ここ数年、トランスジェンダーが直面する問題に対する認識が高まってきています。まだまだ十分とはいえませんが、徐々に浸透してきている理由の1つは、トランスジェンダーを描く映画の影響であるといえるでしょう。

近年、トランスジェンダーのテーマを扱った作品や俳優が注目を集めてきていることは、インクルーシブでダイバーシティを重視する社会に近づくための第一歩です。本記事では、ハリウッドが生み出したトランスジェンダー作品と、活躍しているトランスジェンダー俳優に焦点を当てていきます。

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トランスジェンダーとは

本題に入る前に、まずはトランスジェンダーとは何かを知りましょう。トランスジェンダー(Transgender)とは、出生時に登録された性別とは異なる性別を生きる人のことをいいます。例えば、生まれた時は女性であったが、現在は男性として過ごしている人などがいます。

トランスジェンダーの中には、MtF、FtM、MtX、FtXなどが存在します。「X」とはXジェンダーを表し、男女に当てはまらない性自認を持つ人のことです。

MtF:トランスジェンダー女性。出生時に法的に登録された性別が男性で、現在は女性という性別を生きている人。

FtM:トランスジェンダー男性。出生時に法的に登録された性別が女性で、現在は男性という性別を生きている人。

MtX:出生時に法的に登録された性別が男性で、現在はXジェンダーとして生きている人。

FtX:出生時に法的に登録された性別が女性で、現在はXジェンダーとして生きている人。

また、トランスジェンダーの対義語としてシスジェンダー(Cisgender)という言葉が使われます。シスジェンダーとは、出生時に登録された性別と同じ性別を生きる人のことです。現状、社会では性別二元論の考えに基づいて、シスジェンダーに向けた制度や法律が存在しています。そのため、トランスジェンダーは日常で居場所がないように感じてしまうこともあるのです。

現在では、トランスジェンダーが過ごしやすい社会を目指すため、企業や個人が声を上げる場面も増えましたが、国としての変化はみられていない状態があります。

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トランスジェンダーが登場するハリウッド作品

ここからは、トランスジェンダーをテーマとしたハリウッド作品を紹介します。

トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして(2020)

https://www.netflix.com/jp/title/81284247

『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』は、映画やテレビ番組におけるトランスジェンダーの描写について、的確な考察を展開し、ハリウッドがいかにジェンダーに対する不安を作り出しているかを明らかにします。ラヴァーン・コックス、リリー・ウォシャウスキー、ヤンス・フォード、Mj・ロドリゲス、ジェイミー・クレイトン、チャズ・ボノら一流のトランスジェンダー俳優やクリエイターたちが、これまでのトランスジェンダー描写について語っています。

世界的に有名なトランスジェンダーが登場する映画作品やドラマを取り上げながら、それらが反映する非人間的な表現をめぐって、歴史を辿っていきます。そこで浮かび上がるのは、スクリーン上のトランス表現、社会の偏見、トランスの生活の現実とのギャップです。サム・フェダー監督は、作品おける有名なシーンや象徴的な登場人物に新たな光を当て、トランスジェンダーをどのように捉え、理解するかについてを伝えています。

パリ、夜は眠らない(1990)

80年代のニューヨークの舞踏会文化を描いたこのドキュメンタリー映画は、テレビのシリーズ番組『ポーズ』からインスパイアされたといいます。ジェニー・リヴィングストン監督のこの作品は、舞踏大会(出場者が与えられたテーマに合わせてウォーキングして競う)を繊細に描き、ゲイカルチャーにおけるカルチャーの1つである「ヴォーギング」を身近なものにしました。

この作品は、ダンスや競技だけをテーマにしているのではなく、居場所がないと感じていた人々のために形成されたコミュニティを称え、彼らが日常生活で直面したホモフォビア、トランスフォビア、人種差別についても語っています。

ボーイズ・ドント・クライ(2000)

1990年代の映画界では、トランスジェンダー女性を描いた長編映画やドキュメンタリーが増えていましたが、トランス男性を主人公にした大作が製作されたのは2010年代末でした。『ボーイズ・ドント・クライ』は、1993年12月、ネブラスカ州ハンボルトで、ブランドン・ティーナという男性が、トランスであることを2人の知人に知られた後にレイプされ殺害されたの実話を基にした作品です。

オスカー受賞者のヒラリー・スワンクがブランドン役を演じました。トランスジェンダーのロバート・イーズを描いたケイト・デイビスの2001年のドキュメンタリー『Southern Comfort』と並んで、『Boys Don't Cry』は、トランスフォビアを扱い、主人公が抱く困難を鑑賞者に投げかけています。

ぼくのバラ色の人生(1997)

アラン・ベルリネール監督による、身体は男の子で心は女の子であるリュドウィッグを描いたこの作品は、1997年のゴールデングローブ外国映画賞を受賞しました。両親からは自分の性別は「一過性なもの」だと言われ、近所や学校からは仲間はずれにされ、リュドウィッグに女の子の服を着せた母親と父親は地域のコミュニティから罰を受けます。

