どうも、空衣です。FtMでパンセクシュアルです。
今回はFtM(Female to Male, トランスジェンダー男性)当事者が書いた本をご紹介します。海外のFtMが書いた情報はまだまだ邦訳不足だと感じるので、これは貴重な一冊です!

『トランスジェンダーの私がボクサーになるまで』はどんな本?

「本当は男性なのに女性扱いされてしまう。それをどうすれば男性でいられるのか、希望の治療ができるのか」
というように、FtMの場合は「女性的な境遇から男性的な境遇になるまで」の性別違和エピソードが語られることが多いです。
一般的にLGBTsと聞いて想定されるトランスジェンダー男性(FtM)像もそのような悩みに焦点が当てられています。

その一方で、性別の移行を終えてから自他ともに男性として生きられるようになって発生する、FtM特有の視点や悩みはこれまで重視されてきませんでした。
治療をおこなっていくと大抵の場合、外見上は他のシスジェンダーの男性と変わらずマジョリティとなります。しかし事実上身体的にはマイノリティだったり、継続的なホルモン投与や大きな手術や戸籍変更、はたまた任意の性別で生活するために転職や引越しが必要となったり、共有されにくい経験をしていることは確かです。

さらにこの本、『トランスジェンダーの私がボクサーになるまで』では、それまで男性として十分に扱われてこなかったトランスジェンダーの男性が突然男性とみなされるようになって、どんな心情の変化や戸惑いがあったのか、内面についても丁寧に考察されています。つまり本書は、トランスジェンダー男性当事者が書いた海外の本としても貴重ですし、”性別移行後”の経験が書かれているという点でも珍しい一冊なのです。

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著者はFtM(トランスジェンダー男性)

著者はトーマス・ページ・マクビー。アメリカでジャーナリストとして活躍しています。
トランスジェンダーの男性で、30歳になってからテストステロン(男性ホルモン)の投与を始めました。「男の初心者」として、そこから人生を探り始めたのです。男性と共にボクシングをやりながら、男らしさについて考えていきます。
他の物語では肉体的な移行を経て「ようやく本当の自分になれました」とハッピーエンドで締めくくられることが多いわけですが、本書はそこが物語のスタート地点といえます。

FtMが戸惑う、男としての待遇とは?

男性らしい体へ変わっていく喜びとともに、戸惑いを覚えた社会的な変化についても細かく描写されています。

・夜道ですれ違う女性が自分を見て怯えるようになった
・打ち合わせで口を開くと、まわりが一斉に耳を傾けた
・根拠もなく専門知識を信頼される
・男性にやたらと喧嘩を売られる
・「本物の男」になるには弱さを見せてはならない、と思わされた
・「本物の男」とはトランスジェンダーではないこと、だけを意味しない
・スキンシップができなくなった
・女性の話を意図せず無視してしまう機会が増えた

など、いくつものエピソードが挙げられています。
「トランスジェンダー男性という存在は、ふたつの世界を理解している」などと言われることもありますが、実際には「毎日筋肉を鍛えるように、それぞれへの立場への共感を育てていった」と、マクビー氏は男女で異なる境遇について感じたことを分析しています。

FtMが男らしさを考え直す

『トランスジェンダー男性の私がボクサーになるまで』の中で、個人的に印象に残ったものは弟との関係性でした。”なりたくない男性像”である父親をもつ者同士として、父と違う男になるにはどうしたらいいか?という悩みを、トランスジェンダー男性ではない弟も同様に持っていた、と気づいて探り合う場面があるからです。
もちろんトランスジェンダー男性だからこその悩みもありますが、それだけではなく、マジョリティに見えていた男性の一人一人も同じ悩みを抱えているのだと判明していくのです。これは著者であるマクビー氏にとっても意外な展開だったようです。「男とは何か」「なぜ男は闘うのか」という個人的な疑問から、どんどん膨らんでいきます。
そして「男らしさ」の定義はたった一つしかないわけではなく、自分の中でつくったり増やしていったりすることが必要、と述べられています。

『トランスジェンダーの私がボクサーになるまで』は、変化に戸惑うFtM当事者はもちろん、男らしさに縛られている人全員が考えるキッカケになるかと思います。Kindleでも日本語版がありますので、気になった方は是非チェックしてください。

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◎この記事を書いた人・・・空衣
1996年、神奈川県生まれ。性別も住処も旅してきました。

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