昨今ではメディアに取り上げられるようになった事もあり、トランスジェンダーという言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?

本記事では、トランスジェンダーについてや日本での戸籍変更について、トランスジェンダー男性という観点から日本における諸問題、また戸籍変更に関して取り上げたいと思います。

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トランスジェンダーとは?

前提として、セクシュアリティー(人間の性のあり方全般を表す言葉です。)には4つの要素があります。

  1. 身体的な性別(戸籍の性別)
  2. 性自認(心の性)
  3. 性的指向(好きになる性)
  4. 表現する性(服装や髪型、一人称等)

上記の中でもトランスジェンダーは1と2が一致せず、望む性別へ手術等を希望する状態や、性別適合手術を受けた人を指します。3、4は関係なく、トランスジェンダーで異性愛者の方もいれば、同性愛者、Aセクシュアルの方もいます。

トランスジェンダー男性(FtM)とは?

身体的な性別が女性であり、性自認が男性の方をトランスジェンダー男性と言います。逆は、トランスジェンダー女性となります。

どのようなきっかけでトランスジェンダーであると自認する事が多いのか、人により様々ではありますが、幼少期から自身の割り当てられた性別(戸籍の性別)に違和感を持つ当事者は少なくありません。例えば、筆者は七五三で写真を取りに行ったときに、着物を着させられることを泣いて嫌がり、近くにいた男の子が着ていた服を着たがっていた記憶があります。

他にも、中学に入学すると同時に、男女で制服が違うことに違和感を覚えたり、体育の授業を男女別々で受けること、恋愛感情を持った時にいわゆる”多数派”とされる異性愛者ではなく、「自身の戸籍の性別」と同じ同性を好きになることで、周囲との違いを自認するなどきっかけは様々です。

また2013年に行われた、ホワイトリボンキャンペーン・ジャパンの調査では「自分がLGBTであるかもしれないと気がついた年齢」は13〜4歳が最も多く、性別違和のある男子の場合には25%は小学校入学前に自覚があったという調査結果が発表されています。

どのような問題をトランスジェンダー男性(FtM)は抱えていることが多いのか

どのような問題をトランスジェンダー男性は抱えていることが多いのか
先述したように、思春期に自認するきっかけが多いといわれている中でもトランスジェンダー男性の抱える問題とはどういったものがあるのでしょうか?

様々な問題の中でも多く上げられる物を一部、紹介します。

性別的な役割を求められる、強制される、また表現する性が制限されること

「女の子なんだから家事をしなさい」「もっと女の子らしい服装/言葉遣いをしなさい」「女子力がある/ないよね」といった性別による役割を日常的に、また意識/無意識的に求められることは誰しもあるのではないでしょうか?

これはトランスジェンダー男性だけではなく、性別違和の無い女性にとっても行きづらさを感じる問題です。

共同利用のトイレやお風呂等

学校や会社など公共の場でのトイレ利用や、修学旅行・友人と旅行に行く際に利用に困ることがあります。カミングアウトの有無にかかわらず、友人たちからなぜ一緒に入りたくないのか説明(もしくは嘘をつき続ける)をしなければならない、個室のトイレを毎回利用すること、温泉に入りたいとしてもタオルなどで身体を隠さなければならない等、ハードルが高い状態です。

社会での理解が進んでいないことから差別や偏見を受けやすいこと

トランスジェンダー男性ということで、「どうやってトイレをするの?」「どうやって性行為をするの?」「線が細そう/男社会ではやっていけなそうだね」等、トランスジェンダー男性であることを知り、憶測や好奇心から非常に個人的な話を聞かれたり、自身のパーソナリティを勝手に判断されてしまうことがあります。

日本での戸籍変更のハードルが高く、また費用面でもハードルが高いこと

戸籍変更要件については後述しますが、手術要件等が定められているなど、世界的に見ても当事者にとって非常に負担の大きい制度になっています。また、費用面においてはどのような手術を行うかによりますが、100万円~300万円程かかり、身体的な負担も非常に大きいものです。

自殺率が高いこと

トランスジェンダー男性だけにかかわらず、トランスジェンダー全般におけるデータとして、性同一性障害を診断されている方の平均 56% が生涯に自殺願望を経験し、29% が自殺を試みているといった分析データもあります。セクシュアルマイノリティではない人の自殺傾向の割合よりも高いことがデータ上でも示されていることがわかります。

参考 性同一性障害(GID)と自殺願望の頻度 自由が丘MCクリニック大谷伸久

参考 第16回自殺対策推進会議 向 笠 委 員 提 出 資 料 – 厚生労働省

日本の戸籍変更の方法

日本の戸籍変更の方法
日本では性別の戸籍変更が法的に可能です。要件としては以下のように法律で明示されています。

  • 2人以上の医師により,性同一性障害であることが診断されていること
  • 18歳以上であること
  • 現に婚姻をしていないこと
  • 現に未成年の子がいないこと
  • 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  • 他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

※ 性同一性障害者とは、法により「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者」とされています。

参考 性別の取扱いの変更 最高裁判所

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世界的に見た時の日本の制度の問題

日本では先述した戸籍変更要件が法律で定められていますが、世界的に見ても日本の法律は国際基準を満たしておらず、性別適合手術を要件として定めることは不妊治療を強制する観点から、人権侵害である事が問題視され国内外から批判を受けています。

海外では、2000年代半ばから要件の緩和の動きが進み、現在では多くの諸外国で要件が変更されています。

例えば、アルゼンチン、デンマーク、フランス、ノルウェー、ベルギー、ギリシャ、ポルトガル等では医師の診断書がなくても法的性別変更が認められています。

コロンビア、エクアドル、ウルグアイ、スウェーデン、カナダ、英国、スペイン、アメリカの一部(ニューヨーク州やカリフォルニア州、ワシントンD.C.など7地域)、メキシコの一部(メキシコシティと他の5州)等では性別適合手術を受けなくても法的性別変更が認められています。オランダ、ノルウェー、マルタでは、16歳から法的性別変更が認められています。

