どうも、空衣です。FtMでパンセクシュアルです。
今回はFtM(トランスジェンダー男性)の男性ホルモン投与にまつわる、初期段階の不安についてどんなものがあったかお話ししていきます。とくにホルモン注射を打ち始める前は、情報だけがあって、不安は膨らんでいくばかりでした。ですが情報収集しないことには何も始まりません……。
今現在ひとりで不安を抱えている方や、知り合いに似た境遇の人がいるという方の参考になれば嬉しいです。

FtMがホルモン注射前に不安だったこと

私自身が性別違和を感じてジェンダークリニックに通いだし、診断書を得てホルモン注射を開始するまでの不安をお話しします。
私は毎日のようにネット記事を見たり、当事者の本を読んだり、YouTubeを観ていました。正直四六時中そればかり考えていましたね。他の生活のことを考える余裕はありませんでした。

なんとなく同族嫌悪といいますか、自分自身を好きになれない状態で、他のFtM当事者と会ってみたいという気分にはならず、交流をもつ機会はなかったです。

ホルモン注射を始めて本当に後悔しないのか

FtMが男性ホルモン投与を始めた場合、男性化が始まるともう戻れない、という説明があります。一般的にMtF(トランスジェンダー女性)が女性ホルモン投与を開始してゆるやかに変化していくのに対し、FtMが男性ホルモン投与を始めると急激な変化が訪れるからです。自身の体感と照らし合わせても、それはかなり正しいです。

たとえば、声変わりをして低くなった声は戻りません。皮膚が脂ぎったり、体毛が増加したり、目つきも変わるかと思います。もし妊娠出産をしたいと考えている場合は、その機能がいちじるしく低下する場合があります。

何より、一旦男性化したという事実は消えません。万が一「男性ホルモンなんて始めなければよかった」と自分の決断を恨む結果にはなりたくなかったのです。

detransitionの恐怖があった

英語で“detransition”という言葉があります。一旦性別移行した人が、また戻るという意味合いです。FtMの場合、女性から男性になり、また女性的な身体・境遇になることを指します。

そういった人たちの多くも広義ではトランスジェンダーとして、detransition後の人生を受け入れて謳歌しています。途中でホルモン投与を中断したとしても、その人たちが必ずしも「ホルモン治療を始めなければよかった」と後悔しているわけではありません
ですが、ホルモン治療を始める前の私は“決して戻れない道のり”であるかのように、すごいプレッシャーを感じていました。本当に自分はdetransitionしないよな?と何度も問いただしていたのです。

きっと非当事者が想像する以上に、これからホルモン治療を開始しようとするトランスジェンダーの人たちは、自身の選択に対して強い迷いを抱えてきたと思います。

だから実質的には、「ホルモン治療を始めなければよかった」という声より、「もっと早く始めておけばよかった」という声の方が多いのではないかと思います。

納得してホルモン注射をやめる場合もある

実際、強い性別違和をもつFtMの中にも、男性ホルモンの投与を一定期間続けて、その後やめる人もいます。いくつか理由として挙げられることをご紹介します。

男性ホルモン注射をやめる理由

  • 十分に声変わりしたから
  • 胸に違和感があるので胸オペだけで足りるから
  • 仕事や引越しの都合でホルモン注射をする余裕がないから(他に集中したいことがある)
  • それ以上男性らしい身体にならなくても、ホルモン注射していないときの体で満足しているから

肝心なのはホルモン治療を始めること・やめることではなく、自分が納得いく生き方をできるかどうかです。ホルモン治療はそのための手段だといえます。

逆埋没が必要な場面もある

逆埋没という言葉は、あまり聞きなれない言葉かもしれません。トランスジェンダーにとって「埋没」とは、自認に沿った性別で、誰かにトランスジェンダーだと知られることなく生活が送れている状態を指します。

その逆に、FtMが本来認識されるべき「男性」ではなく、完全に「女性」としてだけ認識されて生活している場合が、逆埋没の状態です。逆埋没は正式な言い方というより、当事者間で用いられる俗語のようなものです。

