ゲイとは、男性の同性愛者のことをいいます。マツコデラックスやkemioなど、自身のセクシュアリティをカミングアウトする芸能人が増えてきました。影響力のある人が公言することで、より多くの人が自分らしく生きる社会につながります。そこで、今回はLGBTQのなかの「G」であるゲイに焦点を置き、日本・海外のカミングアウトしている有名人を紹介します。
ゲイについて
ゲイ(Gay)は、日本語で「男性同性愛者」と直訳され、男性に対して恋愛感情や性的欲求を抱くセクシュアリティのことをいいます。自分の性をどのように自認しているかを表す「性自認」は男性で、好きになる性を表す「性的指向」も男性です。つまり、男性として男性を好きになることになります。
もともと「ゲイ」という言葉の由来は12世紀古フランス語の「gai」からきていて、英語圏では「陽気」「気まま」「幸せ」といった意味合いで使われていたそうです。そして17世紀後半、不品行という連想が生まれ始めた時代を境に、性的な意味合いが強くなっていきます。
本来の意味である「気まま」から派生し、道徳的な制約に縛られない概念として広まることで「ゲイ女」は「売春婦」、「ゲイ男」は「女たらしな男」、「ゲイ・ハウス」は「売春宿」という意味をもつようになりました。男性同性愛者が自由な生き方を主張する単語として使われていたという説はあるものの、20世紀中頃まではホモセクシュアルの文脈で語られることはほとんどなかったとされています。
そこから小説や映画、演劇を通して、意味が徐々に変容し始めます。例えば、ガートルード・スタイ(Gertrude Stein)の小説『ミス・ファーとミス・スキーン』(1922年)やハワード・ホースク(Howard Hawks)による映画『Bringing Up Baby』(1938年)では、「ゲイ」という言葉が初めてホモセクシュアルな意味合いで使われました。元来の意味をたどるとあまり喜ばしいとは思えませんが、歴史を辿っていくと今と過去ではまったく異なる使い方がされていることがわかります。
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「オネエ」は使ってはいけない言葉?
テレビやメディアではしばしばオネエタレントが登場し、「ゲイ=オネエ」と混合して考える人もいます。ですが、明確には言葉のもつニュアンスや意味合いが異なるのです。知る人は「オネエ」という言葉が蔑称であると認識しますが、文脈によってはフレンドリーとなるし差別的にもなります。極端に「使っちゃダメな言葉」として認識するより、言葉のルーツや現在の使われ方を理解することが大切なのです。
「オネエ」という言葉の元をたどると、2006年から放送されたバラエティ番組『おネエ☆MANS!』で普及したといわれています。いわゆるオネエキャラとして売り出すタレントが番組出演し、性的マイノリティの存在がクローズアップされるようになりました。と同時に「女性っぽい男性=ゲイ」から派生し「ゲイ=オネエ」と一括りにされることが増えたのです。
一般的に女性らしい服装や言葉遣い、ふるまいをする男性や元男性のことを「オネエ」と定義されていますが、当てはまっているすべての人がそうであるとは限りません。女性らしい男性やトランスジェンダー女性のなかでも、オネエと呼ばれることに嫌悪感を抱く人もいっぱいいます。一方、当事者間で「オネエ」と呼び合うことでフレンドリーな接し方をすることもあります。
ここで注意したいのは、当事者が使っている言葉でも第三者が使うことでニュアンスが変わることがあるということです。言葉を変えて、本人が笑いのネタとして「デブ」と自称することと、周りが「あなたはデブ」と言うのとでは、かなり受け取り方が変わります。なので「オネエ=使っちゃいけない言葉」や「当事者が使っている言葉=第三者も使える」のように、白黒はっきりつけようとするのではなく、相手との関係性や文脈、その場の雰囲気などで、単語のもつニュアンスが変化することを覚えておきましょう。
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さまざまなゲイのあり方
ゲイと一緒くたにしても、さまざまなセクシュアリティのあり方が存在します。共通の言葉の意味は存在しますが、そのなかでも当事者それぞれによって定義が異なる可能性があることが前提です。例えば、以下のようなゲイの人がいます
・過去に女性と交際したことがあるが、今は男性に惹かれている
・見た目が女性っぽい男性が好き
・男性しか好きになったこととがない
・精神的に満たされるのは男性の方が多い
・幼少期から男性に惹かれる傾向があった
・タチ※の男性にしか惹かれない
・女性と付き合ったことがあるが、あまりしっくりこなかった
