生まれた時の身体的性別が男性で、身体の特徴を女性化させたい、もしくは第二次性徴して男性化に向かってしまうのを止めたいと考えている人もいるかと思います。
この記事では女性化したい、男性化をとめたい人向けに、女性ホルモンを摂取するホルモン療法について解説します。
女性ホルモンとは
女性ホルモンには主にエストロゲン(卵胞ホルモン)と、プロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。女性化を目的としたホルモン療法では主にエストロゲンを投与することが多いです。
エストロゲンの効果は、
- 乳房を発育させ女性らしい体を作る
- コラーゲンの産生をうながして肌のつややハリを保つ
- 骨量を保持する
- 自律神経の働きを安定させる
といったものになります。
プロゲステロンの特徴は、女性の妊娠に関する役割を主に担うホルモンです。
- 体温を上昇させる
- 食欲を増す
- (女性の場合)妊娠しやすくし、妊娠状態を維持する
身体の女性化を抑えて男性ホルモンの働きを抑えたいという人や、エストロゲンと併用されることもあります。
男性が女性ホルモンを投与されたときに期待できる効果
身体的性が男性の人が女性ホルモンを投与されたときの期待される変化は下記の通りです。
肌の質感が女性的になる
キメが細かく、透明感が増していきます。皮膚が柔らかくなり、皮脂が減ってニキビができにくくなります。
皮下脂肪が増えたりお尻周りなどに脂肪がついて女性的な体つきへ変化する
体脂肪・内臓脂肪ともに増加し、特にお尻周りの脂肪がついて女性的な丸みのある体つきに変化します。
乳腺の発達
乳腺の発達にともなって胸が少しふくらみます。しかし、Bカップ以上になるほど飛躍的に大きくなる人はごくわずかです。
髪質が若干変わる
髪は細くなり、密度が上がる人が多いようです。
脳の特性の変化
攻撃性・性衝動が低下し、言語の流暢性が増すという調査結果があります。
元々男性は攻撃性・性衝動が強く、女性は言語の流暢性が高いという特徴があります。
男性が女性ホルモンを服用したときに現れる可能性がある副作用
性機能の減退
具体的には下記の通りです。
- 性欲の減退
- 男性器が小さくなる
- 勃起不全
- 精液内の精子の量の減少(男性不妊)
特に精子の減少は不可逆です。ある程度継続して女性ホルモンを投与した後に、子供を作りたいと思って女性ホルモンの投与を中断したとしても、子供が作れなくなってしまうリスクがあります。
メンタルの不調
男性ホルモン自体にメンタルをポジティブに保つ効果があります。女性ホルモンの投与を始めることで男性ホルモンの分泌が減ってしまい、抑うつ症状(ゆううつで何もしたくない)が起きてしまう可能性があります。
筋肉量の低下
筋肉は男性ホルモンのタンパク質同化作用によって支えられているので、女性ホルモンの投与を始めることで男性ホルモンの分泌が抑えられて筋肉量の低下が起きます。
空間認知能力の低下
男性の脳が優位な空間認知能力が低下します。
血栓症などの病気
血栓(血のかたまり)ができやすくなり、肺や静脈に詰まる静脈血栓症、肺塞栓症に注意が必要となります。40歳以上の人や血栓ハイリスク症例には注射剤、ゲル剤、貼り付け剤を使用することもあります。
他にも乳がんリスク、下垂体腫瘍、冠動脈疾患、脳血管障害、脂質異常症、胆石症、糖尿病などもみられます。
男性が女性ホルモンを服用しても変わらないこと
男性的な声
声変わりする前に女性ホルモンを服用すれば声変わりを抑えることができる可能性があるが、声変わりした後に女性ホルモンを服用しても、変わった声を女性的な声にすることはできません。
声帯が細い方であればボイトレをすることで女性的な声を目指せる場合があるが、基本的には外科的な手術が必要となる
男性的な骨格
筋肉は女性ホルモンの服用で男性ホルモンが抑えられて落ちていきますが、思春期以降発達してしまった男性的な骨格は基本的には変わりません。
身長にも変化はありません。
輪郭のハッキリとした男性的なゴツゴツとした顔をした方の場合、女性ホルモンを投与してもゴツゴツとした顔はほとんど変わらないので、女性的な顔を目指すのであれば、美容整形なども視野に入れる必要がでてきます。
発達した体毛
ヒゲなど男性ホルモンの影響を受けて濃くなった体毛は、女性ホルモンの服用をはじめても永久脱毛などしない限りは変わらず生えてきます。
男性が女性ホルモンを服用して、止めた場合の変化
ここでは実際に女性ホルモンを3年間服用してから中断した人の経験談をご紹介します。あくまで一個人の体験談となります。
肌は男性的な肌へ戻る
女性的な瑞々しい肌から、男性的な肌へ戻ります。
性毛が一気に発達する
ヒゲなど男性ホルモンの影響を受けて濃くなる毛が一気に濃くなります。ほとんど生えてなかったヒゲが一気に濃くなり、顎髭ともみあげが繋がるようになったそうです。
性機能の回復
ED状態から回復して、陰茎の大きさも徐々に戻ったそうです。
長期的に女性ホルモンを服用した場合、生殖機能が失われている場合もあります。
もしかしたら精子が十分に作られず、男性不妊の状態になってしまっている可能性があります。
発達した乳腺は変わらない
少し膨らんだ胸は、女性ホルモンを中断しても元にはもどりません。
