どうも、空衣です。FtM(トランスジェンダー男性)でパンセクシュアルです。

今回は筆者が性同一性障害(FtM-GID)の診断をされるまでの実話をお話しします。といっても、これは個人的な情報ですので当時とは情報も変わりつつあります。

もし自分もそうなのでは?と感じたら、ぜひ最新情報をチェックしてみてください。

「性同一性障害」とは

「性別違和」「性別不合」へ名称変更しましたが......

まず初めに大事なことなのですが、2022年現在では「性同一性障害(Gender Identity Disorder,略してGID)」という名称は使われなくなりました。類似する概念として、「性別違和Gender Dysphoria」「性別不合Gender Incongruence」に移行しています。

本記事では、「生まれた時に与えられた性別に違和感を強くもつ人(トランスジェンダー)で、医学的に診断された際の名称」を、筆者が診断を受けた当時の名称で「性同一性障害」と記述して説明します。

私は性同一性障害だろうか?

正直な話、私は「自身が性同一性障害である」という認識に至ることがありませんでした。というのも、テレビや本などメディアに登場する性同一性障害の人たちはとても苦しそうというイメージがあったからです。しかも、性別二元論に忠実で「自分は絶対に男性である」という確信を持った人しか、「FtM」として認められないのではないか、というイメージを持っていました。

私も幼少期から性別というものが何なのかわからず、少なくとも女性という与えられた性別を持てあましていましたし、薄気味悪いもののようにも感じていました。では「性同一性障害なのか?」と言われると、きっとそうではない、と別物として捉えていました。

それに、常々「男になりたい」とは思っていても、「男である」と思えていなかった自分は、やはり性同一性障害の診断基準(持続的に男性だと自認している状態)に合致しないのかもしれません。そのため当事者感がありませんでした

ジェンダークリニックへ電話する

いよいよ行動に移したのは、もはやこのままでは生きていけない、と全てに煮詰まってしまっていたからです。当時好きだった人に「そんなに女でいるのが嫌なら男になればいいのに」と言われ、その翌日に「本当にそうかもしれない」と思い至りました。

そして友人にトランスジェンダーの知り合いを紹介してもらい、その人の教えてくれた有名なジェンダークリニックに電話しました。月初めに電話して、初診の予約が取れたのはその月の後半になってからでした。覚悟を決めたら一刻も早く治療したかったので、ジェンダークリニックに通うまでに3週間、そして性同一性障害の診断と念願のホルモン注射まで半年かかったのはとてもじれったかったです。地方ではそもそも診断してくれる医療機関がなかったり、場所によっては数ヶ月待たされる可能性もあります。

性同一性障害の診断を得るまで

精神科医に何を話すのか

ジェンダークリニックでは自分の生活、自分の性別をどう捉えているのか、治療をどこまで希望するのか、などを精神科医に聞かれました。筆者の目的はホルモン投与を開始することだったので、性同一性障害診断書に関してはとくにこわだりがありませんでした。

しかし診断書があることで、自身の不安定な心情が少しは良くなるのでは?という思いや、他の地域へ引っ越したときに治療の話を進めやすいという利点があると考え、ガイドラインの手順を踏み進めていきました。

参考 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン

自分史とは

初診の際にあらかじめ用意していた「自分史」も持参しました。

「自分史」とは、トランスジェンダーの人が小さい頃から今までどのような性別違和を抱いていたのかを記した紙です。A4用紙の両面くらいの分量を書きました。

「私は1996年神奈川県で生まれました。幼稚園の頃、こういうことがあり~。小学校では~。」と時系列で性別違和ベースで記述しました。性別にまつわるエピソード以外はとりたてて書く必要がないと思います。

例えばFtMの場合、「男の子と遊んでばかりいた」「周囲に男性だと思われる方が嬉しかった」「胸が膨らむのが気持ち悪かった」というようなエピソードがあるかと思います。自身の恋愛や性生活にまつわる内容まで掘り下げざるを得ない場面もあるでしょうから、人によってはこの時点で精神的苦痛が伴う場合もあります。

残念なことに、医師の中にもトランスジェンダーへの偏見を持っている人もいます。「FtMということなら、女の子が好きなんでしょう?彼女はいるの?」というように、FtMのゲイ(トランスジェンダーかつ同性愛者)などの存在を想定できていない、というパターンです。「自分が性別をどう実感しているか」という性同一性の話と、「自分はどの性別に惹かれるか」という性的指向の話は別物ですから、混合しないでほしいところです。

性同一性障害診断書のもらい方

診断までどんなペースで進むのか

2週間~1ヶ月に1回ジェンダークリニックに出向いて、「自分史」に沿って詳細なインタビューがされました。そうはいってもジェンダークリニックの数は少なく、待合室で待っている人もいるので、1回わずか10分程度の短い時間が多かったと思います。

最終的に性同一性障害の診断が出そうになった段階で、婦人科で下半身の検査を受けることになりました。これも身体的な嫌悪感の強いトランスジェンダーの人にとっては、かなり嫌な過程かもしれません。治療前の身体は「女性のそれと同様である」と判定されたうえで、男性化の治療が可能になるのです。

(性別不合の概念に移った場合、こうした男女を2つに分けるやり方はおそらくされなくなるのでは、と私は予想します。)

ついに性同一性障害の診断書が届く!

私が通っていた都内のジェンダークリニックでは、そのクリニックだけで医師2名による診断が降りる、という恵まれた場所でした。その1箇所のジェンダークリニックにて自分史をもとに現在までの性別違和の状況を語ったら、今度は認定が降りるまで1ヶ月弱待たされました。会議があって、そこでの承認が必要、という手順でした。

GID学会認定医一覧

そしてまだ連絡はないのだろうか、と治療開始をじれったく待っているとき、自宅のポストに郵便物が届きました。封筒の中に、紙が入っていました。「性同一性障害診断書」と聞くと、学校の卒業証書のような、何か公的な証明書が届くのかと思いきや、拍子抜けするほどただの「説明文が記された普通のコピー用紙」でした。こうして私は「性同一性障害診断書」を入手しました。

性同一性障害の診断後どうする?

私は治療過程でホルモン投与と胸オペを始めから希望していたので、「胸オペの国内治療許可」も性同一性障害の診断と同時にもらいました。通院11回目でようやくホルモン投与を開始することができました。なぜ自分の治療のために、「他人の許可」が必要なのか悩ましいところですが、何はともあれ治療にアクセスしやすくなったのは嬉しかったです。

診断書を得るまでの期間としては、8月に通院開始し、翌年2月までの半年間かかりました。診断が下りてからは、2週間に1度ホルモン注射に通っていました。保険適用外のエナルモンデポー筋注125ml”890円と診察代1210円の、合計2100円を支払うことが多かったです。ちなみに別の病院では診察代がほとんどかからなくなり、実質安くなりました。

正直「自分がもっと思い切りがよければ、こんなに丁寧に時間をかけずに進められたのに」と悔やむ思いもあります。もちろん治療に進むか迷っている人はその限りではありませんし、ゆっくり考えた方がいいと思います。

ですが筆者の場合、絶対に治療するという意思は固まっていて、性同一性障害といった名目は気にしていなかったので、時間をかけすぎてしまった気がします。

しっかりと自分を見つめ、皆様が最高の選択ができることを願っております。

以上、性同一性障害の診断を得るまでを振り返ってみました。

IRISではトランスジェンダーの方も心地よくお部屋探しできるようお手伝いさせていただきます。お気軽にご相談ください。