初めに |
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IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。 |
かつては性のあり方が嗜好や障害とひとくくりにされていましたが、昨今セクシュアリティやジェンダーについて語られる機会が増えました。「LGBTQ」や「クィア」という言葉を聞いたことのある人も多くいるでしょう。
しかし、世の中にはLGBTQや生物学的な性だけでは表現できない、さまざまな性の種類が存在します。以前よりもオンラインで気軽に診断を試したり、情報収集できたりする世の中へと推移しつつあります。さらに今後、多様性が提唱されるであろう社会で、さまざまな性の種類・あり方を知ることが、あらゆる人が自分らしく生きる社会につながるのかもしれません。
セクシュアルマイノリティ(性的少数者)とは
「セクシュアルマイノリティ」という言葉はなんとなく聞いたことはあるけど、定義が明らかではない人もいるでしょう。セクシュアルマイノリティとは「セクマイ」と略され、社会的に見てマジョリティに位置していない、性的少数者のことを言います。つまり、性を決める4つの要素(身体的な性、性自認、性的指向、性表現)が一致する異性愛者ではない人たちのことです。
関連記事:「同性愛って病気じゃないの?LGBTになる原因とは」
性を表す4つの要素
世の中では、生まれた時に割り当てられた性別で認識されることが多いですが、性のあり方はさまざまであり、1つの基準では測りきれません。むしろ、無限に存在するのです。一般的に、性を表現するのに4つの要素があるといわれています。
身体的な性別
生まれた時に割り当てられた性別のことです。多くの場合、身体的な性別は、性染色体、性腺、内性器、外性器などで判断されます。しかし、生まれつきの身体的特徴で男性・女性と判断できない場合もあります。
性自認
自分の性をどのように認識しているかです。男性だと認識する人は、性自認は男性、女性だと認識する人は、性自認は女性となります。身体的な性と自認する性が一致しない場合もあります。
性的指向
恋愛・性的な感情がどの性別に向いているかを表します。男性に惹かれる人は、性的指向は男性、女性に惹かれる人は、性的指向は女性です。また、好きになる性は必ずしも男性もしくは女性だけではなく、男女どちらにも惹かれる「バイセクシュアル」や、性別に関係なく人として惹かれる「パンセクシュアル」などが存在します。性的指向は、対象となる性別を限定するものではないのです。
性表現
社会的に自分をどのように表現するかです。例えば、服装、振る舞い、言葉遣いなどが挙げられます。性自認が男性で女性の服を着る人、性自認が女性で第一人称が「俺」な人など、必ずしも性自認と一致するわけではありません。
関連記事:「LGBTQ+の「Q+」とは?多様なセクシュアリティを解説」
性的マイノリティと性的マジョリティ
性的マイノリティの対義語として使われる「性的マジョリティ」。多様性が広まっているとはいえ、現代でも法的に同性間の結婚が認められなかったり、戸籍上の性別は男女のどちらかであったり、男女の考えが強く根付いている現状があります。
このような前提のことを「ヘテロノーマティヴィティ(異性愛規範)」といい、これにより性的マイノリティの存在がないものとされてしまいます。ですが、マイノリティは意外にも身近に存在するのです。
関連記事:「日本と世界のLGBT取り組み事例を紹介」
性的マイノリティの割合
電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、性的マイノリティの割合は 11人に1人※[1]であることが明らかになりました。左利きの人の数と同じ割合になります。一方で、自身のセクシュアリティを公言した当事者は34.4%※[2]とごくわずかであることがわかりました。その背景として、「身の回りに LGBT・性的少数者はいない」と回答した人が全体の84.9%※[2]であることが挙げられます。
- 電通, 「LGBTQ+調査2020」
- 「性的マイノリティ当事者等に対する 意識実態調査」
さまざまな種類のセクシュアリティ
身の回りにいるかもしれない性的マイノリティ。存在していることを認識するには、さまざまな性のあり方を知ることが求められます。ここでは「身体的性別」「性的な感情」「恋愛感情」「好きになる性」「性自認」の5つに分類して紹介します。(50音順)
身体的性別に関するセクシュアリティ
トランスヴェスタイト
トランスヴェスタイト(Transvestite)はクロスドレッサー(Cross-dresser)とも呼ばれ、身体的性と性自認が一致し、その性とは違う装いをする人のこと。例えば、性自認が男性でスカートを履いたり、性自認が女性でいわゆる「ボーイッシュ」と呼ばれるような髪型をしたり、社会的なジェンダーにとらわれない性表現をします。
トランスセクシュアル
トランスセクシュアル(Transsexual)とは、身体的性と性自認が一致しておらず、性適合手術やホルモン治療を望んでいる人のこと。トランスジェンダーの傘下にあるセクシュアリティですが、トランスジェンダーを自認する人の中では、トランスセクシュアルと呼ばれることを避ける人もいるため、その人の自認するセクシュアリティを尊重するようにしましょう。
