職場でカミングアウトをする・しないという選択は人それぞれです。仕事にカミングアウトは必要はないと考える人がいる一方で、人生の大半を過ごす職場で自分らしく過ごしたいという人もいます。
特にトランスジェンダーが就活・職場で直面する問題は、シスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が一致している人)の人たちが普段生きている中で衝突しないことでもあり、なかなか表面化しづらい現状があります。
トランスジェンダー女性の齋藤亜美さんは、これまでに2回の転職を経験。現在は、LGBTsフレンドリーな不動産会社「IRIS」で営業に携わっています。
『トランスジェンダーとして生きてきた軌跡 〜私らしく生きる選択 - 性別に違和感を持ってから私が手術を受けるまで〜』vol.11では、齋藤さん自身の仕事での経験とカミングアウトについて話を伺いました。
男性として働くことを決意
ー就活ではカミングアウトしていましたか?
カミングアウトはしないまま就活していました。当時は思い切ってトランスするか悩んでいたのですが、やっぱり気持ち的にできなかったんです。親を安心させるために、男としてバリバリ仕事をして稼いで生きていく。そういう気持ちがありました。
男として社会生活を送りながら、1人の時はレディースの洋服を着たり、メイクをしたりすれば良いと思い、実家から出て一人暮らしをすることをモチベーションにしていました。なので、当時は一人暮らしができるくらいに稼げる仕事に就きたいという思いで就活していましたね。
ーどんな会社に入社しましたか?
1社目は引っ越し系の会社で営業をしていました。2社目は、全く業界が変わって専門商社です。主にアルミニウムを取り扱っていて、海外から仕入れたものを日本に卸す仕事に関わり、海外出張などもありました。
ー職場ではトランスジェンダーであることを伝えていましたか?
男性として働いていました。1社目はある程度お金が貯まったら辞めて、女性として働けるバイト先を探そうかと思っていました。ただ、私自身人と話すのが好きなこともあり、営業職が楽しくなっちゃって。結局3年くらいは働いていました。
「私の普通で生きる」
ー2社目に転職してからはどうでしたか?
途中で気持ちが変わったんですよ。20代前半までは、女性と結婚して子供をつくることが親孝行だと思っていたので、女性と付き合うこともありました。2社目にいた頃、当時お付き合いしていた方がいて、私は「子供を親に見せられたら良いな」と思っていました。
しかし、一人暮らしの家に隠していた私物のレディース服やメイク用品が彼女に見つかってしまい、面倒くさくなるのが嫌だったので別れようと伝えたんです。そしたら、彼女は感づいたのか「もういいから」と言ってくれて。
ですが、私はバレてしまったので彼女の気持ちを無視するような態度をとってしまったので、1ヶ月ほどは関係性がゴタゴタしてしまいました。それでも彼女は一緒にいたいと伝えてくれて。そんなに言ってくれるのなら、もしかしたら私のことを受け入れてくれるかもしれないという希望を持つようになりました。
ーその後、自身のアイデンティティに対する捉え方は変わりましたか?
ふとした瞬間に彼女から「普通だったらよかったね」と言われました。その言葉を聞いてすごく傷ついてしまって。落ち込んだと同時に、「それはあなたの普通であって、私にとっての普通ではない」という考えが生まれました。
「私は私の普通で生きていこう」と思ったのが、20代前半くらいです。2社目で働きながら、1~2年後には自分らしい姿で転職することを決意し、会社にはバレない程度に髪を伸ばしていました。ホルモン注射も定期的に打つことを決心し、周りにもカミングアウトし始めた頃です。そして、3社目は今の会社IRISに入社しました。
職場でのカミングアウト
ーカミングアウトをしてどんな反応が返ってきましたか?
2社目にいた時は、1個上の仲の良い先輩にカミングアウトしました。それが理由で転職することも伝えると、とても肯定的でしたし応援してくれました。
全員にはカミングアウトしていませんでしたが、うっすらと髪の毛も伸ばしていたので、のちに聞くと担当していた取引先の人は気づいていたようです。表に出していたわけではないものの、みなさん当たり前のように接してくれたということを知り嬉しくなりました。
ー就職先でカミングアウトするかどうかについて悩んでいる人も多いように感じます。職場でのカミングアウトについてどのように考えていますか?
個人によると思います。カミングアウトが難しい職場なら、無理にする必要はないのではないでしょうか。トランスジェンダーもグラデーションなので一概にこうすべきということは言えませんが、これから変わりたいという人であれば、まずは信頼できる人に話してみるのも良いかもしれません。
信頼できる人を見つけるためには、普段の会話から偏見があるかどうかを見極めるのも重要です。なので、この人なら話しても良いかもなと思う人を1人でも見つけて、まず話してみてください。1人でも理解者がいるだけで、精神的に楽になれることもあるので。
ー何かきっかけがあってカミングアウトする人もいると思います。その線引きなどはあるのでしょうか。
会社で必要とされる人材になれば、その人がいなくなっても会社にとって不利益になるので寄り添ってくれる印象はあります。理解してくれるような環境でカミングアウトする場合もありますし、自分が会社を変える気持ちがあるからこそカミングアウトする人もいるのではないでしょうか。
後者の場合、メンタルやバイタリティが強くないと難しいと思うので、大体前者を選ぶ人が多いのかなと思います。なので、当事者の性格や状態にもよる気がします。あとは、カミングアウトしていない状態でいることで、相手を騙しているような気持ちになる人もいるのではないでしょうか。
実際に、カミングアウトしてから気持ちが晴れたという人をよく見ます。ですが、必ずしも誰もが理解するわけではないので、逆に周りを不快にさせてしまう可能性もあるので、一概にもカミングアウトすべきとは言えないです。