ヘテロセクシュアルとは、英語で「Heterosexual」と表され、異性に対して性的な感情を抱くセクシュアリティのことをいいます。近年「ヘテロセクシュアル」という言葉は浸透しつつあるものの、日本では大多数を示すが故に、多様なセクシュアリティの1つであるという認識があまりない現状です。実際、電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、日本におけるLGBTQの割合は11人に1人とされ、裏を返すと11人に10人が異性愛者であるといえます。

異性愛が当たり前とされる社会で、マジョリティであるヘテロセクシュアルは、どのようなセクシュアリティかについてあまり認識する機会がないかもしれません。そこで、本記事ではヘテロセクシュアルとは何かを改めて考えるべく、言葉の解説をします。また、混合されやすい「シスジェンダー」との違いも紹介します。

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ヘテロセクシュアルとは

ヘテロセクシュアル(Heterosexual)とは、異性に対して性的な感情を抱くセクシュアリティのことをいい、しばしば「異性愛者」「ヘテロ」とよばれることも。「ヘテロ」という言葉は、ギリシア語で「違い」という意味をもちます。

ここで議論となるのが「異性」とは何かについてです。セクシュアリティには以下4つの要素が存在し、一概にも「異性」と示すことが難しいといえます。

・法律上の性
生まれた時に割り当てられた性、あるいは法律的に定められた性

・性自認
自分の性別をどのように認識しているか。男性・女性だけでなく、男女に当てはまらない、日によって変わる、わからないという人など、さまざまに存在する

・性的指向
恋愛・性的な感情がどの性に向くか、あるいは向かないか。相手の性別をみて惹かれる人、内面で惹かれる人、恋愛感情はあるけど性的な感情がない人、全く恋愛・性的な感情がない人など、さまざまに存在する

・性表現
服装、ふるまい、言葉遣いなど、社会的にどのように性別を表現するか。

実は「異性」という言葉は、シンプルなようで複雑であることがわかります。現代では、自分をどう表現するか、つまり性自認が尊重されつつあります。ですが、もし異性だと思って惹かれた相手が違う性別を自認していたらどうなるのでしょうか。第三者の性別を判断するのは極めて難しいと同時に、どの要素をもって自分のセクシュアリティを自認するのかも曖昧なのです。

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ヘテロセクシュアルとのシスジェンダーの違い

ヘテロセクシュアルは、シスジェンダーと混合して使われることがありますが、全く異なるセクシュアリティです。シスジェンダー(Cisgender)とは、生まれた時に割り当てられた性別と自認する性別が一致するセクシュアリティをいいます。

シス(Cis)はラテン語で「こちら側」という意味を表し、トランス(Trans)の対義語です。そのため、シスジェンダーの対義語はトランスジェンダー(Transgender)になります。

シスジェンダーとヘテロセクシュアルの違いは、セクシュアリティの要素にあります。シスジェンダーは、生まれた時に割り当てられた性別と、自認する性別が一致するセクシュアリティ、つまり「性自認」の要素が当てはまります。一方で、ヘテロセクシュアルは、異性に対して性的な感情を抱くセクシュアリティのことを指し、重要な要素は「性的指向」です。

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ヘテロロマンティックとの違い

ヘテロロマンティック(Heteroromantic)とは、異性に対して恋愛感情を抱くセクシュアリティのことです。恋愛感情と性的な感情は別物です。異性に対して性的な感情を抱くヘテロセクシュアルとは異なるので注意しましょう。

ヘテロロマンティックは、しばしば「ヘテロロマンティック・アセクシュアル(Heteroromantic Asexual)」と一緒に語られることもあります。ヘテロロマンティック・アセクシュアルとは、異性に対して性的な感情はないけれど、恋愛感情は抱くセクシュアリティのこと。誰にも性的な感情を抱かない場合もあれば、異性以外の特定の人やセクシュアリティに抱く場合もあります。

全てが該当するわけではありませんが、ヘテロロマンティックには以下のような特徴があります。

・デートは楽しいが、身体的な接触があると嫌悪感を覚える
・性的な感情を抱いたことがない
・身体的な接触よりも、相手の性格や話す内容の方を重視する

ストレートフラッグはなぜ問題なのか

1978年にアメリカの美術家 ギルバート・ベイカーが、LGBTQコミュニティの象徴としてレインボーフラッグを制作しました。異性愛が当たり前とされる世の中で、レインボーフラッグは、LGBTQコミュニティの可視化や平等性を求める証にもなります。そこから、さまざまな他のセクシュアリティを象徴するフラッグが制作されるようになりました。

実は、ヘテロセクシュアルを象徴する主流のフラッグではないものの、「ストレートフラッグ(Straight flag)」(ここではヘテロセクシュアルを「ストレート」と表現)と呼ばれるヘテロセクシュアルのフラッグも存在します。ストレートプライドを掲げたこちらのフラッグは、一見無害ですが、さまざまな問題があるのです。ストレートフラッグの論争を引き起こした事例をいくつか紹介します。

