恋愛や性的な感情を抱かないセクシュアリティはさまざま。その中の1つ、リスロマンティックとは、恋愛感情は持つけど両思いを望まないセクシュアリティのことをいいます。LGBTQやアセクシュアル、アロマンティックと比べると、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。

理解されないことから悩みを抱える当事者もいますが、実は珍しくないのです。最近では、リスロマンティックについて紹介している本や論文、診断なども増えてきています。

どのようなセクシュアリティなのか、一緒に見ていきましょう。

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リスロマンティックとは

リスロマンティック(Lithromantic)は、アコイロマンティック(Akoiromantic)やアプロマンティック(Apromantic)とも呼ばれるセクシュアリティを指します。大きな特徴は、恋愛感情はあるが、相手に恋愛感情を向けられることを望まないこと。つまり、恋愛指向が大きく関わるセクシュアリティなのです。

ここで注意してほしいのが、恋愛指向と性的指向が異なるという点です。恋愛指向とは、どんな相手に恋愛感情を抱くかを表します。一方で、性的指向とは、どんな相手に性的な感情や欲求を抱くか、さらに文脈によっては恋愛感情を含む場合もあります。

なので、リスロマンティックは恋愛感情を向けられることを望みませんが、性的な感情を向けられることに嫌悪感を抱かないケースもあるのです。そして、必ずしも「恋愛感情を向けられたくない=結婚しない、付き合わない」わけではないことも覚えておきましょう。このことに関しては、後ほど詳しく説明します。

リスロマンティックの語源

リスロマンティックの語源
「リスロマンティック」は、ギリシア語で「石」を意味する「Lithos」と「Romantic(ロマンティック)」の2つを組み合わせた言葉です。ここでいう「石」とは、相手に対して感情がなくなる、つまり石のように無感情になり得るという意味合いから派生しています。

一説によると、この言葉は2016年、あるTumblrユーザーが自身のことを「Lithos(石)」と名乗っていたことから始まると言われていますが、それよりも前につくられた言葉だと主張する人もいるため、真相は明らかではありません。

参考:Love Panky, 「Lithromantic: What It Is, What Makes One & 15 Signs You May Be One

リスセクシュアルとは

リスロマンティックと一緒に語られるのがリスセクシュアル(Lithsexual)です。リスロマンティックは恋愛指向を指す一方で、リスセクシュアルは性的指向を指します。つまり、他者に対して性的な感情を抱くことはあるが、同じ感情を自分に向けられると嫌悪感を抱くセクシュアリティのことです。

性的な感情を持たれたくないけど、恋愛感情を向けられることに違和感を抱かない人、恋愛・性的な感情共に向けられるのが不快だと感じる人など、人によってあり方はさまざまです。

リスロマンティックの特徴

リスロマンティックの言葉の意味について触れたところで、さらに深く知っていきましょう。今から紹介するリスロマンティックの特徴は、必ずしも全ての当事者に当てはまるわけではありません。一例として参考にしてください。

1.恋愛に嫌悪感がある

リスロマンティック当事者の中には、恋愛という概念そのものに嫌悪感を抱く人もいます。家族や友達など、他人の持つ関係性に対しては嫌悪感を抱かないものの、自身と恋愛が結びつくと遠ざける特徴があります。

2.恋愛に恐れを抱いている

過去のトラウマや嫌な関係を経験したことで、恋愛関係を築くことに恐れを抱く人もいます。ただし、必ずしも恐怖心からリスロマンティックを自認しているのではないことも理解する必要があります。

むしろ、多くの当事者が恋愛関係がなくても幸せだと感じているのです。

3.プラトニックな関係を望んでいる

「パートナーを持つ=肉体的な関係を持つ」ではないと考え、プラトニックな関係を望みます。パートナーに対して性的な感情を持つ場合もありますが、あくまで魅力の範囲内に留まり、それ以上のことを求めようとはしません。

また、パートナー以外の人にも性的な感情を抱くことがあっても、それが不誠実なのではなく、人間の本能として捉えている当事者も多くいます。

4.身体的な接触に嫌悪感がある

ここでいう身体的な接触とは、性的な接触ではなく、愛情表現のことを言います。つまり、ハグや手を繋ぐ、触れ合うなど、相手から恋愛感情が向いた行為に嫌悪感を抱きます。

5.恋愛の話になると興味が薄れる

相手とプラトニックな関係を築いていたとしても、恋愛感情をほのめかすような会話や行為が現れると、相手への興味がなくなります。押しが強く感じてしまう場合もあり、特別な感情を寄せる人に対して距離を置くこともあるのです。

