2022 年4 月4 日、弊社の石野が「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」の関係者様向けに、「LGBTs フレンドリー対応セミナー」を行いました。

「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」とは、住宅・不動産に関する総合情報サービス「LIFULL HOME’S」が運営している無料の相談窓口です。この相談窓口では、住まいに関して寄せられる様々な相談に対してハウジングアドバイザーがアドバイスを行い、必要に応じてお客様の条件に合う不動産会社や建築会社を紹介する、といったサービスを提供しています。

様々なバックグラウンドを持った顧客に接するハウジングアドバイザーには、何よりもまず、中立的な立場で接客をすることが求められます。このため「LIFULL HOME’s 住まいの窓口」では、接客スキルを磨くために各種の研修を行っているそうです。

昨今の社会的な変化の中では、セクシュアルマイノリティが抱える住宅面の課題を理解し、必要な心構えを持つことも、必須の接客スキルと言えるでしょう。

今回の研修では、LGBTs 当事者と不動産業に関わる方々との間にある「認識のズレ」を少しでも埋めるため、自身がLGBTs 当事者でもある弊社の石野が講師を務めました。

本記事では、その研修内容をお伝えします

1:「LGBT」という語の意味と、日本におけるLGBTs

まずは講義の冒頭に、「LGBT」という語の一般的な意味を確認しました。
LGBTとは、あらゆる「性の形(性のあり方)」を表す言葉です。Lは「レズビアン(女性の同性愛者)」、Gは「ゲイ(男性の同性愛者)」、Bは「バイセクシュアル(両性愛者)」、Tは「トランスジェンダー(生まれつきの身体の性と、自分の性の認識が異なる人)」を指しています。

このうち「L」「G」「B」の3つの語は、「自分がどの性を好きになるのか(性的指向)」を表しており、「T」については「自分がどの性に属するのか(性自認)」を表しています。

人の性のあり方は、必ずしもこの4つだけに分類されるわけではなく、性的指向や性自認が定まっていない人や、性愛や恋愛を必要としない人もいます。このため最近では、すべてのセクシュアリティ(Sexual Orientation)とジェンダー(Gender Identity)を言い表す際に、「SOGI」という語がよく使われます。

続いて、日本におけるLGBTsの存在を数値的に実感してもらうため、ZOOMの投票機能を使って、参加者に次の質問にご回答いただきました。

日本にいるLGBTs当事者は、何人くらいだと思いますか?

まず質問(1)について、2019年の時点では日本人口の約10%(約1,470万人)がセクシュアル・マイノリティの当事者であるという調査結果が出ています(株式会社LGBT総合研究所調べ)。

神奈川県の人口(約905万人)や、日本の子供の人口(約1,470万人)と比較して考えると、これまでに多くの人が(直接カミングアウトされた経験がなくても)LGBTs当事者に出会ったことがあるのではないか、と推定されます。

今まで何人からカミングアウトされたことがありますか?

次に質問(2)について、参加者の方々の回答は、多い順に「2〜5人」「1人」「0人/10人(同率)」「6〜10人」という結果になりました。

ある調査結果によると、カミングアウトを経験したことのあるLGBTs当事者は約3割とされていますが、特に学校や職場などではカミングアウトをしづらい状況にあり、結果として社会においてLGBTsの存在が身近に感じられにくくなっています。

LGBTs当事者に対して嫌悪感や忌避感を持っている人は、どれくらいいると思いますか?

