まず、パートナーシップ制度とは?

まずは、パートナーシップ制度についてお話する前に、日本の婚姻制度について理解しておく必要があります。

日本において認められている法律婚、つまり、広く「結婚」といわれているのは、男性、女性の異性カップルについてです。日本では、同棲カップルの法律上の結婚は認められていません。

法律婚を経ることで何が変わるかというと、夫婦の一方が死亡した場合の相続の問題や、税金の控除(配偶者控除、配偶者特別控除)が受けられたり、パートナーになにかあった場合の医療行為の同意(代理)ができたりします。

裏を返せば、同性カップルの法律婚が認められていないために、こうした法律婚と同等の待遇を受けることが難しいというのが今の日本です。

この現状に対してひとつの対策として存在しているのが、パートナーシップ制度です。これは、自治体が同性カップルを証明したり、宣誓を受け付けたりするものです。

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日本では2015年からスタート

パートナーシップ制度は、日本においては2015年からスタートしました。比較的新しい制度であり、現在もパートナーシップ制度を導入する自治体が増えている状況です。

2015年、東京都渋谷区議会が「結婚に相当する関係」と認め、渋谷区パートナーシップ証明書を出すという条例を制定したことが始まりです。

同時期には、世田谷区でも同性パートナーシップ宣誓を開始しており、こちらも同じようにパートナーシップ制度のひとつとなっています。

渋谷区が制定しているパートナーシップ制度は、証明書を発行するもので、渋谷区に住民登録があり、20歳以上であることなどの利用条件があります。

申請から証明書の発行までには1週間ほど要しますが、書類の提出によって証明書を得ることができます。必ず2人で申請に行く必要があります。どちらか一方であったり、郵送での申請、書類の提出はできないようです。

ただし、議会での決議が必要となるため、作業数が多くなってしまっているのは事実です。

手数料は300円で、基本的にそれ以外の費用はかかりません。

一方、世田谷区で制定しているパートナーシップ制度は、パートナーシップの宣誓書を世田谷区が受け取る形です。

利用条件は渋谷区とも少し違っていて、ふたりとも世田谷区内に在住しているか、一方が在住でもうひとりが転入を予定している場合にも宣誓することができます。
ほかにも、2人が法律上の婚姻関係にないこと、近親者でないこと、などの条件があります。

宣誓したい日の3日前までに申し込みで大丈夫という、比較的急な予定にも対応してくれるのが世田谷区のパートナーシップ制度です。宣誓手続きの日時について職員との相談のうえ、決定されます。平日以外でも対応できる場合がありますので、それは相談次第ということになるようです。

また、当日の宣誓の手続きにかかる時間は30分ほどの予定とのことです。宣誓場所は世田谷区役所梅丘分庁舎と決まっています。

参考:

渋谷区パートナーシップ制度

世田谷区パートナーシップ制度

パートナーシップ制度は自治体の制度

ここまでお伝えしたとおり、現在の日本においてパートナーシップ制度は法律婚として認められているわけではありません。各自治体がそれぞれで行っている制度で、渋谷区と世田谷区でもその内容が少しずつ違っているように、それぞれの自治体の条例によって内容や手順が決められています。

つまり、パートナーシップ制度を利用する過程においても違いがありますが、制度を利用したあとについても、できること、できないことはそれぞれの自治体によるところもあります。

一方、企業がパートナーシップ制度を取り入れている場合もあり、これは会社が定める福利厚生を同性パートナーにも適応しようとする制度です。

結婚に関わる休暇や金銭的な手当は、これまで法律婚を対象にしていることが多かったですが、すべての従業員のライフワークバランスの充実などを目的として、法律婚以外のカップルにも適応することが増えています。

具体的には、社宅制度や結婚、育児、介護休暇、慶弔見舞金などが対象となることがあります。

企業のこうした動きは、自治体が定めるパートナーシップ制度と全く同じではないですが、パートナーシップ制度の拡充とともに、各企業においての取り組みも広がっていると言えるでしょう。

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パートナーシップ制度で出来る可能性のあること

ここからは、パートナーシップ制度を利用することで、できるようになる可能性のあることについてお伝えしていきます。

何度もお伝えしているとおり、法律婚とまったく同じというわけではありませんので、その影響力や法的な力としては弱い面もあります。しかし、現状を知ることでうまく利用できたり、最悪の事態を避けることができるようにもなります。

市営住宅や区営住宅への入居申請

同性カップルの場合、同居を考えたときにルームシェアという形で賃貸の契約をすることが多くあります。

賃貸契約の過程では、ふたりの関係性を公表するのか、そもそも不動産会社や大家さんに理解してもらえるのかなど数々の問題があります。

しかしパートナーシップ制度があることで、少しずつ理解が浸透しているのも事実です。渋谷区では、渋谷区の条例に従って違反した事業者は名指しされるなどの取り組みもあり、幅広い理解と実施が求められています。

法的拘束力がない分、最終的な判断は大家さんに委ねられることも多いですが、パートナーシップ制度の利用を証明することで、親族と同様の扱いを受けることができたり、理解が得られやすいといえるでしょう。

