初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」について解説するため、表記が混在しております。

この記事では、LGBTの中のTにあたるトランスジェンダーについて簡単に解説します。

LGBはなんとなくわかるけど、Tはよくわからないという人も多いのではないでしょうか。この記事を読んでもらうことでセクシュアリティを構成する要素、トランスジェンダーとは何か、トランスジェンダーの人はどういったことに困っているのか、トランスジェンダー当事者のYouTuberがわかります。

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【基礎知識】セクシュアリティは4つの要素によって構成されている

セクシュアリティは下記の4つの要素によって構成されていて、それらを総称してSOGIもしくはSOGIEと呼ぶこともあります。LGBTという言葉だと自分とは関係のない話に思われるかもしれませんが、これら4つのセクシュアリティは全ての人に当てはめて考えることができます。

身体的な性別

生まれた時に医師より割り当てられる性別です。大半の人は男女どちらかに二分されますが、性分化疾患(インターセックス)と呼ばれ、男女どちらかに分類できない状態で生まれる人もいます。

 

自身に対する性の認識(性自認)

自分が自分自身の性別をどのように認識しているかについてです。男女どちらかである、もしくは男女両方である、男女どちらでもないなどさまざまな性自認を持った人がいます。身体的性別と性自認が一致している人もいますが、一致していない人もいます。

性的指向

どの性別を好きになったり、魅力を感じるかという項目です。一つの性だけでなく複数の性別を好きになる人もいれば、他人に性的な魅力を全く感じないという人までさまざまな指向があります。

性表現

服装や身につける道具などでどう性別を表現するかというのも重要です。たとえば以前はランドセルの色は男の子は黒、女の子は赤が基本とされていた時代もありましたが、現在では身体的な性別にかかわらずたくさんの色の中から自由に選べるようになっているようです。

またユニセックス(男女どちらでもない、もしくは両方を含む)なファッションを販売するブランドも増えてきており、以前のようにメンズ・レディースどちらからしか選べないという状況から変わりつつあります。

 

トランスジェンダーとは、生まれ持った身体的性別と自身に対する性の認識が異なるセクシュアリティ

トランスジェンダーとは、生まれ持った身体的性別と自身に対する性の認識が異なるセクシュアリティ
トランスジェンダーとは、生まれた時に割り振られた身体的性別と自分自身に対する性の認識(性自認)が異なる人のセクシュアリティのことを意味します。「性別違和を感じる人々の総称」と表現されることもあります。トランスジェンダーと性同一性障害の違い

トランスジェンダーと性同一性障害という言葉を混同してしまう人も多いかもしれません。しかし、この2つの言葉の意味は同じではありません。性同一性障害とは、医学用語であり、身体的性別と性自認が異なる人の中で、外科的手術やホルモン療法などによって自分が認識している性別に移行を希望している人のことを言います。つまり、トランスジェンダーという大きな枠の中に、性同一性障害に該当する人がいる、ということになります。

身体的性別と性自認の差というのは人によって大きく違うため、外科的手術やホルモン療法などを必要としない人もいます。そういった人々はトランスジェンダーであっても性同一性障害ではない、ということになります。

 

※性同一性障害、もしくはGID(Gender Identity Disorder)という表現について

これまでは性同一性障害という表現が使用されてきましたが、性別不合(Gender incongruence)や性別違和(Gender Dysphoria)という言葉に変更されるようになってきています。性自認は各人が自然に感じるものだと思うので、それを勝手に「障害」呼ばわりするのは病気だという印象を与えかねないですし、失礼極まりない話だと思います。

性別不合(Gender Incongruence)は世界保健機関(WHO)が定めた呼び方になり、性別違和(Gender Dysphoria)はアメリカ精神医学会が定めた呼び方になります。

 

トランスジェンダーとMtF、FtM、MtX、FtXの違い

トランスジェンダーの人で、生まれた時の性別が男性で、性自認が女性である人をMtF(Male to Femal)、トランスジェンダー女性と言います。生まれた時の性別が女性で性自認が男性である人のことをFtM(Femal to Male)、トランスジェンダー男性と言います。

この他にもMtX、FtXという言葉もあります。Xとは日本特有の表現である「Xジェンダー」という用語になります。

 

Xジェンダーとは

Xジェンダーの説明は、わかりやすいように『Xジェンダーって何?』という本から引用させてもらいます。

 

Xジェンダーとは、性自認を表す言葉の一種で出生時に割り当てられた男性もしくは女性の性別のいずれかに二分された性の自覚をもたず、自己の性別に関し、男女どちらでもない、あるいは男女どちらでもある、さらにはそれすらもどちらでもないといった認識を自己の性に対して持っている人々のことを指す日本独自の呼称です。Xジェンダーという言葉は、医学用語でもないですし、海外で使用されている訳でもありません。

