LGBTに対する国内外の政府、学校、企業、団体などの取り組みは、意外と知られていない。日本はもちろんのこと、他国ではどんな取り組みを行っているのか?

今回の記事では、日本の取組みと世界の取り組みに大きく2つに分けて紹介していきます。
日本取り組みの事例は、企業や大学・文部科学省の取り組みと課題を取り上げています。
一方、世界の取り組みでは、企業・LGBT教育を義務化したフィンランドとイギリスの事例を紹介していきます。

初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」について解説するため、表記が混在しております。

 

LGBTに対する日本企業の取り組み

大橋運輸株式会社

大橋運輸では下記のような取り組みを行われています。

  • コンサルタントを招いてLGBTQ理解のための研修実施
  • 男女共用トイレを設置
  • エントリーシートの性別欄廃止、入社後は心の性に準拠
  • 就業規則を改定し、同性パートナーも配偶者に認定して福利厚生の適用対象に
  • 心と身体の性別が一致しないトランスジェンダーの人は通称名で勤務可能
  • 名古屋レインボープライド、Working Rainbow EXPOに協賛、参加

この他にも育児休暇制度の情報提供、育休者への情報提供、育休取得社員へのアンケート実施、男性の育児休暇取得促進などLGBTだけでなく、すべての社員が快適に勤務し、生活できる環境に取り組んでいます。
大橋運輸は2018年度のPRIDE指標でゴールドを受賞しています。

日本郵船株式会社

日本郵船では人種、宗教、性別、性的指向・性自認、国籍などをを差別しないという行動指針を定めています。
2019年には「LGBT相談窓口」を設置。さらに社員向けeラーニングで意識啓発も行っています。
日本郵船株式会社は2021年度のPRIDE指標においてブロンズを受賞しています。

株式会社資生堂

資生堂では社内規程で性的指向による差別禁止、LGBTをテーマにした社員向けセミナー、同性パートナーを配偶者として処遇する就業規則など早くからダイバーシティ&インクルージョンを推進してきました。
さらに社外のLGBTの人々に対しても活動しています。
渋谷区が主催する「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」や「Tokyo Rainbow Pride」へ賛同し、LGBTの人々にもお化粧を楽しんでもらうイベントを企画したりもしています。
資生堂は2017年度プライド指標でゴールドを受賞しています。

野村ホールディングス株式会社

野村ホールディングスでは以下のような取り組みをされています。

  • LGBTに関する差別を禁止した規定の整備
  • ダイバーシティ研修、LGBT勉強会の実施
  • 同性パートナーでも利用できる福利厚生制度の整備
  • トランスジェンダー社員へ対応するガイドラインの整備
  • 社員ネットワークによる理解促進の活動

さらに、社員が自主的に運営する社員ネットワークで「アライズ・イン・ノムラ」というものがあり、マイノリティを理解するだけでなく、支援しようという流れを作っていて、東京レインボープライドへ協賛もしています。
また、野村ホールディングスは2021年新設されたPRIDE指標において最も認定が難しい「レインボー認定」に選出されています。

LGBTに対する世界の企業の取り組み


次に世界の企業におけるLGBTに対する取り組みをご紹介します。

マリオットインターナショナル

マリオットインターナショナルはアメリカメリーランド州ベセスダに拠点を置き、日本を含む132の国、地域でホテルなどを運営。
2021年アメリカのヒューマンライツキャンペーン財団(HRC)の企業平等指数で100%を獲得しています。
企業平等指数とは、LGBTに対する職場の公平性を示すベンチマークとして2002年にはじまったものです。
企業の差別禁止方針、従業員の給与や人事制度、LGBTのダイバーシティ&インクルージョンに関する企業のコンピテンシーと責任、LGBT平等の公式コミットメントなどを評価しています。

マイクロソフト

マイクロソフトは他社に先駆けて1989年に差別禁止規定の中に性的指向による差別の禁止を盛り込みました。
ヒューマンライツキャンペーン財団(HRC)の企業平等指数で16年間100%を獲得しています。
日本マイクロソフトでも性指向、性自認による差別を禁止し、誰もが平等に扱われる職場・社会づくりを実現することを目的とした「EqualityActJapan」による「ビジネスによるLGBT平等サポート宣言」に賛同しています。
また、マイクロソフト社内ではGLEAM(GAy,Lesbian,Bisexual,Transgender Employees at Microsoft)というコミュニティを設立して、Prideを尊重しています。
Job Rainbow様によるGLEAMに関するインタビュー記事があります。