※タチとは、恋愛関係や性的行為において能動的であること、つまり攻めること。ほかにも、受動的であることを「ネコ」、能動的・受動的になり得る「リバ」、ポジションを変えない「バリ」という言葉がある。「バリタチ」「バリネコ」のような使い方をする。
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ガチムチとは
当事者間では、さまざまなゲイ(主に見た目)を形容する言葉が存在します。よく耳にする「ガチムチ」は、ガッチリとムッチリが合わさった体型のことを表し、筋肉の上に少し脂肪が乗っているのが特徴です。
ほかにも、細身のマッチョ「スジキン」、派手でない服装やずんぐりむっくりとした体型など、素朴な魅力をもつ「イモ系」、平日は旅行やパーティーを派手に行ったり、容姿端麗な友達が多かったり、いわゆるキラキラとした世界で生きる「シャイニーゲイ」、筋肉が目立った「マッチョ」など、さまざまなゲイ用語が存在します。
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ゲイにまつわる誤解
「ゲイには女性っぽい人が多いの?」「性感染症にかかりやすい?」など、ゲイにまつわる誤った認識がいまだに存在します。悪意なく誤解や偏見を突きつけることで、知らぬ間に当事者を傷つけている可能性もあります。正しくセクシュアリティを認識するべく、ここではよくある誤解を紹介します。
性感染症はゲイだけがかかるもの
性感染症はゲイを含むLGBTQに限った話ではありません。誰にでも感染するリスクがあり、異性愛者のなかにも感染者はいます。セクシュアリティに関係なくコンドームなしで性行為をすると、感染のリスクは高まりますし、誰もが安全なやり方を知るべきなのです。もし不安な人は、定期検診に行くこともおすすめします。
女性っぽい男性はゲイ
セクシュアリティと性表現を直結して考えることはできません。つまり、女性らしい話し方や服装、ふるまいをしている男性をゲイだと決めつけることはできないのです。もちろん女性らしいゲイの人もいますが、「ゲイだから」という理由にはなり得ません。異性愛者のなかには、男性でメイクをしたり、女性でパンツスタイルを好んだり、当たり前のようにさまざまな人がいます。同様に、ゲイのなかでも自分の表現方法や見せ方はさまざまであり、同じタイプの人たちだけが集まっているということはありえないのです。
おしゃれな人が多い
ゲイ男性に対する印象が単一化されていることが問題点として挙げられます。その例の1つとして、服装やメイクなど、外見の側面です。「かわいらしい人=ゲイ」という印象が広まることで、ゲイ男性へのステレオタイプが生まれてしまうのです。さらに、当事者までもがその枠に入ろうと圧力を感じてしまうことも考えられます。実際に自分がどのように見られているかを意識する人は多く、それにより精神的に悪影響を与えることも。
ですが、ゲイと一枚岩にいってもさまざまな人がいることを忘れてはなりません。フェミニンなファッションを楽しむ人、男性らしい服装を好む人、ファションに興味のない人など、異性愛者と同じように個々により異なります。
常に同性を狙っている
ゲイは同性なら誰とでも肉体的な関係を結びたいと誤解している人が多くいます。友達や知り合いだとしても「狙われているかも……」といった声を耳にします。実際、当事者のなかではそのことを恐れ、友人間でも一緒に温泉や旅行などに行くことを躊躇する場合もあるようです。
ですが、異性愛者と同様、その人にタイプや条件があり、異性誰とでも関係に進展したいと思う人は0に近いのではないでしょうか。さらに、友情と恋愛・性的な関係とは別にして考える人がほとんどであり、そもそも友達に対して友達以上の感情を抱くことはないのです。
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ゲイを公表した有名人【日本編】
ここからは、本題のゲイを公言している日本の有名人を紹介します。
マツコ・デラックス
タレントのマツコ・デラックスは、ゲイ雑誌『Badi』の記者・編集者を務めていたことがあります。退職後、個性的なビジュアルやトーク力が認められ、自身の執筆活動、ラジオ出演、そしてテレビ出演へと広がったそうです。テレビ番組『マツコ&有吉かりそめ天国』では、LGBTQが語られるようになったことについて「自分は超特殊な人間なので、コメントはしない」とスタンスを示しました。それは、影響力のある身であるからこそ、言葉が独り歩きしてしまう可能性を懸念したうえでの発言なのかもしれません。
ロバート・キャンベル