職場にバレずにいられるか不安

たとえ男性ホルモン注射を開始しても、女性として勤務している現場では、そのまま女性扱いされ続ける必要性が出てくるかもしれません。周囲の人たちも、まさかただの女性(だと思っている相手)が次第に男性化していくなんて思ってもいませんから、案外気づかれずに女性としてだけ働いている、という人もいるようです。
とくに男女で業務内容が異なる場合、女性として雇って女性として仕事を割り振っていた人が急に男性になったら対応してもらえず仕事が来なくなってしまう、という事態も考えられます。

「決定的に外見が男性としか判断されなくなる」とか「戸籍を男性に変える」という段階にならない限り、現状維持で職場にいる、男性だと思われないように頑張る、ということもあるのです。せっかく声変わりしたのに、女性だと思われるために高い声を出す、という逆転現象もあり得るわけです。

恋人や友人との関係が破綻するかもしれない

それまで社会的に扱われてきた性別が変わる、ということはトランスジェンダー本人だけでなく、関わる人たち全てに影響があります。

トランスジェンダーだと知られることで、恋人と別れを迎えることも考えられます。「女性だと思っていたから付き合ったのに」とヘテロセクシュアルの男性やレズビアンの女性から別れを切り出されることも。

また、友人関係にあった人から「では今までの話は嘘だったのか、無理やり話を合わせていただけだったのか」と理解を得られずに失望されるケースもあります。社会的認知が進んだことで、露骨に「気持ち悪い」と言われるケースは減りました。それでも環境が大きく関わってくるため、粘り強く話し合ったからといって納得してもらえるわけではありません。人間関係を続けるために、トランスジェンダーであることを隠したり、なかなか治療にアクセスできなかったりもします。

性別移行は個人の決断ですが、その影響は個人の範疇にとどまらないという点はトランスジェンダーの人が心配することの一つです。

ホルモン注射をすれば男性としてパスできるのか

ホルモン注射を開始したことで、一般的に男性としてパスできる(自身の認識されたい性別で他人に認識される)ようになります。とはいえ、個人差があります

この低身長でちゃんと男性扱いされるようになるのか?こんなに女性的な顔立ちなのに大丈夫なのか?声が高音なのにホルモンだけで本当に低音に変わるのか?など、個人差のある点に関してとりわけ不安になります。
FtMの大多数が達成しているのに、自分だけ何年経っても女性と間違われる、というのは精神的に辛いからです。

私自身は、本格的に治療の決意を固めたのが日本ではなくドイツに滞在しているときでした。周囲のドイツ人男性はかなり高身長で、ドイツ人女性も日本女性の平均身長より高かったです。なので、この身長では到底男性としてパスできないのでは?と心配になったのを覚えています。
最初に抱える不安が大きかった分、日本に戻ってきたら案外身長的な問題はなさそうだ、と安堵したのを覚えています。

声変わりについても、FtMの声はナベ声で他の男性とは違う、と指摘されることがあり、不安要素の一つでした。
低音になるにはなるけれどシス男性の変声とは異なる、といった場合、結局望んでいない場合でもトランスジェンダーだと思われるわけで、それが嫌だったからです。声変わり後の自分がまったく想像できなかったのも不安を煽りました。

ホルモン注射開始前に心理的に不安だったことは? まとめ

FtMの不安を共有する場がもっとあってほしいと私は身をもって体感しました。
不安を解消することはもちろん大事ですが、「ただただ不安がある」という心理的な葛藤についても溜め込むのではなく共有していけたらよいかと思っています。

結果論にはなりますが、私個人は男性ホルモン注射を開始してよかったと感じています。
関連記事FtMが男性ホルモンを打ち始めて後悔したことは?

お読みいただきありがとうございました。

◎この記事を書いた人・・・空衣
1996年、神奈川県生まれ。性別も住処も旅してきました。次は男性の多様性について向き合っていきたいところ。

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