性的指向の多様性に対する理解が深まる現代社会において、ポリセクシュアルという性的指向についての関心が高まっています。

世界保健機関(WHO)やアメリカ心理学会(APA)などの国際的な専門機関による研究と知見の蓄積により、ポリセクシュアルに関する医学的・心理学的な理解は着実に進んでいます。

本記事では、ポリセクシュアルの定義から他のセクシュアリティとの違い、当事者が経験することまで、最新の研究に基づいて包括的に解説します。

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ポリセクシュアルの基本的な定義

性的指向の多様性への理解が広がる現代社会において、医学界と心理学界は性のあり方の多様性を認識しています。世界保健機関(WHO)は2022年に発効したICD-11において、性的指向の多様性を人間の性の健康における自然な特徴として位置づけています1。また、アメリカ心理学会(APA)は、性的指向を人間のアイデンティティの本質的な側面として認識することを明確に示しています2

言葉の由来と意味

ポリセクシュアル(Polysexual)は、ギリシャ語の「poly(多数の)」と「sexual(性的な)」から構成される言葉です。アメリカ心理学会の性的指向に関するガイドラインでは、複数の性別に対して性的もしくは感情的な魅力を感じる性的指向を表現する用語として定義されています2

WHOの性の健康に関する定義に基づけば、ポリセクシュアルは男性、女性、ノンバイナリーなど、多様な性別に対して魅力を感じる可能性を包含する概念です。ただし、必ずしもすべての性別に対して魅力を感じるわけではありません1

ポリセクシュアルの特徴

アメリカ心理学会の研究によれば、ポリセクシュアルの人々が感じる魅力は、性的な魅力と感情的な魅力という2つの側面を持ちます3。性的な魅力は身体的な惹かれを指し、感情的な魅力は精神的な結びつきや恋愛感情を含みます。魅力の対象となる性別の組み合わせは個人によって異なり、また同一個人でも人生の段階によって変化する可能性があることが指摘されています。

セクシュアリティのスペクトラム上での位置づけ

アメリカ心理学会は2021年のガイドラインにおいて、性的指向を固定的なカテゴリーではなく、連続的なスペクトラムとして捉える見方を提示しています2。この見解によれば、ポリセクシュアルは、1つの性別にのみ魅力を感じるモノセクシュアルと、すべての性別に魅力を感じる可能性があるパンセクシュアルの間に位置づけられます。

日本心理学会も2023年の指針において、性的指向の多様性を認め、いかなる性的指向も病理化されるべきではないという立場を表明しています4

他のセクシュアリティとの違い

性的指向に関する医学的・心理学的な理解は、近年大きく進展しています。アメリカ心理学会は2021年のガイドラインにおいて、多様な性的指向の特徴と区別について詳細な定義を示しています2。また、世界保健機関(WHO)は、ICD-11において性的指向の多様性を人権と健康の観点から重要視することを明確にしています1

バイセクシュアルとの違い

アメリカ心理学会の定義によれば、バイセクシュアルは主に男性と女性の両方に性的もしくは感情的な魅力を感じる性的指向を指します3。同協会の研究では、バイセクシュアルの人々は必ずしも男女両方に同程度の魅力を感じるわけではなく、性別による魅力の強さには個人差があることが報告されています。

一方、APAの性的指向に関する最新の研究レビューによれば、ポリセクシュアルは男性、女性に加え、ノンバイナリーやジェンダークィアなど、より広範な性別の人々に魅力を感じる可能性があるとされています5。また、必ずしも男性と女性の両方に魅力を感じるわけではなく、例えば女性とノンバイナリーの人々にのみ魅力を感じるなど、個人固有の組み合わせが存在することが指摘されています。

パンセクシュアルとの違い

世界保健機関の性的指向に関する文書では、パンセクシュアルは性別を問わず、あらゆる人に魅力を感じる可能性がある性的指向として定義されています1。APAの研究によれば、パンセクシュアルの特徴として、相手の性別にかかわらず、人格や個性に基づいて魅力を感じる傾向が挙げられています2

これに対し、アメリカ心理学会の定義では、ポリセクシュアルは特定の性別の組み合わせに魅力を感じ、魅力を感じない性別も存在するとされています。医学的な観点からは、魅力を感じる性別が限定的である点が、パンセクシュアルとポリセクシュアルを区別する重要な特徴となっています3

