同性カップルと聞くと、何を思い起こすでしょうか。
昨今ではドラマや漫画、小説などで同性カップルが主役として描かれる作品は多くありますし、ニュースやSNSで同性カップルが存在することを知った人もいらっしゃるかもしれません。
セクシュアルマイノリティ(性的少数者)、LGBTsといったこれまで存在すら認知してもらえなかったマイノリティ(少数者)を可視化する単語は、社会に浸透しているように感じられる方も少なくないと思います。
また、昨今では選挙の争点に同性婚が登場することも少なくありません。
果たして日本において同性カップルは異性カップルとなんら変わりなく暮らせるのでしょうか。
また、同性カップルが現実的にはどの程度受け入れられているのか考えてみます。
同性カップルとは? 定義と背景
同性カップルについて説明する前に、性自認(Gender Identity)と性的指向(Sexual Orientation)を意味するSOGIについて解説します。
性自認(Gender Identity)
人の性別は生まれ持った性別と、自分で認識する自身の性別である性自認の2つに分けて考えることができます。
生まれ持った性別と自身が認識する性別が同じ人はシスジェンダー(Cisgender)、異なる人はトランスジェンダー(Transgender)と呼ばれます。
たとえば、生まれ持った性別が女性で自身で認識する性別が女性である人はシスジェンダー女性、生まれ持った性別が女性で自身で認識する性別が男性である人はトランスジェンダー男性と表現されます。
シスジェンダーの女性のことをシス(ジェンダー)女性、トランスジェンダーの男性のことをトランス(ジェンダー)男性と表記されることがあります。
性自認は男性と女性以外に、性自認が男性女性どちらでもないと感じる人や、その時々によって揺れ動く人など、さまざまな性自認を持つ人がいます。
性的指向(Sexual Orientation)
どの性別に対して恋愛感情や性的欲求が向くかを意味します。
最も一般的なのは、異なる性別に対して恋愛感情を持つヘテロセクシュアルです。
性自認が男性の人が同性に恋愛感情や性的欲求を持つ人をゲイと呼び、性自認が女性の人が同性に恋愛感情や性的欲求を持つ人をレズビアンと呼びます。
また、同性だけでなく男性女性両方の性に恋愛感情を持つバイセクシュアル、どんな性別に対しても恋愛感情を持たない、持ちづらい人をAセクシュアル(アセクシュアル・エイセクシュアル)やアロマンティックという人もいます。
同性カップルとは
同性カップルの場合、性自認が男性同士、もしくは女性同士で恋愛関係にある2人となります。
性自認がベースのため、トランスジェンダー男性、トランスジェンダー女性も含まれます。
具体例として、男性の同性カップルとしては以下のような組み合わせが想定されます。
- シスジェンダー男性とシスジェンダー男性
- シスジェンダー男性とトランスジェンダー男性
- トランスジェンダー男性とトランスジェンダー男性
日本における同性愛の歴史
同性愛の歴史は非常に古く、日本では男色、衆道といった言葉で知られています。720年の「日本書紀」、それ以降の「万葉集」「源氏物語」にはごくあたりまえに登場していたことからも特別なものではありませんでした。
有名人では織田信長、徳川家康、武田信玄、伊達政宗、松尾芭蕉などが男色を行っていたと言われています。
しかし列強に追いつこうとする明治時代の日本では、西洋で禁止されていた同性愛に対する考え方を取り入れていきます。大正時代に入ると、男色は病気と呼ばれるまでになってしまいました。
海外における同性愛の歴史
海外では、紀元前300年代に古代ギリシャに登場した150組の男性カップルで組織され、最強の歩兵部隊と呼ばれた「神聖隊」のエピソードが特徴的です。古代ギリシャ以外でもインド、マヤ、ローマ、エジプト、中国などのさまざまな場所で同性愛が確認されています。
あのナチス・ドイツの首都でもあるベルリンでは、1920年代に同性愛者だけでなく、トランスジェンダーなどさまざまなクィアが集まる店が100軒前後も登場するほどに自由な都市だったそうです。しかし、その後は同性愛者を逮捕・処刑するなど非人道的な扱いが行われました。
