同性パートナーシップ証明書をご存知でしょうか。2015年に東京都渋谷区と世田谷区から始まったパートナーシップ制度は、現在では全国に拡大し、多くの同性カップルが利用しています。しかし「実際にどんなメリットがあるのか」「申請にはどんな手続きが必要なのか」「費用はどのくらいかかるのか」など、具体的な内容について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
パートナーシップ証明書は法的拘束力こそありませんが、公営住宅への入居申込みや医療現場での家族としての扱い、生命保険の受益者指定など、日常生活の様々な場面で活用できる可能性があります。一方で、相続には効力がないなど、理解しておくべき注意点もあります。
本記事では、同性パートナーシップ証明書の基本的な仕組みから申請条件、必要書類、手続きの流れ、実際にかかる費用、証明書の活用方法まで、最新の情報をもとに詳しく解説します。申請を検討している方はもちろん、制度について正しい知識を身につけたい方にも役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
同性パートナーシップ証明書とは
同性パートナーシップ証明書は、地方自治体が戸籍上同性のカップルに対して、二人のパートナーシップが婚姻と同等であると承認し、自治体独自の証明書を発行する制度です。
法的拘束力はありませんが、公営住宅への入居や病院での家族としての扱いなど、日常生活における一定の権利行使が期待できる仕組みとなっています。
パートナーシップ証明書の基本的な仕組み
同性パートナーシップ証明制度は2015年11月、東京都渋谷区と世田谷区で同時にスタートしました。渋谷区では条例に基づく証明書制度、世田谷区では要綱による宣誓書受領証という異なる形式で開始されています。
渋谷区の制度では任意後見契約書と準婚姻契約書という公正証書の提出が必要で、世田谷区の制度では宣誓書への押印と受領証の交付という簡易な手続きとなっています。
現在では2025年3月1日時点で、導入自治体は488に達し、全国的に普及が進んでいます。自治体によって「パートナーシップ宣誓制度」「パートナーシップ制度」「同性パートナー制度」など名称は様々ですが、基本的な目的と効果は共通しています。
法的効力と限界
同性パートナーシップ証明書には法的拘束力はありません(ただし、自治体内の条例や制度に基づく拘束力は持ちます)。そのため民間レベルでは、パートナーシップ証明書を取得していても、対応するかは企業や病院しだいです。
法的拘束量がないため、婚姻関係とは異なり、相続権や税制上の優遇措置、遺族年金の受給権などは認められていません。証明書は同性カップルの関係性を公的に承認するものではありますが、異性間の結婚とは法的地位が大きく異なる性質を持ちます。
しかし、民間企業や医療機関の中には証明書を尊重し、家族に準じた取り扱いを行うところが増えており、実生活での利便性向上につながっているケースも多数あるため、無意味ということはありません。
パートナーシップ証明書を取得できる条件と必要書類
証明書の取得には自治体ごとに定められた条件を満たす必要があります。基本的な申請要件と必要書類について詳しく説明します。
申請条件
自治体によって要件は少し違いますが、主に次の4つがあります。住所、年齢(18歳以上)、配偶者および別のパートナーがいない、近親者でないことが一般的な条件となっています。
住所要件については、同性カップルのどちらかが申請する自治体に住民登録をしていることが基本ですが、転入予定者も申請可能な自治体もあります。年齢要件は成人年齢の引き下げに伴い、以前の20歳以上から18歳以上に変更されています。
配偶者がいないことの確認は戸籍書類によって行われ、既に別のパートナーとパートナーシップ証明を受けている場合も新たな申請はできません。近親者でないことの要件は、養子縁組による親子関係がある場合には申請できないことを意味しています。
必要な書類
自治体によって必要書類は少し違いますが、主に次の3つがあります。住民票の写し(住所の確認)、戸籍抄本(独身であることの確認)、本人確認書類(免許書等の提示)が基本的な必要書類です。
