初めに
IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」について解説するため、表記が混在しております。

LGBTs当事者と住まいの現状と課題

日本におけるLGBT当事者の現状

 LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称で、セクシュアルマイノリティーを表現する用語のひとつです。最近では「LGBTQ+」などの表現も登場し、性自認や性的指向、性表現など広く概念が多様化しています。そのため、これらのテーマは「LGBT」の話というより、すべてのセクシュアリティとジェンダーアイデンティティを総称し、その頭文字をとって「SOGI(またはSOGIE)」と表現され、SOGIによる社会的な扱いの差をなくしていこうという議論が、様々な業界団体などで議論されています。

しかし、日本におけるLGBT当事者の現状は、まだまだ困難が多いのが実情です。日常生活で困難を感じる機会も少なくなく、学校、職場、公共サービスなど、様々な場面で問題が生じています。

学校では、性教育が十分に行われておらず、LGBT当事者の存在そのものをはじめとして、性の多様性についての理解が不足しています。これにより、LGBT当事者の生徒は孤立を感じることが多く、いじめや自殺のリスクが高まることがあります。職場でも、LGBT当事者は差別やハラスメントに直面することがあります。同性パートナーに対する福利厚生の提供がない、トランスジェンダーの人々のためのトイレがない、などの問題は広く企業にも知られてきたテーマであり、また多くの議論が存在するテーマでもあります。

公共サービスにおいても、医療機関での性別に基づく差別、同性パートナーとの法的な結婚が認められていないため、手術など緊迫した状況においてパートナーの面会が制限されるなどの問題などがあります。これらの問題を根本的に解決するためには、法整備や社会全体の理解が必要です。台湾では同性婚法が制定され、イギリスやドイツ、スペインなどでは性自認によって戸籍上の性別を変更できる法律が存在します。しかし、日本ではまだ同性婚が法的に認められておらず、性自認による性別の変更も難しい状況です。

一方で、日本の企業においてはLGBT当事者への理解が進んできています。大企業の一部では、LGBT当事者の人々が働きやすい環境を作るための取り組みを行っており、また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、ジェンダー平等の実現に向けた取り組みが求められています。

ゆえに日本のLGBT当事者の取組は、やや民間優先という形になっています。

LGBTお部屋探し

住まい探しで直面する問題

では住まいではどうでしょうか。

LGBT当事者の一部は住まい探しにおいて様々な問題に直面し、また潜在的に直面するリスクを抱えているのが実情です。

具体的には、賃貸住宅ではそもそも不動産会社に相談することについてのハードルがあることや、夫婦向けの物件に住もうとしてもルームシェア扱いにされ拒否されてしまうこと、またアウティングに対する配慮の不足などの問題があります。

住宅の購入では同性カップルが住宅ローンを組む際に多くのハードルが存在します。これは、日本の法律が同性婚を認めていないため、配偶者としての扱いを受けられず、一部の銀行でしかペアローンなどを利用することができないことがあります。また、相続について法的保護を受けられないことから、何の対策もしないとパートナーに資産を残すことができないなどの問題もあります。

具体的に解説していきましょう。

賃貸住宅でLGBTカップルが直面する困難

賃貸住宅を借りる際のハードル

日本におけるLGBT当事者が賃貸住宅を借りる際に直面する問題は、カミングアウトの必要性とそれに伴う不安や抵抗感、すなわち不動産会社に行くこと自体についての障壁と、借りる物件が限られるという2つが大きなテーマと言えます。その他にも細かい課題は存在しますが、ここでは大きくこの2つについて説明していきます。

まず1つ目に、不動産会社に相談しに行くことがそもそものハードルであるという話です。追手門学院大学葛西准教授が実施した調査によれば、調査の対象となったLGBT当事者の約半数の人が「セクシュアリティを理由に不動産屋に行くことに抵抗や不安がある」と回答しています。これは、「偏見を持たれるかもしれない」「不利な扱いを受ける懸念がある」「セクシュアリティが意図しないところで伝わるアウティングが起こりうる」といった懸念から来ていると考えられます。

当然、不動産会社に勤務する個々人の担当者レベルでは、LGBT当事者に対する理解が十分になされていて、適切な対応ができるという方もいるかと思います。一方でそのような担当者に巡り合えるかどうかを運まかせに、実際に不快な思いをしたという方も多くいるというのも実情です。

これのことが実際に起こっていることや、そもそも起こりうるということを認識しているという状態が、当事者が不動産会社に行くことをハードルと感じているという理由になっています。

2つ目に、借りる物件が限られるという問題があります。特に同性カップルでは、同棲を開始しようとする時、2人入居可能な物件を探すことになりますが、一般的な不動産管理会社の解釈では、「2人入居可能=同性カップル入居可能ではない」という運用がなされていることが多くあるというのが実態です。

