トランスジェンダーについて語られる時によく耳にする言葉、MtX。MtXとは、Male to Xgenderの頭文字からなる言葉で、自認する性別はXジェンダーです。とはいえ、「Xジェンダーって何?」「MtXってトランスジェンダーとどう違うの?」と疑問に思う人も多いかもしれません。本記事では、MtXという言葉の意味や当事者が困っていることについて紹介します。

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【初めに】Xジェンダーとは

先ほど、MtXの性自認はXジェンダーだとお伝えしましたが、Xジェンダーについてあまりわからないという人もいるでしょう。Xジェンダーとは、自認する性が男性にも女性にも当てはまらないセクシュアリティのことです。言葉自体は1990年代、関西のクィアコミュニティの間で生まれたといわれています。そこから徐々にインターネット上で広がりをみせ、2005年に意味が定着したようです。

Xジェンダーという言葉は日本で誕生したことから、海外で「Xgender」と言っても伝わらないことがほとんどでしょう。近年では、カナダ、アメリカ、オーストラリア、ドイツなど、さまざまな国のパスポートの性別欄に、男性・女性のほか、「X」という選択肢が増えたことで話題になっています。しかし、ここでいう「X」は、Xジェンダーではなく、男性、女性に当てはまらない性の総称である「Gender Queer」を意味します。

2016年に行われたLGBT当事者の意識調査「REACH Online 2016 for Sexual Minorities」によると、回答した国内に住む15,064名のうち、Xジェンダー男性[1]として回答した人は1,161人、Xジェンダー女性[2]として回答した人は332人、合計で1,493人であることがわかりました。

  1. 調査内で示された「Xジェンダー男性」をここでは「MtX」という意味合いで示す
  2. 調査内で示された「Xジェンダー女性」をここでは「FtX」という意味合いで示す

Xジェンダーは、主に「中性」「無性」「両性」「不定性」「その他」の5種類に区分されます。それぞれを具体的に見ていきましょう。

中性

中性とは、男性と女性の中間に位置する性自認のことをいいます。

不定性

不定性とは、自身の性自認がその時々で揺れ動く性自認のことをいいます。例えば、両性から女性の間を流動する人、無性から男性の間を流動する人など、当事者によってあり方はさまざまです。また、その時は「男性6割、無性4割」、違う日には「両性10割」のように、日によって割合が異なる人も不定性に当てはまります。詳しくは「【当事者体験談あり】Xジェンダーの不定性とは?意味や悩みなど幅広く解説」を参考にしてみてください。

無性

無性とは、男性、女性のどちらにも属さない性自認のことをいいます。中性や不定性は男女という概念がある一方で、無性は自身に性別という概念を当てはめない、もしくは当てはまらないことが特徴です。詳しくは「男性も女性も自分とは別の性別に感じる!Xジェンダー無性ってこんな感じ!」を参考にしてみてください。

両性

両性とは、男性、女性どちらにも属する性自認のことをいいます。当事者の中では「男性2割、女性8割」のように異なる割合をもつ人もいます。不定性と異なり、性別の割合は変わらないことがほとんどです

その他

「まだ性自認はわからないけど、もしかしたら中性かもしれない」「男性、女性、無性の3つの性を自認している」など、上に挙げた4つ以外にも、さまざまな性のあり方があります。

参考:「性同一性障害(GID)を取り巻く現状と X ジェンダーについて」, 2021
関連記事:「Xジェンダーとは?FtX、MtX当事者の声

MtXとは

MtXとは
XジェンダーであるMtXは、Male to Xgenderの頭文字からなる言葉です。生まれた時に割り当てられた性別は男性で、自認する性がXジェンダーであることを表します。もともとトランスジェンダーに当てはまるMtF、FtMから派生して使われるようになったといわれています。

MtF(Male to Female):生まれた時に割り当てられた性別が男性で、自認する性が女性である人
FtM(Female to Male):生まれた時に割り当てられた性別が女性で、自認する性が男性である人
MtX(Male to Xgender):生まれた時に割り当てられた性別が男性で、自認する性がXジェンダーである人
FtX(Female to Xgender):生まれた時に割り当てられた性別が女性で、自認する性がXジェンダーである人