DSD
DSDとは、一般的な性に関する身体的特徴が異なる発達をする状態の総称のこと。戸籍上の性別は、ほとんどの場合、身体的な性別は、性染色体、性腺、内性器、外性器などで男女に判断されます。しかし、中にはそれらの要素では判断できないDSD(Disorders of Sex DevelopmentまたはDifference of Sex Development)、日本語では「性分化疾患」と呼ばれる人たちも存在します。
性的な感情に関するセクシュアリティ
アセクシュアル
アセクシュアル(Asexual)は「無性愛」とも呼ばれ、他者に対して性的な感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのこと。恋愛感情、性的な感情ともに抱かないセクシュアリティとされることもあります。
エースフラックス
エースフラックス(Aceflux)とは、他者に対して抱く性的な感情の強さが変化するセクシュアリティのこと。
オートセクシュアル
オートセクシュアル(Autosexual)とは、自分自身に性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
ガイネセクシュアル
ガイネセクシュアル(Gynesexual)とは、女性らしさに性的な魅力を感じるセクシュアリティのこと。
グレーセクシュアル
グレーセクシュアル(Graysexual)とは、人生でごく稀にしか他者に性的な感情を抱かないセクシュアリティのこと。性的な感情の有無を「白」か「黒」で分けることはできず、まさに「灰色」である状態を言います。
クワセクシュアル
クワセクシュアル(Quoisexual)とは、他者に抱く感情が性的な感情かどうかを判断しない(できない)セクシュアリティのこと。
サピオセクシュアル
サピオセクシュアル(Sapiosexual)とは、相手の知性に性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
デミセクシュアル
デミセクシュアル(Demisexual)とは、強い絆や深いつながりを持った相手にのみ稀に性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
ノンセクシュアル
ノンセクシュアル(Nonsexual)は「非性愛」とも呼ばれ、他者に対して性的な感情を抱かないセクシュアリティのこと。アセクシュアルとは異なり、ノンセクシュアルに恋愛感情の有無は関係ありません。
バイキュリアス
バイキュリアス(Bicurious)とは、異性愛者であることを自認しているが、両性と性的な関係を構築することに興味があるセクシュアリティのこと。
ヘテロセクシュアル
ヘテロセクシュアル(Heterosexual)とは、異性に対して性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。「ヘテロ」とも略され、マジョリティとされています。
ポリセクシュアル
ポリセクシュアル(Polysexual)とは、男女に限らず3つ以上の性に性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
リスセクシュアル
リスセクシュアル(Lithsexual)とは、他者に性的な感情を抱きますが、同じ感情を自分に返してほしくないセクシュアリティのこと。
恋愛感情に関するセクシュアリティ
アロマンティック
アロマンティック(Aromantic)とは、他者に対して恋愛感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのこと。
オートロマンティック
オートロマンティック(Autoromantic)とは、自分自身に恋愛感情を抱くセクシュアリティのこと。
グレーロマンティック
グレーロマンティック(Grayromantic)とは、人生でごく稀にしか他者に恋愛感情を抱かないセクシュアリティのこと。グレーセクシュアルと同様、恋愛感情の有無を絶対的に判断することは難しく、グレーな状態にあります。
クワロマンティック
クワロマンティック(Quoiromantic)とは、他者に抱く感情が恋愛感情かどうかを判断しない(できない)セクシュアリティのこと。
サピオロマンティック
サピオロマンティック(Sapioromantic)とは、相手の知性に恋愛感情を抱くセクシュアリティのこと。
デミロマンティック
デミロマンティック(Demiromantic)とは、強い絆や深いつながりを持った相手にのみ稀に恋愛感情を抱くセクシュアリティのこと。
バイロマンティック
バイロマンティック(Biromantic)とは、男女どちらにも性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
パンロマンティック
パンロマンティック(Panromantic)とは、全ての性に恋愛的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