参考:日本マイクロソフトのLGBTへの取り組み(前編)〜社内LGBTグループ「GLEAM Japan」に聞いてみた!〜

LGBTに対する日本の学校の取り組み

次に日本の大学と文部科学省の取り組みについてご紹介します。

個別の大学の取り組み事例

中央大学

2017年にダイバーシティ宣言を公表し、2020年4月にはダイバーシティセンターを発足しました。ダイバーシティスクエアという学生向けスペースがあり、安心・安全な居場所の提供、個別相談、ダイバーシティに関する情報提供を行っています。
さらに、ジェンダー・セクシュアリティに関する学生用ハンドブック、教職員様ガイドブックをそれぞれ作成して啓蒙に取り組んでいます。
こちらからどなたでも閲覧することができます。

龍谷大学

性別、セクシュアリティなどにかかわらずすべての人が差別やハラスメントなどの人権を受けないことを保障することを明らかにしています。
相談窓口、ジェンダーやセクシュアリティについて語り合うSOGIカフェ、だれでもトイレの設置、各授業の受講者名簿や証明書、申請書、履歴書の性別欄廃止などを行っています。
また健康診断時の胸部レントゲン撮影、宿泊研修などで配慮が必要な場合には相談も可能。
「大学生のためのLGBTQサバイバルブック」という小冊子も3種類発行しています。
僕もLGBT当事者の卒業者が、自らの体験を元にLGBTの後輩に就活や社会人生活についてアドバイスするような記載があったりして、非常に有益です。
龍谷大学は2021年度のPRIDE指標においてシルバーを受賞しています。

文部科学省の取り組み

文部科学省では平成22年に性同一性障害に係る通知を発出して以降、性的マイノリティに関する通知を教職員向けに発してきています。
「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について(教職員向け)」という資料では、

  • 自認する性別の制服、体操服の着用を認める
  • 保健室・多目的トイレ等を更衣室として利用することを認める
  • 職員トイレ・多目的トイレの利用を認める
  • 体育、保健体育で別メニューを設定
  • 修学旅行などで1人部屋の使用を認める、入浴時間をずらす

といった具体例をあげて、LGBTの生徒に対応する必要性を呼びかけています。

一方で、LGBTに関する教育には課題もあります。
2万2千人の教師へのアンケートでは、LGBTについて75%以上が授業で教える必要があると考えているものの、授業で取り入れたのは約15%しかいないことが明らかになっています。
また、LGBT当事者を対象にした調査では、6割が小中高いずれかでいじめ被害経験があり、「ホモ、おかま・おとこおんな」といった言葉を使われることも。。。。
LGBT当事者の、特に10代の不登校率や自傷行為経験率が格段に高いこともわかっています。
日本では2016年に実施したインターネット調査で、LGBTの約6割の人がいじめ被害にあい、自傷行為経験率は2〜7倍以上。
また、ゲイ・バイセクシュアル男性は異性愛男性より5.98倍自殺未遂リスクが高いことがわかっています。
LGBTやSOGIに関する適切な教育を義務化することができれば、LGBTを中傷したり、LGBTをいないものとして振る舞うといったことがなくせるはずですので早急に実施されることを願います。

参考

LGBTに対する世界の学校の取り組み

次に世界のLGBTに対する取り組みをご紹介します。

フィンランドの取り組み

フィンランドの平等法では全てのレベルの教育機関が、職員と学生と共に平等行動計画を策定する必要があると定めています。
生徒の固定観念や偏見をなくすため、授業では性指向や性自認の多様性を考慮するよう教師に義務づけられいます。

参考:授業計画での性指向や性自認の多様性考慮を教師に義務づけ

イギリスの取り組み

イギリスの小学校では、2020年9月よりLGBTに関する内容を含めたカリキュラムが必須となりました。
「リレーションシップ教育」(Relationships and sex education (RSE) and health education)と呼ばれるカリキュラムになっています。
導入の背景として、LGBTを理由としたいじめが後を絶たず、それに対処するのがLGBTインクルーシブ教育の一因とされています。
イギリスのLGBT人権団体Stonewallが発行した「School Report」によると、イギリスのLGBT学生の約半分がLGBTを理由にいじめられた経験があり、10人に1人は学校で殺しの脅迫を受けています。
またLGBTを理由にいじめられた学生の約半分は、いじめについて他人に話したことがないという実態が明らかになっています。

参考資料

LGBTに対する日本の自治体の取り組み

LGBTに対する日本の自治体の取り組みであるパートナーシップ制度ご紹介します。

パートナーシップ制度

日本では同性間で結婚することはできませんが、パートナーシップ制度が国内の自治体で急速に広がってきています。
結婚できない同性カップルに対し2人がパートナー関係にあることを地方自治体が認め、証明書を発行するものですが、結婚とは異なり法的な効力はありません。
2015年11月渋谷区と世田谷区で始まりました。
最初は区、市、町単位で実施されていましたが、都府県単位で実施する事例も増えてきています。
最近のニュースでは、東京都が2022年11月1日に開始する方針であることが発表されています。