住民票については個人番号や本籍の記載を省略したものが求められることが一般的です。戸籍抄本または戸籍謄本では現在独身であることと近親者でないことを確認します。
外国籍の方の場合は、本国発給の婚姻要件具備証明書などの配偶者がいないことを証明する書類と日本語訳が必要になります。自治体によっては追加書類が必要な場合もあり、申請前に各自治体の窓口やウェブサイトで詳細を確認することが重要です。
パートナーシップ証明書取得のメリット
パートナーシップ証明書を取得することで、日常生活の様々な場面でメリットを享受できる可能性があります。
生活面での具体的なメリット
パートナーシップ証明書を取得するメリットは生活面です。公営住宅へ同性パートナーと申込みができる、公立病院で証明に使える、同性パートナーを受取人にする生命保険に加入できる、同性パートナーと住宅ローンを組める、携帯電話で家族割りの適用がある、クレジットカードの家族カードが発行できる、住民票の続柄を縁故者にできるといった具体的なメリットがあります。
公営住宅の入居申込みでは、自治体が運営する住宅に夫婦として申し込むことが可能になります。医療現場では手術の同意書への署名や面会時の家族としての扱いを受けられる場合があります。
金融サービスでは一部の生命保険会社や銀行が証明書保持者向けのサービスを提供しており、パートナーを受益者とする保険契約やペアローンの利用が可能になっています。
企業や病院での対応
民間企業の中でも証明書を評価し、社内制度に反映させる動きが広がっています。携帯電話会社の家族割引、航空会社のマイレージ家族会員登録、百貨店の家族カード発行など、従来は法的な家族関係にある者のみに提供されていたサービスが、証明書保持者にも拡大されています。
医療機関では特に救急医療や重篤な疾患の治療において、パートナーが家族として医師からの説明を受けたり、治療方針の相談に参加したりできるケースが増えています。
ただし企業や医療機関の対応は統一されておらず、証明書があっても必ずしもすべての場面で家族として扱われるわけではないため、事前の確認が重要です。
パートナーシップ証明書の注意点とデメリット
パートナーシップ証明書には一定の限界があり、利用時には注意が必要な点がいくつかあります。
法的拘束力がない点
パートナーシップ証明書に法的拘束力はありません。したがって、パートナーシップ証明書を取得していても、対応するかは企業や病院しだいです。
証明書は自治体が発行する行政上の書類であり、民法上の婚姻関係とは全く異なる性質のものです。企業や医療機関が証明書を尊重するかどうかは各機関の判断に委ねられており、法的に対応を強制することはできません。証明書を提示しても拒否される可能性があることを理解しておく必要があります。
また自治体間での転居の際には、転居先の自治体で改めて申請手続きが必要になる場合が多く、証明書の効力は発行自治体の範囲内に限定されることが一般的です。全国共通の制度ではないため、居住地域によって受けられるサービスの内容や範囲に差が生じることも留意すべき点です。
相続には効力がない点
パートナーシップ証明書は相続に関しては効力がありません。たとえパートナーシップ証明書を発行した自治体で相続が発生しても、相続とは無関係です。相続対策は別に必要なので、財産を残したいなら遺言書を作成しましょう。
民法上の相続権は法定相続人にのみ認められており、同性パートナーは相続人となることができません。パートナーが亡くなった場合、遺言書がなければ財産はすべて法定相続人である親族に引き継がれ、長年連れ添ったパートナーでも一切の財産を相続することができません。
また所得税法上の配偶者控除や相続税法上の配偶者控除なども適用されず、税制上の優遇措置は一切受けられません。パートナーに財産を残したい場合は、公正証書による遺言書の作成や生前贈与、任意後見契約の締結など、別途法的手続きを行う必要があります。
パートナーシップ制度の導入自治体と最新状況
