煌びやかなドレス、高いヒール、厚化粧を纏ったドラァグクイーン。女性性を表現する彼女たちは、舞台の上に上がると素顔とは全く異なる姿を見せつけ、人々を魅了します。最近、『ル・ポールのドラァグ・レース』や『キンキーブーツ』など、日本でも目にする機会が増えました。

本記事では、なぜドラァグクイーンが一風変わった装いをするのか、そもそもドラァグクイーンとは何か、気になる疑問を解説していきます。ドラァグクイーンについて調べている方、参考にしてみてください。

初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。

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ドラァグクイーンとは

ドラァグクイーンを一言で説明するのは難しいです。基本的には、ゲイコミュニティで生まれた、女性らしさを大げさに演じるパフォーマーです。彼らは、厚化粧と派手な衣装で舞台に立ち、歌ったり踊ったりしますが、バーやクラブでお客さんをもてなす役割も果たしています。

日本にも歴史的なドラァグイベントがあり、『DIAMONDS ARE FOREVER』というエンターテイメントパーティーでは、ドラァグクイーンは「女性らしさを大げさに演じることで、一般的な女性像を風刺するパフォーマンス」と説明されています。

このような「超女性性」は、一部からは女性を軽視しているとも言われますが、実はジェンダーに対する社会的な問題を風刺し、最終的には笑いで解消しているとも考えられます。

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ドラァグクイーンの歴史

海外

ドラァグクイーンの文化は西洋で深く根付いています。実は、古代ギリシャの時代からも、男性が女装して舞台に立つような人々がいました。当時は女性が舞台に立つことが許されていなかったので、男性が女装して演じることが普通でした。

ウィリアム・ドーシー・スワンという人物は、ドラァグクイーンの歴史で非常に重要です。彼は元奴隷でありながら、LGBTQアクティビストとして活動していました。1880年代には、自宅でドラァグボール※を開いていたほどです。

※ファッションやダンス・ウォーキングなど、色々なカテゴリーでバトルする祭典のこと

20世紀に入ると、アメリカでドラァグクイーンとLGBTQコミュニティは密接に関わり合ってきます。特にサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークの夜の街でよく見られました。ただし、当時のアメリカでは同性愛が宗教的な理由で禁止されており、警察がゲイバーに頻繁に出入りしていました。ドラァグクイーンはその顕著な外見から特に目をつけられやすかったとされています。この状況が頂点に達したのが、1969年の「ストーンウォールの反乱」という事件です。

参考記事:

日本

ドラァグクイーンの歴史は、日本の古事記まで遡ると言われています。ヤマトタケルは女装して敵の宴に潜入し、成功裏に敵を倒しました。また、江戸時代の歌舞伎では、女性が舞台に立つことが許されなかったため、男性が女性の役を演じる「若衆歌舞伎」が人気でした。

昭和時代には、日本で初めての女装専門誌『くいーん』が登場。その後も、『奇譚クラブ』や『風俗奇譚』などの雑誌が次々と出版されました。

日本でドラァグクイーンとして名を馳せるきっかけは、1989年から始まったシモーヌ深雪のイベント『DIAMONDS ARE FOREVER』です。このイベントは今も続いており、ゲイだけでなく、ヘテロ(異性愛者)の男性や女性も参加しています。

最近では、リアリティ番組『ル・ポールのドラァグ・レース』のおかげで、ドラァグクイーン文化がさらに広まりました。この番組によって、多くの人がドラァグクイーンの存在に目を向けるようになり、セクシュアリティやジェンダーに関係なく楽しめる文化となっています。

参考:

  • 松濤美術館, 『装いの力 異性装の日本史』
  • 上手詩織, 『女装文化の歴史』

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ドラァグクイーンの種類

ドラァグクイーンは、テレビや新宿二丁目、メディアなど、意外にもさまざまな場所で見かけることができます。そこにいるドラァグクイーンの人たちも多種多様で、女性らしいスタイル、クラブキッズのようなスポーティーなスタイル、メイクに特化したスタイルなど、パフォーマンスだけでなく、一人ひとりの個性が見られるのも魅力的です。

数え切れないほどのスタイルがありますが、その中でも主流とされてるスタイルを紹介します。

キャンプ

キャンプクイーン(Camp Queen)とは、率直にズバッと物事を言ったり、時には皮肉的な言葉を投げたりするスタイルを実践するドラァグクイーンです。

独特のユーモアとセンスを発揮し、笑いに変える力は、キャンプクイーンならではの魅力といえます。

フィッシュ

フィッシュクイーン(Fish Queen)は、フェミニンなスタイルのドラァグクイーンです。一見すると女性だと思う人も多いですが、彼女たちのほとんどが男性を自認しています。

身体の形、表情、メイクなど、細部にまでこだわって女性性を表現しています。

パージェント

パージェントクイーン(Pagent Queen)は、フィッシュクイーンと混合して使われることもありますが、微妙にスタイルが異なります。というのも、フィッシュクイーンよりもさらに洗練され、女性性を追求しているからです。

彼女たちは大会で優勝するために、ほんの些細な部分も怠らずに極めています。

ジェンダーファック / アンドロジニー

ジェンダーファッククイーン(Genderfuck Queen)もしくはアンドロジニークイーン(Androgyny Queen)は、アンチクイーン(Anti-Queen)とも呼ばれ、 1972年に誕生しました。