近代でLGBTsの権利回復に大きく関係する事件として、1969年6月28日ニューヨークにあったゲイバー「ストーンウォール・イン」で起こった警察の踏み込みに対するLGBTs当事者達の抵抗運動「ストーンウォールの反乱」があげられます。
現在毎年6月が「プライドマンス」と呼ばれている理由でもあります。
同性カップルの社会的認知の現状
同性カップルの社会的認知について、メディアの役割と著名人の影響について記述します。
メディアの役割
社会的認知に大きく影響を与えるメディアにおいて、同性愛や同性カップルはどのように描かれてきたのでしょうか。
まずあげられる負の側面としては、同性愛者を笑いの対象として扱ったコンテンツでしょう。
バラエティ番組内で登場した「保毛男田保毛男」「轟さん」といった役は男性同性愛者の役柄で笑いを取ることを目的とし、同性愛者は嘲笑の対象であると解釈されかねない設定が問題視されました。
また男性を好む男性として「おネエキャラ」「おしゃれ好き」「マッチョ」として描かれり、多数派から外れた変わり者として描かれることも少なくありませんでした。
一方、ごく当たり前のように同性愛者を登場させることで社会の同性愛認知に貢献したと考えられる意見もあります。
例えば1993年に放映された「同窓会」「あすなろ白書」といったドラマでは周囲にゲイであることを認知されずに成長してきた男性が登場します。
2000年以降では「おっさんずラブ」「きのう何食べた?」、海外ドラマでは「Lの世界」など同性カップルの日常をリアルに描いて大ヒットした作品が次々と誕生し、あたりまえに存在するものとして同性カップルの認知向上に寄与したとも言えそうです。
著名人の影響
日本で著名な同性カップルとして、以下の2組の女性同士のカップルがあげられます。
- 東小雪さん(元タカラジェンヌ)&増原裕子さん(会社経営者)
- 一ノ瀬文香さん(吉本興業所属のタレント)&杉森茜さん(ダンサー)
東小雪さんと増原裕子さんは東京ディズニーリゾートで初めて同性挙式を行いました。
渋谷区のパートナーシップ制度を利用して同棲していましたが、2017年にパートナー関係が解消となり、パートナーシップ証明書は渋谷区に返却されています。
一ノ瀬文香さんと杉森茜さんは2014年に結婚報告会見を行い、2015年に挙式。
婚姻届は不受理だったものの事実上の結婚生活を送ってきましたが、2017年に破局を公表しています。
海外ではアスリート、ミュージシャン、俳優と数多くの同性カップルがメディアに登場していますが、日本においてこうした例はごく限られているのが実情です。
同性カップルの法的な認知と権利の現状
同性カップルの法的な認知と権利の現状について、以下の3つの項目を記述します。
- 結婚平等に向けた動き
- 同性婚以外の同性愛者に対する法的な権利と保護の現状
- 日本のパートナーシップ証明制度とは
結婚平等に向けた動き
日本では同性間で結婚することができず、地方自治体の制度であるパートナーシップ制度を利用することしかできません。
日本以外の国々では同性カップルに対しを同性婚を合法化、ないし結婚と同等の権利を認める動きが進んでいる国が多くあります。
日本以外のG7が同性婚、もしくは結婚と同等の権利を認める登録パートナーシップ制度等を採用した年度を以下でご紹介します。
2001年 | ドイツ(登録パートナーシップ制度導入、2017年に同性婚導入) |
2005年 | カナダ |
2013年 | フランス |
2014年 | イギリス |
2015年 | アメリカ |
2016年 | イタリア(結婚に準じた権利を認める) |
同性婚以外の同性愛者に対する法的な権利と保護の現状
同性間で婚姻関係を認める同性婚以外にも、法的に保護をしたり、権利を保障したりする方法があります。
例えば上記でご紹介したイタリアでは同性婚は認めていないものの、「シビルユニオン法」で結婚と同等の以下のような権利を保障しています。
- 姓の共有
- 相続権
- 病院の面会権
- 医療決定権
一部キリスト教の教えでは同性愛を罪、自然に反する行為とされていますが、ローマ・カトリック総本山バチカンのお膝元であるイタリアですら同性カップルに法的保障を与えたことを考慮すると、日本は同性愛者に寛容であるとは決して言いづらい側面があります。
日本のパートナーシップ証明制度とは
