初めに
IRISではLGBTにも、その他のマイノリティにも親切な企業でありたいという気持ちからLGBTsフレンドリーを掲げていますが、本記事はLGBTに関する内容の為、LGBTsではなくLGBTという言葉を使用していきます。

みなさんは、「アウティング」という言葉を聞いたことはありますか?

2015年に起きてしまった一橋アウティング事件で、大きく報道されたアウティング。

この記事では、アウティングとはそもそも何か、何が問題なのか、実際に起きてしまった事例、アウティングの防ぎ方について解説しています。

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そもそもLGBTとは

LGBTとは性的少数者の総称でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字です。

レズビアンは女性として女性のことが好きな女性同性愛者、ゲイは男性として男性のことが好きな男性同性愛者、バイセクシュアルは両性愛者、トランスジェンダーは生まれ持った性別と自認する性が一致していない人のことを意味しています。

LGBは性的指向(好きになる性別)、Tは性自認(自分が認識する自分の性別)に関する用語ですので、ちょっとややこしいかもしれません。

 

日本でも「LGBT」や「SOGI」といった言葉が使われるようになり、性的少数者にも配慮しようという機運が高まりつつあります。しかし、現在でもほとんどのLGBT当事者はLGBTであることを周囲に明かさずに隠して生きているのが現状です。

 

周りからは見えない性自認、性的指向

自ら申告しない限り、誰かの性的指向や性自認を正確に判別することは難しいという性質があります。

自らの性的指向や性自認を周囲に明らかにすることを「カムアウト」、「カミングアウト」と表現します。性的指向を明らかにしている人のことを「オープンリー◯◯」と呼びます。「オープンリーゲイ」、「オープンリーレズビアン」といった呼び方です。これに対し、周囲に性的少数者であることを隠して生活している人を「クローゼット」と呼びます。大半のLGBT当事者のひとたちはクローゼットとして生きています。

 

LGBTを取り巻く過酷な環境

「LGBTと言われても、そういう人はまわりにはいないよ」と言う人も多いかと思いますが、前述した通りLGBTの人たちは、クローゼットとしてLGBTであることを隠して生活している場合が多いです。同調圧力が強いとされる日本で、LGBT当事者であることを打ち明けるハードルはかなり高いですし、LGBTでいじめられてしまった経験を持っている人は、調査では6割にものぼります。実際、LGBT当事者は、自殺のハイリスク層とされており、例えばゲイ・バイセクシュアル男性は異性愛男性にくらべて5.98倍も自殺未遂率が高いという調査結果もあります。

自殺までいかなくても、リストカットやオーバードーズ(大量服薬)、精神疾患などを抱えて生きているひとたちも数多く、LGBTの若者の自傷行為率は2~7倍にものぼるという調査結果があります。

 

LGBTの人はどのくらいいるの?

では、LGBTの人たちは日本にどの程度いるのでしょうか。

さまざまな調査で、日本では人口の10%前後がLGBTに該当するとされています。小学校や中学校で同じクラスに最低1人はLGBTの人がいてもおかしくなかったはずという割合になります。明らかになっていないだけで、あなたの学校や職場、近所などのコミュニティにもLGBT当事者はいるのかもしれないのです。

 

アウティングとは性的指向や性自認を暴露されること

アウティングとは性的指向や性自認を暴露されること

これまで述べてきたようにLGBT当事者の多くは、自らの性的指向や性自認を隠して生きている場合が多いです。しかし、なにかのきっかけでLGBTであることが周囲にバレてしまうことがありますし、LGBTではないかと疑いをかけられてしまう場合もあります。

ある人がLGBTなどのセクシュアルマイノリティである、もしくはその疑いがあることを、本人の許可なく周囲に暴露し、広めることを「アウティング」と言います。具体的には、「あいつゲイ(レズビアン)だよ」、「あの人は、身体は女なのに心は男なんだってさ」といった具合に他人に勝手に性的指向、性自認を暴露してしまう行為になります。

 

アウティングとカミングアウトの違い

「カミングアウト」、「カムアウト」は自らの意志で周囲に対して自身のセクシュアリティを公開するのに対し、「アウティング」はLGBT当事者が秘めておきたいセクシュアリティを第三者に勝手に暴露されてしまうことです。LGBT当事者本人の意志が尊重されているかどうかが大きな違いとなります。

 

アウティングは当事者に大きな精神的苦痛を与える

LGBT当事者は、LGBTであることを自分だけの秘密としておきたい、もしくは「自らが望んだ相手にのみLGBTであることを伝えたい」と考えている人がほとんどです。人はみな多かれ少なかれ人に言えない、言いたくない秘密を抱えて生きているかと思いますが、LGBT当事者が抱える「LGBTである」という秘密は社会生活や生命に直結します。