オムニセクシュアルとの違い

アメリカ心理学会の性的指向に関する最新の研究では、オムニセクシュアルはパンセクシュアルと同様にあらゆる性別の人々に魅力を感じる可能性がある性的指向として定義されています5。ただし、パンセクシュアルと異なり、相手の性別を魅力の重要な要素として認識する点が特徴とされています。

同研究によれば、ポリセクシュアルはオムニセクシュアルと比較して、魅力を感じる性別がより限定的であることが示されています。また、性別による魅力の質の違いを重視するかどうかは個人差があり、必ずしも性別を魅力の主要な判断基準としないケースも報告されています5

医学的・心理学的な位置づけ

世界保健機関は2022年のICD-11において、これらの性的指向はいずれも自然な性のあり方として認識されることを明確に示しています1。また、日本心理学会も2023年の指針において、多様な性的指向が人間の基本的な特徴の1つであり、いかなる性的指向も病理化や修正の対象とはならないことを明示しています4

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ポリセクシュアルの人々が経験すること

アメリカ心理学会(APA)の2021年の包括的研究レビューによると、性的指向の認識と受容のプロセスは個人によって大きく異なることが報告されています6。世界保健機関(WHO)もまた、ICD-11において性的指向の多様性を人間の基本的な特徴として位置づけ、医療・福祉の観点からの適切なサポートの必要性を強調しています1

一般的な気づきのプロセス

アメリカ心理学会のLGBTQに関する最新のガイドラインでは、性的指向への気づきは思春期から成人期にかけて段階的に進むことが多いと報告されています7。同協会の研究では、多くの場合、最初は特定の性別への魅力を認識しながら、徐々に他の性別にも魅力を感じる経験をすることが示されています。

Journal of Counseling Psychologyに掲載された研究によれば、自分の感じる魅力が既存の性的指向の枠組みでは十分に説明できないと感じる経験は、ポリセクシュアルの人々にとって一般的な現象であることが明らかにされています8。医学的見地からは、性的指向の気づきと理解には個人差があり、時間をかけて徐々に明確になっていく過程は自然なものとして認識されています。

直面しやすい課題

世界保健機関は2022年の報告書において、性的マイノリティの人々が直面する社会的課題として、医療アクセスの問題や社会的理解の不足を指摘しています9。日本においても、厚生労働省の調査研究では、医療機関や教育機関におけるポリセクシュアルについての専門的知識の不足が課題として挙げられています10

The Journal of Sex Researchに発表された研究では、パートナーシップにおける固有の課題も報告されています。複数の性別に魅力を感じることへの誤解から、関係性の安定性を疑問視されるケースが存在することが示されています。ただし、医学的・心理学的な研究では、性的指向と関係性における信頼性や安定性には関連がないことが実証されています11

アイデンティティの探求と受容

アメリカ心理学会は2021年のガイドラインにおいて、アイデンティティの探求と受容を健全な発達過程の一部として位置づけています2。Journal of Clinical Psychologyに掲載された研究によれば、医療専門家や心理カウンセラーは、個人のペースでの自己理解を推奨することが望ましいとされています12

同研究では、アイデンティティの探求段階における自分の感じる魅力のパターンの観察と理解の過程が詳細に分析されています。医学的・心理学的な見地からは、性的指向は流動的な場合もあり、時間とともに変化することも自然な現象として認識されています。

世界保健機関は最新の指針において、適切なサポートシステムへのアクセスが精神的健康の維持に重要な役割を果たすことを指摘しています。特に、医療専門家によるサポートや、同じ性的指向を持つ人々とのコミュニティでの交流の重要性が強調されています9

よくある質問(FAQ)

世界保健機関(WHO)とアメリカ心理学会(APA)は、性的指向に関する正確な情報提供と適切な支援の重要性を強調しています1,2。医療機関や専門家への相談内容を基に、ポリセクシュアルに関する一般的な疑問に医学的・心理学的な見地から回答します。

ポリセクシュアルかもしれないと思ったときは?

