初めに
IRISではLGBTにも、その他のマイノリティにも親切な企業でありたいという気持ちからLGBTsフレンドリーを掲げていますが、本記事はLGBTに関する内容の為、LGBTsではなくLGBTという言葉を使用していきます。

何かに困っている人がいる時、困っている当事者ではなく周りにいる人が味方として困っている人の意見を代弁したり、支えてあげることができます。特にLGBTのような繊細な問題は、当事者が名乗り出たり、声をあげるには大きなハードルが立ちはだかっています。

 

LGBTに関して差別や偏見がまかり通っている場では、誰かが指摘しなければ差別や偏見はずっと変わらないままでしょう。そんなマイノリティの人たちの側に立って味方し、支援する存在である「アライ」。今回はアライについて解説します。

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まず初めにLGBTとは?

LGBTとは性的少数者の総称でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字です。レズビアンは女性として女性のことが好きな女性同性愛者、ゲイは男性として男性のことが好きな男性同性愛者、バイセクシュアルは両性愛者、トランスジェンダーは生まれ持った性別と自認する性(性自認)が一致していない人のことを意味しています。

LGBは性的指向(好きになる性別)、Tは性自認(自分が認識する自分の性別)に関する用語です。

LGBTを取り巻く環境

 日本でも「LGBT」や「ソジ(SOGI)※」といった言葉が使われるようになり、性的少数者にも配慮しようという機運が動き始めたものの、差別や偏見はいきなりなくなったりしません。日本ではセクシュアルマイノリティに関する教育はほとんど行われていないため、知識や関心、理解がない人もまだまだ多いのが実情です。

※ソジ(SOGI)とは、Sexual Orientation and Gender Identity(性的指向及び性自認)の略

 

LGBT当事者が簡単に当事者であると告白しやすい状況ではないため、現在でもほとんどのLGBT当事者はLGBTであることを周囲に明かさずに、隠して生きています。僕自身も、「LGBTの人って見たことある?」と雑談の中で何気なく聞かれたことがありますが、「目の前にいるよ」と心の中では思いつつ口には出せませんでした。

 

アライ(Ally)とは?

アライ(Ally)とは?

アライ(ally)とは英語で同盟国、同盟者、盟友、味方という意味があります。(※1)LGBTの文脈で使われるアライとは、「LGBT当事者ではない人でLGBTを理解し、支援する人」や「支援しようという考え方」といった意味になりますが、厳密な定義が存在するわけではありません。LGBTだけでなく障がい者などを含むあらゆるマイノリティを支援する人、という意味でも用いられることがあります。

 

アライの発祥としては、北米のLGBT支援団体「ゲイ・ストレート・アライアンス (GSA)」が原点と言われています。こうした異性愛者(ストレート)の活動を行う人のことを「ストレート・アライ」と呼ぶようになったとされています。現在ではアライはストレートかどうか言及されることはなくなってきています。(※2)

アライは「LGBTフレンドリー」という言葉と似ていますが、LGBTフレンドリーよりもさらに強力にLGBTに味方し、支持する意味合いが強いとされています。

 

より詳細にアライに関する定義を知りたいという方は、イリノイ大学カウンセリングセンターのウェブサイトが参考になるかと思うのでご覧ください。

 

イリノイ大学カウンセリングセンター WHAT IS AN ALLY?

 

参考

※1  weblio英和辞典https://ejje.weblio.jp/content/ally

※2  社会福祉法人共生会SHOWA編著『性的マイノリティサポートブック』かもがわ出版 

Lecture16 P198

 

アライ(Ally)として出来ること

アライになったらどういったことができるのでしょうか。

LGBTに関する情報を集める

LGBT当事者であるなしにかかわらず、LGBTに関する情報を集めるのはとても大切です。僕も当事者ですが、元々は自分のセクシュアリティ以外のマイノリティに関する知識はほとんど持ち合わせておらず日々、本やSNS、イベントなどで新しい知識を獲得しようとしています。

世の中には様々なマイノリティの人が居り、困っている事柄も異なっています。

例えば、性自認に関してシスジェンダー(生まれた時の性別と性自認が一致している人)かトランスジェンダー(生まれた時の性別と性自認が一致していない人)かでは困ることが全く異なります。

