日本におけるLGBTQの方々の生活や福祉に関する課題は、近年注目されるようになってきました。しかし、具体的な現状や課題はどのようなものなのでしょうか。

認定NPO法人ReBitが実施した調査をもとに、LGBTQの方々が直面する困難や社会の取り組みについて詳しく見ていきましょう。

参考記事:

初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。

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LGBTQと行政・福祉サービスの現状

近年、LGBTQの方々が行政や福祉サービスを利用する際の困難が注目されています。特に、生活困窮や精神障害などの背景を持つLGBTQの方々の約8割が、サービス利用時に何らかの困難を経験しているというデータが明らかになっています。

この困難の原因として、行政や福祉機関の性的指向や性自認(SOGI)に関する理解の不足が挙げられます。具体的には、LGBTQの方々がサービスを受ける際、その性的指向や性自認に関する理解が不足しているため、適切なサービスが受けられない、あるいはサービスの質が低下するという問題が生じています。この結果、多くのLGBTQの方々が、病状の悪化や生活の困難をより深刻に感じることとなっています。

さらに、医療機関においても、トランスジェンダーの方々の約4割が、体調が悪いにもかかわらず病院を受診できていないという実態が浮かび上がっています。これは、医療機関におけるSOGIに関する理解の不足が影響していると考えられます。

このような現状を踏まえ、LGBTQの方々が安心して行政や福祉サービスを利用できる環境の整備が求められています。

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認定NPO法人ReBitの調査結果

認定NPO法人ReBitが実施した調査により、LGBTQの現状に関する詳細なデータが明らかになりました。この調査は、全国の18歳から60歳までのLGBTQを対象に、インターネット上で行われました。合計961人からの有効回答が得られ、その中でLGB等が44.8%、トランスジェンダーが53.3%、その他が1.9%という内訳となっています。

調査の結果、LGBTQの方々が過去10年間で行政や福祉サービスを利用した際、78.6%が性的指向や性自認(SOGI)に関連する困難を経験していることが判明しました。さらに、この困難により、3人に1人が心身の不調を悪化させ、5人に1人が自殺念慮や自殺未遂を経験しているという衝撃的な事実も明らかになりました。

困難の原因としては、主に以下の3点が挙げられました。

  1. 支援者のLGBTQに関する理解の不足
  2. LGBTQをサービスの利用者として想定した体制が社会に整備されていないこと
  3. 福祉機関などでSOGIに関して安全に相談できるかどうかが広く知られていないこと

また、LGBTQの方々が自身のSOGIについて行政や福祉関係者に安心して話せるかどうかを尋ねた結果、驚くべき95.4%が「安心して話せない」と回答しています。この背景には、SOGIに関するハラスメントやアウティングへの恐れが関係していると考えられます。

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LGBTQの生活困窮と精神障害の実態

LGBTQの方々の中には、生活困窮や精神障害といった重い課題を抱えている方が少なくありません。ReBitの調査によれば、過去10年間でLGBTQの41.2%が精神障害、例えばうつ病やパニック障害などを経験しています。さらに、18.2%が精神障害保健福祉手帳を所持した経験があることも判明しました。

生活の面では、LGBTQの約半数、46.8%が何らかの形で生活困窮を経験しており、その中でも「預金残高が1万円以下になったことがある」と回答した方が26.4%にも上りました。また、健康保険料や年金保険料の滞納を経験した方も11.8%と、一般の人々と比べても高い数字となっています。

特に注目すべきは、障害や難病を持つLGBTQの方々です。このグループは、健康なLGBTQの方々と比べて「生活保護や給付金等の金銭的支援を受けた/必要とした」との回答が7.5倍も高く、複数のマイノリティ属性を持つことで困難が増していることが伺えます。

このような状況は、LGBTQの方々が日常生活において直面する多くの困難を示しており、社会全体としてのサポートや理解が求められる状況となっています。LGBTお部屋探し

アライの視点からの調査結果

アライとは、LGBTQの方々を理解し、支援する立場の人々を指します。ReBitの調査によれば、アライの中でLGBTQの支援経験がある方は約半数の48.2%となっています。しかし、その中でも89.6%の方が「十分/適切な支援ができなかった」と回答しており、現在の支援体制の課題が浮き彫りになっています。

具体的な課題としては、「適切な連携先などを紹介できず、情報提供がうまくいかなかった」が36.9%、「他の支援者や上司にLGBTQに関する十分な知識や理解がなく、『組織』として適切な支援ができなかった」と感じた方が28.8%となっています。

また、社会福祉士や精神保健福祉士、介護福祉士といった「三大国家資格保有者」の中で、LGBTQ支援に関する養成課程での学びがあったと回答したのはわずか12.3%。勤務している機関で学んだとの回答は23.1%にとどまっています。これは、現在の養成教育や職場環境におけるLGBTQに関する理解の不足を示しています。

さらに、アライの72%が、支援業務の中で他の人たちの不適切な言動を目の当たりにしており、LGBTQに関する支援方針やマニュアルを持つ機関は約5%しか存在しないという現状が明らかになりました。

これらのデータから、LGBTQの方々への適切な支援を行うための体制や教育の整備が、早急に求められていることが伺えます。

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ReBitの取り組みと提言

認定NPO法人ReBitは、LGBTQの方々の生活や福祉に関する課題を解決するためのさまざまな取り組みを行っています。その一つとして、障害福祉サービスに関するマニュアルの作成が挙げられます。このマニュアルは、LGBTQの方々が安心してサービスを受けられるよう、提供者側に必要な知識や理解を深めるためのものとなっています。

ReBitの薬師実芳代表理事は、LGBTQの方々が直面する困難について次のようにコメントしています。「LGBTQの方々は、性的指向や性自認に関する理解の不足から、多くの困難を経験しています。しかし、これはLGBTQの方々の問題だけでなく、社会全体の問題として捉えるべきです。」

また、ReBitは、行政や福祉関係者に対して、LGBTQの方々の生活や福祉に関する理解を深めるための研修やセミナーの提供も行っています。これにより、LGBTQの方々が安心してサービスを受けられる環境の整備を目指しています。

ReBitの取り組みは、LGBTQの方々の生活をより良くするための一歩として、多くの関係者から高く評価されています。今後も、LGBTQの方々の生活や福祉の向上を目指して、さまざまな取り組みが期待されています。

まとめ

LGBTQの方々は、日常生活や福祉サービスの利用において多くの困難を経験しています。その原因として、社会の性的指向や性自認に関する理解の不足が挙げられます。しかし、認定NPO法人ReBitをはじめとする団体や組織の取り組みにより、少しずつ改善の動きが見られるようになってきました。

今後は、LGBTQの方々の声をしっかりと受け止め、社会全体での理解と支援の拡充を進めていくことが求められます。