2人入居可能物件を夫婦の入居可能している物件と定義していることも少なくなく、そのような場合においては、社会的理解の不足などから、同性カップルを夫婦と同等の関係とみなさず、ルームシェアとして扱うなどの問題があります。そういった場合、同性カップルの方はルームシェアの可能物件から物件を探さなければならないというケースもあり、相当少ない件数の中から物件を選ぶ必要が出てくることが往々にして生じます。

実際にSUUMOやホームズなどのポータルサイトなどで、当社が2人入居可能物件とルームシェア可能物件の件数を比較したところ、それらに7倍以上の開きがあるなど、相当な件数の差が見られるのが実態です。

また、前出の葛西准教授の調査によれば、約半数の人が入居を確保するために何らかの工夫をしていると回答しており、潜在的な「入居拒否」に対して個人的な防御策を取らないといけないのが実情です。また、不動産会社の担当者にカミングアウトすることは、協力を得られる可能性もある一方で、個人的な偏見や無理解により、不利になるリスクもあるというのが現状です。

LGBT当事者が賃貸住宅を借りにくいのはなぜか

日本におけるLGBT当事者が賃貸住宅を借りにくい理由は、主に法的な認知の不足と社会の理解の欠如によるものが要因の一部です。

まず、法的な認知の不足についてですが、日本では同性カップルは法的な婚姻関係になれないため、賃貸物件を借りる際には「ルームシェア」という定義に当てはめられることが多いです。しかし、カップルであるにもかかわらずルームシェアとして扱われると、物件の条件や家主の理解によっては借りることが難しくなる場合があります。

次に、社会の理解の欠如についてですが、これは賃貸物件を提供する不動産会社や家主の側にも問題があります。LGBT当事者が物件を借りる際には、カミングアウトをすることで精神的な負担を感じることがあります。また、カミングアウトした場合でも、不動産会社の担当者から冷ややかな目線を感じることがあると回答している人もいました。

さらに、物件情報に「2人入居可」と記載されている場合でも、これは通常、結婚しているなど法的な関係性もしくは親族であることが条件となることが多いため、同性カップルはこの条件に該当しないことが多いです。

以上のような理由から、LGBT当事者は賃貸住宅を借りる際に多くの困難を経験することがあります。これらの問題を解決するためには、法的な認知の拡大と社会全体の理解の深化が必要となります。

無断同居の問題

また、一部の不動産会社では誠に信じられないことではありますが、1人で入居すると嘘をついて勝手に同居すれば良いという考え方の不動産会社も存在します。確かに発覚しなければ問題が起こらないという考え方もあるにはあると思います。一方でそれが発覚した時に、契約違反となり住宅を失うリスクはあるばかりか、貸主にとっても重大な背信行為であることは想像に難くありません。

このようなリスクを取ることに何のメリットもありませんし、不要な分断を生むだけだと思います。法的な問題も存在しますし、このような行為を推奨する理由は本来ないはずです。現に無断同棲となっているケースは同性カップルに限らず、起こり得ることだとは思いますが、最初から法的問題がない形で借りられるのであれば、正規の手続きを経て借りることを我々としては強く推奨している状態です。

LGBTお部屋探し

住宅購入でLGBTカップルが直面する困難

住宅ローンの問題

住宅を購入する際には、住宅ローンを組む必要があります。しかし、LGBTカップルは「配偶者」として認識されないため、一般的な夫婦が享受できる「収入合算」や「ペアローン」の制度を利用することが難しいのが現状です。これにより、LGBTカップルは一方の収入だけでローンを組むことを余儀なくされ、借入額が制限されることが多くありました。

ただし、現在では金融機関側の働きかけにより、様々なメガバンク、ネット銀行、地方銀行などで同性カップルをペアローン等の対象に含むようサービスを拡張しており、少しずつ問題は解消に向けて動いてきていると言えます。

一方で、まだローンを組む際に必要な書類の準備に多大な時間と費用が必要となるなど、決して同等の扱いとは言い難いのが実情です。

同性カップルの相続に関する問題

また、同性カップルの住宅購入に関する課題は、購入後にも続きます。2人で住宅ローンを組み、実際に物件を購入したとしても、カップルのうち1人に万が一のことが起きた時、同性カップルは法定相続人に当たらないので、生前に何の準備もしていないと相続する権利を持ちません。

これは非常に根の深い問題で、金融機関の運用によって2人で住宅ローンを組むことができているにも関わらず、その権利については、法律の壁によって十分に守られていないというのが実態です。

また、遺言書の作成など事前の手続きによって、無事にパートナーに相続ができたとしても、法定相続人に保証された遺留分などの権利によって、スムーズな相続ができないといった問題も懸念されます。