 

シスジェンダーの人にとっては、生まれた時の性別に基づいて男女別の制服を着用するのは当たり前だと感じるかもしれません。しかし、トランスジェンダーの人は、身体的性別が女性でもスカートは絶対に着たくないという人もいますし、逆に身体的性別が男性だからといって学ランを着用するのが苦痛で仕方ないと感じる人もいます。しかし、シスジェンダーのレズビアンやゲイの人にとっては、これらの男女区分けは特に苦痛に思わない人が大半となります。

 

一言にまとめられていますが、LGBTのLとGとBとTはそれぞれ全く別物です。LGBT当事者であろうと、当事者でなかろうと、LGBTに関する情報を入手し続けなければ、「差別する意図はなかった」と言いながらLGBT当事者を傷つける発言、行動をしてしまいかねません。ここ数年、複数の政治家がそうしたLGBT差別問題で炎上しているのは、皆さんも鮮明に覚えているのではないでしょうか。政治家であってもなくても、意図があってもなくても、差別は誰しもがしてしまう可能性があるのだと気をつけていたいです。

制度や表現がLGBTに配慮されているか考える

学校や職場で、施設や制度がLGBTに配慮されたものになっているか考えてみましょう。例えば学校や職場にトランスジェンダーの人がいた場合、男女どちらかのトイレ、更衣室しかないことに困ってしまっている人がいるかもしれません。入社面接の書式に男女だけの性別欄があった場合、身体的性別と外見上の性別が異なっている場合、その人にとっては仕事の能力とは無関係のところで大きなストレスをかけてしまうかもしれません。慶弔休暇などの対象を戸籍上の家族に限定した場合、戸籍上家族になることができない同性カップルは疎外感を感じるかもしれません。

 

社内文化がもし「男は結婚してようやく1人前で出世できる」「女の幸せは結婚して出産すること」「みんな異性と30歳までに結婚するのが当然」といった偏見に満ちたものなら、仕事は無関係なところでストレスを感じたり、社内文化の未熟さに見切りをつけられて退社してしまう人がいるかもしれません。こうした偏見は、セクシュアルマイノリティ以外の人にとってもストレスを与えかねません。

 

身近にLGBT当事者がいるかもしれないと想像力を働かせる

LGBTや多様性という言葉がしきりに聞かれるようになり、LGBTをテーマにした漫画やドラマなどの作品も増えています。LGBTはそうした物語の中にだけいる空想上の生き物ではなく、身近で生活しています。在籍者が数十人以上いる学校や職場では、当事者がいてもおかしくはないのです。

もしかしたら、あなたが毎日接するクラスメイトや職場の人にもいるかもしれません。アライには、「誰がLGBT当事者か?」と魔女狩りするのではなく、そうした人々が学校、会社、コミュニティにもし居たとしてもストレスなく過ごせているか、想像力を働かせて補助してあげることが期待されます。

差別表現などがあれば指摘して、LGBTに関する知識を啓蒙する

「ホモ」「レズ」「おかま」「おなべ」「そっち系・こっち系」などの差別的表現を平然とする人がいまだにいます。本人の性的指向や性自認を聞き出そうとしたり、噂話を流したりする悪質な事例も起きています。また同性愛やトランスジェンダーは病気である、普通じゃないと主張する人がいまだにいます。(過去には病気だとされていた時代がありました)

そうした表現を見たり聞いたりした時、差別表現であると指摘することができれば一番理想的かと思います。本人に指摘することが難しい場合には、ハラスメントなどを担当する窓口に通報するといった対応を取ることもできるかと思います。

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アライ(Ally)になる方法

アライになるために特別な資格や手続きなどはありません。同じ学校や同じ職場、近所など身近にLGBTの人がいたとしても、その人の味方になり、支えたいという意識さえあれば誰でも今からなることができます。LGBTは身近なところにいるかもしれないと意識し、性自認や性的指向とは何か、当事者がどういったことに生きづらさを感じ、困っているのかという知識をつけていくのがまずは最初の一歩かと思います。

 

