タイでSRS(性別適合手術とも呼ばれる)を受け、自分らしく生きるための姿を手に入れたトランスジェンダー女性の齋藤亜美さん。しかし「性別適合手術を受けた後、麻酔から目が覚めてからの生活」にもある通り、想像以上の痛みや苦労があったと言います。

それから約1ヶ月が経過した今、どのような心境を迎えたのでしょうか。SRSを受け、無事日本に帰国した齋藤さんにインタビューを実施しました。LGBTお部屋探し

帰国後も痛みに耐える日々

ー帰国後、心境の変化はありましたか?

正直、タイでの生活に疲れてしまっていたのですが、現状は日本でも向こうと変わりない生活を送っています。というのも、形成した膣の穴が塞がらないように棒を入れるダイレーションという作業をずっと行っているのですが、それがめちゃくちゃ痛くて……。

ダイレーター(拡張棒)を1時間入れっぱなしにするのですが、帰国後もずっとやっています。今使っているダイレーターはまだ小さい方で、これからどんどんサイズアップしていきます。1番大きなダイレーターは私の指3本分くらいの太さで、直径18cmほどの長さです。今は15cmのものを使用しています。


ダイレーション器具

神経が繋がったり、傷を治そうとして穴が閉じちゃったりするので、最初の30分は痛みでずっと頭を抱えているような状態です。慣れてくるとずっと入れっぱなしでも大丈夫なのですが、タイにいた時はそのタイミングでサイズアップしたので心が折れてしまいました。

そんな生活を今もなお続けているので、帰国してからは戻ってきたという実感がありつつも、1回1時間かかるダイレーションを1日に2回しなければならないというつらさもありました。IRISの代表 須藤さんや同僚も迎えにきてくれたのに、疲れが勝ってましたね。

ーダイレーションを止めるタイミングはいつになるのでしょうか?

穴が安定するまでやらなければなりません。1番大きなサイズのダイレーターを使用してから1日2回を1回に減らし、その状態でも穴がきつくならなければ止められます。個人差はありますが、そのような状態になるには時間がかかるので、実質半永久的に行うことになるのかなと。

ー徐々に痛みも薄れてくるといいですけど……。

痛みの表現の仕方がすごい難しいのですが、ダイレーターを入れる時は腹痛のような痛みを感じます。慣れてきたら痛みは多少軽減されると思いますが、最初はやっぱりしんどいです。正直やるしかないんですけどね……。

ー痛み止めは服用していますか?

痛み止めは病院でもらっていますが、今はそんなに飲んでいないかな。痛みはもちろんあるのですが、痛いということは神経がしっかり通っているということです。聞いた話によると、仮に性交渉をした時でも今痛みを感じているのなら、それはいつか気持ち良くなると。本当かよ……と思いつつ、今はこの痛みは変わるんだと言い聞かせるしかないです。


チェックアウト時

日本ではどのようにして過ごしている?

ー帰国後、定期的にやるべきことはありますか?

膣の中を生理食塩水で洗浄します。生理と同じ感覚かはわからないのですが、いきなり膣から水が出てきてしまうので、タイでのホテル生活から現在まで、毎日24時間ナプキンをつけて生活しています。

生理なら1週間で終わると思うのですが、それがずっと続いているような状態。今は横になって過ごすことが多いので、ずっとナプキンをつけていると肌が蒸れてしまうので、早く今まで通りの生活に戻れば良いなと思います。

ータイでの手術でしたが、日本ではアフターケアなどもあるのでしょうか?

何かあった時はアテンド会社に連絡ができます。患部を写真撮って状況を含めて送ったり、極論、病院を紹介してくれたりも可能だそうです。


帰国時

ーSRSを終えて、日本ではどのような生活を送っていますか?

この前1回だけ会社に顔を出しましたが、基本的には家での生活かな。午前と午後中に1回ずつダイレーションを行うので、合間に買い物に行くくらいです。たまに友人に会うこともあります。長時間会うのは難しいので、今は少しお茶するくらいです。LGBTお部屋探し

SRSを受けたい人に向けて

ー今までの連載記事ではSRSは1つのゴールとおっしゃっていました。このゴールを達成した今、今後について考えていることはありますか?

今後、何をするかはまだわかりません。MtF当事者は、次のステップとして声を変えたり豊胸したりすることが多いです。私もやろうか悩んでいますが、周りからはやる必要がないと言われているので、現状は考えていません。

なので今はダイレーションに慣れて、12月に向けて社会復帰することを目標にしています。あとは、本格的に戸籍上の性別も変えようかと思っているので、そのために必要な診断書を取りに行ったり、手続きしなければならないなと漠然と考えているところです。


タイにいた時の齋藤さん

ー一般的には、SRSを受けたトランスジェンダーの方はそれまでと同じ会社に復帰するのか転職するのか、どちらのケースが多いですか?

理解のある会社なら同じ会社に戻れると思うのですが、大体は転職している人が多い印象です。現状、SRSを受けるために休業扱いしてくれる会社は少ないように感じますね。

私自身、在職中にタイでSRSを受けられたのは、IRISに理解のある人が多いのはもちろん、ここで4年間頑張れたからこそ後押ししてくれたという側面もあるのかなと。なので、ほかの会社でもこのように後押しされるような人材でいられたら、可能性は0ではないのかもしれません。

ー会社に戻ってきてほしいと思われるような人材だから復帰できると。

そうですね。復帰するために会社も尽力してくれるのかなと。社会的な理解度と本人の頑張り次第だと思います。逆にSRS後に転職した私の友人は、休職制度もないので無理だと断られてしまったみたいで……。結局会社を辞め、今は新宿二丁目のバーで一旦繋いでいるようです。

ー同じようにSRSを検討している人もいると思うのですが、その方たちに言えることがあるとすればなんと声をかけますか?

一概にも手術を受けるべきだとは言えないので、1度立ち止まって考えるべきだとは伝えたいですね。ただ、やるなら若いうちにやるのが良いのかもしれない。若い人の方が手術をした後の回復が早いのと、早い段階で戸籍上の性別を変えることで今以上に恋愛や仕事に思いっきり踏み切れます。

もちろん手術ができる環境が整ってからですが。できない環境なら、今のうちに準備を始められると良いのかなと。