ヘテロセクシュアルとは、異性に対して性的感情を抱くセクシュアリティを指します。異性愛者ともいわれるヘテロセクシュアルですが、「ストレート」とは何が違うのでしょうか。また、対義語となる言葉はあるのでしょうか。
異性愛が当たり前とされる社会では、ヘテロセクシュアルがどのようなセクシュアリティかについて考える機会がありません。そこで、本記事ではあえてヘテロセクシュアルを取り上げ、その言葉の持つ意味を徹底解説します。
セクシュアリティとは?
セクシュアリティには多様な形があり、その定義や理解には複数の観点があります。以下では、セクシュアリティの多様性を理解するための主要な観点について説明します。
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身体的性別(Sex)
身体的性とは、生物学的に決定される性のことを指します。これは一般的に男性と女性に分けられ、染色体、ホルモン、性器などの生物学的特性によって決まります。しかし、インターセックスのように、これらの特性が典型的な男性または女性の分類に当てはまらない場合もあります。
性自認(Gender Identity)
性自認は、個人が自身の性別をどのように認識し、感じているかを表します。これは身体的性とは必ずしも一致しないことがあります。例えば、身体的には女性であるが、性自認が男性である人はトランスジェンダー男性と呼ばれます。性自認には、男性、女性、ノンバイナリー、ジェンダークィアなど、様々な形が存在します。
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性的指向(Sexual Orientation)
性的指向とは、どの性別に対して恋愛感情や性的感情を抱くかを指します。異性愛(ヘテロセクシュアリティ)は異性に対する感情を意味し、同性愛(ホモセクシュアリティ)は同性に対する感情を指します。両性愛(バイセクシュアリティ)は両性に対する感情を持ち、無性愛(アセクシュアリティ)は性的感情を持たないことを意味します。さらに、全性愛(パンセクシュアリティ)や多性愛(ポリセクシュアリティ)なども含まれます。
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性表現(Gender Expression)
性表現は、個人がどのように自身の性を外部に表現するかを指します。これは服装、言動、髪型、体の動きなど、社会的に認識される方法で表現されます。性表現は、性自認や身体的性とは必ずしも一致しません。例えば、男性としての性自認を持ちながらも、女性的な服装を好む人もいます。
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ヘテロセクシュアルとは
ヘテロセクシュアルとは、異性に対して恋愛感情や性的感情を抱く性的指向を指します。このセクシュアリティは、多くの社会で「ストレート」とも呼ばれ、一般的には男性が女性に、女性が男性に恋愛感情を抱くことを意味します。
ヘテロセクシュアルの定義
ヘテロセクシュアルは、ギリシャ語の「異なる」を意味する「ヘテロ」に由来します。異性に対して恋愛や性的な感情を持つことがその特徴です。例えば、男性が女性に対して、または女性が男性に対して恋愛感情や性的感情を抱く場合がこれに該当します。
異性の定義
異性という概念には、身体的性、性自認、性表現という3つの側面があります。身体的性は生物学的な性別を指し、性自認は個人が自身の性別をどのように認識しているかを示します。性表現は、服装や行動など、外部に表現する性のことを指します。このように、異性という概念は単純ではなく、多様な要素を含んでいます。
性的指向の多様性の中での位置づけ
ヘテロセクシュアルは、性的指向の1つに過ぎません。同性愛(ホモセクシュアリティ)、両性愛(バイセクシュアリティ)、無性愛(アセクシュアリティ)など、他にも多くの性的指向が存在します。これらはすべて等しく尊重されるべきであり、個々のセクシュアリティが持つ多様性を理解することが重要です。
ヘテロセクシュアルの対義語は?
