クィア理論という言葉を聞いたことはありますか?昔と比べると、セクシュアリティやジェンダーについて語られるようになりました。いまだにマジョリティとされるヘテロセクシュアル(異性愛)やシスジェンダー(出生時の性と自認する性が一致する人)だけに向けて社会がつくられているように感じます。ですが、LGBTsはみなさんが想像するよりも多く存在するのです。クィア理論を知ることで、LGBTs含むマイノリティに関する新たな問題を知ると同時に、私たちの知る社会の前提をもう一度考えるきっかけにもなることでしょう。

海外ではクィア理論についての文献が多く見つけられますが、日本ではまだまだ記事やリソースが多くありません。さらに学問的な内容で難しそうだという印象があることから、人によっては気軽にアクセスしづらく感じてしまうことも少なくないでしょう。そこで、この記事ではクィア理論についてわかりやすく解説!クィア理論について知る第一歩となれば嬉しいです。

「クィア」とは

「クィア」という単語を知らずして、クィア理論を語ることはできません。「クィア」は、今では性的マイノリティを総じて表す言葉として知られていますが、かつては少し違った使われ方をしてきたことを知ってますか。

実は「クィア」は、英語圏ではもともと「風変わりな」「変態な」という意味で、ネガティブな単語として使われていました。そこで、性的マイノリティの人たちが「クィア」という単語を逆手にとり、あえて「クィア」を自称するようになったのです。この大きなムーヴメントにより、性的マイノリティが世の中に大きく取り上げられ、可視化されることとなりました。

チェック → 「クィア」とは?言葉が浸透するなかでクィアベイディングと呼ばれる問題も・・・

クィア理論とは

「クィア」について知ったところで、クィア理論について学んでいきましょう。クィア理論という言葉を聞いても「性的マイノリティに関する理論?」としっくりこない方も多いかと思います。英語では「Queer theory(クィアセオリー)」と呼ばれ、一言でいうと既存のセクシュアリティ、ジェンダーに関する考えに問いをもたせる研究分野を指します。

ヘテロノーマティヴィティ(異性愛規範)という言葉があるように、現代の社会ではヘテロセクシュアルが中心となって、制度や法律がつくられています。つまり、「クィア」当事者の人権が十分に確保されないことを意味するのです。また、「クィア」についての正しい認識が十分に浸透されないことで、当事者へ偏見や差別が向けられたり「異常」であるとみなされることも少なくありません。この『ヘテロセクシュアルは正常で「クィア」は異常』という考えに異議を唱えたのがクィア理論であり、今の社会の前提を問い直すきっかけを与える1つのツールとなるのです。

「普通とは何か」「なぜ同性婚は認められないのか」「そもそもなぜ異性愛だけが正常だという前提が存在するのか」今まで表に出てこなかった問題を考えることには変わりないといえるでしょう。

クィア理論で語られる「ジェンダーのパフォーマティヴィティ」とは

クィア理論ではさまざまなトピックが扱われていますが、ジェンダーのパフォーマティヴィティとよばれる概念は、共通のポイントとしておさえておくべきでしょう。

ジェンダーのパフォーマティヴィティ(Gender performativity)は、米国出身の世界的に有名な哲学者ジューディス・バトラーも注目する概念です。ジェンダーのパフォーマティヴィティとは、ジェンダーに関する概念により、日々の行動様式が決められてしまうことをいいます。つまり「男の子だから泣いちゃだめ」「女の子が生まれたらピンクの洋服をプレゼントする」など、存在するジェンダー観によって意思や行動が左右させられるということ。そこから外れた人たちが「異常」と認識される傾向にあるのです。

しかしジェンダーのパフォーマティヴィティは、ジェンダーが先天的に人々に備わるもの、つまり今ある性別の規範が「自然」であることをいうのではなく、個人の一連の行動様式であることを意味します。要するに、性別という概念に従うことはなく、あくまで個のアイデンティティとしてのジェンダーのパフォーマティヴィティが解釈されることになります。

なぜクィア理論が大事なのか

クィア理論が海外を中心に注目されるようになったのは、多くの人々が「自由になること」を望んでいるからともいえるのではないでしょうか。自由と一言で言っても、世の中はセクシュアリティ、セックス、ジェンダーにより人権が平等に与えられない複雑な現状があります。そういった全てに関し、ステレオタイプをなくしていくことで現状をより良くしていけるのではないでしょうか。

実際に多くの人が周りや社会から理想とされる人物像に当てはまらないことで、プレッシャーを感じています。会話の中で生まれる「なぜあなたは結婚しないのか」「彼氏/彼女はいるのか」「女性だからもっとしなやかに振る舞うべき」といった抑圧は、無意識に目の前にいる人を傷つけるかもしれません。

クィア理論では、ただ単に性別にまつわる疑問を投げかけるだけでなく、個人としてのあり方の核心に迫ることとなるでしょう。望んでいなくても知らぬ間に男/女らしく演じていたりすることはあるもの。性別の概念が根強い環境のなかで「自分とは」について考えるきっかけはなかなかないものです。そういった当たり前の部分に疑いをもち、“普通”を問い直すこと。それがクィア理論なのだと思います。

クィア理論の有名な学者

クィア理論について少しは知ることができたでしょうか。そこで、実際にクィア理論についての本を読んでみることもおすすめします。日本では、まだまだ研究を進めている人が少ないこともあり、英語圏の文献を参考にする必要がありそうです。なかには日本語の翻訳や論文もあるので、ぜひチェックしてみてください!

Judith Butler(ジュディス・バトラー)

米国出身の哲学者。ジェンダーやセクシュアリティまつわる研究者でまず挙げられるのは、バトラーと言っても過言ではありません。フーコーに影響を受け、さまざまなフェミニズム理論、クィア理論を展開。『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの撹乱』、『欲望の主体――ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ヘーゲル主義』など、さまざまな著書を販売しています。

Michel Foucault(ミシェル・フーコー)

フランスの哲学者、社会理論家、歴史家。ポストモダニズムを代表する、20世紀に活躍した人物です。ジュディス・バトラーが影響を受けた人物の一人でもあり、主に権力と知識の関係から理論を展開していくのが特徴です。『精神疾患とパーソナリティ』、『狂気の歴史』、『臨床医学の誕生』などが有名な著書として挙げられます。

【まとめ】クィア理論とは?当事者がわかりやすく解説!

日本ではまだまだクィア理論について広める段階にあります。言葉の意味や概念を知るだけでも、今まで自分が当たり前として認識していた物事に疑問をもつかもしれません。そして、自分にも潜む生きづらさはみんなももっているのだと認識できるかもしれません。このような違和感が学問領域として表に出ることは、問題を強く裏付けでるものとなります。これから日本でさらにクィア理論が広まると予想でき、さらに社会がよりよい方向に変わっていくことを願っています。

チェック → 日本におけるLGBTsの人権問題と課題