他者に対して性的欲求を抱かないアセクシュアル。なかには、性的欲求だけでなく恋愛感情ももたない当事者もいるため、アセクシュアルと一括りにしてもあり方はさまざまです。

「性的欲求も恋愛感情もないということは、パートナーはつくらないの?」「一生1人で過ごすの?」のように、アセクシュアルに関する疑問を抱く人もいるでしょう。ですが、実はアセクシュアル当事者のなかでもパートナーをつくったり、同棲する人もいるのです。

アセクシュアルを自認する坂巻さんは、以前、自身のパートナーと同棲を経験していました。どのような同棲生活を送っていたのか、アセクシュアルがパートナーをつくるとはどういうことなのか、アセクシュアル当事者として苦労したこととは何かなど、アセクシュアルの同棲事情について伺います。

 

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アセクシュアルの恋愛観

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ー坂巻さんのセクシュアリティについて教えてください。
ジェンダーはXジェンダー、セクシュアリティはアセクシュアルを自認しています。

ーアセクシュアル当事者のなかでも、性的欲求のみ抱かない人、性的欲求と恋愛感情を抱かない人など、さまざまですが、自身のセクシュアリティをどのように考えていますか?
一般的には、アセクシュアルとは他者に性的欲求を抱かないセクシュアリティとして知られています。僕の場合、以前は性的欲求と恋愛感情ともに抱くことがありませんでした。今は恋愛感情はありますが、性的欲求は抱きません。

 ーいつ頃から自身のセクシュアリティに気づきましたか?
中学生の頃です。思春期なので周りは恋愛や性の話で盛り上がっていたのですが、自分はその気持ちがわからなくて……。なので、「童貞」という言葉の意味を知ったのも、高校生を過ぎてからでしたね。今思い返しても、全くそういった話題に興味がなかったんだと思います。

 ー周りとのギャップで苦痛に思うことも?
いえ、全く感じなかったです。周りの話を聞いて何も思わないというか、自分のテリトリーではないと思っていました。友人も僕が恋愛に興味がないことを知っていたので、あえてそういう話題を持ちかけられることもありませんでした。

 ー誰かを好きになることもなかったのでしょうか?
当時、“好き”という感情を抱く対象は男性だったのですが、恋愛というより憧れの方が強かったと思います。恋愛対象として男性を見ることは基本的にありませんでした。

性的欲求、恋愛感情がないパートナーシップ

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ー恋愛感情や性的欲求がない人でもパートナーがいることもあるのでしょうか?
そうですね。今は性的欲求のみ抱かないのですが、19歳の頃は恋愛感情、性的欲求ともに全く抱いたことがありませんでした。ですが、パートナーがいて、その方と同棲していました。

ーパートナーのいるアセクシュアルの方は、どのような関係性を築いているのでしょうか?
人それぞれかと思いますが、僕の中でパートナーとの関係性を築く上で大切にしていたことは、利害関係でした。

ーというと?
当時、パートナーと同棲を決めたのは、僕が就活のために茨城から上京するタイミングだったんです。ゲイ向けのチャットで知り合った彼が家に泊めてくれると言ってくれたことがきっかけで、同棲を始めました。 

あと僕には歌手になりたいという夢があり、彼はとても歌が上手だったんですね。彼と一緒にいれば僕もスキルを習得できるのではないかと思ったことも、付き合うことの後押しになりました。 

ーその彼にはアセクシュアルであることを伝えていましたか?
当時、アセクシュアルという言葉があまり浸透していなかったので、僕自身もセクシュアリティの名前を使って説明することはありませんでした。ですが、他の人に恋愛感情や性的欲求を抱かないということは伝えていました。 

ーそのパートナーはどういった反応をしていましたか?
あまりわかっていなさそうでした。そこまで真剣に受け止めていなかったのかなと。

 ー性的なことを要求されることもあったのではないでしょうか?
「アセクシュアル=体の関係を持ちたくない」と思われることが多いですが、僕の場合は性嫌悪はなく「興味がない」という感覚に近い気がします。なので、要求されれば応えられないということはないんですね。 

ー性的な行為を求められた時、どう感じましたか?
付き合っているから、ある程度そういうことをしなければならないと思っていた一方で、面倒くさいとも感じていました。体の関係があったとしても、恋人同士のように感情が入るのではなく、すごく淡白だったと思います。僕が相手に対して恋愛感情を抱くことがなかったので、愛情を込めて体の関係を持つことはできませんでした。 

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アセクシュアルの同棲事情

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 ーパートナーと同棲していてよかった点はありますか?
楽しかったです。ゲームと歌という共通の趣味があったので、彼が仕事から帰ってくると一緒にゲームしたり、カラオケに行ったり、友達のような時間を過ごせました。 