ヘテロセクシュアルの対義語は、「同性愛」を意味する「ホモセクシュアル」です。ホモセクシュアルの「homo-」は「同じ、よく似た」、「sexualis」は「性的な」という意味を持つことから、「同性に対して魅力を感じる」つまり、同性愛を意味します。
具体的には、ゲイ(男性同性愛者)やレズビアン(女性同性愛者)などが含まれます。ただし、セクシュアリティは必ずしも二元論的ではありません。同性と異性両方に魅力を感じるバイセクシュアルや性的魅力を感じないアクセクシュアルなど、男女どちらかでは表現しきれないこともあるのです。
ヘテロセクシュアルとヘテロロマンティックとの違い
セクシュアリティには多くの側面があり、その中でヘテロセクシュアルとヘテロロマンティックという概念は、恋愛感情と性的感情の対象について異なる特徴を持っています。両者の違いを理解するために、それぞれの定義と特徴を詳しく見てみましょう。
ヘテロセクシュアル
ヘテロセクシュアルとは、異性に対して性的な感情を抱く性的指向を指します。これは、個人が異性に対して性的魅力を感じ、性的な関係を求めるという意味です。例えば、男性が女性に対して、または女性が男性に対して性的な興奮や欲望を感じる場合がこれに該当します。ヘテロセクシュアルの人は、異性との恋愛関係において性的な側面が重要な役割を果たします。
ヘテロロマンティック
一方で、ヘテロロマンティックとは、異性に対して恋愛感情を抱くが、必ずしも性的な感情を伴わない指向を指します。ヘテロロマンティックの人は、異性との感情的な結びつきや親密さを求める一方で、性的な関係は二次的なもの、もしくは不要と感じることがあります。
例えば、男性が女性に対して恋愛感情を抱き、デートや一緒に過ごすことを望むが、性的な関係には関心を持たない場合がこれに該当します。
主な違い
ヘテロセクシュアルとヘテロロマンティックの違いは、主に性的感情の有無にあります。ヘテロセクシュアルの人は異性に対して性的な感情を抱くのに対し、ヘテロロマンティックの人は恋愛感情を抱くものの、性的な感情は必ずしも伴わないという点が特徴です。
これにより、恋愛関係の性質も異なり、ヘテロセクシュアルの関係は通常、性的な側面を伴うのに対して、ヘテロロマンティックの関係は感情的な結びつきに重点を置きます。
実際の例
例えば、ある男性がヘテロセクシュアルであれば、その男性は女性に対して恋愛感情と性的感情の両方を抱きます。彼は女性とのデートや恋愛関係だけでなく、性的な関係も望みます。
一方、同じ男性がヘテロロマンティックであれば、女性に対して恋愛感情を抱き、一緒に時間を過ごしたいと感じるものの、性的な関係は望まないか、必要としないことがあります。
ストレートフラッグはなぜ問題なのか
1978年にアメリカの美術家 ギルバート・ベイカーが、LGBTQコミュニティの象徴としてレインボーフラッグを制作しました。異性愛が当たり前とされる世の中で、レインボーフラッグは、LGBTQコミュニティの可視化や平等性を求める証にもなります。そこから、さまざまな他のセクシュアリティを象徴するフラッグが制作されるようになりました。
実は、ヘテロセクシュアルを象徴する主流のフラッグではないものの、「ストレートフラッグ(Straight flag)」(ここではヘテロセクシュアルを「ストレート」と表現)と呼ばれるヘテロセクシュアルのフラッグも存在します。ストレートプライドを掲げたこちらのフラッグは、一見無害ですが、さまざまな問題があるのです。ストレートフラッグの論争を引き起こした事例をいくつか紹介します。
1.TikTokのトレンド「スーパーストレート」
2021年にTikTok上で「#SuperStraight」というハッシュタグがトレンドになりました。この言葉を作ったTikTokerのカイル・ロイスは、「この言葉は新しいセクシュアリティであり、私のようなストレート男性はトランス女性とは付き合わない。トランス女性は本当の女性ではないから」と語ったのです。
さらに、動画には「#funny(面白い)」「#sexuality(セクシュアリティ)」などの当事者を蔑視するようなハッシュタグも付けられ、動画が削除されるまでに200万回以上も再生されたといいます。この動画はTikTok上では削除されたものの、他のサイトに転載されることに。SNS上では、黒とオレンジのフラッグの画像と一緒に、スーパーストレートを支持するような内容が多く投稿されました。
2.カナダのストレートプライド
