持分(複数の所有者で共有する場合の権利の割合)が設定されている可能性が考えられます。その場合、パートナーにも持ち分の2分の1は入ることになります。共有できない場合には、何も持分がないので、所有権は相続できないのが前提になります」
この場合、遺言は必要となるのでしょうか。
「遺言は必要なケースだと思います。ですが、必ずしも遺言書があれば安心というわけではありません。ほかの法定相続人がいる場合、亡くなられたパートナーの方の親御さんがご存命であったりすると、慰留分侵害額請求といって自分たちの最低限の持ち分を払ってもらう権利があります。あくまで金銭請求なので、お金があれば家を取られることはありません。そうでなければ、家を売ってお金にするしかないという状況になります」
もう1つの手段として、同性パートナーと養子縁組を組むことが挙げられました。とはいえ、同時に別の問題が生じてしまうそうです。
「養子縁組を組むと片方が子ども扱いになるので、100%法定相続人になります。財産を守るためのメリットとなる一方、養子縁組を組むと解除できないため、同性婚ができない別の問題が生じる可能性があります。今法律がないのでわからない状態ですが、調整規定が入る可能性も考えられます」
リスクコントロールとして、須藤さんと佐藤さんが実践していることを教えてもらいました。
須藤「私たちはお互いに生命保険をかけているんですよね。もしどちらかが死んでしまった場合、パートナーに保険金が入るようにしています。お葬式や今まで2人だからこそ支払えていた家賃を1人で払えなくなった場合に伴う引っ越しなど、準備を踏まえたうえで保険金を活用するためです。
また、親から財産の遺留分を請求される場合も0ではないと思うので、私たちは親に渡す分の保険も準備しています。少しコストはかかってしまいますが、みんなが平和に暮らすためのリスクコントロールとして選択している状況です 」
関連記事「コロナで家賃が払えない!滞納する前に「家賃補助制度」を知ろう」
同性カップルが利用可能な住宅ローンの動向
昨今、同性カップルが使える金融機関は増えてきています。3メガ(三菱UFJ、三井住友、みずほ)の中でも、三菱さん以外の2つは利用可能となりました。それ以外には、りそな信託銀行などが挙げられます。
須藤「固定金利型のフラット35を利用した場合と変動金利型を利用した場合を比べてみましょう。例えば購入金額が4000万円ほどとすると、フラット35の利息は約1000万円、変動金利型は約200万円で済みます。その時々の金利状況によっても異なりますし、金利が上がることを予測してフラット35をご利用する方も多いです。
フラット35について詳しくみていくと、このようなメリットもあるそうです。
須藤「個人事業主や私のように会社経営している人は、与信(信用を供与すること)が弱いとされるため、固定金利型のフラット35の方が審査が通りやすい傾向にあります。ただし、これを利用するためには、公正証書の手配やパートナーシップ制度の利用などが求められ、各自準備をする必要があります」
最後に、須藤さんは「社会問題を変えることは大きな思いとエネルギーがないと変えられない。けど、根っこにある部分を忘れずに取り組みを続けることが大事」だと話しました。