脚本家のベルリナーとクリス・ヴァンダー・スタッペンは、リュドウィッグの物語から光と闇を描いています。子供にとってのジェンダーというものがいかに大切か、と同時にいかにシンプルかを考えさせられるでしょう。

リリーのすべて(2016)

『リリーのすべて(The Danish Girl)』は、実話をもとにした映画です。しかし、大幅に脚色されていることや、トランスジェンダーの描写において賛否両論があったことも事実です。それでも、この映画は普遍的なトランスジェンダーのテーマを深く探求した作品だといえるでしょう。デンマークの画家、リリー・エルベとゲルダ・ヴェイナーの物語であり、リリーがアイナーという男性としてのアイデンティティから女性としてのアイデンティティに移行することが、2人の人生にどう影響するかを描いています。

いくつかの点で現実とは異なりますが、『リリーのすべて』を観れば、切なさと優しさが込み上げてきます。リリー役のエディ・レッドメインとゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルの演技も評価が高く、見どころの1つです。また、コペンハーゲンとブリュッセルで撮影が行われ、視覚的にも楽しめます。

ワイルド・サイド(2004)

​​2004年のベルリン国際映画祭で上映された、セバスチャン・リフシッツ監督のフランス映画『ワイルド・サイド』。ニューハーフのセックスワーカーに焦点を当てた作品です。プロの俳優ではなく、トランスジェンダー女性であるステファニー・ミケリーニが、ステファニーと呼ばれる主人公を演じています。同居人である無断欠勤のロシア軍兵士とアルジェリア人路上労働者が一緒にやってきて、彼女は2人の男性と関係を持つが、互いに惹かれ合っていくーー。

ルー・リードの名曲『ワイルド・サイドを歩け』にちなんだ作品名で、脚本はステファニーが母親との関係に抱く悲しみと、ミカエルやジャメルとのメナージュ・ア・トロワに見出す喜びを対比させています。

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トランスジェンダーのハリウッド俳優

ここからは、トランスジェンダーのハリウッド俳優を紹介します。

エリオット・ペイジ

海外ドラマ『アンブレラ・アカデミー』でお馴染みのエリオット・ペイジが、2020年12月、SNS上で自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトし、自分の代名詞は「He(彼)」または「They(ジェンダーニュートラルな代名詞)」であると述べました。

ペイジは、コロナ禍で政治的なトランスフォビックな発言が増えている中でカミングアウトし、ある記事には「他人から見れば自分は違って見えるが、自分にとっては自分らしく見え始めたところだ」と綴りました。その後、タイム誌の2021年3月号と4月号の表紙を飾るなど、トランスジェンダー当事者として今後のキャリアを切り開いたのです。

ラバーン・コックス

コックスは『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の役柄で知られており、同作品でトランスジェンダーであることを公表している最初の人物としてプライムタイム・エミー賞の演技部門にノミネートされました。2015年にはデイタイム・エミー賞を受賞。 オープンリー・トランス女性として初の受賞となりました。

インディア・ムーア

ムーアは、モデルとしてキャリアをスタートし、その後『Pose』でエンジェル役に抜擢。トランスジェンダーでありノンバイナリーであるムーアは、メインストリームで成功を収め、雑誌『Elle』で初のトランスジェンダーモデルとして表紙を飾りました。

ムーアは2019年に『Elle』「みんな何を話しているのか。なぜ白人至上主義について話し合わないのだろうか。どうしてトランスの人たちを救おうとしないんだろう」と現在の社会に疑問を投げかけました。

ハンター・シェイファー

シェイファーのこれまでの出演作は、『響け!ユーフォニアム』のジュールズ役と、2021年のアニメ映画『ベル』の英語吹き替え版の声優のみと、演技歴は少ないものの、世界中に大きなインパクトを与えています。

彼女の役柄は、トランスジェンダーであることだけに焦点が置かれるのではありません。実際に、2019年の雑誌『Variety』では、「トランスであることだけ向き合うのではなく、トランスでありながら他の問題にも向き合わなければならない」と語っています。

ドミニク・ジャクソン

女優としてのキャリアが始まる前、ジャクソンはボルチモアに住んでいました。やがて彼女は、ハウス・オブ・レブロンやアリュールなど、さまざまなボールルームのハウスの一員となり、その後ニューヨークのハウス・オブ・シンクレアに移籍しました。

ジャクソンは1980年代から1990年代のアメリカのドラァグクイーン、ボールルームシーンが舞台となる『POSE』にエレクトラ・アバンダンス役で出演。女優業だけでなくモデルとしても活躍しており、ヴォーグ・エスパーニャや2021年のミュグレーのショーにも出演しています。

まとめ

本記事では、トランスジェンダーを描くハリウッドの映画作品と、トランスジェンダー俳優を紹介しました。 トランスを描く作品になぜ、トランス当事者の俳優が出てこなかったのか。かつてのトランスの表現はどのようなものだったのか。この機会に考えてみましょう。