携帯電話など、プランを組むときはパートナーと家族割引

携帯電話に限らず、クレジットカードや、動画配信のサブスクリプションなどにおいて、家族割引を利用できるケースが増えていきました。

金銭的にもその分お得に利用することができますし、何よりカップルと家族割引が利用できるのは嬉しいことですよね。

クレジットカードで家族カードを作りたい場合は、一文パートナーシップ制度の書類提出が必要になることもありますが、生計を同一にしていることが証明できればパートナーシップ制度を利用しているかどうかは問われない場面も増えてきました。

病院でパートナーと家族同様に扱ってもらえる

病院などパートナーの体調や、場合によっては命にも関わってくる場面で、パートナーシップ制度があることで面会や手術の同意が可能になるケースもあります。

同性カップルは、家族でないことを理由にパートナーとの面会が許されなかったり、緊急を要する手術などに同意ができなかったりすることがあります。こうした悲しい場面を作り出さないためにも、パートナーシップ制度があります。

一例になりますが、大阪府堺市のパートナーシップ宣誓制度では、市の医療機関に対して、パートナーシップの関係にある人が、面会や手術の同意を病院に求めることができると記されています。

生命保険の受取人に指定できる

パートナーと一緒に生活していくことを考えたとき、お金についてしっかりと話し合っておく必要があります。

これまで、婚姻関係にある、あるいは親族であるなど生命保険の受取人が限定的であったサービスも多かったですが、最近では同性パートナーを指定することができる生命保険も増えています。

渋谷区をはじめとして、同性パートナーを指定できるよう保険内容を改める保険会社が多く、大手ライフネット生命では同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定することが可能になっています。

パートナーシップ制度で出来ないこと

パートナーシップ制度で出来ないこと
もちろん、パートナーシップ制度を利用していてもすべてがうまくいくというわけではありません。パートナーシップ制度では補いきれない部分、今の制度では難しいことについてお伝えしていきます。

結婚と同等の扱いを国から受けること

パートナーシップ制度は法律で決められているわけではなく、各自治体による制度です。そのため、国の保証などを受けることはできません。

家を追い出されるかもしれない

同居していたパートナーが亡くなったときに、法律婚をしていれば、遺言などがなかったとしても、パートナーの財産や資産などをまったく相続できないということはありません。

しかし、同性パートナーの場合はこれが適用されず、万が一のときに遺言がなければ、どれだけ長い付き合いで家族としてともに生活していたとしても相続ができないのです。また、亡くなったパートナーが所有する家だった場合、相続できないことから家も出ていかなければならない場合があります。

これを防ぐためにはまず遺言書を必ず作っておくこと、同居する前に、一緒に生活する前にしっかりと話し合って決めておくことが大切です。

病院で一緒にいることができない

パートナーシップ制度によって、病院での面会ができたり、緊急時のパートナーの手術に同意することができるとお話しました。しかし、必ずしもそうではありません。

パートナーシップ制度を利用していて、証明ができたとしても、法律上の家族とは言えないため、病院側の理解や許可がなければ、面会もできず、緊急を要する手術にも同意ができないだけでなく、病状や容態について聞くこともできない場合があります。

結婚していれば、当たり前のように進められる重要な手続きや判断が、パートナーシップ制度ではカバーしきれないのです。

戸籍や住民票に記載なし

パートナーシップ制度は法律婚ではないことから、戸籍や住民票への記載がありません。法律婚であれば同じ戸籍に入り、住民票にも妻、夫といった記載があります。事実婚の場合については、戸籍は別ですが、住民票には未届けとして妻、夫の記載が入るのですが、同性パートナーには一切の記載がありません。

パートナーシップ制度を利用したという証明ができても、法的な文書に記載がないことで、さまざまな権利が与えられない可能性もあるというのもまた、ひとつの現実です。

まとめ

まとめ
今回の記事では、パートナーシップ制度でできることとできないことについてお伝えしてきました。

パートナーシップ制度を利用することで、サービスが利用できるようになったり、一緒に住みやすい、パートナーの有事の際にできることが増えるといったことが可能になります。しかし一方で、パートナーシップ制度は各自治体によるもので、法律的な効力がない分、会社や不動産会社、病院など関わる先の理解やルールに左右されるところも大きいのが現実です。

日本において法律婚として認められている男性、女性の夫婦であれば何事もなく認められていることが同性カップルには確証がなく、認められない場合も多いということになります。

ただ、2022年6月30日までに、3100組以上がパートナーシップ制度を利用していて、約220の自治体がこの制度に対応しています(日本のパートナーシップ制度 | 結婚の自由をすべての人に – Marriage for All Japan – )。今後も実施する自治体は増える可能性があり、増えることでより幅広い理解が得られる可能性も期待できます。

パートナーシップ制度を利用したいと考えているカップルは、ぜひこの記事を参考に、遺言書など事前に決めること、作成すべき書類などはしっかりと揃えて、豊かな生活につながると良いですね。