初めに |
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IRISでは、あらゆるマイノリティが暮らしやすくなることを目指すという意味から「LGBTs」と表記していますが、今回は一般的な「LGBT」「LGBTQ」について解説するため、表記が混在しております。 |
近年、セクシュアルマイノリティという言葉を聞くようになりました。セクシュアルマイノリティの割合は11人に1人といわれており、決して珍しい存在ではありません。多くの当事者が、書籍や論文、記事などに簡単にアクセスできたり、セクシュアリティがわからなくて悩んでいる人がネット上で簡単な診断を受けられたりなど、悩みを解消するためのツールが増えてきました。
メディアやテレビで取り上げられるようになってはいるものの、同時に「ちゃんとした意味はわからない」「LGBTとの違いを知らない」といった人もみられ、言葉だけが先行してしまっているイメージがあります。改めてセクシュアルマイノリティとは何か、当事者を取り巻く問題や現状、今後の課題などについてお話しします。
セクシュアルマイノリティとは
セクシュアルマイノリティ(Sexual Minority)とは、性のあり方に関して少数派である人のことを指し、セクマイと略されます。セクシュアルマイノリティは性的指向、性自認の観点から語られることが多いですが、それだけでなく、恋愛的指向、性表現など、さまざまな性における少数者に当てはまります。
最近では、セクシュアルマイノリティを総称するクィア(Queer)という言葉も使われるようになりました。もともとは蔑称で「奇妙な」「風変わりな」という意味をもちましたが、当事者はそれを逆手に取り、1990年代のニューヨークで行われた抗議運動では「We are here. We are Queer.Get used to it.(私たちはここにいる。私たちはクィアだ。それに慣れなさい。)」とあえてクィアという言葉を使うようになりました。
当時は今よりも異性愛規範や性別二元論が強い世の中で、マジョリティから見たクィアは“奇妙”で“風変わり”に映ったかもしれません。当事者は異性愛者にはないセクシュアリティで生きていることを、批判からポジティブに変換することで、現代におけるクィアの意味合いが確立したのです。
セクシュアルマイノリティとLGBTの違い
LGBTとは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字からなる言葉です。世間では、「LGBT=セクシュアルマイノリティ」と表現されることもありますが、LGBT以外のセクシュアリティの存在が可視化されにくい点が問題点として挙げられます。そのため、近年では「LGBTQ」や「LGBTQ+」、「LGBTs」のような言葉が積極的に使われるようになりました。
先述した通り、セクシュアルマイノリティとはあらゆる性における少数者のことをいい、LGBTだけではなく、それ以外のセクシュアリティも指しています。性のあり方は多種多様であり、全てのセクシュアリティを把握することは困難だといえます。しかし、LGBT当事者以外にもあらゆるセクシュアルマイノリティが存在することを知るということは重要です。
関連記事:「【LGBT】性って何?多様な性の種類を簡単に分かりやすく解説します!」
セクシュアルマイノリティに含まれる要素
性のあり方が少数派であるセクシュアルマイノリティ。ここでは、性のあり方を性的指向、恋愛的指向、性自認、性表現の4つの要素に分けることにします。それらの要素が組み合わさると、さらに性のあり方は多様になり、さまざまなセクシュアルマイノリティが存在していることがわかります。
性的指向
性的指向とは、どんな性に性的な感情を抱くかについてです。例えば、女性が好きな人は「性的指向は女性に向いている」といえます。
性的指向は、性的な感情に加えて恋愛感情も含む意味合いとして使われることもありますが、正確には“性的な指向”なので「性的な感情」のことです。ただ、わかりやすく表現するために「好きになる」「魅力的だと感じる」などの言葉を用いる場合もあります。
以下、性的指向にまつわるセクシュアリティの一部をご紹介します。
レズビアン
レズビアン(Lesbian)とは、日本語で女性同性愛者と直訳され、女性を自認し、性的指向が女性に向いているセクシュアリティのことをいいます。
関連記事:「レズビアンとは女性同性愛者のこと。意味や同性愛について詳しく解説!」
ゲイ
ゲイ(Gay)とは、日本語で男性同性愛者と直訳され、男性を自認し、性的指向が男性に向いているセクシュアリティのことをいいます。
関連記事:「ゲイとは?ガチムチは何でガチムチが好きなの?」
バイセクシュアル