 

性別違和を感じている人が、必ずしも出生時の性別と違う性別になりたいと希望している訳ではありません。例えば出生児の性別が男性で、男性であることに違和感を感じるものの女性になりたい訳でもなく、性自認が男女どちらかの性別に限定されない、という認識を持っている人はMtX(Male to X)と表現されます。反対に出生時の性別が女性の場合にはFtX(Female to X)という表現になります。

Xジェンダーについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事を参照してください。

 

LGBTsの中のXジェンダーってどんな性別?
https://iris-lgbt.com/blog/2022/05/02/xgenderinlgbts/

 

トランスジェンダーにもゲイやレズビアンやバイセクシュアルなどの人がいる

実はトランスジェンダーの人々にもゲイ、レズビアン、バイセクシュアルといった性的指向の用語が当てはまることをご存じでしょうか。さきほども記載させていただいたとおり、トランスジェンダーとは4つのセクシュアリティーのうち、身体的性別と性自認が一致していない人の名称ですが、性的指向を限定するものではありません。性自認と性的指向は必ずしもセットではありません。性自認が男性だからといって性的指向が女性に限定されないように、トランスジェンダーの人の性自認と性的指向も多様です。

 

例えば出生時の性別が女性で、性自認が男性で、性的指向が男性の場合、その人にとっては男性として男性を好きになっているのでトランスジェンダー男性のゲイと表現することができます。

 

反対に、出生児の性別が男性で、性自認が女性で、性的指向が女性の場合、女性として女性を好きになっているのでトランスジェンダー女性のレズビアンと表現することもできます。

男女両方の性を好きになる人の場合には、トランスジェンダーのバイセクシュアルということになります。

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トランスジェンダーの困ることや社会的問題点

トランスジェンダーの人は、幼少期から成人後まで、生活する上で様々な困難に直面します。ここではそうした困難の一例をご紹介します。

一人称

日本語の一人称は、性別で分けられるものがほとんどです。男性ならば「僕」「俺」、女性ならば「私」が一般的ではないでしょうか。トランスジェンダーの人は身体的性別と性自認が異なっているため、例えば身体的性別が女性で性自認が男性の人は「私」という一人称は絶対に使いたくないという人がいますし、反対に身体的性別が男性で性自認が女性の人は「僕」も「俺」もどちらも使いたくなくて困ったという人がいます。

服装

トランスジェンダー男性の場合、幼少期のころは絶対にスカートをはくのがいやで仕方がなく、兄のおさがりの男ものの服ばかり着ていたという人がいます。しかし、中学生以上になると学校の制服で男子は学ランもしくはブレザー、女子はスカートに分けられてしまうことがほとんどです。仮面をかぶって身体的性別を演じるために仕方なくスカートをはいたり、学ランを着ていたという人がいます。

社会に出た後も、周囲から男女どちらに見られるかを気にして本来感じている性自認とは違う服装を我慢して着ている人もいます。

学生時代の友達と恋人の境界

トランスジェンダーの人にとっては、身体的性別では異性にあたる人が性自認では同性にあたります。そのため本人としては同性として遊んでいるつもりでも、外から見たら異性とばかり遊んでいるため、女の子からは「男好き」「男遊びが好き」というような偏見を持たれてしまい、友達付き合いを中断せざるをえなかったという人がいます。

二次性徴期での身体の変化

二次性徴期から身体的性別の特徴が大きくあらわれてきます。女性の場合には生理が始まりますが、子供をうむつもりなんて全くないから生理なんて絶対にこないで欲しいと願い、実際に生理が始まるとあまりの嫌悪感に絶望してしまったという声があります。

反対にトランスジェンダー女性の場合、髭や体毛が生えてきたり、筋肉質で太い骨格になる、声変わりするといった男性的特徴が目立つのがいやで仕方がなかったという事例があります。

入浴や海水浴などの肌を露出する場面

入浴や海水浴などの裸を露出する際に困ってしまう場合があります。特にホルモン療法を行っている人の場合、身体的性別とは別の性別の特徴を持った身体になっていることがあります。そうした事情を知らないひとたちに裸を見せるのは大きな問題になりかねないため、旅先では大浴場に絶対に入らない、海水浴も絶対にしない、もしくはラッシュガードなどで隠せる場合のみ行うという人もいます。

 

男女どちらかしかないトイレ

最近では一部で「誰でもトイレ」「オールジェンダートイレ」もしくは男女の区別なく全て個室型といったトイレも用意されていますが、大半の施設では男女どちらかのトイレしか用意されていません。トランスジェンダーの人で身体的性別と服装などの性表現が一致してない人の場合、どちらのトイレに入るのかというのも大きな問題になってしまいます。性自認に関係なく、周囲の人々から不信感を抱かれないような選択を迫られてしまうのです。