 

職場でアウティングされ退職に追い込まれる

とても痛ましいのですがこういった事例は、報道されていないだけでいくつもあるのではないかと思っています。

実はこの記事を書いている僕自身も同じような経験をしています。本当に辛くて、一番追い詰められている時は職場で自死することしか考えられなくなってしまうほどでした。僕の友人も、職場で突然「ここは二丁目じゃねえんだよ」などの暴言を吐かれた経験があり、ハラスメントが酷すぎて退職してしまったという悲惨な体験を持っています。

また、当社(株式会社IRIS)の代表取締役CEO須藤も職場でのアウティングがきっかけでIRISを起業したという背景があります。詳細は下記の記事をご参照ください。

 

参考記事:【30歳を迎えて】

https://iris-lgbt.com/blog/2020/01/17/post-6770/

 

インターネット掲示板にアウティングされ自殺未遂

社会人アメフトチーム「下町ゴリラズ」代表の加藤良さんは、学生時代にインターネット掲示板2ch上にゲイであることをアウティングされてしまった経験をお持ちです。現在はカミングアウト・アスリートとしてゲイであることをオープンにして活躍されていますが、なんの準備もしていない時に突然インターネット上にセクシャリティをさらされてしまうストレスは想像もつきません。しかもインターネットの書き込みは、長期間晒されてしまいます。

 

加藤さんは自殺未遂まで追い込まれてしまっていますが、なんとか自殺を思いとどまれました。「ゲイでも認められるよう頑張ろう。一度死んだつもりで強く生きよう。同じ思いをする人をこれ以上増やしたくない。」と気持ちを切り替え、現世に踏みとどまれていますが、僕だったら耐えられないと思うほどに本当に辛い話で胸が痛くなります。

 

現在加藤さんはミスターゲイジャパンに出場するなど、LGBT当事者をサポートする活動に取り組まれています。また、保険代理店に従事し、LGBT当事者としてLGBT当事者向けにライフプランニングや保険の案内などをされています。

 

参考

いろいろな性いろいな生き方 アシタノカレッジ TBSラジオ 2021.10.27

 

無意識なアウティングに注意

LGBTについて無知な人々、特に世の中の多数派であるシスジェンダーヘテロセクシャル(生まれた時に割り振られた性別と性自認が一致している異性愛者)の人々は、無意識のうちにアウティングを行ってしまう恐れがあります。

誰かがゲイかもしれない、レズビアンかもしれない、バイセクシュアルかもしれないと聞いた・わかった・思った時、それを人に広めてしまおうとする人がいます。「◯◯ってレズビアンらしいよ」、「◯◯さんって男性として働いてるけど元女性だよ」といった具合です。

 

誰かが性的少数者であると知ってしまい、そのことを誰かに相談したいという気持ちを持つ人もいるかもしれません。もしくは善意で周囲に広めた方が良いと考えるかもしれません。しかし、本人の許可なく繊細な話題であるセクシュアリティを勝手に広めるのは、アウティングです。アウティングで幸せになる人は1人もいませんし、勝手に人のプライバシーを広め、名誉を傷つけかねない行為をしてしまうのは許されるものではありません。

 

人との雑談でLGBTに関する話題がでたとき、「そういえば◯◯さんもそっちの人なんだってね、知ってた?」と軽い気持ちで話してしまおうとするかもしれませんが、この行為もアウティングに該当します。世間話などで無意識に人の性的指向、性自認などを広めてしまわないよう気をつけましょう。

 

未だにLGBTへの理解や差別には問題があるまま

2016年に行われた調査で、「職場の上司・同僚・部下等が、いわゆるレズビアンやゲイ(同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者) であった場合、どのように感じるか」という設問に対し、「嫌だ」と回答した人が全体の35%にのぼっています。

トランスジェンダーに対して「嫌だ」と回答した人は26%です。

 

人が性的少数者に対してどう感じるかなので仕方のない部分もあるかもしれませんが、まだまだLGBTに対する理解が深いとは言えない状況で、決して少なくない人たちがLGBTに嫌悪感を示しています。そうした状況下でアウティングされてしまうダメージは計り知れません。

 

参考記事:LGBTに関する職場の意識調査 連合

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アウティングに関する事件

実際に過去に起きてしまったアウティングに関する事件をご紹介します。

一橋アウティング事件

2015年4月、一橋法科大学院に通っていたゲイの男子学生Aが別の男子学生Bに「俺、好きだ、付き合いたいです」と告白。しかし、「付き合うことはできないけど、これからもよき友達でいてほしい」と断られます。