ポリロマンティック
ポリロマンティック(Polyromantic)とは、男女に限らず3つ以上の性に恋愛感情を抱くセクシュアリティのこと。
リスロマンティック
リスロマンティック(Lithromantic)とは、他者に恋愛感情を抱くが、同じ感情を自分に返してほしくないセクシュアリティのこと。
好きになる性に関するセクシュアリティ
アブロセクシュアル
アブロセクシュアル(Abrosexual)とは、恋愛・性的な感情を抱く性が流動的なセクシュアリティのこと。
ウーマセクシュアル
ウーマセクシュアル(Womasexual)は「ジニセクシュアル」とも呼ばれ、恋愛・性的な感情が女性に向いているセクシュアリティのこと。
オムニセクシュアル
オムニセクシュアル(Omnisexual)は「全性愛」と呼ばれ、相手の性別を認識した上で、相手の性を条件とせずに惹かれるセクシュアリティのこと。パンセクシュアルとの違いは、相手の性を認識するかしないかです。
ゲイ
ゲイ(Gay)とは、性自認が男性で男性に恋愛・性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
スコリオセクシュアル
スコリオセクシュアル(Skoliosexual)とは、恋愛・性的な感情がシスジェンダー以外の人に向くセクシュアリティのこと。
バイセクシュアル
バイセクシュアル(Bisexual)は「両性愛」と呼ばれ、男女どちらにも惹かれ得るセクシュアリティのこと。レズビアンやゲイとは異なり、バイセクシュアルは本人の性自認は問いません。
パンセクシュアル
パンセクシュアル(Pansexual)は「全性愛」と呼ばれ、他者に惹かれる時、相手の性を条件としないセクシュアリティのこと。つまり、全ての性が対象になり得るということです。
マセクシュアル
マセクシュアル(Masexual)とは、恋愛・性的な感情が男性に向いているセクシュアリティのこと。
レズビアン
レズビアン(Lesbian)とは、性自認が女性で女性に恋愛・性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。
性自認に関するセクシュアリティ
アジェンダー
アジェンダー(Agender)とは、性別がない人のこと。
クエスチョニング
クエスチョニング(Questioning)とは、性自認や性的指向が決まっていない(決めていない)セクシュアリティのこと。
ジェンダーフルイド
ジェンダーフルイド(Gender-fluid)とは、その時々によって性別が変わること。流動的なジェンダーだといえます。
シスジェンダー
シスジェンダー(Cisgender)とは、生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が同じこと。「シス」とも略され、マジョリティとされています。トランスジェンダーの対義語。
トランスジェンダー
トランスジェンダー(Transgender)とは、生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が異なること。出生時は男性で女性を自認している人は「MtF(Male to Female)」、出生時は女性で男性を自認している人は「FtM(Female to Male)」と表されます。
バイジェンダー
バイジェンダー(Bigender)とは、男性、女性どちらの行動や仕草を表します。
Xジェンダー
Xジェンダーとは、男性にも女性にも当てはまらないセクシュアリティのこと。Xジェンダーは日本固有の呼び方で、海外のパスポートなどでよく見られる「男性・女性・X(どちらでもない)」の「X」は、Xジェンダーを示すものではありません。Xジェンダーは、中性、無性、両性、不定性の4つに大きく分けられます。
・中性:男性と女性の真ん中に性別が存在すると自認している
・無性:男性でも女性でもないと自認している
・両性:男性でもあり女性でもあると自認している
・不定性:その時々によって性別が変わる
関連記事:「LGBT(セクシュアルマイノリティ)の種類はどれくらい?各セクシュアリティと詳細を解説します!」
フェイスブックには性の種類が58種類ある
フェイスブックは、性別の項目を男女に加えて56種類ものセクシュアリティを追加しました。現時点では、全58種類のセクシュアリティをカスタムできる機能は、アメリカ版フェイスブックでのみ利用できます。そのため、一度「English (US)」に言語を変更してからカスタムを変更する必要があります。また、性別の公開範囲も友達や、友達の友達、自分のみなど限定でき、プライバシーに考慮されている点が特徴です。
SNSやマッチングアプリで性別の選択肢を広める取り組みが求められる中、フェイスブックは革新的な動きを見せたともいえるでしょう。
関連記事:「LGBTQIAPKとは?様々なセクシャルマイノリティを知ろう!」
セクシュアリティに関するよくある質問
ここからは、セクシュアリティに関するよくある質問を紹介します。
セクシュアリティは自認しなければならないのか
