LGBTQが世の中で浸透しつつあり、日本、海外問わずセクシュアリティを公表する有名人が増えてきました。著名な人がカミングアウトすることで、多くの当事者が励まされたり、そもそもLGBTQを知らない人に知るきっかけを与えています。

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング、クィアのなかでも、特にバイセクシュアルを公言している芸能人を思い浮かばない人もいるでしょう。そこで、今回はLGBTQのなかの「B」に焦点を当て、日本と海外にいるバイセクシュアル当事者の有名人をご紹介します。

初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。

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バイセクシュアルについて

LGBTQの「B」にあたるバイセクシュアル(Bisexual)は、日本語で「両性愛」と直訳されます。一言で示すと、2つ以上の性別に恋愛感情・性的欲求を抱くセクシュアリティのことです。

「レズビアンは女性に性愛感情が向く女性」「ゲイは男性に性愛感情が向く男性」のように、セクシュアリティには自認する性が含まれますが、バイセクシュアルは性自認を問いません。そのため「バイセクシュアル女性」「バイセクシュアル男性」と表現することもあります。

バイセクシュアルのバイ(Bi)はラテン語で「2」という意味をもち、「男女の2つの性」と重ねて認識されることもありますが、男女以外の性も対象になることを注意しておきましょう。バイセクシュアルと総称しても、当事者のなかでさまざまな定義があります。例えば、以下のようなバイセクシュアルを自認する人がいます。

  • 過去に男性と女性に惹かれたことがある
  • 自分の性別とそれ以外の性が恋愛対象となる
  • 自分のセクシュアリティはバイセクシュアルが一番しっくりくる
  • 人を好きになるうえで、性別の要素を意識する
  • 男性的な魅力、女性的な魅力がある人が好き

このように、バイセクシュアルの特徴として、性愛感情を向ける相手に性別という要素が入っていることが挙げられます。性別の優先度は人によって異なりますが、性別を意識する当事者は多い印象を受けます。

バイセクシュアルにまつわる誤解

「バイセクシュアル=男性・女性が恋愛対象」という認識から、さまざまな誤解や偏見を抱かれることもあります。

バイセクシュアルは誰でも好きになる

バイセクシュアルと聞いて、誰でも好きになる、誰とでも関係をもつといった誤解を抱く人がいます。しかし、ほかのセクシュアリティに当てはめて考えてみてください。異性愛者の人が、異性なら誰でもいいと好きになる人は少ないでしょう。

セクシュアリティにかかわらず、相手の感覚や性格などに惹かれることは同じことです。「自分だったら……」と思って考えてみると、イメージしやすいかもしれません。

バイセクシュアルは異性愛者もしくは同性愛者になる過程

例えば、バイセクシュアル女性が異性の男性と交際していると異性愛者と自動的に認識されたり、同性の女性と付き合っているときはレズビアンと言われたり、バイセクシュアルであることが認識されづらい問題があります。もちろん、バイセクシュアルから異性愛者や同性愛者へとセクシュアリティが変わることや、その逆も考えられます。

ですが、性別二元論が前提となる社会では、恋愛対象が男性もしくは女性と認識されやすく、バイセクシュアルが“ないもの”として捉えられることが多い現状があります。「セクシュアリティに迷っている」「最終的に異性と交際しているから異性愛者だ」と決めつけるのではなく、相手がどのように自認するかが大事です。

パンセクシュアルとバイセクシュアルの違い

バイセクシュアルとよく混合されやすいセクシュアリティとして、パンセクシュアル(Pansexual)が挙げられます。パンセクシュアルとは、日本語で「全性愛」とも訳され、パン(Pan)はギリシア語で「すべて」という意味をもちます。恋愛感情・性的欲求を抱く相手の性別は関係なく、人として惹かれるセクシュアリティになります。簡単にいうと「好きになった人が好き」という感情が近く、性別は気にしない当事者が多い印象です。

「いろんな人を同時に愛せる」「人の数倍恋愛している」といった意見もよく聞きますが、これは正しいとはいえないでしょう。例えば、異性愛者である女性は男性が恋愛対象となります。だからといって、すべての男性と関係をもちたいわけではありません。パンセクシュアルも同様、好きになるタイプや条件があるように、誰とでも恋愛することはないのです。ただ、そのタイプや条件のなかに性別が加わっていないだけだと考えるとわかりやすいかもしれません。