日本文学者・東京大学名誉教授のロバート・キャンベルは、自身のブログ「『ここにいるよ』と言えない社会」で、ゲイであることをカミングアウトしました。議員による問題発言「LGBTQは生産性がないので支援に値しない」や「性的指向や性自認は趣味みたいなもの」に対し、憤りの念を示し「私自身、20年近く同性である一人のパートナーと日々を共にして来た経験から言うと……」とセクシュアリティを明らかにしました。
その後自身が出演するテレビ番組で、カミングアウトしたことによって空気が少し軽くなったと答えていました。と同時に、セクシュアルマイノリティが抱えるカミングアウトの問題を指摘。LGBTQのなかでも違う性格をもち、カミングアウトしなくていいと思う人がいることも加えました。
ぺえ
タレントのぺえは、自身のインスタグラムの投稿で「#私が恋愛対象に違和感を感じ始めたのは小学5年生の頃 #それまでは女性が好きでした #ハッキリと目覚めたのは中学2年の夏」と自身のセクシュアリティについて綴りました。そして、好きになる人が女性ではなく男性であることを知ることで悲しませたくないとの思いから、両親にはカミングアウトできなかったといいます。
そして2017年、実家の山梨に里帰りした際、両親にカミングアウトしました。その様子はテレビ番組でも密着され、ぺえのセクシュアリティを聞いた母親は「複雑だね、やっぱり」と涙。父親は「あんまり聞きたくない」と正直な心境を明かしました。しかし、父親は「慎平(本名)が幸せであればうちら夫婦も幸せ」と述べ、ぺえ自身が素直に生きていくことの後押しをしました。
美輪明宏
歌手、タレント、俳優、演出家として幅広く活動する美輪明宏は、ゲイの先駆者として同性愛者の存在を日本に広めてきました。今よりもはるかにLGBTQが浸透していない時代で、同性愛者であることで自殺したり差別を向けられる人がいるなか、自ら同性愛者であることを公にしていました。
カミングアウトすることで世間からの人気は落ちたものの、自身の曲が大ヒットするタイミングで公の場に出るようになったといいます。性別という概念を超えた自身のスタイルで、差別と闘い続けた人です。
kemio
Youtuber、モデル、タレント、歌手として、多岐にわたって活躍する日本のギャルアイコン的存在のkemio。自身がゲイであることを正式にカミングアウトしたのは、自身のエッセイ本『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』が出版された2019年。
本では「初めてお話しするんだけど、私の恋愛対象は男の人。昔は彼女がいたこともあって、そもそも好きな人の性別を考えたことがあんまりなかった。だって、人を愛することには変わりないから。ちな、今ウチはゲイ」と綴られています。その後、Twitter上で改めて自身のセクシュアリティを公言し、その姿をみたファンからは賞賛の声があがっていました。
橋口亮輔
映画監督であり脚本家の橋口亮輔は『夕辺の秘密』『ぐるりのこと。』など、数々の有名な映画を誕生させたことで知られています。with newsのインタビュー記事で、初めて同性を好きになったのは小学生の頃だと語ります。
同性愛者であることに気づいてからは、ゲイが「変態」「ホモ」「オカマ」などと揶揄されていることで自分という存在に悩んだといいます。過去の経験が映画となることもあり、同性愛者も当たり前に存在し、ひどい存在ではないことを伝え続けています。
伏見憲明
評論家、小説家の伏見章明は、自身の初となる本『プライベート・ゲイ・ライフ』でゲイであることをカミングアウトしました。その後も日本におけるLGBTQを発信。雑誌『クィア・ジャパン』の編集長を務めることに。
そのほか『クィア・パラダイス 「性」の迷宮へようこそ』、『ゲイという「経験」』、『新宿二丁目』など、LGBTQに関する多数の本を出版。現在は日本の二丁目やゲイの歴史を研究しながら、新宿二丁目にあるゲイバー「A Day In The Life」を経営しています。
ミッツ・マングローブ
女装家として活躍するミッツ・マングローブ。父親はフリーアナウンサーの徳光和夫として知られています。女装する人にはゲイだけでなく異性愛者の人も存在し、自身は男性として男性が好きだと公言しています。
インタビュー記事では、誰もがもつ“好き”や“依存”が女装に当てはまると語ります。さらに「粋か野暮か」を重視する母親の前では、母親の嫌いな女性のタイプでない限り、女性らしい発言をしてもよかったといいます。その頃の影響が今の女装を形取ったそうです。
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ゲイを公表した有名人【海外編】
次に、ゲイを公言している海外の有名人を紹介します。
マット・ボマー
テレビドラマ『トゥルー・コーリング』のルーク、『ホワイトカラー』のニール・キャフリー役で知られているアメリカの俳優、マット・ボマー(Matt Bomer)。2011年にパブリシストのサイモン・ホールズと結婚しました。2人の間には3人の子どもがいます。