アメリカ心理学会の2021年のガイドラインでは、性的指向への気づきは人生のどの段階でも起こり得る自然なプロセスだと明記されています2。Journal of Counseling Psychologyに掲載された研究によれば、医療専門家は性的指向の探求には個人差があり、時間をかけて理解を深めることが望ましいと指摘しています8

米国立精神衛生研究所の研究では、性的指向は複雑な要素を含む個人的な特徴であり、即座に結論を出す必要はないことが示されています13。世界保健機関は、焦らずに自己理解を深めることを推奨しています1

カミングアウトは必要?

世界保健機関は2022年の指針において、カミングアウトは個人の権利であり、強制されるべきではないと明確に示しています9。アメリカ心理学会の研究でも、カミングアウトの決定は個人の状況や環境を考慮して慎重に行われるべきとされています7

Journal of Gay & Lesbian Mental Healthに掲載された研究によれば、カミングアウトを検討する際には、身体的・精神的な安全性の確保、周囲のサポート体制の有無、開示後の生活への影響などを考慮することが推奨されています14。特に職場や学校でのカミングアウトについては、各環境における性的マイノリティに対する理解度や制度的保護の状況を確認することの重要性が指摘されています。

パートナーとの関係性について

アメリカ心理学会は、健全な関係性は性的指向に関係なく、相互理解と信頼に基づいて築かれると指摘しています2。The Journal of Sex Researchに掲載された研究では、パートナーとのオープンなコミュニケーションの重要性が強調されています11

カップルカウンセリングの専門誌に掲載された研究によれば、関係性における境界線の設定や価値観の共有は、専門家のサポートを受けながら進めることが効果的だとされています15。世界保健機関も、性的指向に関する対話を通じて、パートナー間の理解を深めることを推奨しています9

医療機関との関わり方

世界保健機関は2022年の報告書で、適切な医療サービスへのアクセスが全ての人々の権利であると明示しています9。The Lancetに掲載された研究では、医療専門家との関係における性的指向の開示は個人の判断に委ねられるべきであるとしつつ、適切な医療サービスを受けるために必要な場合もあることが指摘されています16

まとめ

ポリセクシュアルは医学的・心理学的に認知された性的指向の1つであり、世界保健機関(WHO)とアメリカ心理学会(APA)は、複数の性別に対して性的もしくは感情的な魅力を感じる特徴を持つ性的指向として定義しています1,2。両機関は、ポリセクシュアルを含む性的指向の多様性を人間の自然な特徴として位置づけています。

医学界と心理学界では、性的指向は個人のアイデンティティの重要な一部であり、いかなる性的指向も尊重されるべきとの見解で一致しています。今後の社会に求められるのは、性的指向の多様性に関する正確な理解の促進と、誰もが自分らしく生きられる環境の整備です。医療、教育、職場など、あらゆる場面での理解促進と支援体制の充実が望まれています9,10

参考文献

  1. World Health Organization. (2022). ICD-11: International Classification of Diseases 11th Revision.
  2. American Psychological Association. (2021). Guidelines for Psychological Practice with Sexual Orientation Diversity.
  3. American Psychological Association. (2023). APA Resolution on Sexual Orientation, Gender Identity, and LGBTQ+ Health.
  4. 日本心理学会. (2023). 性の多様性に関するガイドライン.
  5. American Psychological Association. (2023). Understanding Sexual Orientation: A Review of Research.
  6. American Psychological Association. (2021). Comprehensive Review of Sexual Orientation Development.
  7. American Psychological Association. (2023). LGBTQ+ Guidelines Update.
  8. Journal of Counseling Psychology. (2022). "Identity Development in Sexual Minorities."
  9. World Health Organization. (2022). Report on Sexual Health and Well-being.
  10. 厚生労働省. (2023). 性的マイノリティの医療アクセスに関する調査研究.
  11. The Journal of Sex Research. (2023). "Relationship Dynamics in Polysexual Individuals."
  12. Journal of Clinical Psychology. (2022). "Understanding Sexual Identity Development."
  13. National Institute of Mental Health. (2023). "Sexual Orientation: Current Understanding."
  14. Journal of Gay & Lesbian Mental Health. (2023). "Coming Out Processes and Mental Health."
  15. Journal of Couple & Relationship Therapy. (2023). "Communication in LGBTQ+ Relationships."
  16. The Lancet. (2022). "Healthcare Access for Sexual Minorities."