6.二次元のキャラクターが好き

多くの当事者に当てはまるわけではありませんが、映画や小説に登場する架空のキャラクターに魅力を感じる人もいます。現実に存在しないキャラクターに恋愛感情を抱いても、同じように返ってくる可能性はないため、安心していられるのです。

7.どんな形の関係性も築きたくない

恋愛だけでなく、性的な関係や交友関係など、全ての関係性を持とうとしません。自分と他人を切り離して考える傾向にあります。

8.恋愛感情を秘密にしておきたい

好きな人ができると友達に伝えるという人は珍しくありません。一方で、その感情を自分以外の誰にも話したくないという人もいます。一時的なものではなく、一生涯相手にも知られたくないと思うことが特徴です。

9.性的な感情を最初に抱く

特別な感情を表に出す必要のない性的な関係のみを理想とする当事者もいます。自分の感情をオープンにすることなく欲を満たすことができる一方、肉体的な関係を持つことで相手から恋愛感情を向けられる可能性もあります。

10.関係を築かなくても孤独を感じない

独身の期間が長いほど誰かを求めたり、好きな人はいないけど誰かを好きになりたかったり、自分以外の誰かとつながりを持ちたい人は多くいます。

反対に、多くのリスロマンティック当事者は1人でも孤独を感じることがありません。むしろ、1人でいることに安心感を覚えることもあるのです。

11.理由はわからない

なぜリスロマンティックであるかを説明できない当事者もいます。一般的に世の中では、恋愛感情を抱くことに対して疑問を抱かない一方で、恋愛感情を求めない・抱かない人に対しては珍しいと考えるケースが多いでしょう。ですが、なぜそう思うのでしょうか。

それは、恋愛することが当たり前だという社会の決めつけに過ぎず、恋愛関係を築かないという概念がないからです。さまざまな形がある中で、結婚や交際をしている人、恋愛感情がある人の方が優位であるとは言えません。

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リスロマンティックと蛙化現象の違い

「蛙化現象とどう違うの?」リスロマンティックについて知ったところで、このような疑問が出てくる人もいるでしょう。蛙化現象とは、素敵だと思っていた人に対して嫌悪感を抱くことです。例えば、「好きになった人が実は嘘つきだった」「交際していた人に浮気されたことで気持ちが冷めた」など、相手に対して気持ちがなくなる原因はさまざまにあります。

蛙化現象は、恋愛感情を向けられることで嫌悪感を抱くリスロマンティックとは異なり、恋愛指向だけでなくあらゆる理由が考えられるのです。

リスロマンティックの結婚

リスロマンティックの結婚
リスロマンティックだから交際や結婚はしないと思う人もいるかもしれません。しかし、必ずしもそうであるとは限らないのです。あくまで、恋愛指向を表すセクシュアリティであり、どのような関係性を育むのかは個人の自由。

人によっては、制度面や経済面から結婚する場合もあります。また、自身のセクシュアリティについて理解しているパートナーを持つことも。個々によってあり方が異なることを覚えておきましょう。

リスロマンティックと誤解

一般的な誤解として、リスロマンティックの人々は人間関係を望まないと考えられがちです。しかし、実際には充実した人間関係を築くことができますが、相思相愛な恋愛関係とは異なる形を望んでいるため、誤解が生じることがあります。

また、リスロマンティックとアロマンティックを混同することもよくあります。これらの違いは、恋愛的魅力への感受性にあります。アロマンティックの人々は恋愛的な魅力を全く感じないのに対し、リスロマンティックの人々は恋愛的な魅力を感じますが、相手からの恋愛的な関心を望まないのです。

さらに、リスロマンティックの人々が人間関係や親密さを恐れているという誤解もありますが、これも正しくありません。親密な関係に対する恐怖は、恋愛的指向に関係なく誰にでも起こり得ることです。リスロマンティックであることは、恐怖というよりは、どのように恋愛的な感情を経験し、望むかということに関係しています。

リスロマンティックの課題

リスロマンティックに馴染みがない人々は、リスロマンティックの考え方を理解するのが難しいと感じることがあります。この理解の難しさは、リスロマンティックの人々の感情や経験を否定してしまうことに繋がり、リスロマンティックの人々に孤立感を与える可能性があります。

多くの社会では、相互の愛情を基盤としたロマンティックな恋愛関係が一般的で、これに従わないと外的、内的な圧力を感じることがあります。これは、リスロマンティックの人々にとってストレスの原因となり、自分のアイデンティティを見失ったり、自信を失ったりすることに繋がることがあります。

