最近よく取り上げられる「LGBT」についての話題。
同性婚の話題が目立つ一方、つい最近では大手企業が「ゲイ」をネタにした不適切発言をしたことでも話題になりました。
SNSでは、他にも話題に上げられていたりしますが、実際にLGBTが抱える・直面する問題とはなんなのか、また、取り組みについても調べてみました。

初めに
この記事ではわかりやすさを重視し、便宜的に「男性」「女性」という表現を使っている部分があります。IRISでは男女二元論にとらわれず多様な性の形を受け入れ、様々な社会的マイノリティを記すためにLGBTsという表現を用いていますが、用語の説明のために意図的にLGBT、LGBTQと表記しています。

LGBTとは

色々な所に書かれているので、ご存知かもしれませんが、改めて「LGBT」についてご説明いたします。

レズビアン

女性の同性愛者のことで、心身共にいわゆる”女性”という場合だけではなく、身体的にはいわゆる”男性”という性別を割り当てられている場合でも、本人の心の性・恋愛対象が「女性」である場合も該当すると言われています。

ゲイ

男性の同性愛者のことで、心身共にいわゆる”男性”という場合だけではなく、身体的にいわゆる”女性”という性別を割り当てられている場合でも、本人の心の性・恋愛対象が「男性」である場合も該当すると言われています。

バイセクシュアル

”両性愛者”とも呼ばれるセクシュアリティです。
心身の性別が一致していない場合でも、本人の恋愛対象がいわゆる「男性・女性」である場合は該当すると言われています。

トランスジェンダー

定義が時代と共に変わってきているセクシュアリティであり、認識も人によって異なることがあります。
「心身の性別が一致していない人」「自身の性別に違和はあるものの一致はさせようとしない人」などが多く言われていますが、このセクシュアリティ自体が広義の意味を持っていますので、一概に「こうです」と言い切れないセクシュアリティです。

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その他のセクシュアルマイノリティ

その他のセクシュアルマイノリティ
「LGBT」についての説明は色んなところで見かけるけど、他には何があるの?「+ってなに?」という方もいるかもしれません。
現在50数種類あると言われているので、全てを紹介するのは難しいのですが、一部をご紹介しようと思います。

Xジェンダー

本人の生まれ持った身体の性別に関係なく、心の性別がいわゆる「男性」「女性」に属さないセクシュアリティで、こちらは日本で生まれた言葉です。
一般的には「中性」「無性」「両性」「不定性」の4つに分類されますが、この限りではありません。

インターセックス

身体の性別に関する様々な機能・形・発達が、いわゆる「男性」「女性」に区別される典型的な状態に一致しない部分がある状態のことです。
正式名称はDSD、Disorders of Sex DevelopmentもしくはDifferent of Sex Development の略で、日本では「性分化疾患」と呼ばれ、新生児の約2000人に1人が該当すると言われています。

ノンセクシュアル

恋愛感情はあっても、他人に対して性的感情を抱かない・抱きにくいセクシュアリティです。
また、ノンセクシュアルの中でも性に対する考え方は様々で、自慰行為はする人、性行為が産まれた時から苦手、過去のトラウマ、手も繋げない、下ネタがNG…など、一概に特徴をまとめることができません。

アセクシュアル

他者に対して、恋愛感情や性的感情を抱かない・抱きにくいセクシュアリティです。
宗教や自身のライフスタイルの中で、意識的に恋愛をしないようにしている人は該当しません。
結婚に対する考え方も様々で、決して冷たい性格の人ということではありません。

FtM

「Femal to Male(女性から男性へ)」の略で、女性から男性に性別を移行する人・移行した人を指します。
トランスジェンダー(LGB”T”)に属するジェンダーです。

MtF

「Male to Female(男性から女性へ)」の略で、男性から女性に性別を移行する人・移行した人を指します。
FtM同様、トランスジェンダーに属するジェンダーになります。

ポリセクシュアル

相手のセクシュアリティを考慮し、尊重した上で恋愛対象とするセクシュアリティが複数あるセクシュアリティです。
「女性が好きだけど、MtFは恋愛対象外」「男性は好きだけど、FtMは恋愛対象外」「身体の性別が女性(あるいは男性)であるなら、心の性別は気にしない」など、人によって恋愛対象とするセクシュアリティは様々です。

