アセクシュアルとは、他者に対して性的欲求を抱かないセクシュアリティのことをいいます。アセクシュアルにまつわる本や漫画、映画などもみられ、徐々に多様な性のあり方が広まってきました。
さまざまなセクシュアリティを知ることで、今まで抱えていた性に対する違和感や疑問に気づき、「もしかしたら私もそうかも?」と考えるきっかけにもなります。ネット上ではセクシュアリティ診断も探せ、自分のセクシュアリティを客観的に分析できます。
今回は、アセクシュアルの意味や特徴、当事者によるあるあるを紹介します。また、混合されやすい「アロマンティック」との違いも説明します。
アセクシュアルの意味とは
アセクシュアル(Asexual)とは、日本語で「無性愛」と訳され、「Aセクシュアル(エイセクシュアル)」と呼ばれることもあります。略称は「Ace(エース)」です。Asexualの「A」は打ち消しの働きをし、「sexual」は「性的な」という意味をもちます。
一般的に以下、2つの意味として使われています。
・他者に対して性的欲求をまったく(ほとんど)抱かない
・他者に対して性的欲求・恋愛感情をまったく(ほとんど)抱かない
主に2つの意味で使われますが、アセクシュアルのなかでもさまざまなあり方があります。性的欲求がない一方で恋愛的な感情を抱く人、同性に惹かれる人、異性に惹かれる人など、個人によって異なります。
「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チームによると、回答者4285人のうち33人がアセクシュアルであると回答しました。ただし今回のアンケートは、大阪市の住民基本台帳から無作為に抽出した18〜59歳が対象となります。さらに回答者の幅を広げ、数を増やすことで、異なる結果となることが予想できます。
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アセクシュアルのフラッグ
アセクシュアルを象徴する旗は、ブラック・グレー・ホワイト・パープルの4色で構成されます。ブラックはアセクシュアリティ、グレーはセクシュアルとアセクシュアルの間の色、ホワイトはセクシュアリティ、パープルはコミュニティを示しています。
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アセクシュアルの特徴
先述したように、アセクシュアルのなかにもさまざまな人がいます。恋愛している人すべてが性的欲求を抱くとは限りません。ここでは、アセクシュアルについて知るべきことを紹介します。
性的欲求を抱くこともある
アセクシュアルのなかでも、性的欲求を感じる人がいます。healthlineの記事によると、性的欲求には3種類の考え方があるといわれています。
①性的欲望や性衝動のような行為や性的快感、性的開放を望む感情
人間に備わっている本能的な感情とされ、例えると痒いところをかくような感覚に近いといえます。
②個人的な喜びに近い感情
1の本能的な欲望を解消するというよりも、必要不可欠ではないものの、性的な結びつきを望んでいる場合に抱きます。
③性的魅力
誰かに性的な魅力を感じ、性的な感情を抱く感情のことをいいます。
アセクシュアル性的欲求を抱かないことがほとんどですが、1のように生物学的な衝動として自分で処理することに満足する人もいます。また、その行為に対して性的な感情はなく、リラックスするための目的だと捉えていることも考えられます。
また、以下のような理由で性交渉をする当事者もいます。
・性欲を満たすため
・子どもをつくるため
・パートナーを喜ばせるため
恋愛感情がない人も
アセクシュアルは、性的欲求を(ほとんど)抱かないセクシュアリティとして知られていますが、恋愛的な関係を望まない人もいます。当事者のなかには、性的魅力を感じないアセクシュアルのように、恋愛的魅力を感じないアロマンティック(Aromantic)な人もいます。
恋愛感情・性的欲求を伴わないプラトニックな関係であっても、ほかの人たちと同じようにパートナーと向き合っているのです。
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アセクシュアルの診断
診断を受けることで、アセクシュアルであるかどうかを判断することは難しいですが、セクシュアリティにみられる特徴とどのくらい一致するかを客観的にみることはできます。以下のような質問を自分自身に尋ねてみることで、自分と向き合うきっかけになるかもしれません。
・自分にとって性的な魅力とは何か?
・性的欲求を抱いた経験はあるか?
・自分にとって性交渉は重要か?
・性交渉をどのように認識しているか?
・性交渉に嫌悪感を抱いているか?