日本で行われている通称パートナーシップ証明制度は、地方自治体が主体とした制度あり、法律ではありません。
申請した2人の関係をパートナーだと自治体に申請し、自治体が証明書を発行してくれるといった制度です。
そのため、その地方自治体から引っ越してしまうとパートナーシップ証明が失効しますし、そもそもパートナーシップ証明制度では法的保障が与えられていないといった問題を抱えています。
それでも、結婚の平等が法的に認められていない日本において、同性カップルにたいして追い風の動きであることは確かです。
同性カップルの社会的受け入れの現状
同性カップルの社会的受け入れの現状に関し、以下の3つの項目を記述します。
- 地域差
- 企業の取り組み
- 世代間ギャップ
地域差
同性愛や同性カップルに対する受け入れの違いはどうでしょうか。
人の数が多く、近所に住んでいる人の顔や名前も知られないことが多い都心部の方が同性カップルには暮らしやすいという意見が見聞きされます。
実際、周りに性的マイノリティがいるかを調査した結果では、「いる」「そうかもしれない人がいる」と回答した人が南関東、近畿の順に多く、都市部の方が性的マイノリティを身近に感じている人の割合が高くなっています。
実際、ある女性同士の同性カップルは、地方都市では保守的考えをもっている人が多数占められていた場合、出先や職場、医療機関の受診情報などが地域の人たちに共有されてしまうという恐怖を感じると仰っています。
ただし、地方では必ず同性カップルに対して偏見を持たれてしまうというわけではもちろんありません。
ある男性同性カップルは、地方移住し、2人の関係が恋人であることを公にした上で、地域住民から大好きな農作業を学びながら、ご近所の人々との交流を楽しんでいるという事例もあります。
企業の取り組み
労働人口の減少が叫ばれる日本では、マイノリティを含む多様な人材を獲得し、長く活躍してもらうべく取り組んでいる企業がいくつもあります。
LGBTs研修を行うだけではなく、同性パートナーがいる人は、社内規定で結婚と同等の福利厚生を適用できるよう社内環境を整備した企業は少なくありません。
また「LGBTsフレンドリー」を標語として掲げていた企業が、現在では「ダイバーシティ(多用性)、インクルージョン(包括性)、エクイティ(公平性)」といったキーワードでセクシュアルマイノリティだけではなく障害を持った人、海外にルーツを持つ日本人など、さらに幅広い視点で働きやすい環境づくりに取り組む企業もでてきています。
また社内でLGBTs当事者やアライ(LGBTs当事者ではないが支援をする人)のコミュニティを支援したり、相談窓口を設置して職場での心理的安全性を担保し、より安心して働いてもらう取り組みを行なっている企業もあります。
世代間ギャップ
若年層と中高年層との間に同性愛に対するギャップを調べてみました。
「LGBTsの知識と理解に関する世代間格差」という調査では、高校生と中高年に対してアンケート調査を行った結果、LGBTsを受け入れる割合が高く、中高年の方が低くなっています。
「世界価値観調査」という調査においても、20代、30代、40代、50代、60代以上の世代別寛容度を調べたところ、年齢が上がるにつれて同性愛への寛容度が下がっていくことが明らかになっています。
2つの調査から高校生や20代の若者は同性愛に対し寛容度が高い結果になっていますので、こうした世代の声や感性が今後の日本における同性愛への理解促進の鍵となりそうです。
同性カップルを取り巻く課題
以下の2つの視点から記述します。
- 差別と偏見
- 法的な課題
差別と偏見
同性愛や同性カップルに対する偏見・差別はさまざまな場面で見られます。
学校においてはホモ、レズ、おかま、気持ち悪い、などと心無い言葉をかけられることがあります。
「同性愛は普通ではないから誰にも言えない」と悩んだまま自殺してしまう場合もあります。
成人して社会に出た後では、同性カップル向けのお部屋探しが難しかったり、会社内で同性愛者であること、同性パートナーがいることを隠しつづけなければならない、「なんで結婚しないの」「彼氏(彼女)はいるの」「そっち系じゃないよね」と侮辱的な言葉をかけられたり、退職に追い込まれてしまうことがあります。
法的な課題