必ずしもセクシュアリティを自認しなければいけないというわけではありません。セクシュアリティは常に流動的で、その時々で変わる可能性があります。また、自分のセクシュアリティやアイデンティティがまだ明確ではないという人もいます。そのため、自認するセクシュアリティがある方がいいということはないのです。
セクシュアリティを公言しなくてもいいのか
セクシュアルマイノリティに向けた法律や制度が存在しない現状で、カミングアウトをしないという選択を取る人も多くいます。また、そのような状態を「クローゼット」と呼びます。カミングアウトをした時の周りの反応が怖かったり、受け入れられるか不安になったり、クローゼットな状態でいる人の理由はさまざまです。
本人が望まないのであれば、自分のセクシュアリティを表に出す必要はないということを覚えておきましょう。また、本人の許可なく第三者にセクシュアリティをバラす行為のことを「アウティング」といいます。1人にカミングアウトしたからといって、全員に公言しているとは限らないのです。
セクシュアリティをカミングアウトしたい時どうすればいいか
カミングアウトする準備ができた人は、どのような会話をするのか、誰にカミングアウトするのか、心に留めておく必要があります。
・誰にカミングアウトするのか
・単純に話を聞いてほしいのか、同じ経験を話してほしいのか、他人にカミングアウトする手助けが必要なのか、アドバイスやサポートがほしいのか、カミングアウトする人に何を求めているのか
・いつカミングアウトするのか
セクシュアルマイノリティの理解が十分ではない日本では、カミングアウトするための時間が必要な場合もあります。もしかしたら相手は驚くかもしれませんし、理解するのに時間がかかるかもしれません。最初の反応が自分の望む反応であるとは限らないことを念頭に置いておきましょう。
また、相手が否定的な反応をした時、それに我慢する必要もありません。必要であれば、その場から逃げるという選択肢も覚えておいてください。
どのように自分のセクシュアリティを決めるのか
人によって自身のセクシュアリティに気づくタイミングはそれぞれ。例えば、10代や20代の思春期を迎える時期に同性を好きになったり、身体的な興奮が異性には芽生えなかったという経験をしたり、同性に興味を抱いたりすることで気づくかもしれません。また、セクシュアリティは選択するものではなく、その人の性質であることを覚えておきましょう。
自認するセクシュアリティを変えることはできるのか
先ほどもお伝えしたように、セクシュアリティは選択するものではなく、自ら変えることはできません。昔には、セクシュアリティを治療して“治す”ような取り組みもありましたが、その人の性質的な側面を変えることはなかなかできないのです。実際に、多くのセクシュアルマイノリティが自身のセクシュアリティで悩んで隠しています。ですが、どのセクシュアリティも「異常」ではありません。自身の今の状況を受け入れられる社会や環境が求められます。
自認するセクシュアリティは1つでなければならないのか
自認するセクシュアリティは1つであるとは限りません。例えば、男性でも女性でもない性を自認し、性的な感情を抱かない人は、Xジェンダーのアセクシュアルとなります。このように、複数のセクシュアリティが重なり合うことがあるのです。
関連記事:「LGBTとは?考え方や基礎知識を簡単に分かりやすく解説♪」
セクシュアリティを知りたい場合
自分がどのセクシュアリティに当てはまるか、悩んでいる人も中にはいるでしょう。セクシュアリティは自認する必要はないものの、少しでも自分がしっくりくると思えるセクシュアリティに出会ったり、ラベリングできたりすることで、安心感を得られることも。ここでは、自分のセクシュアリティを知る方法を紹介します。
自分自身に質問する
もし自身のセクシュアリティに疑問を感じているのなら、自分自身に質問を問いかけることも効果的です。以下、例を紹介します。
・同性カップルを見て羨ましく思ったことはあるか
・恋愛・性的な感情を異性以外に向いたことがあるか
・異性と交際したいと思うか
・結婚や恋愛などの未来像を描く時、自分の隣にいる人は異性もしくはそれ以外の性、どちらが想像しやすいか
・異性以外に対し、トキメキやドキドキを経験したことはあるか
『anone,』を使う
anone,とは、「心の性」「恋愛指向」「性的指向」「表現したい性」の4つを軸に、2000通りの組み合わせから最も近いと考えられるセクシュアリティを分析します。ただ単にセクシュアリティを分析するのではなく、「心の性は男性、恋愛志向はバイセクシュアル、性的指向はデミクシュアル、表現したい性はXジェンダー」のように、細かく記載されています。1つ1つが詳細に分析されるため、セクシュアリティの用語がわからない人でも、理解しやすいです。
関連記事:「無料で簡単!LGBT性的指向診断テストの4選」
【まとめ】
今回は、さまざまな性の種類を紹介しました。全てのセクシュアリティの用語を覚える必要がなくても、自分とは違う人が周りにいるということを覚えておいてください。この”違い”を否定しないこと、そして尊重することが、生きやすい社会につながります。少しでも多くの当事者が自分らしく過ごせることを願います。