昨今、トランスジェンダーという言葉を耳にする機会が増えました。2019年にはWHO(世界保健機関)がトランスジェンダーを「精神障害」の分類から除外し、「性同一性障害」ではなく「性の健康に関連する状態」の「性別不合」に変更するなど、世界的にトランスジェンダーに関する捉え方が変わってきています。

また、最近ではテレビや映画などにも、トランスジェンダーのハリウッド俳優や芸能人などが出演し、徐々に認知が広がってきています。

本記事ではトランス男性の筆者が、トランスジェンダーとは何かについてわかりやすく解説。改めて言葉の意味を知ると同時に、当事者の直面する問題や課題についても取り上げたいと思います。

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トランスジェンダーとは

トランスジェンダーとは、自身の性別をどう認識しているかという感覚が、出生時に考えられた性別と異なる人のことをいいます。性同一性という言葉を用いて表されることもあります。

性同一性とは、ジェンダーアイデンティティと表すことができ、自身のジェンダーに関して「私はこれだ」という確信を示すため、トランスジェンダー当事者・非当事者に関わらず、誰もが持っているものです。

トランスジェンダーの場合は、性同一性、つまり自分自身が誰であるかについての生来の知識が、生まれたときに最初に期待されていたものとは異なります。そのため、異なる性別を割り当てられたことで、性別に違和感が生じます。

トランスジェンダーに当てはまらないシスジェンダーと呼ばれる人たちは、出生時の性別と現在生きる性が一致しているため、性同一性について考える機会は少ないと考えられます。さらに、日本ではトランスジェンダーの割合が人口の1%以下である調査結果※も出されているため、トランスジェンダーの置かれている問題がなかなか表で語られないという現状があります。

参考:「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート(2019)」、「LGBTQ実態調査(2020)」

関連記事「トランスジェンダーの悩み解消に役立つ記事まとめ~FtM&MtF向け

トランスジェンダー男性

トランスジェンダー男性とは、出生時に法的に登録された性別が女性で、現在は男性という性別を生きている人のことです。Female to Maleの頭文字をとって、FtMと表記されることもあります。

関連記事「FtMの悩みとは?トランスジェンダー当事者としての経験を紹介」

トランスジェンダー女性

トランスジェンダー女性とは、出生時に法的に登録された性別が男性で、現在は女性という性別を生きている人のことです。Male to Femaleの頭文字をとって、MtFと表記されることもあります。

関連記事「【トランスジェンダーカップル】FtMの私が、MtFの彼女と出会うまで」

Xジェンダー

Xジェンダーとは、出生時に法的に登録された性別とは異なり、現在は男性/女性のいずれも該当しない生き方をしている人のことです。

 出生時に法的に登録された性別が男性で、現在はXジェンダーとして生きている人をMtX、出生時に法的に登録された性別が女性で、現在はXジェンダーとして生きている人をFtXと表記することもあります。

 関連記事「何がきっかけだったの?自分がXジェンダーだと気づいた理由」 

トランスジェンダーは男らしさ、女らしさの問題?

 トランスジェンダーであることは、男らしさ、女らしさに嫌悪感があると認識されることがありますが、正確にいうと、他者から割り当てられた性別の認識が、自己認識と異なることで嫌悪感を示す人が多いです。

ミスジェンダリング

例えば、男性として過ごしている人に対して、女性として接することは、本人のジェンダーアイデンティティを否定していることに繋がります。これは「ミスジェンダリング」と呼ばれる差別行為です。

自分の名前があるにもかかわらず、それを無視されて他の名前で呼ばれ続けることと似ているかもしれません。 

トランスジェンダー男性であるからといって、いわゆる女性らしいものが嫌いというわけでもありませんし、女性しか好きにならないというわけでもありません。中には、トランスジェンダー男性で男性が恋愛対象の人もいます。男らしさ、女らしさといった性別による規範は、トランスジェンダーであることと直接関わり合っているわけではないのです。

関連記事:「ミスジェンダリングとは? 自分が相手をミスジェンダリングしないためにできる配慮とは」

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トランスジェンダーと◯◯の違い

性別に違和感を持つトランスジェンダーの中には、身体的な治療を必要とする人もいます。ここからは、性同一性障害や性別違和、性別不合について解説します。

性同一性障害との違い

トランスジェンダーで身体的な治療を望む人の場合、医学的な診断名において「性同一性障害」(Gender Identity Disorder:GID)と呼ばれてきました。具体的には「出生時に割り当てられた性別とは異なる性の自己意識を持ち、自らの身体的性別に持続的な違和感を覚える状態」をいいます。

男性として過ごしているものの、女性の体で生まれたトランスジェンダー男性や、女性として過ごしているものの、男性の体で生まれたトランスジェンダー女性など、身体的な違和感を抱える人たちが、本来あるべき性別に近づけていく治療となります。

しかし、治療を受けられる人は以下5つの条件を満たす必要があり、対象となる人のみが戸籍上の性別を変更することができます。 

・18歳以上であること

・現に婚姻をしていないこと

・現に未成年の子がいないこと

・生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること

・その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

参考:性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

「性別違和」「性別不合」との違い

「性同一性障害」という名称において、トランスジェンダー当事者のアイデンティティを障害として表すことが問題視されるようになりました。

そのため、診断基準が改まり、アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)の2013年の第5版(DSM-5)では、「性別違和(Gender Dysphoria, GD)」と呼ばれるようになりました。

 また、WHOのICD-11では「性別不合(Gender Incongruence)」という名称が用いられています。いずれもトランスジェンダーへの偏見をなくすことと、必要な医療ケアを届けやすくすることを両立するための分類だといえます。

 関連記事「【解説】性同一性障害から性別違和に呼び方が変わることについて」

クロスドレッサーとの違い

 クロスドレッサーとは、異性装をする人のことをいいます。トランスヴェスタイトと呼ばれることもありますが、「倒錯」というネガティブなイメージを持つ人もいるため、クロスドレッサーという言葉が使われています。

クロスドレッサーはトランスジェンダーと異なり、生まれた時に法的に登録された性別と今生きる性別は同じですが、服装、振る舞い、口調といった性表現に違和感を持っています。つまり、社会から求められる女らしさや男らしさに、性表現を当てはめない人たちのことをいいます。

日本では、女装家としてミッツ・マングローブやマツコ・デラックスなどが知られています。

関連記事「【MtF / FtM】トランスジェンダーの性別適合手術を解説します!」

トランスジェンダーのリアルな姿

トランスジェンダーと一言にいっても、その生き方は多様です。トランスジェンダーであることにプライドを持って生きていく人もいれば、なるべく人に知られたくない個人情報として捉えている人もいます。自分が男性である・女性であるとハッキリ自認している人もいれば、曖昧なまま生きていく人もいます。同性を好きになる人、異性を好きになる人、性愛とは無縁な人など、性的指向も様々です。

IRISでは、LGBTs当事者が中心に記事を執筆しています。トランスジェンダーのリアルな姿を知るには、参考になるかもしれません。

 関連記事「【2020年10月最新】意外といるんです。トランスジェンダー(FtM/MtF)YouTuberまとめ」

まとめ

本記事では、トランスジェンダーに関する基本情報をまとめました。トランスジェンダーという言葉ができる前から、性別に違和感を持つ人は昔から存在し、そこには長い歴史があります。時代とともに風潮も変わり、社会がそれに合わせることが求められています。トランスジェンダーという存在を知ることで、少しでも当事者が生きやすい社会になることを願っています。