バイセクシュアル(Bisexual)とは、日本語で両性愛者と直訳され、自認する性にかかわらず、性的指向が複数の性別に向いているセクシュアリティのことをいいます。一般的には、男性と女性の2つの性別を好きになるセクシュアリティと定義されることが多くあります。
しかし、当事者の中には「自分と同じ性別とそれ以外の性別に惹かれる」「今のところは男女に性的指向が向いている」など、人それぞれの定義は異なります。そのため、必ずしも男女の2つの性別のみに限定されるわけではありません。
関連記事:「バイセクシュアルとは?パンセクシュアルやポリセクシュアルとの違い」
パンセクシュアル
パンセクシュアル(Pansexual)とは、日本語で全性愛者と直訳され、自認する性にかかわらず、人に惹かれる時に相手のセクシュアリティを重要視しないセクシュアリティのことをいいます。多くの当事者が、性別よりも“その人”として好きになることが特徴です。
関連記事:「パンセクシュアルとバイセクシュアルは同じ説とは本当なのか?当事者が違いについて解説」
デミセクシュアル
デミセクシュアル(Demisexual)とは、日本語で半性愛者と直訳され、信頼関係や強い絆を持った相手にのみ、稀に性的な感情を抱くセクシュアリティのことをいいます。
関連記事:「『デミロマンティック』と『デミセクシュアル』の違いとは?他のセクシャリティもご紹介」
オムニセクシュアル
オムニセクシュアル(Omnisexual)とは、日本語で全性愛者と直訳され、相手の性別を認識した上で、性的指向があらゆるセクシュアリティに向くセクシュアリティのことをいいます。
グレーセクシュアル
グレーセクシュアル(Graysexual)とは、ごくわずかにしか性的な感情を抱かない、特定の条件が揃った場合にのみ抱く、特定の条件もしくは自分が性的な感情を抱くかどうかわからないセクシュアリティのことをいいます。
アセクシュアル
アセクシュアル(Asexual)とは、性的な感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのことをいいます。
関連記事:「アセクシュアルって何?アセクシュアルについて解説します!」
恋愛的指向
恋愛的指向とは、どんな恋愛感情を抱くか、あるいは抱かないかについてです。恋愛感情は、性的な感情を伴うものとして認識されることが多いですが、必ずしも性的指向と恋愛的指向は一致するわけではありません。
最近では、恋愛感情を(ほとんど)抱かないアロマンティック、性的な感情を(ほとんど)抱かないアセクシュアルという言葉を耳にする機会が増えてきました。アロマンティック、アセクシュアル周辺の性的指向、恋愛的指向におけるスペクトラムのことを「ARO/ACE(アロマンティック・アセクシュアル)」という言葉を使って表現することもあります。
以下、恋愛的指向におけるセクシュアリティを一部紹介します。
バイロマンティック
バイロマンティック(Biromantic)とは、自認する性にかかわらず、恋愛的指向が複数の性別に向いているセクシュアリティのことをいいます。バイセクシュアルと同様、必ずしも男女の2つの性別のみに限定されるわけではなく、当事者によって定義が異なります。
パンロマンティック
パンロマンティック(Panromantic)とは、自認する性にかかわらず、人に恋愛感情を抱く時に相手のセクシュアリティを重要視しないセクシュアリティのことをいいます。パンセクシュアルと同様、多くの当事者が、性別よりも“その人”として好きになることが特徴です。
デミロマンティック
デミロマンティック(Demiromantic)とは、日本語で半性愛者と直訳され、信頼関係や強い絆を持った相手にのみ、稀に恋愛感情を抱くセクシュアリティのことをいいます。
関連記事:「デミロマンティックとは?デミセクシュアルとの違いや特徴や恋愛指向を徹底解説!」
グレーロマンティック
グレーロマンティック(Grayromantic)とは、ごくわずかにしか恋愛感情を抱かない、特定の条件が揃った場合にのみ抱く、もしくは自分が性的な感情を抱くかどうかわからないセクシュアリティのことをいいます。
アロマンティック
アロマンティック(Aromantic)とは、恋愛感情を(ほとんど)抱かないセクシュアリティのことをいいます。
関連記事:「恋愛感情のないセクシュアリティ?アロマンティックとアセクシュアルの違い」
性自認
性自認とは、自分の性をどのように表現するか、どのように見られたいかについてです。例えば、自分のことを男性だと思っている人の性自認は男性になります。私たちは出生時に、性染色体や外性器、性ホルモンに基づいて男女のいずれかに判断されます。ですが、身体的性というのは、あくまで社会によってラベリングされた概念に過ぎません。
身体的性と性自認が一致する人もいれば、一致しない人も存在します。そんな中、法律や社会制度、システムが身体的性に基づいて構築されている現状は、自身の表現したい、あるいは見られたい性で過ごせない人がいるということであり、問題視されています。