一番の特徴は、フェミニンな要素とマスキュリンな要素を混ぜること。例えば、ドレスを着て胸毛を生やすなど、2つのジェンダーで遊んでいることが特徴です。LGBTお部屋探し

ドラァグクイーン用語

ドラァグクイーンのコミュニティや、『ル・ポールのドラァグ・レース』といったテレビ番組でよく使われる用語を解説します。

リップシンク

ドラァグクイーンのショーでは、有名な歌手の曲に合わせて口パクします。このことをリップシンクといい、海外ではリップシンクバトルなども繰り広げられています。

NYLONの取材によると、ニューヨークのドラァグクイーンQhrist with a Qは「リップシンクは、過去に抑圧や差別を受けた声を上げる権利のない人たちが、誰かの言葉を借りて自分の物語を語るためにある」と言及。さらにブルックリン出身のAngelica Sundaeは、「曲の中で自分の物語に合わせて自由に表現できる素晴らしいもの」と語りました。

リップシンクは歴史的な背景と密接につながり、一人ひとりによって意味合いが異なり得るものであることがわかります。

参考:READ OUR LIPS: ON THE POWER OF AND MEANING BEHIND LIP SYNCING

デスドロップ

デスドロップ(Death Drop)とは、パフォーマンス時に行う、足を上げて思いっきり床に倒れる技のこと。決め技として登場し、デスドロップを観た観客は必ずといっていいほど盛り上がります。

『ル・ポールのドラァグ・レース』ではデスドロップと使われていますが、正しくは「ディップ(Dip)」と呼ばれています。

ドラァグクイーンに対する疑問とその答え

さらにドラァグクイーンの実態に迫るべく、みなさんが気になる疑問を抜粋しました。

ドラァグクイーンは女性になりたい?

ドラァグクイーンは、あくまで女性性を表現するパフォーマーのことをいいます。そのため、ドラァグクイーンをする人がどのような性別を望んでいるのか、どのような性別を自認しているかは関係ありません。

自身の性別を表現するため、自分のスキルを表現するため、社会的な男女二元論の考えを払拭するためなど、さまざまな目的でドラァグクイーンとして活動する人がいます。

ただ、個人的にはゲイの男性を自認しているドラァグクイーンが多い印象です。中には、女性として見られることに嫌悪感を抱く人もいるので「ドラァグクイーン=女性になりたい人」ではないことを覚えておきましょう。

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ドラァグクイーンはトランスジェンダーと同じ?

ドラァグクイーンとトランスジェンダーは全く異なります。たしかに、女性的な体つきや喋り方をしたドラァグクイーンは多いため、トランスジェンダー女性だと思う人もいるかもしれません。しかし、多くの場合は、パッドを入れて尻を作ったり、偽物の胸を入れたり、あくまでドラァグクイーンとしての表現の一部として女性的な格好をしています。

一方で、トランスジェンダーは、出生時に割り当てられた性別と自認する性が異なる人のことを表します。中には派手な服装を好む人もいるかもしれませんが、トランスジェンダーは性自認についての言葉であり、パフォーマーを表すドラァグクイーンとは異なるのです。

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ドラァグクイーンとオカマの違いは?

セクシュアリティを構成する4つの要素は、

  1. 身体的性
  2. 性自認
  3. 性的指向
  4. 性表現(表現したい性)

です。ゲイのドラァグクイーンは、身体的性、性自認は男性ですが、舞台や撮影などの「限られた時と場所」で派手な女装を身につけているに過ぎず、日常生活の性表現は男性である場合がほとんどです。

オカマは、身体的性は男性で性自認が女性、または女性寄りになっているため、性表現も女性または女性寄りであることが多いようです。つまり、ドラァグクイーンとオカマの違いをまとめると「性自認と日常生活での性表現が異なる」、というのが大きなポイントとなります。

「オカマ」「オナベ」といった言葉は蔑称ですので使うのは控えた方が良いでしょう。身体的性と性自認が異なる人は、「トランスジェンダー」と呼ばれます。

女性のドラァグクイーンはいるの?

ドラァグクイーンは、確かにゲイコミュニティから生まれた文化ですが、それだけでゲイの男性だけがなれるわけではありません。実は、ドラァグクイーンは「女性らしさを大げさに演じるパフォーマー」であり、その役割を果たす人は性別に関係なく誰でもなれます。

つまり、男性であれ女性であれ、トランスジェンダーであれシスジェンダーであれ、どんな性別やセクシュアリティの人もドラァグクイーンになることができます。例えば、トランスジェンダー女性のジア・ガンや、アジア出身のジェシカ・ラビット、日本の山田ホアニータなど、多様な背景を持つドラァグクイーンが活躍しています。

ドラァグクイーンのショーってどんな感じ?

実際の映像で見た方が分かりやすいと思います。今回は、ドラァグクイーンのKAGUYAさんの映像をご紹介させていただきます。

まとめ

本記事では、ドラァグクイーンにまつわる歴史や用語について紹介しました。

歴史的な背景を知ることで、さらにドラァグクイーンのショーを楽しく見れるでしょう。ぜひ、リアルで見に行ってみてください。