ここで重要なのが、パンセクシュアルのなかでも、人それぞれのあり方や定義が存在するということです。例えば、以下のようなパンセクシュアルを自認する人がいます。

  • そもそも自分に性別という概念がない
  • 性別ではなく、相手の個性に惹かれることが多い
  • 今まで異性としか交際したことないけど、性別で人を判断することが苦手
  • 相手の性別だけでなく、性的指向、性表現(服装、振る舞い、言葉遣いなど)も気にしていない

バイセクシュアルと混合されやすいセクシュアリティ

パンセクシュアルのほかにも、バイセクシュアルと混合されやすいいくつかのセクシュアリティがあります。以下、4つのセクシュアリティを紹介します。

ポリセクシュアル

ポリセクシュアル(Polysexual)とは「多性愛」「複数愛」とも呼ばれ、複数の性に恋愛感情・性的欲求を抱くセクシュアリティです。例えば、同性やトランスジェンダーの人に惹かれることはあるけど、シスジェンダー男性には惹かれないなど、すべてのセクシュアリティに惹かれるのではなく、人それぞれ対象となるセクシュアリティは異なります。

バイロマンティック

バイロマンティック(Biromantic)とは、2つ以上の性別に恋愛感情を抱くセクシュアリティです。バイ(Bi)はラテン語で「2」、ロマンティック(Romantic)は「恋愛感情」を示します。つまり、2つ以上の性別に恋愛感情が向くものの、性的欲求を抱く対象が同じ性別であるとは限らないということです。精神的なつながりや、お互いの時間を共有して楽しむことなど、恋愛的な感情に重きを置く特徴があります。

バイキュリアス

バイキュリアス(Bicurious)とは、セクシュアリティを探求することへ興味、関心のあるセクシュアリティです。キュリアス(Curisous)とは、英語で「探求」「趣味」を意味します。つまり、自分のセクシュアリティがわからない、性愛感情が同性やほかの性別にも向く可能性があるなど、セクシュアルアイデンティを探し求めている人に対して表されることが多い印象です。

しかし、なかには「セクシュアルマイノリティを利用している」「LGBTQが踏み台にされている」といったネガティヴなイメージをもつLGBTQ当事者の人もいます。一方、バイキュリアスを自認することで楽になれたという人もいます。賛否両論あるようですが、セクシュアリティは流動するものであり、それぞれのあり方を尊重したうえで、相手が自分をどう自認するかを大事にすることが求められます。

アブロセクシュアル

アブロセクシュアル(Abrosexual)とは、恋愛感情・性的欲求を抱く対象のセクシュアリティが流動的に変化することです。アブロ(Abro)は、ギリシア語で「繊細な」という意味をもちます。セクシュアリティが流動するというのは、例えば、ゲイの人がパンセクシュアルに変わったり、ときにはアセクシュアル(性的欲求をまったく、もしくはほとんど抱かないセクシュアリティのこと)を自認したり、その時々であり方が変わります。セクシュアリティが変化する頻度やタイミングも人により異なります。

関連記事「あまり知られていない?バイセクシュアルの悩みとは

バイセクシュアルを公表した有名人【日本編】


バイセクシュアルを公言している日本の有名人を紹介します。

最上もが

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女性アイドルグループでんぱ組.incの元メンバーであり、現在タレント、モデル、女優と多岐にわたって活動している最上もが。

あるテレビ番組でバイセクシュアルであることを公言し、10歳の頃から同性の女性が好きだったことを打ち明けました。さらに、SNSでは「ちなみにぼくはレズじゃないです。バイです。なんか単純に性別で決めちゃうのってもったいないと思う」「性別云々とは別に“その人だから”好きになるだけ。隠したこともないし」と、自身のセクシュアリティをオープンに綴りました。

カズレーザー

カズレーザーは、日本のお笑いタレントで、メイプル超合金のボケ担当。バイセクシュアルをカミングアウトしている芸能人の一人で、過去に女性7人、男性6人との交際経験があることを明かしています。あるテレビ番組では、好きなタイプについて「美しい人」と答え、さらに「バイセクシュアルは幸せな感覚」と続けました。

他の出演者から「全員が恋愛対象だもんね」と言われると「そんな軽い男じゃねぇっすよ」と反論。「バイセクシュアル=全員が恋愛対象、性に奔放」のようなイメージはまだまだ存在するようですが、その誤解に対してもしっかり弁解していることが伺えます。