就職がしづらい

就職する際にも困難がともないます。身体的性別を優先した性別で働くか、性自認を優先して働くかの選択を迫られることになります。身体的性別を優先して就職した場合、性自認とは異なる性別として仮面をかぶって働かなければならないため、とても大きなストレスがかかることが考えられます。

性自認の望んだ性別で働こうとする場合、会社側の理解と協力が不可欠になります。どの社員までトランスジェンダーであることを開示するのか、トイレや更衣室といった設備面での準備は必要ないかといった配慮が求められる場合もあります。

引っ越しがしづらい

健康保険証やパスポートなどの性別表記のある身分証が必要とされる場面で困ってしまいます。性別欄に書いてある性別と、外見から考えられる性別が一致していない場合に不審に思われてしまったりする可能性があり、トランスジェンダー当事者の人にはとてつもなく大きなストレスがかかります。具体例として、部屋探しや引っ越しがしづらいというのがあげられます。部屋探しや入居の際には身分証が不可欠なため、戸籍上の性別と外見上の性別の差異によっては不動産会社の人にトランスジェンダーであることをカミングアウトする必要がでてきてしまいます。

 

依頼する不動産仲介会社の担当者がセクシュアルマイノリティーに関する知識がなかったり、偏見を持たれてしまった場合、部屋探しにも支障をきたしかねません。そのため、当社のようにLGBTsフレンドリーな不動産会社でのお部屋探しがオススメとなります。部屋探しは生活と直結するとても大切なことですので、セクシュアリティーも含めて安心して話せる不動産仲介会社であれば、問い合わせのハードルが大幅に下がります。

 

トランスジェンダーに関する情報を発信しているYoutuber

トランスジェンダーに関する情報を発信しているYoutuber
トランスジェンダーに関する情報を発信しているYouTuberをご紹介します。

 

性別逆転夫婦/みむ&あゆむさん

 

https://www.youtube.com/channel/UC3UHZIlhix_L9K3zX5ESUrg/featured

 

名前にある通り、性転換したトランスジェンダー同士の夫婦が開設しているチャンネルです。性転換手術だけでなくホルモン療法や睾丸摘出などの情報を赤裸々に公開しているので、参考になる方も多いと思います。

 

ジーピットチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCqWyeSbf0fU9aCRiqbb2R8A/featured

 

トランスジェンダー専門のトータルサポート会社である株式会社G-pitが運営するチャンネル。性別適合手術に関する当事者の体験談などの情報が豊富で、2回手術をして元々の性別に戻した人など本当に様々なパターンのトランスジェンダー当事者の情報が公開されています。

 

タカハシタカシ

https://www.youtube.com/channel/UC4nWDqKVTfKACpHw5IAKy0g

トランスジェンダー男性のチャンネルです。ホルモン療法や性別適合手術などの記録を公開されています。幼少期からの人生を振り返って女子として生活しなければならなくて苦痛だったことの告白もあります。

 

なじゃ王国

https://www.youtube.com/c/%E3%81%AA%E3%81%98%E3%82%83%E7%8E%8B%E5%9B%BD/videos

トランスジェンダー女性のなじゃさんのチャンネル。なじゃさんは20代になってから性別違和を感じはじめ、当初は行う予定がなかったものの考え直してホルモン療法を開始しました。性別違和を感じていなかった学生時代のお話や、なぜホルモン療法を開始しようと思ったかなどをお話されています。幼少期や10代のころは性別違和を感じていなかったというトランスジェンダー当事者のお話は興味深いかと思います。

 

まとめ

LGBTの中のTにあたるトランスジェンダーについて解説させてもらいました。当事者ではない方やトランスジェンダー当事者が身近にいない人にとっては、トランスジェンダーのひとたちがどういったことに困っているのかがわからない方も多いと思います。トランスジェンダーに対して少しでも興味、関心を持っていただき、知識を深めるきっかけになれば幸いです。今回の記事では触れていませんが、性別違和に対する治療の保険適用条件や戸籍上の性別変更における条件など課題も存在しています。LGBT当事者は仮面をかぶって心を殺して社会生活を送っている人もいます。全てのセクシュアリティの人が幸せに生活できるよう願っています。

 

参考文献

荒牧明楽著『トランスジェンダーの私が悟るまで』NR出版

Label X編著『Xジェンダーって何?』

金城克哉著『となりのLGBTー初心者向けQ&Aー』玄武書房

石田仁著『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで』ナツメ社