チェック → 東京都のパートナーシップ宣誓制度が11月1日から開始となる方針が発表されました

LGBTに対する日本のその他の取り組み

日本でLGBTを対象にした様々な組織・団体があるのでご紹介します。
LGBTに関する諸問題に取り組んでくれる組織がたくさんあるのは喜ばしいですね。

プライドハウス東京レガシー

日本初の常設の総合LGBTQセンター。
LGBTQの情報を発信し、安心安全な居場所を提供しています。

  • LGBTQ+いのちの相談窓口、法律相談、暮らしの相談
  • LGBTQ+に関する書籍、漫画、情報発信
  • オールジェンダートイレ

目的がなくても、スタッフの人たちとおしゃべりをすることもできます。
新宿御苑横の建物2階に位置し、とてもフレンドリーでオープンな雰囲気なので訪問もしやすいです。
筆者も大変お世話になっています。

公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に

性のあり方にかかわらず誰もが結婚するかしないかを自由に選択できる社会の実現を目指している公益社団法人。
日本での同性婚実現に向けて様々な情報を発信しています。
世界の同性婚事情、国内の同性婚に関する裁判やパートナーシップの最新情報、同性婚に賛同する国会議員の情報などが閲覧できます。
最近では6月20日に大阪地裁の判決では「同性の結婚が認められないのは合憲」という判決が大きなニュースになりました。
まだまだ同性婚の裁判は続いていきますので、最新情報を確認すると共に、同性婚の実現に向けて募金や議員への働きかけなど、できることをしていけたらと思います。

認定NPO法人虹色ダイバーシティ

LGBT等の性的マイノリティとその家族、アライの尊厳と権利を守り、誰ひとり取り残さない社会の実現をめざす認定NPO法人。
LGBT研修・コンサルティング、調査研究、イベント、その他LGBT関連の情報発信などを行っています。

特定非営利活動法人akta

HIVへの感染機会のある人びととやHIV陽性者に向けて、予防啓発、支援活動を行っていて、セクシャルヘルスの情報センター。
新宿2丁目に位置し、どなたでも利用できるオープンスペースになっています。
HIV/エイズだけでなくセクシュアリティ、LGBT関連の情報、メンタルヘルスやドラッグなど依存症の情報や、バー、クラブ、ショップなどの情報もあります。

Job Rainbow

当社(株式会社IRIS)もお世話になっている日本初のLGBT向け求人サイト。
LGBTフレンドリーな企業の求人が簡単に検索できます。
設立者である代表取締役の星賢人さんは米経済紙フォーブスが選ぶアジアで最も影響のある若者30人に選出、アメリカではSocial Justice Leaderの10人に選出、フランス大使よりJapan Pride Award2018に選出されています。

LGBT関連の電話相談窓口

行政、NPOなど様々な団体がLGBTに関する電話相談窓口を設けています。
相談できる内容、機関が多すぎてこちらで紹介しきれないため、こぷりずむfrom山梨様(https://coprism.jimdofree.com/電話相談一覧表リンク集/)のリンク集を貼らせていただきます。
LGBTに関して悩んだり困っている、相談したい方はぜひご覧ください。

電話相談一覧表リンク集

LGBTに対する世界のその他の取り組み

結婚の自由に関する世界の取り組み

世界では30の国と地域で同性婚をすることができます。
30の国と地域のほとんどが北米、南米、オセアニア、ヨーロッパなりますが、アジアでは台湾が初めて2019年5月から同性婚ができるようになりました。
G7(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)で同性婚を認めない、もしくは同性カップルを法的に保障するパートナーシップ法が存在しないのは日本だけです。

タイ国会ではシビルパートナーシップ法案とそれに伴う民法改正案、婚姻平等法案などが6月15日下院本会議の第一読会で採択されました。
今後、第二読会、第三読会、上院で承認されれば婚姻平等法が成立します。
アジアで2番目の同性婚ができる国はタイになるかもしれません。

チェック → 日本と世界のLGBTと同性婚【徹底解説!】

参考

【まとめ】日本と世界のLGBT取り組み事例

日本や世界のLGBTに関する取り組みをご紹介させてもらいました。
LGBTを取り巻く環境は大幅に変わってきているものの、国内外ともにいじめや差別、国によっては処刑対象にされてしまう現実があり、まだまだ改善の余地があることは明らかです。
性自認や性的指向は生まれながらのもので、自らの意思で変更できるものではありません。
そうした先天的なことで差別・区別されてしまうのは平等ではないし、とても悲しいことです。
ここまで読んでいいただきどうもありがとうございました。

LGBTを含む全ての人たちが暮らしやすくなることを願って。