壇蜜

タレントでグラビアアイドルでもある壇蜜は、以前からバイセクシュアルであることを公言していました。週刊誌のインタビューでは、女性と交際した経験を告白し、15歳で初めて同性の女性とキスしたことを明かしました。

好みの男女比は、6対4だと答え、男性が6割のときもあれば、女性が6割になることもあるそうです。バイセクシュアルと一言で表しても、人それぞれ恋愛対象となる性別の割合も異なります。世の中では、男女で半々に惹かれるといった誤解を抱かれやすいバイセクシュアルですが、その瞬間によって男女比が変わったり、常に同じ比率であったり、個人によって傾向やあり方はさまざまなのです。

村主章枝

村主章枝は、日本の元フィギュアスケーター。現役を引退後、2014年にバラエティ番組でバイセクシュアルをカミングアウトしたことで話題に。

恋愛対象は性別でこだわるのではなく、好きになった人を好きになると述べています。カミングアウトのきっかけとなった番組では、お見合い企画が実施され、最終的に村主さんはレズビアン女性を選びました。交際に発展しなかったものの、交友関係は続いているようです。

鳥居みゆき

「ヒットエンドラーン」でお馴染みの、お笑い芸人鳥居みゆき。2008年に芸人の男性と結婚。それまでは女性とお付き合いしていたことを公表しました。

高校を卒業してから交際していたので、約7年間お付き合いしていたことになります。ただし、世間からは「現在男性と結婚しているから、バイセクシュアルではないのでは?」という意見も耳にします。しかしながら、バイセクシュアルは恋愛対象となる性別は異性だけではなく「異性との交際=異性愛者」とはなり得ません。たまたまそのときに交際している相手が異性だったり、同性、または他の性別の人であることもあり得るのです。

池添俊亮

モデルとして若い世代から絶大な人気を集めている池添俊亮。以前から悩んでいた自分のセクシュアリティと向き合うため、男女で共同生活を送るドキュメンタリー番組に出演。そのことがきっかけで、女性だけでなく男性にも惹かれることに気づき、バイセクシュアルをカミングアウトしました。

現在は、SNSでLGBTQに関する情報を積極的に発信したり、イベントに参加したり、さまざまな活動を行っています。
関連記事「【パンセクシュアルの意味を正しくしろう】バイセクシュアルとの違いは?

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バイセクシュアルを公表した有名人【海外編】


次に、バイセクシュアルを公言している海外の有名人を紹介します。

レディー・ガガ

世界的に有名なアメリカの歌手、レディー・ガガ(Lady Gaga)。バイセクシュアルを公表し、以前からLGBTQ権利のために活動してきました。

みんなの知る曲『Born This Way』は、LGBTQアンセムともいわれているほど、多くの当事者をエンパワーしています。この曲のタイトルの日本語訳「わたしはわたし」のように、セクシュアリティだけにかかわらず、性別、人種など、それぞれのもつ個性を大事に、自分らしく生きることがメッセージとして出されています。

ダヴ・キャメロン

ダヴ・キャメロン(Dove Cameron)は、アメリカ出身の歌手そして女優です。2022年にリリースした「Boyfriend」で、自身がクィアであることを常に知っていたと発言。さらに、「自分が誰を愛しているかを知られることを恐れたことはなかった」と別のニュース媒体でいいました。

ビリー・ジョー・アームストロング

ビリー・ジョー・アームストロング(Billie Joe Armstrong)は、アメリカのパンク・ロックバンド、グリーン・デイのヴォーカリスト、ギタリスト。1995年に雑誌のインタビューで、自身がバイセクシュアルであることを話しました。そこでは、両親と社会がマイノリティであることを“いけないこと”としてタブー視していることを指摘したうえで、バイセクシュアルであることは美しいことと述べました。

『Coming Clean』という曲は、自分のセクシュアリティに気づいたときの、ビリー本人の戸惑いが繊細に書かれています。

アンジェリーナ・ジョリー

ハリウッドで活躍する大女優、そして慈善活動も熱心に行うアンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)。

過去に交際していた日系アメリカ人のファッションモデル、女優のジェニー・リン・シミズに、当時の関係を暴露されてしまいました。そこで、自身がバイセクシュアルであることを告白。元夫のブラッド・ピットと結婚した際には、女性との交際やSMを辞めることを断言していました。

