「LGBT」という単語が浸透してきて、それに「Q」が加わった「LGBTQ」という言葉も使われるようになりました。「Q」とは、「クィア(Queer)」「クエスチョニング(Questioning)」の頭文字をとっています。

こうしたLGBTQ当事者ではない人が、あたかもLGBTQであるかのように振る舞う、もしくはLGBTQであるかと匂わせるような演出をしてLGBTQに対する注目を「えさ」のように利用する手法を「クィアベイティング」と呼びます。このクィアベイティングを巡っては海外だけでなく、日本でも議論が起きています。

エイプリルフールにインスタグラムに投稿された、女性2人が入籍したという報告を巡って炎上したのは記憶に新しいかと思います。

今回は、LGBTQ当事者である筆者が、クィアとクィアベイティングについてお話します!

初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。
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クィアとは【意味・歴史】

クィアとは【意味・歴史】

ではまず、クィアについて説明します。現在クィアという言葉は、性的マイノリティ全般を包括する言葉として使われています。ポジティブな意味で使われることがほとんどですが、実はそれまでにはこんな歴史があったのです。

クィアはもともと、英語圏で「風変わりな」「変態」といった侮蔑的な言葉として使われていました。これを聞いて「では、クィアと言ってはいけないのでは?」と思う人はいるでしょう。ですが、20世紀終盤以降になるとそのネガティブな意味を逆手に取り、性的マイノリティ当事者があえてクィアという言葉を発するようになりました。そして、抵抗運動(クィア・ムーブメント)などの場で使われることにより、性的マイノリティを総称する言葉へと変化したのです。

そうすることで、当事者の連帯性を生むだけでなく、マイノリティが実際に存在するものとして世間に投げかけられました。抵抗運動の「クィア・アクティヴィズム」では、「We are here, We are queer. Get used to it.(私たちはここにいる。私たちはクィアだ。それに慣れなさい。)」との合言葉を掲げ、今ままでの異性愛規範な社会で、あえて奇妙とされてきたクィアを当事者が開き直って全面に出すことで、ネガティブなものからポジティブなものへと変えていきました。

クィアを自認する人たちの意見

クィアを自認する人たちの意見

セクシュアルマイノリティとはいえども、クィアを自認する人は身近にも多く存在します。なぜ、クィアであることを選んだのか、もしくはクィアとして生まれてきたのか。包括的な意味で使われる言葉だからこそ、さまざまな考え方があります。

自分自身をラベリングしたくない

今ではLGBTQだけでなく、アセクシュアルやアロマンティックなど、さまざまな性を表す言葉が出てきています。ですが、そういった言葉が自分にはしっくりこなかったり、カテゴライズすることへのプレッシャーを抱いたり、そもそも自分が何者であるかわからない人もいるのです。

筆者は女性が恋愛対象であることが多く、いわゆるセクシュアルマイノリティに当てはまる人であることを自覚していますが、セクシュアリティについてはいまだ戸惑いがあり、自分自身にぴったりな言葉が見つかっていません。そんなときにクィアという言葉の概念を知り、「定義する言葉がないことは悪いことではない。個々にはそれぞれのアイデンティティがあるのだ」と安心することができました。

このようにクィアを自認しなくても、言葉によって自分自身をラベリングする必要はないことを伝える働きもします。

性別二元論から解放されたい

Xジェンダーやジェンダーフルイドなど、さまざまな性の自認がありますが、日本ではまだまだ男女の二性で物事を考えることが多くあります。同性婚やLGBT理解増進法などが制定されていない現状もあり、国としての性に関する考え方はアップデートされていないことがわかります。「女性はメイクをするのがマナーだ。けど濃いメイクはダメ」「男性は働いて家族を養うべきだ」など細かい男女の「であるべき像」が世の中には存在しますが、それはなぜなのか、そうすることでどういった影響があるのか、そこには説明できる正当な理由はないように感じます。

このように、理由なく男女の性別による押し付けで苦しんでいる人は実際に多くいるのです。世間のもつ男女二元論の考えに対する違和感を、クィアという言葉に変えて発するクィア当事者の人もいます。人を性別で区別するのではなく「その人として」認識される世界を願っているのです。

セクシュアルマイノリティの連携連帯を生むことができる

前述したようにクィアという言葉は、セクシュアルマイノリティを包括して使うことができます。さまざまなセクシュアリティやジェンダーを自認している人たちも、クィアと名乗ることがあるのです。異性愛が一般的だと認識されている世の中ではありますが、マイノリティとされる人たちがクィアであることを名乗ることで、そのなかでの連帯が生まれます。連帯することによりセクシュアルマイノリティが可視化される。一人一人の力が今後の大きな力となるのです。

クィアだけではない「Q」

クィアだけではない「Q」

LGBTQの「Q」であるクィアについて説明しましたが、実はもう1つ「クエスチョニング(Questioning)」という言葉の頭文字でもあることを知っていましたか。

クエスチョニングとは、セクシュアリティや性自認が定まっていない人のことを指します。クエスチョニングを自認する人のなかでもさまざまな考えがありますが、そのなかでも「セクシュアリティに迷っている」「探している段階」という人もいます。セクシュアリティがわからない筆者は、クエスチョニングに当てはまるかもしれないと考えた時期もありましたが、迷ったり何かに当てはめることよりも「今の私の状況も1つのアイデンティティ」という認識の方が強いため、クエスチョニングは自認していません。ですが、人によって言葉の概念は異なることもあるので、筆者と同じ境遇の場合でもクエスチョニングを自認する人はいるかもしれません。

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クィアベイティングとは?