このように手術以前に、医師の診断書がなくても、本人の性自認や主治医からの意見書のみで性別を変更できる国も出てきています。そこから比べても、先進国の中で日本の制度状況は非常に遅れている状況です。

参考『トランスジェンダー関連法』 に関する世界各国の法整備 プライドハウス東京

トランスジェンダー男性(FtM)の治療の種類

実際にトランスジェンダー男性が治療を望む場合、どのような治療があるのか、またその費用はどれくらいかかるのか、筆者の経験も交えて解説します。

男性ホルモンの投与を行い男性的な体つきへ

・病院等で男性ホルモンの投与を行うことができます。肩かお尻に注射をするケースが多く、他にも飲み薬、塗り薬があり、投与の周期は人によりますが長くても月に1回くらいの頻度で行かれている方が多いです。

・ホルモン注射は一生付き合っていかなければならないので、金銭的な負担が大きいです。
(1000〜3000円/回くらいで、量によって頻度は違うが1ヶ月に1〜2回打つ。また、血液検査が約3ヶ月ごとにあるので追加料金がかかる。)

・個人差はあるものの以下の変化が起こります。
筋肉がつきやすくなる、声が低くなる、髭・体毛が生える、肌質に変化(ニキビなど)がある、性欲が強くなる、自律神経の乱れを感じる(イライラしやすい、発汗など)、髪の毛が薄くなる

・多血症の可能性があるので、貧血の人は相性が良いのですが、赤血球がつくられる量が多くなりすぎると要注意です。(血液検査で経過を見ているので基本的にはそこまで心配しなくても大丈夫です。)

・男性ホルモンは尿酸値を上げる作用があり、痛風になる可能性もあるようです。

乳房切除

・乳腺・乳房を切除することで、中の脂肪を取り、平らな胸に形成します。

・元々の胸の大きさによりますが、多少皮がたるんでしまい、垂れている胸になりやすいのですが、筋トレなどをすることで筋肉をつけてたるみを改善することもできます。

・乳輪などの大きさに悩む方も多く、乳頭の縮小術を希望する方もいます。

・国内で手術を行うのか、タイで性別適合手術とセットで行うのかにもよりますが、大体70〜90万円くらいの費用がかかります。

子宮と卵巣の摘出手術

・性別適合手術の1つで、日本の戸籍変更要件に該当する手術です。
 手術方法としては開腹手術と腹腔鏡手術があり、腹腔鏡手術は手術痕が目立たないため費用も開腹手術より20〜30万円高いです。

・費用は80〜150万円程度かかります。比較的タイの方が歴史が長く手術になれていることや費用面で見ても安い傾向があります。
筆者は当時の金銭面から、国内で乳房切除を行い、数年後にタイの病院で性別適合手術だけ行う選択をしました。

陰茎形成

・性別適合手術の1つですが、戸籍変更要件に該当はしません。(必須の手術ではない。)

・人によりますが、腕やふくらはぎの皮膚を使用して陰茎形成を行い、尿道の延長など大掛かりな手術を行います。

・賛否両論がありますが、当事者間やアテンドを長年している方のお話を聞くと、おすすめしない人が多い印象があります。
理由としては、「負担が多い割にメリットが少ない」からです。
費用は200万円近く追加でかかり、手術後のアフターケアをし続けなければならない、性行為はシリコンを入れればできるが、できない場合も多く勃起などの機能はない、皮膚をとるので手術痕が大きな火傷の痕として残るなど、まだ当事者が求めたい機能が少ないからです。
一方で男性器があることに安心感を覚えたり、立位でトイレができる、銭湯に入りやすいなど人によって価値観は違うので、よく検討して見るのがいいと思います。


ここまでの治療の内容や費用面の負担などから、メリットが少ないように感じるかもしれませんが、私自身は自分のアイデンティティを守るためにもホルモン注射・性別適合手術をして良かったなと思います。

大変なことも多いですが、身体的な違和感がある以上そのまま女性の体で生き続けることの方が困難だったので後悔はしていません。
ただし、ホルモン注射や手術をして身体的に変化した後にやっぱり望んだ形ではなかったと思っても身体が元に戻る保証はないので、よく考えて、医者や信頼できる人の話を聞いてから決断することをおすすめします。

まとめ

まとめ
ここまで、トランスジェンダーやトランスジェンダー男性、抱えている問題や日本と政界のギャップ、法律的な部分をお読みいただきいかがでしょうか?

初めて問題を知った方もいれば、憤りを感じる方、じゃあどうしたらいいのか?と疑問を持った方もいるかと思います。本記事ではあくまで一部の現状をお伝えしましたが、よりすべての人が 生きやすい社会を作るために筆者は以下のようなことが一人一人にできると考えています。

  • まずはセクシュアルマイノリティーについて正しい知識をつけること
  • 自分の思い込みや経験則だけで、誰のことも判断をしないこと
  • 自分自身のセクシュアリティーについても考えてみること
  • 自分が知らないだけで、実は家族や友人、恋人が当事者かもしれないことを考えて発言をすること
  • 自分なりの意見を持ったら、周囲の人と議論をしてみたり、本やネットで色々と調べて見ること
  • 選挙やイベント、キャンペーンなどに参加し、自身の意思を表明すること

筆者自身も無意識に人を傷つけてしまっていたこともありますし、無知故に後悔している言動も多々あります。しかしそこで思考を止めず、自分自身やあなたの大切な人たちが生きやすい社会を作るためにも、まずは知ることから初めてみるのはいかがでしょうか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!