デヴィッド・ボウイ

伝説のロックスターデヴィッド・ボウイ(David Bowie)は、1976年に雑誌のインタビューでバイセクシュアルをカミングアウト。だが、セクシュアリティを公にしたことを「人生最大のミス」だと言う場面もみられました。そのことに対して「バイセクシュアルであることは自分の大部分を占めている。だけど、アメリカは宗教的に厳格だから、そのせいで私が目立ってしまった」と話しました。

今よりもLGBTQが受け入れられない時代で、自身のセクシュアリティを公にしたデヴィッド・ボウイは、今もなおLGBTQのアイコン的存在ともいえるでしょう。

トーベ・ヤンソン

世界中で愛されているムーミンの作家トーベ・ヤンソン(Tove Jansson)は、バイセクシュアルで同性と交際していたことを明かしています。

アーティストとしても、社会の規範的なジェンダーロールと闘い、常に自由を探究し続けていた人物です。2021年の映画『TOVE/トーベ』では、自身のアーティスト活動だけでなく、自由を渇望する彼女の恋愛や人生についても描かれています。戦時下にもかかわらず、自由奔放に生きる姿は今の私たちにも勇気と希望を与えることでしょう。

ホールジー

シンガーソングライターのホールジー(Halsey)は、さまざまなインタビューでバイセクシュアルであることを明かしています。2018年LGBTQ団体によるGLAADメディア・アワードを受賞したときには、セクシュアリティはフェーズではなく、人生の大半はコントロールできないものであることを話しました。

ルネ・ラップ

 

アメリカのシンガー、ソングライター、女優で、ブロードウェイ・ミュージカル『ミーン・ガールズ』と2024年の映画化作品のレジーナ・ジョージ役で知られるルネ・ラップ(Reneé Rapp)。2023年のインタビューで、バイセクシュアルであることを明かしました。「私はストレートではなかったけれど、自分のセクシュアリティにより人に笑われることにとても怯えていて、『The Sex Lives of College Girls』の撮影の最初の1年間はとても嫌だった」と語りました。

LGBTQのほか、女性の人権問題にも立ち向かい、現代の社会へのメッセージを歌う数々の曲をリリースしてきました。
関連記事「パンセクシュアルとバイセクシュアルは同じ説とは本当なのか?当事者が違いについて解説

有名人がカミングアウトする意義

「セクシュアリティをあえて公にする必要はない」という意見もあるかもしれません。しかし、有名人がセクシュアリティを公表することは、社会を変える大きな一歩になり得るのです。知名度の高い人がLGBTQの情報を発信することで、反響や世間の関心を引き、個人的な告白に留まらず、“社会”という単位での議論や話題へと広がります。

今の社会では「LGBTQ」や「クィア」といった言葉が以前と比べると浸透してきているものの、同性婚が法制化されていなかったり、いまだに既存の男女のあり方や異性愛が前提となるような認識が一般的とされています。つまり、LGBTQはまだまだ当たり前にいるという前提がないということになります。このような社会で大事なのが、正しいLGBTQの情報が十分に浸透すること。そして、少しでも多くの人に語られることです。

認知の幅を広げる作業の1つとして、セクシュアルマイノリティを自認している有名人がカミングアウトすることは意義のあることではないでしょうか。それにより、多くの当事者が「自分も同じなんだ」と安心感をもったり、カミングアウトしたくてもできない人が勇気づけられたり、よい方向に影響されることでしょう。また、今までLGBTQについて知る機会のなかった人にも、存在を知るきっかけを与えられます。

カミングアウトしていなくても、LGBTQをエンパワーメントするアーティストや芸能人は増えてきています。SNSやテレビなど、さまざまな場面で当事者、非当事者にかかわらず声を上げることで、徐々に浸透していくのです。

バイセクシュアルを公表している有名人まとめ

本記事では、日本、海外のバイセクシュアルを公表した有名人を紹介しました。影響力のある有名人がLGBTQをカミングアウトすることで、今までのイメージが変わったり、新しい概念と出会うこともあるかもしれません。

今回はバイセクシュアルを中心に紹介しましたが、そのほかにもさまさまなセクシュアリティが存在します。さらに、そのセクシュアリティのなかでも、性もあり方というのは多種多様。必ずしも同じでいなければならないことはないのです。それぞれがどのように自分を認識しているか、それを尊重する社会が今後求められます。