どうも、空衣です。FtMでパンセクシュアルです。
昨今LGBTsに関連するニュースが増えてきたと感じる機会が多くなりました。2019年の紅白歌合戦ではMISIAさんがLGBTのシンボルとされるレインボーフラッグを振りました。
また2021年には、LGBTsへの理不尽な差別を禁止するための一歩として、通称LGBT法案が国会に提出されました。
一方で、LGBTの中でも日常生活においては「T(トランスジェンダー)」の存在はとりわけ認知度が低いように感じます。周囲の人も、外見や手続き上の移行期間でなければ、すぐにはトランスジェンダーだとわからないため、積極的にカミングアウトをする人でない限り、なかなか理解が進まないという側面もあるかと思います。
リアルに生きているトランスジェンダーの物語は、まだまだきちんと認知が広がっておらず、個人的にはフィクションであっても十分に社会的な価値があると考えています。
そこで今回は、最近話題となったトランスジェンダー男性(FtM)の漫画や、注目したい海外の作品などご紹介していきます。結構な分量になりそうですが、休日は一気見するもの良いのではないでしょうか。
トランスジェンダー男性が主人公の漫画をご紹介
にくをはぐ
2019年 日本
遠田おと作。「ジャンプ+」上で2019年暮れに読み切り掲載されて話題になりました。主人公の千秋、父親、友人、といった3人の男性が登場します。
主人公のキャラクターには、トランスジェンダー男性の「あるあるエピソード」を詰め込んだ印象を受けます。いつか下半身に生えてくるんだと信じているところや、「傷は男の勲章」と言い放つ姿、生理への認識などが特に顕著です。しかし比較的中性的な名前のためか、改名にまつわるエピソードはありませんでした。
青春マイノリティ!!
2019年 日本
青春マイノリティ!!
「あたしは男でゲイだ!!!」
幼なじみの男子高校生に告白されたセーラは、そう告白し返します。これはFtMゲイの物語なのです。
「男が好きなら、男が好きな女でいいでしょ。何が違うの?」と言われることもあるのですが、ハッキリ返すセーラの姿が清々しいです。彼氏に「なんで普段メンズ着ないの?」と聞かれると、セーラは「サイズがねえんだよ」とキレ返します。微妙なFtMの心境を捉えられていて、むず痒いところに手の届く漫画です。
ボーイズ・ラン・ザ・ライオット
2020年 日本
学慶人作。「ヤングマガジン」で連載中です。
女子高生の制服を着て生活する男子高校生・凌(りょう)は、自分の好きな服を着ているときだけが、癒しを感じる時間でした。留年してクラスメートとなった迅(じん)と同じ系統のファッションが好きだとわかり、二人でアパレルブランドを立ち上げようとする青春漫画です。
放浪息子
2002〜2013年 日本
志村貴子作。アニメ化もされた作品です。女の子になりたい男の子・二鳥修一と男の子になりたい女の子・高槻よしのを中心とした群像劇となっています。トランスジェンダーや異性装という軽くはないテーマが、やわらかいタッチの絵で淡々と描かれていて印象的です。
トランスジェンダー男性が登場する小説をご紹介
片想い
2001年 日本
東野圭吾作品のひとつ。2001年初版というだけあって、「トランスジェンダーとは何か?」という基礎から知れる作品です。
大学時代にアメリカンフットボール部だった語り手・哲郎が女子マネージャーだった美月と再会します。しかし美月は、現在は男性の姿になっていました。
FtMのなかには「結婚して子どもを産めば普通の女性になれるかも」と考えて実行する人もいます。美月もそうでした。でも結局のところ肉体と精神のギャップを意識する羽目になり、女性になりきることは不可能だったといいます。
しかも本作では、犯罪やミステリーも絡んできます。もしトランスジェンダーの男性が刑務所に入ることになったら、戸籍上の女性側に入れられて終わりかもしれません。ホルモン注射で肉体維持することも厳しい状況下でしょう。法が守ってくれない以上、法から逃げるしかないという緊迫感が伝わってきます。
男と女はコインの裏表というわけではない、という説明は言い得て妙だなと思います。
52ヘルツのクジラたち
2020年 日本
すみません、ネタバレになってしまうため詳しくはご紹介できません!