冒頭でも記載させていただいた通り、LGBT当事者はLGBTであることを隠している場合が多いです。そういった人に味方であることを示すために、6色のレインボーフラッグを掲げたり、レインボーカラーのグッズを使用してアライであることを誰から見てもわかりやすいように掲示するということも有効かと思います。実際、伊賀市ではALLYステッカーを希望者に配布する取り組みを行っています。

 

もし誰かからLGBTであることを告げられた場合には、きっとあなたが信頼に足る人だと思われたのかと思います。相談者がLGBTであることを第三者に勝手に言いふらしたりすることなく(アウティング※になってしまう)、必ず秘密を守って欲しいと思います。

アウティングとは、LGBT当事者が秘めておきたいセクシュアリティを本人の許可なく周囲に暴露し、広めること

 

企業でアライを増やす方法

企業でアライを増やす方法

企業でアライを増やす方法について考えてみましょう。2019年5月に成立したパワハラ防止法によって、大企業だけでなく中小企業においてもSOGIハラスメント、アウティングが禁止されています。このパワハラ防止法を念頭におけば、職場でのアライを増やすためのアクションがとりやすくなるかもしれません。

手裏剣戦法で少しずつ意識を高める

職場で女性活躍の話題の際に、性別は男女以外にもあることを告知したり、パワーハラスメントに関する話題の際にはLGBTに対するハラスメントの話題を出すといったことから始めるのがアライを増やすきっかけとして良いかもしれません。

 

LGBT研修などを企画・実施する

今日ではLGBTに関する研修を実施する団体がいくつか存在します。LGBTに配慮したいけれども何をすれば良いかわからない、そもそも知識がないという人も多いと思うので、まずは研修を実施して知識を深めたり、取り組めることを探すことがアライを増やしていく手段の1つだと考えます。

野村グループの取り組み事例

野村証券に代表される野村グループでは「アライになろう!」を合言葉にマイノリティの人でも働きやすい職場作りに取り組んでいます。虹色のパンフレットを設置したり、差別的な発言を聞いたら指摘するといったことを実施しています。「アライズ・イン・ノムラ・ネットワーク」を掲げ、国籍・性自認・性指向・障害の有無などの違いに着目して各社員が持つ強みを発揮できるように取り組んでいるそうです。

マイノリティに対する配慮が低い職場でゼロからアライを増やしていくのはハードルが高いので、職場全体としてこうした取り組みをしてくれるのは理想的ではないでしょうか。こうして職場全体で取り組めば、LGBTの知識がない人、無関心な人に対しても巻き込んでいくことができるはずです。『「普通の人」なんていないから、一人ひとりの違いを野村は大切にしています。』という表現も素晴らしいなと感じます。

 

職場 × 多様性 野村グループ

 

まとめ

異性愛者(ストレート)がLGBTを味方し、支援することから始まったアライ。今日ではアライの主体は異性愛者だけでなくLGBT当事者でも名乗れ、対象もLGBTにとどまらない場合もあります。

 

LGBTに対する取り組みが進んでいない職場や学校では、アライの働きかけによってLGBT当事者が安心して快適に過ごせる場所に変えていくことができます。心理的安全性が保たれている職場では、LGBT当事者の社員も十分に能力を発揮し、勤続意欲も高いことがわかっています。僕自身もLGBTに無配慮な職場にいくつも勤務しましたが、仕事面では高評価をもらえても疲れ果ててしまい転職や退職を繰り返しました。1人でも職場や学校にアライがいれば、その1人の活動によってさらにアライを増やしていくこともできます。

 

まだまだLGBT当事者が名乗り出るのが容易ではない状態です。そんな時にアライがいてくれるだけで雰囲気は一変するはずです。また、困っている誰かを助けたいと思えばLGBT当事者であっても他のことに困っている人のアライになれるはずです。お互いを思いやって支え合える環境を作っていきたいですね。

 

参考文献

・遠藤まめた著『教師だから知っておきたいLGBT入門 すべての子どもたちの味方になるために』ほんの森出版

・社会福祉法人共生会SHOWA編著『性的マイノリティサポートブック』かもがわ出版

 

参考ウェブサイト

アライを増やすことが従業員の心理的安全性を高める  BIZREACH with HR

「わかったつもり」に注意。今日から中小企業「SOGIハラ」「アウティング」対策が義務化 YAHOO!ニュース