2015年11月5日、東京の渋谷区と世田谷区からパートナーシップ制度はどんどん広がり、日本では488の自治体でパートナーシップ制度が施行されています(2025年3月1日時点)。制度の普及は急速に進んでおり、都道府県レベルでの導入も増加しています。
日本全体の人口に対するカバー率は90%を超えました(2025年3月1日時点で、90.841%)。これは全国のほとんどの地域で証明書制度が利用可能になったことを意味しています。2022年6月には219自治体、2023年6月には328自治体と急速な普及が続いており、現在も導入する自治体が増加しています。
しかしパートナーシップ証明書を発行していない自治体も多いのが現実で、全国約1,700の自治体のうち導入済みは3分の1程度に留まっているため、居住地域によっては制度を利用できない場合もあります。引越しを検討している場合は、転居先の自治体での制度の有無を事前に確認することが重要です。
パートナーシップ証明書の申請手続きの具体的な流れ
パートナーシップ証明書の申請手続きは自治体によって異なりますが、基本的な流れは共通しています。
事前準備から申請当日までの流れ
まず必要書類を準備し、自治体の担当窓口に事前予約を取ることから始まります。多くの自治体では事前予約制を採用しており、横浜市などでは必須となっています。予約時には必要書類や手続きの詳細について確認することができます。
申請当日は二人そろって指定された窓口に出向き、必要書類を提出して宣誓書に署名します。担当職員が申請内容と提出書類を確認した後、要件を満たしていれば証明書または受領証が交付されます。
渋谷区や横浜市などでは申請内容の確認に時間を要するため即日交付はできませんが、大阪府のように即日交付可能な自治体もあります。即日交付の場合でも手続きには1時間程度の時間がかかることが一般的です。申請から交付までの期間は自治体によって異なりますが、通常は数日から1週間程度を要します。
申請時の注意点と必要な準備
申請時には本人確認が厳格に行われるため、有効期限内の身分証明書の持参が必須です。外国籍の方は婚姻要件具備証明書などの本国発行書類と日本語訳が必要になります。
性別違和等で特に理由がある場合には通称名の使用が認められる自治体もありますが、日常的に使用していることを証明する書類の提示が求められます。
また提出書類は発行から3か月以内のものに限定されることが多いため、申請時期に合わせて書類を取得する必要があります。手続きは基本的に日本語で行われるため、日本語での対応が困難な場合は事前に自治体に相談することが重要です。
パートナーシップ証明書発行にかかる費用
パートナーシップ証明書の発行自体は、ほとんどの自治体で無料となっています。横浜市の例では「宣誓、受領証発行による手数料はかかりません」と明記されており、これは多くの自治体で共通しています。
証明書発行は無料ですが、申請に必要な書類の取得費用は自己負担となります。住民票の写し(300円程度)、戸籍抄本(450円程度)、外国籍の方の場合は本国での書類取得費用と翻訳費用が必要になります。全体として数千円程度の費用がかかることが一般的です。
渋谷区では独自の制度として、パートナーシップ証明書の取得に必要な公正証書作成費用の一部を助成する制度があります。渋谷区の制度では任意後見契約書と準婚姻契約書の作成が必要で、公正証書作成費用は数万円から十万円程度かかりますが、助成金により負担軽減が図られています。
その他の自治体では公正証書の作成は不要で、より簡易な手続きで証明書を取得できます。
パートナーシップ証明書の有効期限と更新手続き
パートナーシップ証明書の有効期限は自治体によって取り扱いが異なります。多くの自治体では証明書に明確な有効期限を設定していませんが、住所変更や氏名変更、パートナーシップの解消などがあった場合には届出が必要です。
証明書の記載内容に変更が生じた場合には速やかに届出を行う必要があります。住所変更、氏名変更、連絡先の変更などが該当します。パートナーシップを解消した場合には証明書の返却が必要で、どちらか一方が単独で返却手続きを行うことができます。