男性的な胸に戻すのであれば外科的手術が必要となります。
男性が女性ホルモンの服用を始める方法
【基本】性別違和などの場合は病院へいって処方してもらう
生まれ持った体の性別は男性で、性別違和で困っている方は、医師の診断のもとで女性ホルモンの投与を行ってもらえる可能性があります。
医師が診察、血液検査などを行い、健康状態に注意しながら適切な方法で女性ホルモンを投与してもらえるため安全です。
すでに述べたように、女性ホルモンの投与にはさまざまな健康上の副作用が発生する可能性があるため、医療機関での女性ホルモン投与が最も安全です。
また、性別違和を感じている人が受診した際に、すぐにホルモン療法を開始するのではなく、まずは心理療法(カウンセリング)から始め、それでも必要と判断された場合にホルモン療法を開始してもらうというのが一般的な指針とされています。
ホルモン療法を行わずとも、ご自身の感じている不都合を心理療法で軽減できる可能性も否定できません。
個人輸入で女性ホルモンを入手する
個人輸入業者を介して海外の薬を購入する方法もあります。しかし個人輸入の医薬品は、偽薬を買わされてしまう可能性も否定できませんし、購入した薬に安全ではない物質が混入している可能性もあり、おすすめはできません。
仮に本物の薬を購入できたとしても、これまで述べたようにホルモンの作用は強力です。血液検査などの検査なしでは、健康上の後ろ盾がないままに完全に自己責任で服用することになってしまいます。また、分量をどの程度服用するべきかは個人差がありますが個人輸入では適正量がわからないため理想通りの結果にならない可能性があります。
実際、個人輸入した薬を服用していた患者が、途中からクリニックを受診するケースは多いそうです。そうした方の検査をすると、薬の分量が不足していたり、逆に服用しすぎてしまっているという場合があるという報告もあります。
男女どちらかの性自認に限定するのが困難なXジェンダー等の人が、医療機関でホルモン療法を受けられなかった際には個人輸入を検討する余地がありそうです。
男性が女性ホルモンを服用した影響は一生残り続ける可能性
ホルモンの影響は大きい為、安易な気持ちで始めるのはとても危険です。 専門の医療機関を受診し、医師に管理してもらいながら適切な量を適切な方法で投与してもらいましょう。
ホルモン療法により一度体に変化が起き始めると、一生影響が残るものもあります。例えば精巣萎縮・精子減少は不可逆なため、その後に子供をつくりたいと思い女性ホルモンの投与を中断したとしても、子供がつくれなくなってしまう可能性があります。
また一度乳腺が発達すると、乳がんの発生リスクも高くなってしまいます。すぐには影響はないかもしれませんが、遠い将来、女性ホルモンの服用の影響が出てくるかもしれません。
安易な気持ちで女性ホルモンを服用するのは大きな危険が伴います。
思春期には二次性徴抑制療法という選択肢も
思春期の第二次性徴を迎える前や迎えている最中の場合、「ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト」という薬を用いて「二次性徴抑制療法」といって二次性徴を抑える治療を行える可能性もあります。女性ホルモンのように女性化させるのではなく、二次性徴の進行を遅らせるものです。2年程度で使用を中止して身体の性徴を再開させるか、女性ホルモン療法を開始するかを決めるのが良いとされています。やはり専門の医療機関の力を借りるのが安心です。
まとめ
女性ホルモンを使用したいと願うほどに現在の身体的特徴に違和感を感じている方は、生きづらさに苦しみ少しでも早くホルモン療法を開始したいと思っているかもしれません。しかし、一度女性ホルモンの投与を始めると不可逆の要素もあるため、長期的な展望と慎重な検討が求められます。
思春期の人の場合には、女性ホルモンではなく二次性徴抑制療法を選択できる可能性もあります。
性別違和などを診療するクリニック等では、主に第一段階としてカウンセリングなどの精神療法を実施し、第二段階に性転換後の生活をシミュレーションするリアルライフテストを行うのが一般的とされています。
ホルモン療法後に生活状況がどうなるかを実生活の中でできるだけ体験し、問題と解決方法を探っていくのです。
ホルモン療法を実施するには職場・友人・家族などの人間関係も重要なため、周囲にカミングアウトする必要がでてきます。
また、改名や性生活、服装、化粧、トイレの選択などの問題もあります。そうした準備もなく、いきなりホルモン療法を始めてしまうと将来的に後悔することになってしまうおそれがあるため、専門の医療機関を受診して後悔をできるだけ少なくする対処をしていくのが良いと考えられます。
・参考文献
『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで』石田仁著 株式会社ナツメ社
『医療者のためのLGBTQ講座』吉田絵里子総編集 南山堂
『図解 性転換マニュアル カウンセリング、ホルモン療法から各種手術、戸籍の変更まで』性の問題研究会著 同文書院
『改訂版 性同一性障害の基礎と臨床』山内俊雄編著 株式会社新興医学出版社
・参考ウェブサイト