パンセクシュアル

全性愛とも呼ばれ、いわゆる「男女」などのジェンダーやセクシュアルに関係なく、誰でも恋愛対象になったり、性的欲求を抱いたりするセクシュアリティのことです。
パンセクシュクアルには、セクシュアリティや性別によって『恋愛対象になる・ならない』という概念がなく、「好きになった人が好き」というようなセクシュアリティです。

クィア

「LGBTQ」という総称のうち、「Q」に該当するセクシュアリティです。
クィアというのは、どのセクシュアリティにも当てはまらないセクシュアリティで、また”全てのセクシュアリティを包括”する意味を持つと言います。
つまり総称「LGBTQ」というのは『レスビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・他の全てのセクシュアリティ』という意味になってきます。

クエスチョニング

クィアと共に「Q」に該当し、性自認や性的指向が定まっていなかったり、意図的に決めていなかったりするセクシュアリティになります。
決めていない方が生きやすい、決められていない、どのセクシュアリティも違和感がある……など、理由は様々です。
また、セクシュアリティは流動的で変化するものなので、その転換期「異性愛者だったけど、両性愛者になった」などの期間も該当してきます。

 

少し多めにご紹介しましたが、まだまだ世界にはたくさんのセクシュアリティがあります。
『セクシュアリティは流動的であり、変わることもある』ということも踏まえて、ご自身の「今」にピンとくるセクシュアリティを見つけてみるのもいいと思います。

LGBTが直面する問題

LGBTが直面する問題
次は、「LGBT」が直面する問題についてお話ししていきます。
色々とニュースになっていることもありますが、一体何が問題で、何を求めて「LGBT」の運動が行われているのでしょうか。

学校・教育

実は、学校や教育の現場ではマイノリティを理由に様々な問題が起こっており、特にイジメの問題は多くあります。
認定NPO法人ReBitが行った小学校5年生〜6年生、849人を対象にした『小学校高学年における多様な性に関する授業がもたらす教育効果調査』では、「イジメや暴力を受けたことがあるLGBT」が68%、「不登校を経験したことがあるトランスジェンダー」が29%、「自殺念慮を抱いたことがあるトランスジェンダー」が58.6%と、いずれも高い数値を出しています。
このことからも、学齢の頃に何かしらの問題に直面するLGBTの多さが伺えるでしょう。

参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000047512.html

仕事や就職

就職や職場での問題も起きています。
例えば、LGBTであるとカミングアウトしたところ面接が打ち切られる、LGBTであることを理由に不採用にされる……など。
他にも、サイトから応募する際の入力フォームで「男性」「女性」を選択しないと先に進めない、対面での書類受け渡しの際にトランスジェンダーである旨伝えたところ「そういった方はうちではちょっと難しいです」と断られる、男女に分けられた集団面接の場でメンズスーツを来て行ったところ声を聞いた瞬間「あれ?女の子だよね?間違えちゃったかな〜?」と笑われ、周囲からも笑い声が上がるなどという屈辱的な思いをした方もいます。

医療や戸籍上の性別の変更

医療関係や、戸籍変更においても問題があります。
これはどこでも同じですが、受診表の性別を選ぶ項目が「男女」しかないことは、トランスジェンダーの方にとって「自身の性別を強く意識させられる場面」なので、精神的な苦痛が伴います。
また、戸籍上の変更にも「結婚をしていないこと」「こどもがいないこと」「生殖器の有無」「容姿が性別と一致しているか」など、条件が厳しいことも問題です。
性転換手術には多大な費用がかかりますし、こどもがいるトランスジェンダーの方がいてもおかしくありません。
こういったことから、保険証に記載されている内容と容姿が異なり「どう思われるか」を不安に思うということもあります。

結婚やパートナーシップ

最近、大阪裁判所での判決結果が話題になっていますよね。
「結婚なんかできなくてもいいじゃないか」という、結婚を望むLGBTの方にとっては心ない言葉も見かけられます。
パートナーシップ制度があるのだから、という意味ではありますが、パートナーシップ制度に法的効力はなく、婚姻とは別のものになります。
婚姻関係が成立することで得られる権利もあります。
結婚が認められないことで、他人同士でしかいられない、想い合うパートナーが辛い思いをしているのです。