・魅力的に感じた人に対して、性交渉をしたいと思うか?
・他人が望んでいるかどうかにかかわらず、自分が性交渉をしたいと思うか?
・自分の愛情表現の仕方とは何か?
・ラブストーリーに共感したことはあるか?
・セクシーな服装に性的に魅力を感じるか?
まだ答えが見つからなくても問題ありません。自分がしっくりくるセクシュアリティを見つけるまでには時間がかかることもあります。また、セクシュアリティが流動的に今後変わる可能性もあります。自分のセクシュアリティをどのように認識するか決めるのは、自分ひとりだけなのです。
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アセクシュアルによくある誤解
最近では性についてオープンに話す機会が増えましたが、まだまだ誤った情報は浸透しているように感じます。そこでアセクシュアルに関する誤解について紹介します。
性的欲求がないのは病気
いまだに、アセクシュアルの人に対して、性的欲求がないことを病気だと考える人もいます。世の中では、性的欲求や恋愛感情があることが一般的とされていますが、実際にそのような感情を抱かない人もいます。アセクシュアルはセクシュアリティであり病気ではないのです。
性欲減退障害や興奮障害とよばれるものもありますが、それらを判断するためにはさまざまな条件が挙げられます。「一時的であるか」は判断基準としても有効であり、多くのアセクアシュルの人が「今までもずっと同じような感情をもっていた」といいます。
また、多くのアセクシュアルの人は、社会的にセクシュアリティが認知されていないことに苦痛を感じることはあっても、性的な欲求を抱くことや治療を求めることに対して必要性を感じていません。
魅力的な人に出会ったことがないだけ
よくある誤解の一つに「アセクシュアルの人はまだしっくりくる人に出会っていないだけ」という意見がみられます。ですが、たとえアセクシュアルの人にいい出会いがあったとしても、セクシュアリティの性質が変わることはありません。同時に、アセクシュアルだから恋愛ができないわけでもないのです。
アセクシュアルのなかでも、デートをしたり、結婚したり、子どもがいたりする人はいます。世間の一般的な考えからはかけ離れたセクシュアリティかもしれませんが、その人たちにとっては人生のごく一部に過ぎないほど、当たり前のものとして備わっているのです。
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アセクシュアルと似ているセクシュアリティ
アセクシュアルと同時に語られるセクシュアリティとして「アロマンティック」が挙げられます。両者とも似ているセクシュアリティではありますが、微妙に違った特徴をもちます。そのほかにも、混合して認識されがちなセクシュアリティがあるので、いくつか紹介します。
アロマンティック
アロマンティック(Aromantic)は、「romantic」に打ち消しの意味をもつ「A」を加えた言葉です。他者に恋愛感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのことをいいます。アセクシュアルは性的な欲求、アロマンティックは恋愛感情のことを表すため、アロマンティックのなかには他者に性的魅力を感じることもあります。
アロマンティックを象徴するフラッグは、グリーン・ライトグリーン・ホワイト・グレー・ブラックの5色から構成されます。グリーンとライトグリーンは、ロマンティックを表す「レッド」の反対色、ホワイトはプラトニックな友情と愛、グレートブラックはさまざまなセクシュアリティのあり方を意味します。
ノンセクシュアル
ノンセクシュアル(Nonsexual)は、日本語で「非性愛」と直訳されます。アセクシュアルは性的欲求だけでなく、恋愛感情も(ほとんど)抱かない可能性のあるセクシュアリティである一方、ノンセクシュアルは性的欲求に対してのみ使われます。つまり、恋愛感情は抱くが、性的欲求は抱かないセクシュアリティとなります。
デミセクシュアル
デミセクシュアル(Demisexual)とは、日本語で「半性愛」と直訳されます。感情的な結びつきをもった相手にのみ、稀に性的な欲求を抱くセクシュアリティのことです。
デミセクシュアルを象徴するフラッグは、アセクシュアルフラッグをアレンジしたもので、ブラック・ホワイト・パープル・グレーの4色から構成されます。ブラックの三角形は右の3色が表すアセクシュアルコミュニティを示し、ホワイトはセクシュアリティ、パープルはコミュニティ、グレーはアセクシュアルコミュニティを象徴します。
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もしパートナーがアセクシュアルだったら?