クィアベイティングとは?

海外ではクィアを利用した卑怯なやり方「クィアベイティング(queer baiting)」が問題となり、物議を醸し出しています。クィアベイティングとは、実際にはクィアではない人がレズビアンやバイセクシュアルなど、あたかもセクシュアルマイノリティであるかのように匂わすことで、LGBTQ当事者や世間の注目を集める手法のことを指します。

クィアベイティングの起源

「クィアベイティング」という用語は、2010年代初めに登場しました。アリゾナ州立大学の映画・メディア研究者、ジュリア・ヒンバーグ博士は、米国の人気ドラマ『スーパーナチュラル』や英国の『SHERLOCK(シャーロック)』などの作品において、同性のキャラクター間の深い絆や関係が示唆されているものの、それが実際には明確に描写されないことを指摘しました。

このような表現は、LGBTQのコミュニティやファンから「視聴者を誤導する」との批判を受け、結果として「クィアベイティング」という言葉が生まれるようになりました。

【非難殺到!?】クィアベイティングの具体例

では実際にクィアベイティングだと批難された具体例をご紹介していきます。

クィアベイティングの具体例①|ビリー・アイリッシュ

世界的に有名な歌手、ビリー・アイリッシュの新曲『Lost Cause』のミュージックビデオで、女友達とお泊まり会をしている様子が映し出されています。そして自身のインスタグラムで「女の子たちが大好き」との言葉と一緒に、女性たちと寄り添う舞台裏の写真を投稿。投稿を見て「ついにカミングアウト?」と疑念の声があがる一方、クィアベイティングであることを指摘するファンも。

クィアベイティングの具体例②|カルバン・クラインのキャンペーン

日本でも有名なブランド「カルバン・クライン」が 行った「SPEAK MY TRUTH IN #MYCALVINS」というキャンペーン動画内で、ベラ・ハディットとバーチャルインフルエンサーのリル・ミケーラが激しくキスをします。

リル・ミケーラはコンピューターで製作された実在しないバーチャルな女の子の外見をしたキャラクターです。

ベラ・ハディットは男性ミュージシャン「ザ・ウィークエンド」と交際している異性愛者であるため、この動画はクィアベイティングだと非難が殺到し、後にカルバン・クラインが謝罪することとなりました。

参考:PRESTIGE ONLINE|Calvin Klein Apologizes on Its Queer-Baiting Ad Showing Bella Hadid Kissing Virtual Influencer Lil Miquela

クィアベイティングの具体例③|アリアナ・グランデの「Monopoly」

世界的に有名な歌手アリアナ・グランデが楽曲『Monopoly』の中で、「I like women and men(私は女性も男性も好き)」と歌ったことでクィアベイティングだと非難されました。

アリアナ・グランデは非難されてからも自身の性的指向を公開してはいません。

 参考:The Harvard Crimson|Ariana Grande’s ‘MONOPOLY’: Queer-baiting or Self-affirming?

クィアベイティングの具体例④|リタ・オラの「Girls」

日本でも人気の歌手リタ・オラ、カーディ・B、ビービー・レクサ、チャーリーXCX4人の楽曲『GIrls』の中で「女の子とキスしたい時もある」「赤ワイン、女の子とキスしたい」「私は一方に固執しないし、オープンマインドだし、フィフティフィフティ(半分半分)だし、隠す気もないわ」(著者意訳)といったようにセクシュアルマイノリティだと捉えられるようなことを歌い、バイセクシュアルのアンセムだという評価もあれば、クィアベイティングだという批判もでました。

批判を受けて、リタ・オラは謝罪するとともに、「男性とも女性とも恋愛をしたことがあり実体験を歌っている」ことを明らかにしています。

クィアベイティングの具体例⑥|テレビドラマ

海外ドラマ「シャーロック」「スーパーナチュラル」「ハンドレッド」といった作品の中で、「作品のファンは、作品の中でほのめかされる登場人物のLGBT的な関係性について、Tumblrなどのソーシャルメディアで議論」されてきました。「こうした脚本が計算づくの戦略だ」という批判がおきています。

参考:BBC NEWS JAPAN|クィア・ベイティングは搾取か、それとも進歩の表れか

 

【まとめ】クィアとは?言葉が浸透するなかでクィアベイディングと呼ばれる問題も・・・

【まとめ】クィアとは?言葉が浸透するなかでクィアベイディングと呼ばれる問題も・・・

最近はLGBTだけでなくクィアの言葉をよく聞くようになったと同時に、さまざまな問題が起きることも懸念されています。

クィアはセクシュアル”マイノリティ”と呼ばれているものの、当事者は意外にも身の周りにいます。LGBTQをほのめかすことで注目を引こうとするマーケット手法は、クィアの搾取であり、当事者を傷つけることにもつながります。一人一人のあり方を尊重し、珍しいものではなく、当たり前にいる存在として認識されることを願っています。

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