今でこそ「トランスジェンダー」という言葉を耳にする機会が増えましたが、SNS上では実態とは異なる“当事者不在”の議論がなされることも珍しくありません。
トランスジェンダーとは、生まれた時に割り当てられた性別とは異なる性別を生きている人のことを指します。2019年に18〜59歳までの15,000人の市民を対象に行われた「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」によると、トランスジェンダーの割合は全体の0.7%とされています。
人口の1%にも満たないことから、トランスジェンダーの立ちはだかる問題が正しく表に表れないという現状があるものの、学校や職場、公衆の場など、普段の生活の中で苦しめられる人たちはどこかにいます。
日本では、トランスジェンダーひいてはLGBTsに関する法律は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、性同一性障害特例法)」しか存在しません。この性同一性障害特例法では、性同一性障害者のうち「特定の要件」を満たす人を対象に、戸籍上の性別を変更することが可能となります。ここでいう「特定の要件」とは、以下の通りです。
- 18歳以上であること
- 現に婚姻をしていないこと
- 現に未成年の子がいないこと
- 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
- その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること
これら5つの条件を全て満たすことは、当事者の社会的、心理的苦痛を伴う場合もあり、戸籍上の性別を変更することは「高すぎるハードル」とされています。
トランスジェンダーと一言で表しても、当事者の中には性別適合手術(以下、SRS)を望む人や望まない人など、さまざまな状態の人がいます。そのため、条件4の「手術要件」の必要性も問われています。
また、条件1の「年齢要件」で示されている通り、18歳以上(つまり、成人以上)になれば戸籍上の性別を変更することはできるものの、手術要件を満たすための数百万円にも及ぶ費用を用意できるのは、実質就職後になることは容易に想像できるでしょう。つまり、実質「在職トランス(在職している途中で性別移行を行うこと)」となるため、職場の理解度に頼らざるを得ない状況下に置かれるということです。
このように、トランスジェンダー当事者の中でもSRSを望む人は少なくないですが、高額な手術費用が必要であったり、「在職トランス」の場合は長期に渡る休暇を取る必要があるものの、ホルモン治療やSRSを受ける際の休暇制度がない会社では、仕事への復帰が困難となってしまったりなど、仕事を続けながら戸籍上の性別を変更することは容易ではありません。
一部の外資系企業などでは、制度としてトランスジェンダー当事者を支援する動きもありますが、日本ではほとんど目が向けられていない現状があります。また、モデルケースや前例が少ないことから、当事者が身近に情報交換できる場もありません。
そのような状況を問題として捉え、IRISでは「自分らしくをあきらめない」ことを前提に働く人にも自分らしく働いてほしいと考え、行動しています。そこで、IRISでは、当たり前に自分らしくあるための行動が取れるモデルケースとして、連載「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡〜私らしく生きる選択 - 性別に違和感を持ってから私が手術を受けるまで〜」を始動。連載では、IRISで働くトランスジェンダー女性の齋藤亜美さんの人生を追いながら、今年夏に控えるSRSを通して見える、過去そして未来の人生について発信していきます。