TikTokのトレンド「スーパーストレート」

2021年にTikTok上で「#SuperStraight」というハッシュタグがトレンドになりました。この言葉を作ったTikTokerのカイル・ロイスは、「この言葉は新しいセクシュアリティであり、私のようなストレート男性はトランス女性とは付き合わない。トランス女性は本当の女性ではないから」と語ったのです。

さらに、動画には「#funny(面白い)」「#sexuality(セクシュアリティ)」などの当事者を蔑視するようなハッシュタグも付けられ、動画が削除されるまでに200万回以上も再生されたといいます。この動画はTikTok上では削除されたものの、他のサイトに転載されることに。SNS上では、黒とオレンジのフラッグの画像と一緒に、スーパーストレートを支持するような内容が多く投稿されました。

カナダのストレートプライド

2018年、カナダのニューブランズウィック州にある小さな町を中心に、ストレートフラッグが掲げられたことで大きな議論が交わされました。白と黒のストライプを背景に、男女のシンボルが交差するフラッグは、ストレートの人たちへの支持を意味し、町長の元へ届いたといいます。

ストレートフラッグを掲げた人の中の1人は「ゲイの人たちを批判するつもりはない。だが、どのセクシュアリティも個人が選択するものだ」と語り、セクシュアリティは選ぶものであり、個人の問題であることを指摘しました。

このフラッグは批判を巻き起こしすぐに撤去されたものの、町全体で差別的な考えが反映されたことは、あまりに震撼した出来事といえます。

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ヘテロノーマティヴィティとは

なぜ、これまでLGBTQが差別を経験してきたのか。それは、ヘテロノーマティヴィティ(Heteronormativity)が根付いているからです。ヘテロノーマティヴィティとは「異性愛規範」とも呼ばれ、「世の中には男女のどちらかしか存在しない」「恋愛や結婚は男女間で行われるもの」といった考えが基盤にあります。

たしかに、日本の法律では婚姻は男女間でしか認められません。さらに、幼少期に読んでいた絵本を思い返しても、プリンセスとプリンスという男女間でのおとぎ話しかありませんでした。このように子どもの頃から自然と、ヘテロノーマティヴィティが根付いているのです。

ヘテロノーマティヴィティが強まることで、ホモフォビック(同性愛嫌悪)な考えが助長される恐れもあります。例えば、テレビや映画などで再現される恋愛や結婚のシーンは、現状男女間で行われることが当たり前であり、それにより同性愛者の存在がないものとされてしまいます。結果、同性間カップルが異常とみなされることもあるのです。

そんな環境で生きるLGBTQ当事者を自認する学生(特に思春期を迎える学生)は、ありのままの自分を家族や友達に告白することができないことから、1人で抱え込むことも。事実、LGBTQの学生はうつ病や自殺のリスクも高まる傾向にあるという統計も出ています。

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ヘテロセクシュアルでシスジェンダーでもセクシュアルマイノリティ的要素を持つ場合がある

LGBTQの割合は11人に1人の割合ということは、ヘテロセクシュアルでシスジェンダーがマジョリティ側になります。しかし、必ずしもヘテロセクシュアルでシスジェンダーだからマジョリティかというと、そういうわけでもありません。異性愛者で、生まれた時に割り当てられた性別が一致していてもセクシュアルマイノリティな側面を持つ場合があります。

例えば、ヘテロセクシュアルでシスジェンダーで一見マジョリティ側に見えても、好きになるのに信頼関係が必要だったり、頭の良い人に惹かれる方などいますよね。好きになるのに精神的な繋がりが必要なのは、セクシュアルマイノリティ的にはデミロマンティック、頭の良い人に惹かれるのは、サピオセクシュアルと言います。勿論、この2つはセクシュアルマイノリティ側のセクシュアリティとなります。

このように、ヘテロセクシュアルでシスジェンダーでも、場合によってはセクシュアルマイノリティに傾くことがあります。

ヘテロセクシュアルに関する誤解

ヘテロセクシュアルはマジョリティではありますが、いくつかの誤解が存在します。ヘテロセクシュアルを1つのセクシュアリティとして、正しく認識することが求められます。

流動性がない

よくある誤解として「ヘテロセクシュアル=流動性がない」が挙げられます。ですが、誰にでもセクシュアリティが変わる可能性はあるのです。ゲイやレズビアンなど、LGBTQを自認している人たちの中でも、昔はヘテロセクシュアルで異性と付き合っていた経験がある人はいます。一方で、生まれてからずっと同じセクシュアリティを自認している人もいます。流動性の有無は人それぞれであり、「今の自分をどのように表現するか」が大事なのです。

