昨今、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉を耳にする機会は増えてきているのではないでしょうか。女性、外国人、高齢者、障害者、LGBTsなど、さまざまな人がいる社会で、多種多様な人材が活躍する企業のあり方が求められているのです。とりわけ、LGBTsは多様性を語るうえで重要なテーマであり、理解を深めることで誰もが働きやすい職場づくりやセールス向上など、企業の利益にも繋がります。

2023年4月17日、不動産経済研究所により開催されたセミナー「LGBTから始まる職場づくり&セールスアップ(賃貸編・分譲編)実践」にて、IRISの代表取締役CEOである須藤 啓光が登壇。LGBTs住まいを巡る事例とセールス、接客のポイントと実践についてお話ししました。その様子をお届けします。

LGBTお部屋探し

LGBTsが直面するトラブル

LGBTs当事者や同性カップルは、お部屋探しから入居審査、契約までさまざまな問題に直面します。IRISの須藤は、LGBTsが「セクシュアルマイノリティ」や「性的少数派」と言われているものの、日本の人口全体の10%※がLGBTsであり、“いない”存在にはできないことを強調。

LGBTs当事者が立ちはだかる住まい探しにおける問題を解消するための一例として、企業側としてのお客様に対する対応を挙げました。例えば、書類上の性別欄の選択肢が男性もしくは女性の2つしか存在しないことに違和感を抱いてしまったり、戸籍情報の変更に関する知識不足により、当事者への対応が遅れてしまったり、さまざまな問題が生じる可能性も。不動産業界の接客では、受付や賃貸の取引業務、売買・注文住宅の取引業務、賃貸管理業務など、幅広い業務が存在し、あらゆる場面でお客様への配慮が求められると言います。

※LGBT総合研究所「LGBT意識行動調査2019」

不動産業界がなすべき行動

LGBTs当事者が直面する住まい探しにおける問題を少しでも減らすためには、不動産会社の対応が重要であると語ります。同性カップルの場合、実務上、関係性を「縁故者」「友人」「知人」など、実態と異なる表記をされることが多い現状がある中、書類上で本人たちが望む関係性を明記する柔軟な対応が求められることを指摘。

また、全ての当事者がセクシュアリティを公にしているわけではないため、仮に緊急連絡先に両親を指定しても、パートナーの情報を伝えることは控えるなど、アウティングに配慮する必要性もあると話します。

同性カップルが利用可能な住宅ローンの動向

最近では、同性カップルがペアローンや収入合算にて利用できる金融機関が増えてきています。2015年の渋谷区、世田谷区から始まったパートナーシップ制度導入の影響により、2017年にはみずほ銀行が先駆けて利用を可能にしました。

しかし、これらの住宅ローンを使用するには、婚姻契約書にかかわる公正証書、任意後見契約書および公正証書が必要であることを指摘しました。というのも、これら書類を作成するためには、3〜4週間もの期間を要し、最低でも約5万円、専門家に頼むと20万円以上もの費用がかかってしまうからです。この必要書類は、2015年の渋谷区パートナーシップ証取得の際に、利用者の関係性が分かる証明書の作成が必須としたために各金融機関も影響を受けているとのこと。

一方、パートナーシップ証明書の提出のみで利用できるフラット35や、独自書類で申し込める楽天銀行などの金融機関も存在します。とはいえ、パートナーシップ制度だけでは法的な効力は得られず、特に相続権の観点からさまざまな課題があることを言及しました。

その例として、令和2年4月1日以降に発生する相続に関して、同性カップルは配偶者居住権(男女間の夫婦一方が亡くなった場合、残されたパートナーの居住権を保護する権利)が得られません。そのため、事前に遺言等を作成しリスクをコントロールする必要があるのです。相続に関連する問題はそれだけでなく、法定相続人、遺留分、共有特分の割合設定、家族へのアウティングなど、さまざまに存在します。

モデルルーム・住宅展示場など、来場者への配慮

モデルルームや住宅展示場での来場者への配慮に関して、以下の4つのポイントを挙げました。

①チラシ・広告

チラシ等を作成するとき、「ご夫婦での来場」という文言が使われたり、イメージ画像が男女間のみで作成されたりなど、同性カップルが躊躇してしまう可能性も。文言や広告物でセクシュアリティやジェンダーの多様性を表すことで、さまざまな人に対する配慮を示すことができます。