2018年、カナダのニューブランズウィック州にある小さな町を中心に、ストレートフラッグが掲げられたことで大きな議論が交わされました。白と黒のストライプを背景に、男女のシンボルが交差するフラッグは、ストレートの人たちへの支持を意味し、町長の元へ届いたといいます。
ストレートフラッグを掲げた人の中の1人は「ゲイの人たちを批判するつもりはない。だが、どのセクシュアリティも個人が選択するものだ」と語り、セクシュアリティは選ぶものであり、個人の問題であることを指摘しました。
このフラッグは批判を巻き起こしすぐに撤去されたものの、町全体で差別的な考えが反映されたことは、あまりに震撼した出来事といえます。
ヘテロノーマティヴィティとは
なぜ、これまでLGBTQが差別を経験してきたのか。それは、ヘテロノーマティヴィティ(Heteronormativity)が根付いているからです。ヘテロノーマティヴィティとは「異性愛規範」とも呼ばれ、「世の中には男女のどちらかしか存在しない」「恋愛や結婚は男女間で行われるもの」といった考えが基盤にあります。
たしかに、日本の法律では婚姻は男女間でしか認められません。さらに、幼少期に読んでいた絵本を思い返しても、プリンセスとプリンスという男女間でのおとぎ話しかありませんでした。このように子どもの頃から自然と、ヘテロノーマティヴィティが根付いているのです。
ヘテロノーマティヴィティが強まることで、ホモフォビック(同性愛嫌悪)な考えが助長される恐れもあります。例えば、テレビや映画などで再現される恋愛や結婚のシーンは、現状男女間で行われることが当たり前であり、それにより同性愛者の存在がないものとされてしまいます。結果、同性間カップルが異常とみなされることもあるのです。
そんな環境で生きるLGBTQ当事者を自認する学生(特に思春期を迎える学生)は、ありのままの自分を家族や友達に告白することができないことから、1人で抱え込むことも。事実、LGBTQの学生はうつ病や自殺のリスクも高まる傾向にあるという統計も出ています。
ヘテロセクシュアルでシスジェンダーでもセクシュアルマイノリティ的要素を持つ場合がある
LGBTQの割合は11人に1人の割合ということは、ヘテロセクシュアルでシスジェンダーがマジョリティ側になります。しかし、必ずしもヘテロセクシュアルでシスジェンダーだからマジョリティかというと、そういうわけでもありません。異性愛者で、生まれた時に割り当てられた性別が一致していてもセクシュアルマイノリティな側面を持つ場合があります。
例えば、ヘテロセクシュアルでシスジェンダーで一見マジョリティ側に見えても、好きになるのに信頼関係が必要だったり、頭の良い人に惹かれる方などいますよね。好きになるのに精神的な繋がりが必要なのは、セクシュアルマイノリティ的にはデミロマンティック、頭の良い人に惹かれるのは、サピオセクシュアルと言います。勿論、この2つはセクシュアルマイノリティ側のセクシュアリティとなります。
このように、ヘテロセクシュアルでシスジェンダーでも、場合によってはセクシュアルマイノリティに傾くことがあります。
ヘテロセクシュアルに関する誤解
ヘテロセクシュアルはマジョリティではありますが、いくつかの誤解が存在します。ヘテロセクシュアルを1つのセクシュアリティとして、正しく認識することが求められます。
流動性がない
よくある誤解として「ヘテロセクシュアル=流動性がない」が挙げられます。ですが、誰にでもセクシュアリティが変わる可能性はあるのです。ゲイやレズビアンなど、LGBTQを自認している人たちの中でも、昔はヘテロセクシュアルで異性と付き合っていた経験がある人はいます。一方で、生まれてからずっと同じセクシュアリティを自認している人もいます。流動性の有無は人それぞれであり、「今の自分をどのように表現するか」が大事なのです。
“普通”である
よく、ヘテロセクシュアルを「ノーマル」「一般的」「普通」と表現する場面をみます。しかし、「普通」とは何でしょうか。ヘテロセクシュアルではない人たちは「異常」なのでしょうか。
かつては、LGBTQ含むセクシュアルマイノリティを総称する言葉「クィア」が「異常」「奇妙」とされてきた時代があります。ですが、1900年代後半、当事者たちはその言葉を逆手にとり、自らが「クィア」であることを示しました。当事者たちの力により、「クィア」が異常な存在から当たり前にいる存在へと転身したのです。