さらに、リスロマンティックの人々は、自分たちの存在がメディアであまり取り上げられないことに悩んでいます。メディアでは、相互愛をテーマにしたストーリーが主流であり、リスロマンティックな人々の経験を反映する内容は少ないです。この表現の不足がリスロマンティックな人々の孤立感や排除感を深めています。

アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム

恋愛感情を抱かないアロマンティックや、性的な感情を抱かないアセクシュアル、その他周辺のセクシュアリティをまとめて「アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム」または「Aro/Ace(アロ/エース)」と言います。それぞれのセクシュアリティを紹介します。

アセクシュアル

アセクシュアル(Asexual)とは「無性愛者」とも呼ばれ、性的な感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのこと。

関連記事:「アセクシュアル(Aセクシュアル)とは?他人に対して性的欲求がないセクシャリティ

アロマンティック

アロマンティック(Aromantic)とは、恋愛感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのこと。

関連記事:「恋愛感情のないセクシュアリティ?アロマンティックとアセクシュアルの違い

デミセクシュアル

デミセクシュアル(Demisexual)とは、深い絆や信頼関係を築いた人にのみ、ごく稀に性的な感情を抱くセクシュアリティのこと。

関連記事:「ノンセクシュアルのゲイがデミセクシュアルを自覚した経験談

デミロマンティック

デミロマンティック(Demiromantic)とは、深い絆や信頼関係を築いた人にのみ、ごく稀に恋愛感情を抱くセクシュアリティのこと。

関連記事「デミロマンティックは信頼関係や人間関係の深さが重要、デミロマンティックあるあるとは?

グレーセクシュアル

グレイセクシュアル(Graysexual)とは、アロマンティックとアセクシュアルの間に位置するセクシュアリティのこと。性的な感情を稀にしか抱いたことのない人、性的な感情を抱くのかわからない人などがいます。

関連記事「グレーセクシュアルとは?滅多に性的欲求を感じないセクシュアリティ

グレーロマンティック

グレイロマンティック(Grayromantic)とは、グレイセクシュアルと同様、アロマンティックとアセクシュアルの間に位置するセクシュアリティのこと。恋愛感情を稀にしか抱いたことのない人、性的な感情を抱くのかわからない人などがいます。

ノンセクシュアル

ノンセクシュアル(Nonsexual)とは「非性愛者」とも呼ばれ、他者に対して恋愛感情は抱くが、性的な感情を抱かないセクシュアリティのことをいいます。

関連記事:「苦しい!ノンセクシュアルのゲイが感じる8つの苦悩!

リスロマンティックに関する動画

さらにリスロマンティックについて知りたい人に向けて、当事者の意見や経験を発信している動画を紹介します。

【リスロマンティック】私の体験談と自認きっかけ【LGBTQ】

自身のセクシュアリティについて話しているS.ちゃんねる。「思わせぶりな態度だと思われてしまうことがある」「釣った魚に餌やらない状態になりやすい」など、リスロマンティックあるあるを紹介しています。

さらに、セクシュアリティを自認したきっかけについても話しているため、リスロマンティックかどうか悩んでいる人にはヒントになるかもしれません。

【リスロマンティック】グレイかアロマで悩む知識豊富なAセクさんと対談!新たな知見が得られるかも…!?

アセクシャル、レズビアン、バイセクシュアルの3人から構成されるモノクロセクマイCHでは、それぞれの視点から恋愛やセクシュアリティについて述べているのが特徴。LGBTQ当事者の交流会も開催したり、アセクシャルのコミュニティサイトAce Flagで日記を更新したり、さまざまな活動を行なっています。

こちらの動画では、リスロマンティックを自認して間もない視聴者の疑問に答えています。

#01 リスロマンティック ぴょんちゃん篇 (1/5) レズビアン対談

tomo channel #アセクシャルでは、Ace(アセクシュアル関連)やLGBTQに関してのさまざまな情報を配信。こちらの動画では、リスロマンティック当事者のゲストと対談形式でセクシュアリティについて話しています。

対談は6回に渡って行われ、リスロマンティックについて詳しく知りたい人、知識を深めたい人におすすめです。プレイリストから対談の一覧を見ることができます。

【まとめ】リスロマンティックとは?両思いになりたいわけではないセクシュアリティ

恋愛にはさまざまな形があります。社会では恋愛することが一般的だとされていますが、そうでない人が存在することを認識することも求められます。

単語を耳にする人は少ないかもしれませんが、リスロマンティックは1つのセクシュアリティであり、異常なものではありません。性のあり方はグラデーションと言うように、リスロマンティックもその中の一部なのです。