②アンケート

アンケートでは、性別欄や2人の関係性など、答えたくない人がいることも想定できます。その際、個人情報の利用の範囲と内容を分かりやすく伝えることが求められます。マーケティングの観点から性別欄が必要になることも考えられますが、初対面で個人的な情報を伝えたくない人もいるため、答えたくない人に向けての選択肢を用意することが重要です。そして個人情報の利用の範囲に関しては、アウティングの観点からも必要な項目であるため、各企業が配慮すべきポイントとして挙げられます。

③空間

「料理をする女性」「ゴルフを趣味とする男性」など、性別の固定観念を助長するようなデザインが設計されることで、LGBTs当事者が来場する際に違和感を抱く可能性があため、LGBTs当事者の生活がある前提のデザイン設計が望ましいと言えます。

④接客

「ご主人様」「奥様」など、性を限定するような言い回しを避けたり、同性カップルで利用可能な住宅ローンの知識を持った上で提案ができたりすることで、LGBTs当事者は安心して利用できます。当事者を特別扱いするのではなく、当たり前にいることを前提に接することが重要です。

LGBTお部屋探し

分譲住宅における商品設計

分譲住宅における商品設計について、IRISとの共同企画による「大人の2人世帯」に向けたリノベーションマンションの販売を行うコスモスイニシアさんとの事例を挙げました。

2021年12月より始まったこの事例は、あくまでLGBTsに限定するのではなく、多様なニーズに応えることを前提とし、既存の家族形態に捉われないライフスタイルに寄り添った商品設計をしているとのこと。距離感のあるちょうどいい間取り、共働きを想定した機能性重視の設備、そして2人の趣味を楽しむための収納の3点が特徴的であると語りました。

LGBTs×不動産会社の取り組み事例

次に、LGBTsにおける各不動産会社の取り組み事例を紹介しました。

積水ハウス

積水ハウスさんは、あらゆる差別やハラスメントを「しない・させない・ゆるさない」企業体質を強化することを目的に、全従業員を対象にヒューマンリレーション研修を行っています。2014年からはLGBTsに関する啓蒙活動を開始。2022年には、加盟店1800店舗(参加人数3000人)を対象に、大型研修を行いました。

コスモスイニシア

先ほど紹介したコスモスイニシアさんでは、今年3月より、流通事業部と分譲事業部にいる120人を対象としたLGBTsに関する講演を開催。社内研修でLGBTsを扱うことが初めてだったこともあり、基礎的な知識や事例紹介を中心にお話をしました。

LIFULL

LIFULLさんの運営する住宅情報サイト「ライフルホームズ」のプロジェクト「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」にて、LGBTs当事者の住まいをサポートする不動産会社が、実際に接客をする際に実用できるLGBTQ接客チェックリストをIRISと共同開発し、2021年4月より、業界初となるリリースを果たしました。

本プロジェクトは、LGBTs当事者を含めたオールフレンドリーな接客方法をもとに、上級編と初級編に分けて、解説を交えて理解を深めることができます。解説では、適切な対応の紹介、店舗での接客時で気をつけるべき点、お客様に配慮した店内のレイアウト、書式のフォーマットなど、店舗で役に立つ内容を取り入れました。

世の中にはLGBTsフレンドリーな不動産会社が増えている一方、「本当にLGBTsフレンドリーであるかどうか」は利用してみないと分からないのが現状としてあります。LGBTsフレンドリーという文言を見て安心して利用したものの、ギャップを感じてしまうお客様も存在するのです。このようなことを避けるため、不動産会社が事前に利用できる接客リストを開発しました。

三菱地所

今年3月、三菱地所の会長、社長以下役員、部署長、グループ会社社長等、120人に参加いただいたイベントを開催。LGBTs当事者が社会に感じる不安、住宅における課題や現状、企業に求められることについてお話しました。

まとめ

最後に、須藤は「“知っていること”と“できること”は違う」と述べました。多くの人がLGBTs当事者との交流がない中、LGBTsという言葉を知っているだけでは適切な接客をするのは困難であることを指摘。社会をより良くするためにも、企業の取り組みが大きな影響を及ぼすのかもしれません。