また転居により他の自治体に移住する場合には、転居先の自治体で改めて申請手続きが必要になることが一般的です。ただし自治体間連携を行っている地域では、簡素化された手続きで継続利用が可能な場合もあります。
証明書の再交付が必要な場合や記載内容の変更については、各自治体の窓口に相談することが重要です。定期的な更新手続きは不要ですが、証明書の効力を維持するためには届出事項の変更を適切に報告することが求められています。
パートナーシップ証明書の転居時手続きと自治体間連携
パートナーシップ証明書を取得した後に他の自治体に転居する場合の手続きは、転居先の自治体の制度導入状況によって大きく異なります。
自治体間連携制度
近年、自治体間での連携体制が整備され、転居時の手続き負担軽減が図られています。横浜市では連携協定を締結している自治体から転入した場合、転入・転出にかかる手続きを簡素化しています。大阪府内では府と市町村の連携により、府内での転居時には継続利用が可能な制度が構築されています。
連携している自治体間では、元の自治体で取得した証明書の効力を認め、新たな自治体での申請時に必要書類の一部省略や手続きの簡素化が行われます。ただし連携していない自治体への転居では、転居先で改めて最初から申請手続きを行う必要があります。
転居を予定している場合は、事前に転居先の自治体での制度の有無と連携状況を確認しておくことが重要です。
転居前の準備
転居が決まった段階で、現在の居住地の自治体に転出の届出を行い、転居先の自治体に制度の詳細を確認することが必要です。転居先で制度が導入されていない場合は、証明書の効力が継続されないため、生活面での影響を事前に検討しておく必要があります。
連携制度を利用する場合でも、転居先での申請に必要な書類や手続きの詳細を事前に確認し、スムーズな移行ができるよう準備することが大切です。
よくある質問(FAQ)
パートナーシップ証明書に関してよくある質問と回答をまとめました。
パートナーシップ解消時の手続きについて
パートナーシップを解消した場合は、証明書を発行した自治体に返却する必要があります。返却手続きは一人でも行うことができ、相手方の同意や立ち会いは不要です。
返却により証明書の効力は失効し、以後は家族としての取り扱いを受けることはできなくなります。返却手続きは速やかに行うことが求められており、返却しない場合は自治体から返却の要請が行われる場合があります。新たなパートナーとの関係では、改めて申請手続きを行うことで証明書を取得することができます。
パートナーシップ証明書の効力が及ぶ範囲について
パートナーシップ証明書の効力は発行した自治体の範囲内に限定され、他の自治体や全国での効力は保証されていません。ただし民間企業や医療機関の中には、他の自治体で発行された証明書も尊重する場合があります。
証明書を提示する際は、事前にその機関での取り扱いを確認することが重要です。法的拘束力がないため、証明書があっても必ずしも家族として扱われるとは限らず、各機関の判断に委ねられています。
外国人とのパートナーシップ証明書申請について
外国籍のパートナーとの申請も可能ですが、追加の書類が必要になります。外国籍の方は本国政府が発行する婚姻要件具備証明書または独身証明書と、それらの日本語訳を提出する必要があります。
翻訳は専門業者に依頼するか、翻訳者を明記した自己翻訳でも受け付ける自治体もあります。在留資格や住民登録の状況についても確認が必要で、申請前に自治体の担当窓口に詳細を確認することをお勧めします。
まとめ
同性パートナーシップ証明書は、同性カップルの関係性を自治体が公的に認める制度として2015年から始まり、現在では全国488の自治体で導入されています。法的拘束力はありませんが、公営住宅の入居申込み、医療現場での家族としての扱い、生命保険や住宅ローンの利用など、日常生活の様々な場面でメリットを享受できる可能性があります。
ただし相続権は認められず、企業や医療機関の対応も統一されていないため、証明書の限界を理解した上で活用することが重要です。申請を検討している方は、お住まいの自治体での制度の有無と具体的な手続き方法を確認することから始めましょう。