以下、性自認におけるセクシュアリティを一部紹介します。
トランスジェンダー
トランスジェンダー(Transgender)とは、身体的性と自認する性が異なるセクシュアリティのことをいいます。身体的性が男性で性自認が女性の人はMtF、身体的性が女性で性自認が男性の人はFtMと呼ぶことができます。
関連記事:「トランスジェンダーとは?簡単にわかりやすく解説します!」
Xジェンダー
Xジェンダーとは日本で生まれた言葉で、自認する性が男女のどちらかに当てはまらないセクシュアリティのことをいいます。一般的には、以下の5つに分けることができますが、Xジェンダーにもさまざまなあり方があるため、それらに当てはまらない当事者がいることも頭に入れておきましょう。
・中性:性自認が男女の中間に位置する
・不定性:性自認がその時々で揺れ動く
・無性:性自認が男女のどちらにも属さない
・両性:性自認が男女のどちらにも属す
・その他:「性自認が男女の2つの性だけでない」「Xジェンダーを自認しているが、その中のどれに当てはまるかはまだわからい」など
関連記事:「LGBTsの中のXジェンダーってどんな性別?」
性表現
性表現とは、言葉遣い、服装、振る舞いなど、自分自身の性をどのように表現したいかをいいます。その一例として、英語圏を中心に広まる「ジェンダー代名詞」が挙げられます。英語の授業では三人称単数は「He」もしくは「She」と習った人がほとんどでしょう。
しかし、それだと相手を呼ぶ際の表現が男女のどちらかに限定されてしまうため、Xジェンダーや男女以外の性別の人にとっては違和感を抱くという問題が挙げられます。そこで、誕生したのがジェンダーニュートラルな代名詞です。具体的にどのようなジェンダー代名詞が存在するのか、以下で紹介します。
・男性:He, His, Him
・女性:She, Her, Her
・ジェンダーニュートラル:They, Their, Them / Ze, Zir, Zem / Xe, Xyr, Xem
セクシュアルマイノリティを取り巻く問題
セクシュアリティには、非常に無数のあり方が存在することを認知する必要があります。しかし、冒頭でもお話した通り、なんとなくLGBTQという言葉は認知しているものの、実際に当事者が社会でどのように過ごしているかを知ったり、当事者の抱える問題を自分ごと化して考えたりするのには程遠い現状です。
身体的性と性自認が一致しているシスジェンダー、異性愛者と呼ばれるヘテロセクシュアルなど、いわゆるセクシュアルマジョリティと呼ばれる人たちとセクシュアルマイノリティの間には、社会の過ごし方において大きな差があるのです。
誰もが平等に生きやすい社会を目指すためには、生きづらさを抱えている人たちの声を拾って行動することが重要といえるでしょう。まずは当事者が抱える問題を知ることから始めましょう。ここでは、セクシュアルマイノリティを取り巻く問題を2つ紹介します。
同性同士は結婚できない
日本では、同性間での結婚が認められていません。同性間カップルを「結婚に相当する関係」とみなすパートナーシップ制度が全国で広がりをみせていることは、日本におけるLGBTQの現状が進歩したことになります。しかし、パートナーシップ制度は法律上の効力がないため、さまざまなデメリットが生じます。
例えば、法律上の婚姻したカップルが認められる配偶者控除、遺族年金受給資格は認められません。場合によっては、公営住宅での居住、病院での面会、手術同意などが受けられないこともあります。同性カップルであるというだけで、法律婚では当たり前に受けられることが、パートナーシップ制度では実現されないのです。
関連記事:「日本における同性婚やLGBTへの対応。海外との違いは?」
学校で差別やいじめを経験した
認定NPO法人ReBitが実施した「小学校高学年における多様な性に関する授業がもたらす教育効果調査」によると、「今までに、家や学校、テレビやマンガなどで、オカマ・ホモ・オネエなどと言ってバカにしたり笑ったりしているところを、見たり聞いたりしたことがありますか?」という質問に対し、約6割の生徒が「ある」と回答したことがわかりました。さらに、約2割が実際に差別的な言葉を発したことがあるとの結果が報告されました。
LGBTQが浸透してきたとはいえ、学校や職場、友人関係など、あらゆる場での差別を経験したことのある当事者は多く存在します。社会全体のセクシュアルマイノリティにおける認知が欠如していること、当事者が安心して過ごせる法律や制度が備わっていないこと、さまざまな側面が背景として挙げられるでしょう。
まとめ
本記事では、セクシュアルマイノリティの意味や当事者を取り巻く問題などについて紹介しました。自分には関係がないと思うかもしれませんが、実は周りにも当事者がいるかもしれません。さまざまなセクシュアリティが存在することを前提に、個の違いを否定しないことが大事なのです。