賃貸物件を借りづらい

今ではLGBTを対象とした弊社IRISのような不動産もありますが、まだまだ理解のある物件というのはまだまだ多いとは言えない状況です。同性同士で借りるとなると渋い顔をされたり、結婚を前提としていないルームシェアは喧嘩をしてどちらかが出ていくことになるのでは……と、連帯保証人を別々に書かされたり、「ルームシェアは初期費用2倍」と言われることも……なかなか同性同士での居住は難しいのが現状です。

ペアローンを組むのが難しい

最近では同性カップルでもペアローンを組める企業が増えてきていますが、問題はまだ残っているようです。
例えば手数料の問題です。
企業では「折半型」か「連帯型」のいずれか、あるいは両方を提供しているのですが「折半型」の場合は『家主が2人』になるため融資手数料が2倍になってしまうこともあります。
また、もしパートナーが死亡してしまった場合、法定相続が同性カップルの間にはないため、所有権遺贈のための遺言書が必要になってきますが、場合によっては相続税が高額になることもあり得るのです。

老後問題

パートナーシップ制度はあるものの、法的効力のなさからくる問題は老後にもあります。
アメリカでの出来事ですが、トランスジェンダーの方が施設への入居を拒否され、トランスジェンダーの方の立場の弱さが問題となりました。
また、老後モデルの少なさからライフプランの立てにくさもあります。
アメリカでの出来事でもそうですが、施設への入居がどうなるのか、相続はどうなるのか、入院での面会は……など。
現状、異性愛者が受けられる権利が同性愛者にはないために、老後の見通しが安易ではないのです。

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日本のLGBT問題への取り組み

日本では2002年から、LGBT対しての動きがあったと言います。
それでは、日本では現在どういった取り組みがなされているのでしょうか。

性同一性障害に対する性別の取り扱い

前述した通り、日本では2002年からLGBTに対する動きがありました。
人権教育・啓発などの計画の中に「同性愛者への差別」といった性的指向に関わる問題の解決を目指す施策検討をするとされており、その2年後に『性同一性障害の性別の取り扱いの特例に関する法律』が施行されました。
この法律の施行により、生物学的・社会的に割り当てられた性別が一致しないことを理由に、戸籍上の性別の変更が可能となったのです。
ただし、未成年の子どもの有無や性別適合手術の有無などの条件があり、手術を望まない人々は変更することができないなどの問題が残っています。

パートナーシップ制度

2015年の渋谷区・世田谷区でのパートナーシップ制度施行以降、一気に進んだパートナーシップ制度。
各自治体ごとにその内容が異なるものの、『この市区町村の中で、2人の関係を認めます』というのがこの制度です。
この制度ができたおかげで、同性カップルが受けられるサービスが増えたりもしました。
ただし、法的効力がないことによる問題がまだまだ残されており、今後どのように変わっていくのかが注目されます。

女性の活躍推進のための開発戦略

こちらは2016年に政府から発表されたものです。
脆弱な立場に置かれている女性や女児の権利を尊重し、個人個人が自身の能力を発揮できる環境を整え、政治・経済などさまざまな分野へ参入できる社会づくりを目指す取り組みです。
2015年に採択された「SDGs」の目標の一部である『ジェンダー平等を実現しよう』に関連しています。
基本原則は「女性と女児の権利の尊重・脆弱な状況の改善」「女性の能力発揮のための基盤の整備」「政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上」です。
まだあまり実感できていないこちらの政策。
これからどのように広まっていくのかが気になるところです。

LGBTへの差別やいじめ、セクハラへの対応

2017年の男女雇用機会均等法に基づく「改正セクハラ指針」の施行で、被害者の性的指向・性自認に関わらず職場におけるセクハラが対象になることが示されました。
また、性的指向や性自認をからかう、それらを理由にいじめのターゲットにすることもセクハラにあたり、許されないことであるとし、LGBTへの対応が「いじめ防止推進法」に盛り込めれたことで『LGBTへの差別』という課題の解決、平等へ向けた動きにつながっています。
個人個人の意識を変えることは難しいですが、法に盛り込むなどの対応により何かしらの働きかけを行ってくれているのですね。