参考:「性同一性障害(GID)を取り巻く現状と X ジェンダーについて」, 2021
関連記事:「【経験談】男の体に女性ホルモンを投与した僕の心と体の変化【Xジェンダー】

MtXの性的指向

よく「MtXの人はどのような人を好きになるの?」という質問を耳にします。勘違いされやすいのが、Xジェンダーは同じセクシュアリティのXジェンダーの人を好きになるということです。しかしながら、どのような性を好きになるかを表す「性的指向」と、自分の性をどのように自認するかの「性自認」は異なります。「性自認はXジェンダーで好きになる性は男性」「性自認はXジェンダーで好きになる性はXジェンダーの中性」など、Xジェンダーの中にもさまざまな性的指向があるのです。

ゲイやレズビアンのように、「男性が好きな男性」「女性が好きな女性」と性自認が限定されているセクシュアリティもあります。そのため、Xジェンダーを自認するMtXやFtXの人にはなかなか当てはまるセクシュアリティがないと考える人もいるかもしれません。

ですが、実は性自認にかかわらず性的指向を表現できる言葉があります。例えば、男性に恋愛・性的な感情が向く「マセクシュアル」、女性に恋愛・性的な感情が向く「ウーマセクシュアル」という言葉が存在します。このように、性自認が男女どちらかに当てはまらない人にも、自身の性的指向を表すことのできるセクシュアリティの用語があるのです。

関連記事:「何がきっかけだったの?自分がXジェンダーだと気づいた理由

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MtXが日常生活で困ること

では、ここからはMtXにまつわる問題について紹介します。

いじめや差別を受けたことがある

性的少数者である多くのLGBTの子供たちは、差別やいじめを受けた経験があります。「LGBTの学校生活実態調査」によると、調査に回答した609名の当事者のうち7割がいじめを経験し、その影響により3割が自殺を考えたことが明らかになりました。さらに8割の当事者がLGBTをネタとした冗談やからかいを経験したといいます。

この調査の回答対象者はLGBTであるとはいえ、同じ性的少数者であるXジェンダーも同じようなことを経験したことがいえるでしょう。このような十分な理解がない環境で、なかなか自身のセクシュアリティについて周りに言い出せないという当事者は多くいます。例え勇気を出して公言したとしても、上記のようないじめや差別の経験をする可能性もあるのです。

「X」の概念がない

そもそもXジェンダーという言葉を聞いたことがない人は多くいることが想定されます。そのため、Xジェンダーという存在を知らないまま、男女という2性のみからなる概念を前提とした制度やシステムが構築されるというスパイラルが発生します。

例えば、男女に区分されたトイレ(だれでもトイレがない)、アンケートや提出する資料の性別欄、学校や仕事での制服など、さまざまな側面から男女の概念が根付いているのです。

関連記事:「Xジェンダーあるある9つ紹介!Xジェンダーってこんな感じ!

病院でのXジェンダーの診断

病院でのXジェンダーの診断
性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインによると、病院では性別違和という文脈から男性か女性かを診断できるものの、Xジェンダーかどうかを明確にすることはできません。そのため、現段階では自分の性をどう自認するかが大事になります。ネット上には、以下のような質問にいくつ当てはまるかによって、Xジェンダーかどうかを判断する診断があります。しかし、あくまでもXジェンダー当事者のもつ特徴に当てはまるかどうかであり、必ずしもその人のセクシュアリティを決めるものではありません。もしXジェンダーかもと悩んでいる人がいれば、参考程度にチェックしてみてください。

・「男っぽい」「女っぽい」と言われることに違和感を抱く
・自身の性別に違和感を抱く
・日によって服装や振る舞い、言葉遣いが変わる
・自分を男性/女性に当てはめようとしてもしっくりこない
・人と関わる時、性別という概念がない

関連記事:「【経験談】男の体に女性ホルモン投与!胸は膨らむ?変化と後悔とその後

まとめ

LGBTQやクィアという言葉は浸透したものの、XジェンダーやMtXについては知らないという人も多いはずです。当事者が存在するということを知ることで、少しでも多くのセクシュアルマイノリティの人たちが生きやすい社会に近づくのではないでしょうか。