ーということは、坂巻さんにとって恋人と友達の違いはあまりないのでしょうか?
難しいですね……。告白して付き合うと、少しランクが上がるような感覚があります。恋人の方が深い関係性と思うことがあるのかもしれないです。同棲していたというのもあるかもしれませんが、やはりパートナーとは一緒に過ごす時間が長くなるので、相手の生活の一部くらいは自分も責任を持つ必要があると思います。 

ー同棲して苦労だと感じた点についても伺いたいです。
僕の恋愛感情を確かめられることが多かったです。「本当に好きなの?」とか「もっと好きって言ってほしい」とか、何度も言われたことでストレスに感じていました。世間一般的には、恋人には恋愛感情があって性的欲求もあるということが常識になっているので、アセクシュアルを理解してくれる人は少ない気がします。 

ーそう言われた時、坂巻さんは相手にどう接しましたか?
その度に、恋愛感情も性的欲求もないということを伝えていました。別れてからも仲はいいんですけど、話は聞いてもらえても理解までは難しいかなと。 

ーその他、苦労を感じたことはありますか?
あまり信用してもらえないことでしょうか。恋愛感情がわかない状態なので、相手は僕に対して不信感を抱いてしまうことがよくあったそうです。なので、僕が友達と遊びに行くと、その友達に気持ちが傾いてしまうんじゃないかと心配していました。

 そんなことはないと伝えるのですが、言葉って弱いですよね。恋愛をしている人にとって、大多数は言葉より行動を重視していると思うので、お付き合いしていた7年間ずっと心配だと言われ続けました。確かに相手に対して恋愛感情がなかったので、好きな感情を示す行動はできなかったと思います。

ー以前は恋愛感情、性的欲求がなかったとおっしゃっていましたが、それから恋愛感情を抱くようになったんですよね?
はい。当時の彼とお付き合いして2年目で、初めて彼を失うのが怖いと思ったんですよね。同棲すると一緒にいることが当たり前になってくると思うのですが、ふと彼がいなくなったら……と考えると、自分の中で大切な存在なんだなと。そこで、恋愛感情に気づいたんですよね。

 ーその後の恋愛関係にも影響はありましたか?
一枚壁を挟んで他人と接していたところが壊れて、もっと仲良くなりたいとか、相手を受け入れたいという気持ちを抱くことがありました。ただ、一目惚れは滅多にしませんし、恋愛感情を抱くまでに2年もかかってしまうので、基本的に気になる人とは友人までに留まることがほとんどです。 

アセクシュアルにまつわる誤解

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ー世間のアセクシュアルに対する認識と当事者の間では差があるように感じました。アセクシュアルにまつわる誤解は多いと思いますか?
そうですね。まず、アセクシュアルのあり方が1つでしかないと捉える人は多いように感じます。ですが、アセクシュアルの中でも僕みたいに性嫌悪はないけど、体の関係に興味がない人や、求められたらできなくはないという人もいます。 

ー他にもありますか?
あとは性的欲求がないからゲイではないと言われた時はショックでしたね。僕はXジェンダーのゲイを自認しているのですが、男性と体の関係を持てないならゲイではないということはないと思うんです。セクシュアリティは体の関係だけではないので。 

やはり、一般的には恋愛感情と性的欲求がセットで結びつけられやすいですね。同棲していた時も、「好きなら体の関係持つのは当たり前じゃないの?」と言われて、性的な欲求がなくても相手を大切にしていると信じてもらえなかったことはつらかったです。

ー私生活の中でもアセクシュアルならではの生きづらさに衝突するのですね。
そうですね。基本的に多くのゲイの方たちの感覚は全くわからないので、話は合わないと感じてしまいます。体の関係が生活の一部と捉えている人も多く、本人たちは雑談として楽しんでいると思うのですが、僕はそこに入れなくて。それは“綺麗売り"だと言われたこともあります。

「アセクシュアル」という言葉を広めたい

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ー性的マイノリティの中でも、ゲイやレズビアンと比べてアセクシュアルの認知度は低いように感じました。より多くの人に知ってもらうためには、どのようなことが有効だと思いますか?
認知度は低いですよね。僕も、自分以外にアセクシュアルだという人を聞いたことがありません。もしかしたらアセクシュアルかもしれないけど、断言できない人、そもそもアセクシュアルという言葉を知らない人、さまざまな人がいると思います。

情報が身近にあれば本人たちも居場所があるという安心感を得られると思うので、言葉を広めるためには、今の時代だとYoutubeやブログで発信することが手っ取り早い気がします。

ー最後に、今後どのような社会になってほしいですか?
理想を言うなら、アセクシュアルという言葉をみんなに知ってもらいたいです。せめて、ゲイやレズビアンという言葉が知られているのと同じくらい広まってくれたらなと。現状、性的欲求がないというと異常な目で見られることも0ではないので、恋愛感情や性的欲求を抱かない人がいることを知ってもらえたら嬉しいです。