今まで自分のセクシュアリティを公言する必要性を感じなかったというマットですが、ある日軍に務めている人にゲイであることを告白したら、同じように悩んでいる人の助けになっていると励ましの言葉をもらったそうです。そのことがきっかけで、ゲイであることをカミングアウトしました。そのときの動画はこちらから見れます。
トロイ・シヴァン
オーストラリアのシンガーソングライター、俳優、Youtuberのトロイ・シヴァン(Troye Sivan)は、12歳からユーチューバーとして活動をスタート。18歳のころ、自身のYoutubeでゲイであることをカミングアウトしました。ミュージックビデオでは男性2人の恋愛を描いていたり、ライブに来たファンのカミングアウトをステージ上から手伝ったり、LGBTQコミュニティに積極的に働きかけているアーティストです。
ルーク・エヴァンズ
ルーク・エヴァンズ(Luke Evans)は、ウェールズの俳優として活動。映画『美女と野獣』のガストン役として知られています。デビュー当初からカミングアウトしたルークは、過去に「セクシュアリティを隠している」、「ゲイであることを恥じている」と報じられました。
そのことに対し「キャリアは公にさらされているし、写真も撮られている。ゲイだとカミングアウトしてから、マスコミがそれを隠していたと報じるのはおかしなことだ」と否定。自分の人生を恥じたことはないと加えました。
ティム・クック
Appleの最高経営責任者である、ティモシー・ドナルド・クック(Timothy Donald Cook)、短縮名ティム・クック(Tim Cook)。ブルームバーグ・ビジネスウィークで掲載したエッセイで、ゲイであることを告白しました。自身のセクシュアリティを公にすることで、誰かの助けになるかもしれないと述べ、世界中から感謝のメッセージが寄せられました。
マーク・ジェイコブズ
ファッションブランド「MARC JACOBS」の創立者であるデザイナー、マーク・ジェイコブズ(Marc Jacobs)。祖母からは自分の夢を追求し自由に生きるように教えられたそう。ゲイであることをオープンにし、2019年キャンドル職人のチャーリー・デフランチェスコ(Charly Defrancesco)と結婚。Princeの「Kiss」に合わせてフラッシュモブをし、プロポーズをしました。
エルトン・ジョン
イギリスのミュージシャン、シンガーソングライターであるエルトン・ジョン(Elton John)は、「僕の歌は君の歌」「クロコダイル・ロック」「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」など、数々の傑作を世に残してきました。
大人になるまでゲイであることをカミングできなかったエルトンは、今よりも不寛容な時代で隠すことしかできなかったとか。マネージャーの男性と初めて交際したことをきっかけに、ゲイカルチャーを受け入れるようになったといいます。イギリスで同性カップルの婚姻を認めるシビル・パートナーシップ法が成立したタイミングで、パートナーのデヴィッド・ファーニッシュ(David Furnish)と結婚しました。
ルパート・エヴェレット
映画『アナザー・カントリー』に出演したことで有名なイギリスの俳優、ルパール・エヴィレット(Rupert Everett)。1989年に小説『哀れ、ダーリンは娼夫?』で、自身がゲイであることをカミングアウトしました。カミングアウトしたものの、当時ゲイ俳優は2流として扱われていたことから、もらえなかった役があったり、製作会社により3〜4本の作品を断られたり、差別の経験を明かします。それでも自身の考えを訴え続けています。
ジョージ・マイケル
53歳という若さで亡くなったイギリスのシンガーソングライター、ジョージ・マイケル(George Michael)。ワム!の一員としてデビューし解散後、ソロ活動を続けていました。1998年、CNNのインタビューでゲイであることを告白し、男性と交際していることを明らかにしました。さまざまな事件で世間を騒がせていた人物でしたが、当時のLGBTQコミュニティーを励ましたことは間違いないでしょう。
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まとめ
日本でゲイをカミングアウトする芸能人は増えた印象ですが、まだまだ公にしたくてもできない人も多いでしょう。少しでも多くのLGBTQ当事者が自分らしく生きられる社会に近づくため、影響力のある人によるカミングアウトは大きな意味をもちます。セクシュアルマイノリティの数は決して少なくはありません。当事者だけでなく、周りにいる人たちも自分ごととして考えられる社会になることを願っています。