そして質問(3)について、2020年のある調査では、LGBTsに対して「嫌だ」「気持ち悪い」といったネガティブな感情を抱いている人は約5.7%という結果が出ています(電通ダイバーシティーラボ調べ)。

この数字だけを見ると、LGBTsの住まい探しには大きな問題はなさそうに思えるかもしれませんが、現状はどうなっているのでしょうか。

2:LGBTsの住まい探しの課題

住まい探しにおいてLGBTsの当事者が経験しうる「不快な事例」について知っていただくため、講義の参加者の方には、実際にIRISを利用されたお客様のインタビュー動画を見ていただきました。

たとえLGBTsに対して差別意識やネガティブな感情を抱いていない人でも、何かしらの言動によって当事者に不快な思いをさせてしまうことは、起こり得ます。なぜなら、LGBTsについて「知識として知っている」ことと、「(相手の目線に立って)適切な接客対応ができること」は異なるからです。

住宅不動産のプロフェッショナルには「LGBTsの当事者の立場に立った接客」が求められており、そのためには「単なる知識」からさらに踏み込んだ理解が必要なのです。

3:普通を疑う姿勢を持つ

LGBTsの立場に立った接客においては、まず「普通を疑う姿勢を持つ」ことが大前提となります。

私たちはつい、「普通なら◯◯だ」「△△するのが普通に決まっている」といったように、「普通」という固定概念に縛られてしまいがちです。

LGBTsの当事者の場合、「女性は男性と結婚するのが普通だ」「なんで普通に人を好きになれないの?」といった、固定観念の押し付けを経験することがあります。

実際には、「いつ・どこでも」「誰にでも」通用する「普通」は存在しません。自分の中にある「普通」を疑い、まっさらな気持ちで人に向き合うことが、LBGTsフレンドリーな接客の第一歩となります。

4:LGBTsフレンドリー対応の必要性

「LGBT」という語が社会的に認知され、各自治体におけるパートナーシップ制度の導入が進む昨今。マーケティング的な観点から考えても、不動産会社には主に下記のような場面でLGBTsフレンドリーな対応が求められています。

  1. 受付や接客対応一般
  2. 賃貸の取引業務
  3. 売買・注文住宅の取引業務
  4. 賃貸管理業務

「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」では、その業務の中で、顧客情報をクライアントに伝える必要性があるため、特に「アウティング」に留意する必要があります。

具体的には、「何を」「どこまで」第三者に伝えて良いのか、事前に本人の許諾を得るようにすると良いでしょう。

5:ケーススタディ

「LBGTsフレンドリー」な接客を理解するためのケーススタディとして、IRISがこれまでに担当した下記のような事例を紹介しました。

【好ましい事例】

レズビアンカップルにお子さんが1人という世帯の例

賃貸契約書上で関係性を「家族」と明記したことによって(「縁故者」「知人」などとぼかされることが多い)、良好な契約を結ぶことができた。

国際ゲイカップルの例

「ルームシェアNG・夫婦入居可」の物件だったが、同性パートナーシップの証明書を提出することによって、オーナーも納得の上で契約を結ぶことができた。

トランスジェンダー女性の例

入居後に改名したため管理会社に相談したところ、管理会社が適切なヒアリングを行い、契約者の名義変更に応じた。

【好ましくない事例】

レズビアンカップルの例

自分たちの関係性を不動産会社の担当者に伝えたところ、「フレンドリーさ」をはき違えた不快な発言をされた。

ゲイカップルの例

担当者が「ゲイには部屋を貸せない」という個人的な見解を述べたことで、訴訟問題に発展しかけた。

トランスジェンダー女性の例

担当者にカミングアウトすると、趣味や嗜好を勝手に決めつけたような提案をされてしまった。

6:振り返りのワーク・質疑応答

最後に研修の振り返りワークとして、参加者の方に「この研修を通じて得た知識や気づき」と「今日から変えていく行動」をアウトプットしてもらいました。数名に発言していただいたところ、下記のようなフィードバックがありました。

  • LGBTという語そのものをよく分かっていなかったが、きちんと知ることができた。
  • 仕事柄、お客様に対して「察しの良い振り」をしてしまいがちだが、自分が知らないことは素直に相手に尋ねる誠実さが大切だと思った。
  • 当事者の方からアドバイスを受けられる制度があるとよいな、と思った。

不動産接客の現場では、相手のプライバシーに踏み込んだ情報を聞き出さなくてはならないこともあります。だからこそ、正しい知識と思いやりを持った対応を心掛けていく必要があるでしょう。