“普通”である

よく、ヘテロセクシュアルを「ノーマル」「一般的」「普通」と表現する場面をみます。しかし、「普通」とは何でしょうか。ヘテロセクシュアルではない人たちは「異常」なのでしょうか。

かつては、LGBTQ含むセクシュアルマイノリティを総称する言葉「クィア」が「異常」「奇妙」とされてきた時代があります。ですが、1900年代後半、当事者たちはその言葉を逆手にとり、自らが「クィア」であることを示しました。当事者たちの力により、「クィア」が異常な存在から当たり前にいる存在へと転身したのです。

今ではクィア理論やクィアスタディーズと呼ばれる学問が誕生したり、さまざまな書籍が発行されたりと、セクシュアルマイノリティの存在が一人間として認識され、さらに理解や認識を深めようとする動向がみられます。結論、ヘテロセクシュアルもLGBTQも変わらず、1つのセクシュアリティとして存在しているのです。

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ヘテロセクシュアルと意味が似ている言葉

ヘテロセクシュアルを語る際、他のセクシュアリティを表す言葉が出てくるかもしれません。ヘテロセクシュアルと意味が似ている言葉もあるので注意が必要です。ここからは、混合されやすいいくつかのセクシュアリティを紹介します。

ストレート

ストレートとは、異性愛者と呼ばれ、性的指向が異性に向く人のことをいいます。ストレートという言葉は、ストレートではない人たちが「曲がっている」という印象を与えると批判的な声も上がっていますが、全く関係はありません。LGBTQ団体や教科書にも、ストレートを異性愛者と記述しています。

むしろ、気をつけなければならないのが「ノーマル」という言葉です。ノーマル(Normal)とは「普通」という意味を表し、先ほどお伝えしたようにヘテロセクシュアルが「普通」であり、それ以外のセクシュアルマイノリティは「アブノーマル」「異常」だという誤解を招きかねません。

ヘテロフレキシブル

ヘテロフレキシブル(Heteroflexible)とは、基本的にはヘテロセクシュアルであるものの、同性に恋愛・性的な感情を抱くこともあるセクシュアリティのことです。ヘテロセクシュアルを自認し、恋愛対象が同性であるかもしれないと疑問を抱く当事者も多いようです。

ただし、ヘテロフレキシブルはバイセクシュアル嫌悪的な言葉であるという人もいて、バイセクシュアルの偏見や差別を助長するとも議論されています。バイセクシュアルは両性を同じ割合で好きになるという誤解が存在します。ですが、男性8割、女性2割など、必ずしも同じ程度で惹かれるわけではありません。そのため、もし両性に特別な感情を抱くのであれば、ヘテロフレキシブルではなくバイセクシュアルといってもいいのでは、という疑問を持つ人もいるのです。

とはいえ、クィア、パンセクシュアル、ポリセクシュアルのように、複数の性に魅力を感じるセクシュアリティの名称も存在するため、誰もが自分のアイデンティティを心地よい呼び方でラベリングできます。ヘテロフレキシブルを自認しているのは、バイセクシュアルを嫌悪しているのではなく、ただヘテロフレキシブルというセクシュアリティが自分に合うからなのです。

ノンケ

ノンケとは、LGBTQ当事者から見た異性愛者のことを指します。打ち消しを表す「ノン」と「ケ(同性に対してその“気”がある)」を合わせた言葉です。例えば、同性愛者で異性愛者に惹かれた際、その気がない異性愛者に対して「あの子はノンケだからさ〜」などと使います。

アライ

最近では、LGBTQという言葉を聞くようになったものの、同性婚が認められていなかったり、ヘテロセクシュアルが規範となる社会構造があったりと、まだまだ理解が浸透しているとは言い難いのが現状です。そんな中、アライは平等な社会への第一歩を踏み出す重要な役割を担います。

アライとは「同盟」「味方」という意味を持ち、LGBTQフレンドリーであることが特徴です。宗教、人種、セクシュアリティ、性別に関係なく、平等な社会を構築するために支持し、時には当事者と一緒に抗議運動やデモ、SNS上での意思表示も行います。

アライのフラッグは、ストレートを象徴する黒と白、Ally(同盟)を示す「A」、LGBTQを表すレインボーカラーで構成されています。

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まとめ

多様性が謳われている一方、私たちが幼少期から植え付けられたヘテロノーマティヴィティは、なかなか根強く残っています。ですが、ヘテロセクシュアルはマジョリティではあるものの、多様性の中にいます。1つのセクシュアリティとして存在するのです。

結婚や恋愛は男女間だけのものなのか、男らしさ・女らしさとは何か、自分の中にある前提を一度疑ってみてください。誰もが押し付けられている性別の概念を払拭することで、セクシュアルマイノリティだけでなく、マジョリティであるヘテロセクシュアルの人たちも、社会で生きやすくなるのではないでしょうか。