筆者がハリウッド映画界におけるLGBTs当事者の描かれ方に興味をもったきっかけは、ドキュメンタリー映画『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』(2020)でした。そこには、過去の映画作品で描かれてきたトランスジェンダー像がいかにステレオタイプによるものかを実感させられました。
それと同時に、現実的ではないトランスジェンダー役のシーンがたくさん埋め込まれた、残酷的な描写にはショックを覚えました。そこからトランスジェンダー表象はもちろん、ゲイやレズビアン、バイセクシュアル含むセクシュアルマイノリティへのステレオタイプが作り出した映画作品も多く存在することを知ったのです。
ハリウッド界のトランスジェンダー描写
『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』では、映画界におけるトランスジェンダー描写を、当事者の俳優や映画関係者へのインタビューと過去の映画シーンを交えながら取り上げた映画です。監督であるサム・フェーダーもトランスジェンダーを公言する一人であり、当事者の語るメディア表象はかなり説得力のあるものでした。
この映画によって、メディアにおいてトランスジェンダーがいかに消費されてきたのかを知ることができます。作品を鑑賞すると、トランスジェンダーは“女性の服装をした男性”とされ、“異様な存在”であることが前提として認識されてきたことがわかります。そして、映画作品のなかのトランスジェンダーに死ぬ役が多いことや、変人的扱いをされるなど、極端でわかりやすくコメディー要素としても持ち込まれていました。
それらの作品の多くの作り手は、シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性と自認する性が一致していること)であり、マジョリティとしての特権を感じされられます。作り手は、トランスジェンダーコミュニティを理解し尊重しようと作品を作り上げるのではなく、わかりやすく面白い素材を入れるための消費的な起用の仕方をすることで、現実ではありえないような前提をつくりあげてしまいました。そして人ではないモノのような演じ方が好まれていたこと。当事者でさえもトランスジェンダー役を非現実的に演じさせられていた事実や、その過程において誰一人阻止しなかったことは、人々の認識はもちろん、映画を作る過程から問題視されるべきです。
当事者がこの映画を観れば共感することもある一方で、ある人が観れば未知であることに衝撃を覚えるでしょう。私たちが日常生活で触れるであろうテレビ、映画、記事といったメディアが伝える情報は重要な存在でもあります。人々の認識が不十分な状態で、マイノリティとされる人々を現実とはかけ離れた擬似の存在として世に発信することは、誤解されたマイノリティコミュニティをさらに落としめる可能性があるのです。
映画が取り上げるLGBTs当事者
トランスジェンダーの描写について前述しましたが、レズビアンやゲイ、バイセクシュアルなどのセクシュアルマイノリティを消費的に描いた、同性愛をテーマにした映画作品も多く製作されてきました。
たとえば、レズビアンはショートヘアでパンツスタイルを好み、いわゆる男性を模倣している。女性同士の恋愛が必要以上に性的に描かれがちであること。ゲイ男性はどの男性とも性的な関係につなげようとする。バイセクシュアルなら誰にでも体の関係を許すなど。このような描写は映画作品で幾度もなされ続けてきました。
そして映画だけでなく、誤った情報を受け取った人々は、日常生活でも同じような認識をもって生活する可能性もあります。「レズビアンは〜だ」「ゲイは〜だ」と特定の属性を総じてある型にはめるのではなく、個体としてのあり方を尊重する認識にシフトチェンジする必要があります。
ハリウッドスターたちがカミングアウトする理由
映画やテレビは私たちが日常で触れるものであり、大きな影響をもたらす存在でもあります。誤った情報の流出は、ステレオタイプを生むだけでなく差別を助長させます。ですが、最近では世界中のハリウッドスターたちがカミングアウトするようになり、多くのLGBTs当事者を勇気づけると同時に、今までのメディア表象をアップデートさせるきっかけにもなっています。一方で、カミングアウトを選ばない人も多くいるはずです。ここでは当事者がカミングアウトする理由と、カミングアウトしない理由を紹介したいと思います!
カミングアウトする理由
・存在することを世に知らせる
今まで、非現実的に描かれ続けきたセクシュアルマイノリティの人たちは「存在しないもの」として隠されてきました。世の中が想像する当事者と、実際に存在する当事者は全く異なることもあり、異性愛・シスジェンダーが前提となる社会では声にあげないと「いない存在」として認識されてしまいます。一人の人間として認識される社会を願い、あえて声をあげるという選択をするのです。
・より多くの人に考えるきっかけを与える
ここ数年でLGBTsについて語られる機会が増えてきました。カミングアウトする人の声を耳にすることで、今までオープンに語られてこなかったセクシュアルマイノリティという存在について知ることができますし、そこから新しい視点や社会問題を考えるきっかけにもつながります。誰もが生きやすい社会を願ってカミングアウトする当事者も最近では増えています。
・自分らしくいるための第一歩
カミングアウトしないことで、自分を偽っているような罪悪感を抱きながら過ごす人もいるでしょう。そういった日々のストレスから抜け出すために、セクシュアリティをオープンにする人もいます。ただ、カミングアウトが必ずしもいい結果となるわけではないので、人やタイミングを考慮している当事者は現状多くいます。
カミングアウトしない理由
・みんなが理解するわけではない
LGBTs当事者のなかでは、カミングアウトすることで家族や友人などが混乱してしまうことを懸念する人も多くいます。LGBTsについてここ最近で語られるようになったからこそ、まだまだ浸透していない話題ではあります。特に上の世代の人は、用語や概念を知らない場合が考えられ、どこから説明したらいいのかわからない当事者もいます。結果、カミングアウトすることを断念することがあるのです。
・リスクを被る可能性がある
特に宗教上の理由や国の法律によって、カミングアウトできない環境下におかれている当事者が世界中には多くいます。同性愛が処罰に値することや、同性パートナー同士での結婚ができないことなど、カミングアウトしてもメリットがないことが一つ考えられます。
・あえて公言する必要がない
セクシュアルマイノリティは”少数派”とはいわれていますが、日本では11人に1人がLGBTs当事者だといわれているように、実際には多く存在します。LGBTsについての認識が広がることで、徐々に当たり前にいる存在として認識する人も増えてきました。マイノリティではあるものの、一人の人間であり、異性愛者があえて自分のセクシュアリティを公言しないようにカミングアウトを選ばない当事者の考えもあるのです。
カミングアウトの有無は、個人の意思で選択することが大事です。人によって選ぶ言葉や伝える情報を変えることも、一つのあり方なのです。ですが、「カミングアウトしたくてもできない」のような選択肢が狭められる社会は、誰もが快適に過ごしているとはいえません。誰もが自分の心地のいい選択ができる社会を実現するために、今こそ人々の認識をアップデートすることが求められているのです。
チェック → LGBTとは簡単にいってなに?日本のLGBT事情が分かる記事のまとめ
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◎この記事を書いた人・・・Honoka Yan
モデル/ダンサー/ライター/記者/LGBTs当事者。ジェンダーやセクシュアリティ、フェミニズムについて執筆。タブーについて発信する日本のクィアマガジン「purple millennium」編集長。Instagram :@honokayan
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