「あなたって【LGBT】なの?」こういった質問に対し、戸惑ってしまった経験のある人はいませんか。【LGBT】は、社会的に多数派とされる異性愛、シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が同じ人)とは異なる性のあり方であり、マイノリティとして認識されています。【LGBT】はさまざまなセクシュアリティやジェンダーをまとめた表現であるため、【LGBT】であるか、そうでないかを問われた当事者は、きっと「“こっち側”と“あっち側”のように区別されている」と感じる場合もあるかもしれません。

本文中では【LGBT】以外のセクシュアリティやジェンダー、「s」について述べていくため、【LGBT】に絞った意味の場合、【LGBT】と表記いたします。

少数派を意味するマイノリティは、たしかに全体でみると数は少ないでしょう。かといって、珍しいものではないのです。少数派のセクシュアリティやジェンダーと聞くと、【LGBT】という言葉を想像する人も多いかもしれませんが、性のあり方はほかにも無数にあります。「自分のセクシュアリティやジェンダーがわからない」と悩んでいる人も、【LGBT】以外のさまざまなセクシュアリティやジェンダーを知ることで、自身のセクシュアリティやジェンダーを知るヒントが得られるかもしれません。

【LGBT】とそのほかのセクシュアリティやジェンダー

2020年の電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、日本ではLGBTsを自認する人は11人に1人と推定されています。その数は、左利きの人と同じ割合ともいわれています。そう考えると、意外と少なくないと思いませんか。最近では、【LGBT】のほかにもさまざまなセクシュアリティやジェンダーを表す言葉が出てきています。記事内では少ししかあげられませんが、それらを知るきっかけとなれば嬉しいです。

【LGBT】

まず【LGBT】についてお話します。【LGBT】とは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字からなる言葉です。トランスジェンダーは、生まれたときに割り当てられた性と性自認が異なることを指します。

トランスジェンダーについて語られるとき、性自認に対する言葉として「生物学的性」や「身体的性」という表現が使われることもありますが、筆者個人としては「生まれたときに割り当てられた性」というようにしています。なぜならば、トランスジェンダーはホルモンや性転換手術の有無に関わらず、その人がどう自分の性を自認するかが重要だからです。よって、社会通念に基づく体の形状や、男性器もしくは女性器の有無、医師から言い渡された性別では判断できないのです。

さまざまなセクシュアリティやジェンダー

先述したように、セクシュアルマイノリティは【LGBT】だけではありません。そこで、【LGBT】以外のさまざまなセクシュアリティやジェンダーを紹介します。

クィア、クエスチョニング

最近では、【LGBTQ】という言葉も浸透しています。「Q」とは、Queer(クィア)とQuestioning(クエスチョニング)の2つの意味をもちます。最近ではクィアスタディーズやクィア映画祭など、さまざまな場面でクィアという言葉を聞くようになりました。そして、今ではセクシュアルマイノリティの総称を意味し、【LGBT】に当てはまらない人、まだしっくりくる言葉が見つからないがセクシュアルマイノリティを自認している人など、幅広い概念としても使われています。ですが、クィアはもともと「奇妙な」「変態」といった意味の蔑称だったことを知っていますか。そのネガティブな言葉を逆手にとり、セクシュアルマイノリティの抵抗運動などで、当事者が積極的にクィアという言葉を使うようになったことがきっかけとなり、今に至るのです。

では、Qのもう一つの意味「クエスチョニング」とは一体なんでしょう。クエスチョニングとは、自分のセクシュアリティやジェンダーがわからないことを指します。ですが、意味合いは微妙に異なる場合もあります。例えば、セクシュアリティやジェンダーを決めたくない人、まだわからない人、どれか迷っている人、カテゴライズできる言葉がない人などさまざまな人が含まれるからです。定義は人それぞれであるため、必ずしも自分のセクシュアリティやジェンダーに疑問をもつ人だけという訳ではありません。

パンセクシュアル

全性愛者とも呼ばれるパンセクシュアル。パンセクシュアルとは、相手のセクシュアリティやジェンダーに関わらず恋愛や性的な感情を寄せることをいいます。相手のセクシュアリティやジェンダーよりも個人として好きになったり、相手の個性を重要視したりしている人など、当事者によって定義もさまざまです。パンセクシュアルの人は、誰でも好きになるという誤解が生じがちですが、誰にでもタイプや、条件があるのと同じように、誰でもいいというわけではありません。

では、「バイセクシュアルとどう違うの?」という疑問が浮かんできた人もいるでしょう。一般的には、バイセクシュアルは両性愛者とも呼ばれ、恋愛、性的な感情を寄せる対象は男女の2つの性だという認識があります。ですが、必ずしも男女のみの概念で人を認識しているわけではなく、それ以外のセクシュアリティやジェンダーの人を好きになることもあり得ます。性別は限定していないが、過去に付き合った人が女性と男性だったり、自分のジェンダーとそれ以外のジェンダーを好きになるという意味で、バイセクシュアルを自認している人もいます。個人によって定義は異なることを前提に、その人の自認するセクシュアリティやジェンダーを尊重することが大事なのです。

インターセックス

インターセックスは、日本語で性分化疾患とも呼ばれています。私たちは出生時に、医者の判断により男女のいずれかが判断されます。ですが、性器や染色体で男女のどちらかを判断できないこともあるのです。かつては、インターセックスの出生児に対し、外性器の手術を強制したり、そのことを子供に隠す親も少なくなく、今でも病院側の対応については模索状態だそうです。

インターセックスもLGBTsに一括りにされることがありますが、一度立ち止まって考える必要があります。男女に当てはまらないからといって、必ずしも多様な性の概念を求めているわけではありませんし、多くの当事者がインターセックスであることで悩まされていることも事実です。「性的マイノリティ」と総括して捉えるのではなく、まずはインターセックスについて知ることが大事でしょう。

アセクシュアル、アロマンティック

社会的に、恋愛することや性的な感情をもつことが当然であるような認識がありますが、そのような感情をもたない人がいることを忘れてはいけません。アセクシュアルは、性的な欲求をまったく(あるいはほとんど)抱かないことをいい、アロマンティックは、恋愛感情をまったく(あるいはほとんど)抱かないことをいいます。そして、性的な欲求、恋愛感情をともに抱かないことをアロマンティック・アセクシュアルと呼びます。

最近では、ACEコミュニティを支援する団体も増え、徐々に浸透してきた言葉ではありますが、まだまだ理解されないことで悩みを抱える当事者がいることも事実です。

どれかに当てはめる必要はない

先述したように、セクシュアリティやジェンダーを表現する新しい言葉が誕生してきていますが、それでも性自認は無限に存在します。「カテゴライズできないことが悪いことだ」と思う必要はないのです。とはいえ、自分を表現できる言葉が1つあると気が楽になることもあると思います。しっくりこなくても、「一番これに近いかも」と思うセクシュアリティやジェンダーについて深く調べてみるのもいいですし、迷ったらセクシュアリティ・ジェンダー診断や相談を受けてみるのもいいかもしれません。何が正解ということはなく、一番重要なのはその人が自分のことをどう認識するか。自分自身をカテゴライズするかしないかも、選択肢として尊重されるべきですし、カテゴライズできないことも一つの自然なあり方です。