LGBTs

空衣

【解説】性同一性障害から性別不合へ-概念の変化について

【解説】性同一性障害から性別不合へ-概念の変化について
どうも、空衣です。
前回の記事に引き続き、「性同一性障害」の今後について解説していきます。
LGBTsのなかでいうと「T(トランスジェンダー)」に包括されますが、ここでは医学的な話がメインとなります。
実際のところ、私たちが生まれて一番最初に“性別を割り当ててくるもの”といえば医療と戸籍制度ですから、その取り扱いがどう変わるかによって、社会の中での性別の与えられ方も変化していくと言えます。それゆえ、医学的見地からの性の捉え方を語ることは非常に重要なことと考えています。

性同一性障害がどう変わるのか

「性同一性障害」の概念が定義されてから現在に至るまで、時間の経過とともに、その定義は刻々と変わり続けています。
そして今まさに起きていることとして、「性同一性障害」という概念が、より該当範囲を広げていく形で「性別違和(Gender Dysphoria)」や「性別不合(Gender incongruence)」という考え方へ移り変わっていることが挙げられます。
この二つは別の考え方のため、今回の記事では、性同一性障害が「性別不合」となったら何がどう変わるのか?をお話ししていきます。

関連記事【解説】性同一性障害から性別違和に呼び方が変わることについて

性別不合とは何か

誰が性別不合という概念を決めている?

「性別不合(Gender Incongruence)」という言葉は、WHO(世界保健機関)が世界中の医療や保険従事者に向けてわかりやすく作成している、ICDという基準のなかに登場する概念です。
ICDとは、英語でInternational Classification of Diseases and Related Health Problemsの略で、日本語では簡潔に「国際疾病分類」と呼ばれています。
ICDはたびたび改定されていて、第11回改訂版(ICD-11)で「性別不合(Gender Incongruence)」について言及されました。この基準の実効は2022年1月からですが、性別不合に加えて、新たにゲーム障害なども追加されています。

「性別違和(Gender Dysphoria)」を定義しているのが「アメリカ精神医学会」なのでこれらの呼称や概念は、そもそも定義している母体が異なるということになります。(性別違和について述べた前回の記事参照)

性別不合の定義とは?

では、「性別不合(Gender Incongruence)」はどのように定義されるのでしょうか。
『”その人が実感するジェンダー”と”指定された性別”の間に、著しい不一致が持続的に生じていること』により特徴づけられます。
もう少しかみ砕いて説明すると、ある人が自分のジェンダー(男女だけではなくXジェンダーなども含む)だと感じているものと、戸籍や身体的特徴など本人に割り当てられた性別が著しく一致していない状態が、一時的なものではなく持続的に起こっている状態と言えます。

そのため、”実感するジェンダー”や”指定された性別”が明確に区切られにくい思春期前には診断できず、あるジェンダーにおいて典型的ではない行動や嗜好(わかりやすく言うと男性っぽい趣味の女性など)があるからと言って診断を受けることもありません。

「身体違和」に焦点を絞り、身体治療を必要としている人が早急に医療を受けられることが主目的と言えそうです。

性同一性障害から性別不合になるとどう変わるのか

従来のように「精神障害」ではなく、「性の健康に関する状態(Conditions related to sexual health)」として取り扱われます。性機能不全(性行為ができない)や性疼痛症(性行為のときに痛みがある)などと同じ項目に移るのです。

項目が移った理由については、「性同一性障害が精神疾患である」ことによって、偏見などの社会的スティグマが高まり、かえって当事者が医療機関にアクセスすることを難しくしてしまっていたことが指摘されています。
性同一性障害=Gender Identity Disorderという名称だと、“Gender Identityがおかしい人”と見なされる危険性があったからです。当事者としては身体の方がおかしいから変えたいのに、アイデンティティーの方がおかしいだけだろう、という扱われ方をしたら堪ったもんじゃありませんよね。

性別違和と性別不合のちがいは?

では、まとめてみましょう。

  • 性別違和(Gender Dysphoria)は、DSM-5において、アメリカ精神医学会という民間団体が作った定義。
  • 性別不合(Gender Incongruence)は、ICD-11において、WHO(世界保健機関)という公的団体が作った定義。
  • 性別違和(Gender Dysphoria)は、精神疾患だけのリスト(DSMのことです)に含まれていることで、医療保険を受けやすくしている。
  • 性別不合(Gender Incongruence)は、精神疾患ではなく、「性の健康に関する状態」の項目に含まれている。偏見をなくしつつ、別の項目に移すことで医療ケアの受けやすさは残した。

性別違和と性別不合を定めているこの2つのマニュアルを統合する動きはあるものの、規定する機関や関わる人が異なるため、単純な統合は困難なようです。しかも、アメリカは2021年7月6日付で世界保健機関(WHO)から脱退すると、事務総長宛で正式に通知しており、直近で統合する可能性は非常に低いと言えそうです。
(ただし、アメリカの国連政策は政権によってコロコロ変わっているので永続的に統合が見込めないとは言えなさそうです。)

どちらも病気として定義することによる社会的な偏見はなくしたいけれども、病気ではないと定義されると医療が届かなくなってしまうのではないか?という葛藤があり、妥協案を打ち出したような印象を私は受けます。保険の適用は必要ですから、これらの考え方を医療と切り離すことはできないのです。

実は「同性愛」も似たような歴史を辿ってきましたが、もはや病気ではなく医療も必要としていないのでこうしたリストから外れたという点が、同性愛者とトランスジェンダーの方との違いです。

関連記事LGBT(LGBTs)って病気じゃないの?昔は病気、今は個性

医療を必要とする人が必要な処置を受けられる環境になるとともに、社会的な偏見もなくなっていくといいですね。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

参考文献:針間克己、『性別違和・性別不合へ』、緑風出版、2019

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
◎この記事を書いた人・・・空衣
1996年、神奈川県生まれ。性別も住処も旅してきました。

東京エリアのお引越し

Page Top