LGBT理解増進法とLGBT差別解消

性別違和に対する特別な法令ではなく、一般法としてLGBTへの差別や偏見を解消するための法律の導入が模索されています。
2016年には野党からは『LGBT差別解消法』が起草、それに対抗する形で与党から『LGBT理解増進法』が打ち出され、野党案は国会へ提出されました。
しかし、第194回国会中に衆議院が解散したことで野党から提出されていた『LGBT差別解消法』は廃案となっており、『LGBT理解増進法』は自民党の反対により提出されないままとなっています。
また、『LGBT理解増進法』の内容は人権教育法にならっていると考えられており、「差別や偏見をなくすためにはまず、一般社会の十分な理解が必要である」という考えに基づいているそうです。

”偏見”というのは、産まれて成長し過ごしていく生活の中で知らぬ間に植え付けられ、無意識下に形成されているものですから、『LGBT理解増進法』の考え方には納得ですね。
ニュースにならないものの、影ではこうして「LGBT法案」への進みも見られているようで、全く希望がないわけではないのかもしれません。

海外のLGBT問題

海外のLGBT問題
日本を含むアジア諸国に比べると、他の国々では同性婚を認めていたり、婚姻に近い権利を享受することのできる制度を取り入れているなど、理解が進んでいるように見受けられますよね。
しかし、やはりまだそこには問題も残っており、故に痛ましい事件も起こっています。

エジプト、LGBTへの拷問と性的暴力

このニュースは、2017年から2020年の間に逮捕をされた15人の方からの証言を引用した内容だそうで、LGBTではないかと疑われた人々に難癖をつけるために、漠然とした容疑をかけられたのだと言います。
警察はSNSを利用して、LGBT疑惑のある人々に接触して公共の場におびきだして逮捕。
さらに証言によると、こういった人々の携帯にポルノ画像を仕込み、わいせつ罪の嫌疑までかけるのだそうです。
そして、狭くて衛生環境の悪い場所へ収監されると侮辱や暴力、性的暴行を受け、この取り扱いについて誰かに話せば「日の目を見られなくなる」と脅しまでかけられた人もいると言います。
こういった逮捕を受けた人々は家族から縁を切られるなどの追い討ちを受けます。
エジプトでは明文化されておらず、実質的には犯罪化されているものの、憲法上では「黙秘権」「弁護士・家族との面会の権利」「逮捕から12時間後まで容疑を知る権利」が保障されており、身体的・精神的虐待は禁止、これら状況下での自白の使用も禁止とされています。
暴力などの内容が事実であれば、これらの行為はエジプトの憲法の内容には違反していることになるでしょう。

LGBTへの迫害状況

LGBTへの迫害状況』という資料によると、同性間での性交を禁止としている国が多く、その規定内容を見てみると「反自然な結びつき」「不法な性交」「反自然な行為」など、同性愛そのものを否定している内容が見受けられます。
刑に関する軽重は国によりますが、ほとんどは”重い”ように思われます。
刑期の上限の長さもそうですが、刑期に加えての罰金やもっとひどい場合はムチ打ちなどの肉体的刑罰、重労働、死刑の可能性のある国もあります。
特に私が驚いたのはマレーシアとマラウイの「自然の摂理に反する性行」に関する刑罰の内容です。
マレーシアでは「刑期上限20年」と「ムチ打ち」、マラウイでは「刑期上限14年」「肉体的刑罰」が課せられるそうで、絶対に上限まで刑期が与えられる訳ではないにしても、日本では考えられない刑罰の内容に、思わず顔を歪めてしまいました。

上記2つのお話以外ですと、イギリスでのレズビアンカップルに対する暴力事件など、各国LGBTへの偏見や差別をすぐになくすのは難しいのでしょう。

まとめ

記事を書く過程で、LGBTについての悲しい事件や出来事を多く目にします。
ただ、差別や偏見を「根絶やしにする」「なくす」というのは、『多様性を受け入れる』という意味でも難しいことだと私は思っています。
人にはそれぞれ、理解できることとできないことがありますし、そこにある考え方も”多様性”がある訳です。

「理解しろ」「受け入れろ」とゴリゴリ押し付けても、反発が起きるのは当然です。
きっと本当に訴えたいことは、”人として受けられる幸せや安心を受けさせて欲しい”ということだと思うのです。
そして、いつかそうなることを、ただ願います。