多くの住宅ローン商品では、住宅ローンの締結と同時に、団体信用生命保険を結びます。団体信用生命保険とは住宅ローンの契約者が亡くなるなどした時に、残債が生命保険によって支払われる仕組みです。これは残された家族へのリスク回避策でありますが、生前の対策によって無事同性パートナーに相続できたとしても、配偶者なら当然受けられる控除が受けられないことによって、結局住宅を手放さなければならないといった事態も想定されます。

LGBTの住まい探しを支援する取り組み

不動産会社による支援

LGBTの住まい探しを支援する不動産会社も存在します。東京を中心とした首都圏エリアでは、例えば、当社株式会社IRISはセクシュアリティやジェンダーアイデンティティに関わらず、当事者のスタッフと独自のネットワークによってお部屋探しをサポートしています。また、金融機関や行政書士・弁護士とも連携し、住宅購入やその後の相続などがスムーズに行えるよう、ワンストップで社会課題の解決に向けて動いています。

IRISのスタッフはLGBTs当事者が中心なので、なかなか相談しにくい同性パートナーとの同棲をはじめ、1人暮らしなどでも柔軟な対応を実現しています。

また、福岡では三好不動産などが、LGBTの住まい探しを積極的に支援しています。同社では、LGBTの賃貸住宅のあっせんに力を入れ、不動産オーナーへの啓蒙活動なども行っています。

同性カップル向け住宅ローンの提供

現在ではみずほ銀行・三井住友銀行などのメガバンクや、住信SBIネット銀行やソニー銀行などのネット銀行、横浜銀行や千葉銀行などの地方銀行など、様々な銀行が同性カップル向けの住宅ローンを提供しています。

これらの住宅ローンを借りるには、任意後見契約を締結したり、婚姻に相当する契約を公正証書とする必要があるなど、多くの時間とお金がかかるのが実情ではありますが、一方で、今まででは住宅ローンを2人で借りることができなかった多くの同性カップルにとって、唯一の選択肢ともなっています。

また2023年1月には住宅金融支援機構が民間の金融機関と提携して提供する「フラット35」も同性カップルへの住宅ローン商品の提供を開始しました。フラット35は一般的な住宅ローンに比べて、不動産の担保評価を重視する傾向にあり、結果として多くの人にとって借りやすい金融商品となっており、また全期間固定金利であることなどからもリスクを最初から固定した上で借りられる商品となっています。

これらのことから、現在同性カップルにとっても住宅を購入される際の住宅ローンを結ぶという行為について、様々な選択肢が増えてきているという状態と言えます。

住宅ローンについては以下の記事にもまとめていますので、ご参照ください。

【LGBTs】同性パートナー向け住宅ローンを徹底解説!LGBTsが使えるローンと条件をまとめてみました

不動産会社やオーナーへの啓発による理解の促進

しかし、現状ではLGBTの住まい探しを支援する制度やサービスはまだ完全に充足しているとは言い難い状況です。LGBTカップルが安心して住宅を借りたり、購入したりできるようにするためには、更なる支援策の拡充と啓蒙活動が必要ではあります。

これについて、現状積極的にLGBTフレンドリーを掲げている不動産会社やオーナーもいます。例えば積水ハウス不動産ホールディングスなどは早期からLGBTアライであることを経営者や会社として表明しており、 ポータルサイト「HOME’S」を運営する株式会社LIFULLや当社と提携し、毎年積水ハウスの賃貸部門であるシャーメゾンショップの運営会社などに研修を実施しています。

オーナーも個人単位でLGBTフレンドリーを掲げる方が増加しており、その内容の濃淡は個々人によって大きく異なるものではありますが、少しずつ社会が変容してきているというのが実情です。

これは当社も繰り返し申し上げていることではありますが、LGBT当事者の住まいの課題は、LGBT当事者や同性カップルを特別扱いすることで解決することを目指すものではありません。

あくまで、既存の枠組みや今まで考慮がされていなかった領域において、LGBT当事者や同性カップルを排除することではなく、受容することによってオーナー側も不動産会社側のまた借主側も3方向が納得する形で、意識変革されることが最も重要なことだと思います。

まとめ:LGBTと住まいの問題への対策

LGBTカップルは、賃貸住宅を借りる際や住宅ローンを組む際に、少なからず困難に直面しています。これは、法的な配偶者として認められないことなどによって、一般的な夫婦が享受できる制度やサービスを利用することが難しいことや、当事者の不動産会社への心理的ハードル、また、社会的理解の不足によって住宅の選択肢が制限されているためです。

ただし、同時にLGBTカップルや同性カップルを支援する取り組みも官民ともに進行中です。都の条例や不動産会社や銀行がLGBTカップル向けのサービスを提供するなど、一部では改善の動きが見られます。

しかし、LGBTカップルが安心して住宅を借りたり、購入したりできるようにするためには、更なる支援策の拡充と理解の促進が必要です。社会全体でLGBTカップルの住まい探しを支援するための取り組みを進めていくことが重要となりそうです。