同性間で結婚することができない国では、以下のような法的課題があります。
- 同性カップルで子育てをしたくても片方しか親権が認められない
- 相続権がないため対策をしないと全財産を奪われてしまうおそれ
- 病院で家族として認められず、病状説明や面会を拒否されるおそれ
- 国籍の異なる同性カップルの場合、配偶者ビザが与えらない
- 法的家族ではないため、扶養家族や遺族年金から外されてしまう
また、日本ではセクシュアルマイノリティに対する差別禁止が法律で定められておらず、中途半端な「理解増進法」しかないことを問題視する意見もあります。
同性カップルの社会的認知を高める教育
学校や家庭でLGBTsに関する教育を行うことで、同性カップルに対する差別や偏見を減らすことにつながるでしょう。
日本ではLGBTsに関する教育は義務ではないため、あくまで教科書や教師の方針で教育が行われない可能性があります。
フランスでは歴史・生命倫理など多様な角度からLGBTsなど性の多用性について教えられています。
また、オランダでは初等教育でセクシュアリティと性的多様性について教えています。
まとめ
日本ではLGBTsやセクシュアルマイノリティといった言葉は定着し、一部では自主的にLGBTs教育・LGBTs講習なども学校や企業で行われるようになってきました。
都市部格差、年代格差などはあるものの、若年層におけるセクシュアルマイノリティへの認知度や寛容性は高まっています。
しかし、同性カップルが安心、快適に生活できるとは言いづらい環境と言わざるをえません。
地方自治体が主体となって、パートナーシップ制度が急速に普及してはいるものの、同性間で婚姻関係を結ぶことができません。
夫婦と同等の権利を法的に保障されることもありませんし、セクシュアルマイノリティに対する差別禁止法もないため差別や偏見といった悪意にさらされてしまう事態が起こっています。
しかし、確実に変化は起きています。
選挙では同性婚を認めるかが大きな判断材料の1つにもなっていますし、「結婚の自由をすべての人に」を掲げ、複数の都市で裁判が行われています。
世界の流れと同じく同性カップルの存在を公平に認めることができるのか、今後の動向が注目されます。
【参考】
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20171109003.pdf
https://ch-gender.jp/wp/?page_id=30
https://note.com/gemp/n/n06427ededfa8
https://gladxx.jp/review/cinema3/8919.html
https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00925/
https://mezamashi.media/article/15129027#google_vignette
https://www.ellegirl.jp/wellness/love/g36539096/genz-lgbtq-inspiring-couples-21-0601/
https://genxy-net.com/post_theme04/lgbtcouples/
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/1821943.html
https://www.cnn.co.jp/world/35082479.html
https://www.huffingtonpost.jp/2016/05/12/itary-same-sex-couple_n_9921604.html#
https://www.nhk.or.jp/tokushima/lreport/article/004/55/
https://s-newscommons.com/article/1478
https://www.youtube.com/watch?v=23M3U1zhJyU
https://core.ac.uk/download/pdf/236390518.pdf
https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2015/09/post-3946_1.php