タイトルの由来である「52ヘルツのクジラ」とは、非常に珍しい52ヘルツの高周波で鳴くクジラのこと。ほかにこの鳴き声を聞きとれるクジラはいないと考えられ、世界でもっとも孤独なクジラといわれています。
そのような誰にも届かなかった声が誰かに届くときはあるのでしょうか。
物語では、幼いころから親の虐待にあっていた2人の人物、きなこと少年が港町で出会って始まります。
町田そのこ作、2021年本屋大賞に選ばれています。
ヒゲとナプキン
2020年 日本
『五体不満足』がベストセラーになった乙武洋匡著。原案は東京レインボープライド共同代表理事も務める、トランスジェンダー男性の杉山文野。
主人公イツキはFtMです。恋人のこと、子どものこと、結婚のことへの悩みがリアルに書かれています。
ハーフムーン街の殺人
2020年邦訳 イギリス
舞台は19世紀末のロンドン。「トランスジェンダー」や「FtM」という言葉も、治療法もなかった時代です。それでもLGBTは流行りでもなんでもなく、ずっと昔からいたはずだと実感できる設定となっています。本作には実在のモデルもいたのだとか。
主人公レオ・スタンホープは、自分が男であることを誰よりも知っています。自分のことを理解してくれていた唯一の人である、娼婦のマリアを本気で愛していました。そんなマリアが死亡したことを知り、レオは自ら犯人探しを始めます。
「恋は盲目」タイプのレオは、私と同じトランスジェンダーだという事実を抜きにしても、読んでいてくすぐったい感覚を呼び起こさせる人物です。
事件性を増していくにつれて、FtMにとって屈辱的なシーンも登場します。その点はあらかじめご了承ください。
著者アレックス・リーヴは本作でデビューしたものの、すでに続編も決まっているそうです。
A BOY LIKE ME
2014年 アメリカ
Jenny Wood作の小説です。Kindle版で英語原作を読めますが、日本語訳は出ていないようです。冒頭「この夏休み中で一番嫌だったことは下半身から出血が始まったことだ!」と、主人公のトランスボーイが打ちひしがれる印象的なシーンから物語は始まります。
気になる女の子から「だってあなたはボーイじゃないのだから」と言われそうになると、「それこそマヌケな女子みたいに泣きたくなる、けれどそんなことできないし」といった絶妙な心境の機微が描かれています。リアルタイムで二次性徴に悩む中高生には共感するところが多いのではないでしょうか。
トランスジェンダー男性が登場する映画をご紹介
ボーイズ・ドント・クライ
1999年 アメリカ
キンバリー・ピアース監督によるアメリカ映画。トランスジェンダー男性のブランドン役を演じた、ヒラリー・スワンクがアカデミー主演女優賞を受賞した作品です。本作は、セクシュアリティーが原因で殺害された実在の人物を描いた映画なのですが、母親や恋人は事実と異なるとしてのちに訴訟を起こしています。
あくまでフィクションなので、実態と異なる部分もあると思いますが、この映画自体は「トランスジェンダー男性であり、そうであるがゆえに殺害された人物」を描いたものとして評価されているようです。
私自身は鑑賞前に結末を知ってしまったこともあり、気になってはいたけれどなかなか観る気になれませんでした。(結局観たのですが)
それなりに重い話なので、気持ちに余裕があるときに鑑賞することをおすすめします。
アバウトレイ 16歳の決断
2015年 アメリカ
16歳のレイがホルモン治療をまさに始めようとしています。しかし両親の同意が必要なため一筋縄にはいきません。レイだけでなく、シングルマザーの葛藤も存分に描かれています。
レズビアンの祖母が、「身体的治療をせずに女の子のままでレズビアンとしてやっていけるのでは?」とレイに話すのですが、その場面はレズビアンとFtMの微妙な関連性を示唆しているようで思わず苦笑してしまいました。(レイの場合はハッキリ違うのですが、FtM当事者のなかにはレズビアンのように生きてきた人も確かにいます。)
52チューズデイ
2014年 オーストラリア
母親が実は男性なのだと判明。そして男性ホルモン治療を開始することになります。
親がトランスジェンダーであると知って娘がどう受け入れていくのか、親子の関係性を実際に1年間かけて毎週火曜日に撮影したオーストラリア作品です。親の変化を前に、娘自身も性について考えるようになります。
全員、片思い
2016年 日本
『全員、片思い』はタイトルの通り、主要な登場人物が全員片思いしている恋愛を描いたアンソロジー作品です。
8つのエピソードのうち「片思いスパイラル」という回にFtMが登場します。
“性同一性障害の韓国人留学生・ソヨン”役を知英(ジヨン・元KARA)が演じました。役者インタビューではソヨンという役どころは「男性」だったと明言されています。
…とはいえ私の印象では、作中の描写だけではFtMなのかどうか分からないと感じてしまいました。ソヨンは男性の服装をして、同じシェアハウスに暮らす女性ユキに恋しています。タバコを吸う、脚をひろげて座る、男性に突っかかれて「なんだ女か」と言われると逆上して殴る、などの描写はあります。
けれどもレズビアンのボイ(ボーイッシュ系のレズビアン)でそういう服装や言動をする人もいるので正直区別がつきませんでした。なので外面というより内面の描写で具体的にFtMの悩みに焦点が当たっている方がより共感できたかな、と思います。
トランスジェンダー男性が登場するドラマをご紹介
ラストフレンズ
2008年 日本
DVやセックス恐怖症含め、さまざまな悩みを抱えた人たちがシェアハウスで共同生活しています。
そのなかの上野樹里演じる瑠可という役は、トランスジェンダー男性でした。とはいえ視聴者のなかには、トランスジェンダーの男性ではなく女性同士の同性愛を描いた物語として解釈する人もいたようです。
主題歌は、宇多田ヒカル「Prisoner Of Love」でした。
glee シーズン6
2015年 アメリカ
アメリカの高校の、いわゆる「合唱部」を描いたテレビドラマです。2009年から2015年にかけて全121話放送されました。
作中ではゲイだとオープンにする人、レズビアンで交際する人などが登場し、多くのLGBTsを勇気づけました。実際にセクシュアリティを公表している役者さんもいます。
シーズン6の第7話では“男勝りなアメフト部のコーチ”として知られていたビースト・コーチが、ついに男性として生活を送るようになります。このカミングアウトまでは、“女性らしくないけれど女性として”やっていこうとする人物として描かれていました。
ビースト・コーチを演じたドット・ジョーンズは、実生活では女性と同性婚をしています。
ちなみに『glee シーズン2』にてサンシャイン役で歌声を披露していたジェイク・ザイラスは、のちにトランス男性だとカミングアウトしています。
以上、トランスジェンダー男性(FtM)をテーマにした15作品をご紹介しました。
個人的には、性別移行して男性として暮らしているトランス男性作品がもっと観たいです!
チェック → トランスジェンダーの悩み解消に役立つ記事まとめ~FtM&MtF向け~
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◎この記事を書いた人・・・空衣
1996年、神奈川県生まれ。居住地にこだわりがなく女子寮にいたこともありますが、現在は男性の境遇で生活しています。カレー好きで、世界一辛いカレーを完食したことも。
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