今ではクィア理論やクィアスタディーズと呼ばれる学問が誕生したり、さまざまな書籍が発行されたりと、セクシュアルマイノリティの存在が一人間として認識され、さらに理解や認識を深めようとする動向がみられます。結論、ヘテロセクシュアルもLGBTQも変わらず、1つのセクシュアリティとして存在しているのです。
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ヘテロセクシュアルと意味が似ている言葉
ヘテロセクシュアルを語る際、他のセクシュアリティを表す言葉が出てくるかもしれません。ヘテロセクシュアルと意味が似ている言葉もあるので注意が必要です。ここからは、混合されやすいいくつかのセクシュアリティを紹介します。
ストレート
ストレートとは、異性愛者と呼ばれ、性的指向が異性に向く人のことをいいます。ストレートという言葉は、ストレートではない人たちが「曲がっている」という印象を与えると批判的な声も上がっていますが、全く関係はありません。LGBTQ団体や教科書にも、ストレートを異性愛者と記述しています。
むしろ、気をつけなければならないのが「ノーマル」という言葉です。ノーマル(Normal)とは「普通」という意味を表し、先ほどお伝えしたようにヘテロセクシュアルが「普通」であり、それ以外のセクシュアルマイノリティは「アブノーマル」「異常」だという誤解を招きかねません。
ヘテロフレキシブル
ヘテロフレキシブル(Heteroflexible)とは、基本的にはヘテロセクシュアルであるものの、同性に恋愛・性的な感情を抱くこともあるセクシュアリティのことです。ヘテロセクシュアルを自認し、恋愛対象が同性であるかもしれないと疑問を抱く当事者も多いようです。
ただし、ヘテロフレキシブルはバイセクシュアル嫌悪的な言葉であるという人もいて、バイセクシュアルの偏見や差別を助長するとも議論されています。バイセクシュアルは両性を同じ割合で好きになるという誤解が存在します。ですが、男性8割、女性2割など、必ずしも同じ程度で惹かれるわけではありません。そのため、もし両性に特別な感情を抱くのであれば、ヘテロフレキシブルではなくバイセクシュアルといってもいいのでは、という疑問を持つ人もいるのです。
とはいえ、クィア、パンセクシュアル、ポリセクシュアルのように、複数の性に魅力を感じるセクシュアリティの名称も存在するため、誰もが自分のアイデンティティを心地よい呼び方でラベリングできます。ヘテロフレキシブルを自認しているのは、バイセクシュアルを嫌悪しているのではなく、ただヘテロフレキシブルというセクシュアリティが自分に合うからなのです。
ノンケ
ノンケとは、LGBTQ当事者から見た異性愛者のことを指します。打ち消しを表す「ノン」と「ケ(同性に対してその“気”がある)」を合わせた言葉です。例えば、同性愛者で異性愛者に惹かれた際、その気がない異性愛者に対して「あの子はノンケだからさ〜」などと使います。
アライ
最近では、LGBTQという言葉を聞くようになったものの、同性婚が認められていなかったり、ヘテロセクシュアルが規範となる社会構造があったりと、まだまだ理解が浸透しているとは言い難いのが現状です。そんな中、アライは平等な社会への第一歩を踏み出す重要な役割を担います。
アライとは「同盟」「味方」という意味を持ち、LGBTQフレンドリーであることが特徴です。宗教、人種、セクシュアリティ、性別に関係なく、平等な社会を構築するために支持し、時には当事者と一緒に抗議運動やデモ、SNS上での意思表示も行います。
アライのフラッグは、ストレートを象徴する黒と白、Ally(同盟)を示す「A」、LGBTQを表すレインボーカラーで構成されています。
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まとめ
多様性が謳われている一方、私たちが幼少期から植え付けられたヘテロノーマティヴィティは、なかなか根強く残っています。ですが、ヘテロセクシュアルはマジョリティではあるものの、1つのセクシュアリティとして存在します。
結婚や恋愛は男女間だけのものなのか、男らしさ・女らしさとは何か、自分の中にある前提を一度疑ってみてください。誰もが押し付けられている性別の概念を払拭することで、セクシュアルマイノリティだけでなく、マジョリティであるヘテロセクシュアルの人たちも、社会で生きやすくなるのではないでしょうか。
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