カップルの片方がアセクシュアルで、もう一人がそうでない場合の恋愛関係もあります。うまく関係性を構築するためのポイントはコミュニケーションにあります。もし、パートナーがアセクシュアルであれば、相手が受け入れられる行為、不快だと感じる行為の境界線などを話し合うことが求められます。
セクシュアリティにかかわらず、片方のパートナーの方が性的欲求が強いと悩んでいるカップルは珍しくありません。その解決策の一つとして、オープンな関係を実践してみたり、性交渉の代わりに感情的な側面から向き合ってみたり、長期的な関係を築くうえでさまざまな工夫がなされています。
最も重要だといえることは、パートナー両方が自分が求めていることを正直に話すことです。アセクシュアルであるパートナーが、時間の流れとともに性的欲求を抱く可能性は低いかもしれません。相手の性質を受け入れたうえで、お互いとどう向き合っていけるかを考えることが求められます。
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もしアセクシュアルだと思ったら?
自分がアセクシュアルを自覚したら、パートナーにカミングアウトしたいかどうかを考えてみてください。カミングアウトは、自分のセクシュアリティを受け入れ、それを誰にどの程度オープンにしたいか考え、伝えたい人に伝える作業をおこないます。その作業を行いたくないと感じたら、必ずしもオープンにする必要はありません。
逆にオープンにすることで、傷つく言葉を向けられることもあるかもしれません。また「相手に受け入れられなかったらどうしよう」「別れることになるかもしれない」と不安になる人もいるはずです。なので、自分のタイミングを大事に、焦る必要はないことを忘れないでください。
もし、パートナーに伝える決意をしたら、相手がアセクシュアルに馴染みがないことを前提に、どのように説明したらよいかを考えてみるといいかもしれません。ゲイやレズビアンといったセクシュアリティのように、セクシュアリティの1つであることや、性的欲求を(ほとんど)抱かないことなど、基本的なことから話す必要があります。
好きな人にカミングアウトすることで、自分らしい生き方ができることを願っています。
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良好な関係性を構築するためには?
パートナーとうまく向き合ううえで大事なことは、お互いに強制しないことです。一方のパートナーの要求だけが多く、身体的・感情的に支配されてしまう関係は良好とはいえません。ときに、今の関係を進めるべきなのか、終わらせるべきなのか、判断できないこともあります。衝突することがあったら、お互い何に悩んでいるのか、どのような状態を望んでいるのかを話し合う必要があります。
また、パートナー間だけでなく、友人や家族、カウンセラーなど、信頼できる人に相談するのも有効です。新しい視点を得ることで、健全な関係を結ぶきっかけになるかもしれません。良好な関係を構築するうえで、パートナー両者がすべきことは以下のとおりです。
・お互いを信頼、尊重する
・落ち着いて話し合い、自分と異なる意見を受け入れる
・お互いのセクシュアリティの違い受け入れる
・性的欲求を抱く境界線を理解し、少しでも不快だと思ったことに対してNOと言う権利をもつ
・お互いの精神状況や気持ちを共有する
まとめ
アセクシュアルは人口の1%にも満たず、セクシュアルマイノリティのなかでもマイノリティな存在として認識されています。馴染みのない人もいるかもしれませんが、1つのセクシュアリティのあり方として当たり前に存在します。少数ではありますが、人それぞれ性のあり方は異なるものです。
セクシュアリティのことで悩んでいる人は、信頼できる人に相談したり、当事者の人がいたら話を聞くのもいいかもしれません。最近では、ネット上でもさまざまな情報に簡単にアクセスできます。記事や動画など、自分に適した方法を探してみるのもいいでしょう。
また、自分ひとりで悩みを抱えている人、悩んでいる友人から相談を受け、周りに話せないという人は、相談窓口もあります。「よりそいホットライン」や「こころの相談」、「レインボーホットライン」など、外に情報を漏らす心配もないので、安心してアドバイスを求められる点が特徴です。
少しでも多くの人が自分らしく生きられるため、さまざまなセクシュアリティが存在することを前提に認識することが求められます。自分と違う人がいることは当たり前のことです。その違いが受け入れられる社会を願っています。