 

2015年7月、上記ABと他にも数人が参加しているメッセージアプリ内で、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのはムリだ。ごめん」と発信し、Aがゲイであることを許可なく他のひとたちにアウティングしてしまいます。

 

2015年8月、Aがクラス全員が読むことのできるメッセージアプリのグループ内で、「Bが弁護士になるような法曹界なら、もう自分の理想はこの世界にない」と送信した後、校舎から転落死してしまいました。

 

Aの両親が大学とBを相手に訴訟をおこしました。Bとはその後和解し、大学との訴訟では「一橋大学の安全配慮義務違反は問えない」として二審で敗訴が確定したものの、アウティングが不法行為であることを認めたことで注目を集めた判決となりました。

 

参考記事

「アウティングは不法行為」しかし遺族の請求は棄却。一橋大学アウティング事件裁判が終結 YAHOO!JAPANニュース

 

アウティングを防ぐには

アウティングを防ぐには

アウティングを防ぐにはどういった方法が考えられるでしょうか。

相手の気持ちになって考える

当たり前かもしれませんが、LGBT当事者の気持ちに立って考えるのが大事かと思います。アウティングしてしまう人の主張として「周囲の人に言ってあげた方が良いかと思った」「言いづらいかと思うから代わりに言ってあげた」「事実なのだから良いだろう」という主張をされる人が多いようです。

さきほどの調査結果にも反映されている通り、LGBT教育が実施されていない日本ではLGBTに対する誤解や偏見がまだまだ見られます。つまり、LGBT当事者にとってアウティングの影響力がどう働くかは未知数ですし、マイナスに作用することはあってもプラスに作用することは稀なはずです。そうした状況下で勝手に人のセクシュアリティを他人に広めるのは、アウティングされた人の立場を根底から大転換させてしまうほどの破壊力があります。「目には見えない、明らかにはなっていないことで、マイナスになるかもしれない話」を敢えて他の人に暴露する必要はないはずです。どうかアウティングされる人の気持ちに立って考えて欲しいです。

 

噂話はほどほどにする

噂話好きな人はたまにいますが、人のいないところであることないこと話す人を好きだという人は少ないと思います。特に人の性的指向・性自認という非常に繊細な話題を噂話として広めるのは倫理的によくないですし、良識を持った人たちからは賛同を得にくい行為かと思います。繊細だったり、人をおとしめるような噂話は避けた方が良いと考えます。

 

法や条例で規制する

海外では同性婚ができる国が急激に増えていますが、そういった国々でも同性婚の前にLGBTに対する差別を禁止する法律が先に制定されている場合が多いです。アウティングを法律などで禁止すれば、アウティングをより強力に防げるでしょう。

日本でも、パワハラ防止法の一環としてSOGIハラ・アウティングの禁止が盛り込まれました。また、東京都国立市、豊島区、三重県、岡山県総社市などでアウティングを禁止する条例が制定されています。違反した場合の罰則規定はありませんが、こうした動きが日本全体に広がることを期待します。

 

参考記事

三重県議会で「アウティング」禁止条例が可決、都道府県で初

 

まとめ

繰り返しますが、アウティングは人の生命をも奪いかねないほど重大なハラスメント行為です。絶対にアウティングをしないのはもちろんのこと、誰かがアウティングしているのを耳にしたら、話に乗ったりせず、せめて自分はその噂を広めないようにしていただきたいです。可能であれば、それがアウティングであることを指摘した上で、止めるよう伝えて欲しいと思います。世間には残念ながら、悪気の有無にかかわらずアウティングを平気で行ってしまう人がいるのは事実です。

 

誰だって自分のプライベートやセンシティブなことを勝手に噂されたり、広められたりしたら嫌にならないわけがありませんよね。

LGBT当事者にとってアウティングは学校や職場などの社会的な居場所を奪い去り、時には命すらも投げ出してしまうほどに重大なダメージを与える行為です。もしアウティングが与える破壊力を知らない人が周囲にいたら、ぜひともアウティングの危険性を伝えて欲しいと思います。アウティングによってもしかしたら現世にとどまれなかったかもしれない1人として、アウティングや、LGBTに対する差別偏見が世の中からなくなることを切に願います。

 

参考文献

性的マイノリティ(LGBTQ+)の自殺対策を自治体で進めていくために〜「自殺総合対策大綱」に基づいて〜 プライドハウス東京発行

はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで 石田仁著 ナツメ社