どうもこんにちは、るるです。最近ではLGBTについて取り上げられることも増え、トランスジェンダーや性同一性障害、Xジェンダーなど、混同しがちなジェンダーも多いですが、今回は『性同一性障害』について、昔と現在で認識がかわった点など含めて解説していきたいと思います!

初めに
IRISではLGBTにも、その他のマイノリティにも親切な企業でありたいという気持ちからLGBTsフレンドリーを掲げていますが、本記事はLGBTに関する内容の為、LGBTsではなくLGBTという言葉を使用していきます。

性同一性障害とは

性同一性障害とは
性同一性障害とは、医学的な病名であり「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信をもち、かつ、自己を身体的および社会的に別の性別に適合させようとする」と定義されています。英語ではGender Identity Disorder(GID)と言います。

より簡単に言うと、「自認する性(こころの性)と身体的性(からだの性)が一致しないため、苦痛や障害を引き起こしている状態」のことを指します。

多くの人は、生まれ持った性は男性(女性)だが「本当は女(男)として生きるべきだ」という確信と、社会的に当てがわれる性別とのギャップにより、悩んだり落ち込んだりという状態になります。

自分の心と体の性を一致させるために外科的手術(性別適合手術)を望む人などは、医療機関の精神科で診察を受けた上で診断されれば性同一性障害であるという診断書を貰うことができます。

日本の性同一性障害の歴史

日本で初めて性転換手術を行ったとされる人は、永井明子(男性名:明)という人で、1950 年 8から 51 年 にか けて精巣と陰茎の除去手術と造膣手術、さらに乳房の豊胸手術を行ったとされる。手術終了時点で27歳だったそう(参考:「LGBT と法律 性別の変更について考える」)。

その時代、その若さで(当時ではそんなに若い年齢ではないのかもしれませんが)性別適合手術が実現していたことに驚きです!

・ブルーボーイ事件
日本の性別適合手術が問題視されるきっかけともなった事件で、ものすごく簡単に言うと1964年に性別適合手術を行った医師が有罪で逮捕されたというものです。

当時警察は、風紀上良くないと男婦(ブルーボーイ)への取り締まりをしようとしていたが、売春防止法は男娼には適用されなかったため、その男娼たちが性転換手術を受けたという医師を、優生保護法違反事件として立件し、1965年に麻薬取締法違反と優生保護法(現在の母体保護法)違反により逮捕されました。

優生保護法の中には、「何人も、この法律の規定による場合の外、故なく、生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射を行ってはならない。」という条文があります。つまりは、無闇に生殖機能を無くする手術はしちゃダメですよ。という法律に違反したということですね。

手術以前の問診や手術の同意書、診療記録なども作成していなかったことから、手続きが不完全で正当な医療行為でなく闇的に手術をしていたとみなされたのですが、明確なガイドラインが無い中で、治療を強く望む患者からの積極的な依頼に応えたという点では、医師として誠実で勇敢な判断だったのではないでしょうか。

この事件がきっかけで「性転換手術は優生保護法違反である」という結論だけが一人歩きしてしまい、日本で性転換手術を行う医師は減り、2000年頃までこの問題を論ずること 自体がタブー視されたといわれており、日本の性別適合手術やそれにまつわる法整備が他国に比べて遅れた原因とも言えます。

また、「性同一性障害の診断 と治療のガイドライン」の初版はこの事件の判例を元に作られました(参考:性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第 4版)

トランスジェンダーとの違い

混同されやすいものとして『トランスジェンダー』という言葉があります。「こころの性と身体的性からだの性が一致していない方全般を表す総称」であり、こちらは性同一性障害の方も含む上、その中には、中性や無性といった Xジェンダーと自認する人も含まれます。

また、言葉ができた歴史として、性同一性障害の当事者の人たちが、自分たちの性自認が病気や障害として不当な迫害をされないために自称していた言葉で、徐々に国際的な公的機関でも使われるようになりました。

性同一性障害が医学的診断名で医師から告げられる名称であるのに対して、トランスジェンダーは自身が思う性別と体の性が異なる状態にある人が自称するための言葉であり、誰かから判断されて与えられるものではないというのが大きな違いかなと思います。(もちろん診断されてないから性同一性障害と自称してはいけないというわけではありません。)

性別不合の違い

性別不合という言葉は、2013年にアメリカ精神医学会が発行した「精神障害の診断および統計マニュアル」第5版(DSM‐5)で、精神疾患としての「Gender Identity Disorder(性同一性障害)」が削除され、代わりに「Gender Dysphoria」と改変されたため、その邦訳として性別不合という呼称に変化してきています。

「障害」という言葉が適当でなないという判断からですが、昔は生まれ持った性別とは異なる性で生活をしようとする人や同性愛者などを精神の病の一種として扱ってきたという歴史があったために、性同一性障害という診断名がつけられていましたが、性別不合という言葉を用いることで、トランスジェンダーの非病理化が達成されたのです。

よって、言葉が指す状態は同じですが、歴史的背景を理解した上で使うことで、当事者の人への理解にも繋がるのかなと思います。

性同一性障害で見られる3つの特徴

性同一性障害で見られる3つの特徴
①自らの性別を嫌悪あるいは忌避する:男らしい、あるいは女らしい体つきになることをいやがる気持ちが強くなります。

②反対の性別に対する強い持続的な同一感を抱く:反対の性別の服装(異性装)や、反対の性別としての遊びを好みます。

③反対の性別としての性別役割を果たそうとする:日常生活の中でも反対の性別として行動したり、義務を果たしたり、家庭や職場、社会的人間関係でも、反対の性別として役割を果たそうとします。

(参照:日本女性心身医学会

性同一性障害を診断する4つのステップ

性同一性障害を診断する4つのステップ
性同一性障害の診断は以下の手順により診断されます。
ホルモン療法や手術療法など不可逆的治療を前提としている場合、診断の確実性が求められ、基本的には2 人の精神科医が一致して性同一性障害と診断することで診断は確定します。
身体的治療を前提としない通常の診断書の場合は、必ずしも2人の精神科医の一致した診断が必要とされるわけではありません。

以下がガイドラインに基づく診断の手順です。

(1)ジェンダー・アイデンティティの判定
詳細な養育歴・生活史・性行動歴について聴取する。DSM-Ⅳ-TR (精神疾患の診断・統計マニュアル)や ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)を参考にしながら性別違和の実態を明らかにする。 診察の期間については特に定めないが、診断に必要な詳細な情報が得られるまで行う。
(2)身体的性別の判定
身体的性別の判定は原則として、MTF は泌尿器科医、FTM は婦人科医により実施される。 身体的性別に関する異常の有無が総合的にみて判定する。
(3)除外診断
統合失調症などの精神障害によって、本来のジェンダー・アイデンティティを否認したり、 性別適合手術を求めたりするものではないこと、反対の性別を求める主たる理由が、 文化的社会的理由による性役割の忌避やもっぱら職業的利得を得るためではないことを確認する。 ただし、統合失調症等他の精神疾患に罹患していることをもって、画一的に治療から排除するものではない。 症例ごとに病識を含めた症状の安定度と現実検討力など適応能力を含めて、慎重に検討すべきである。
(4)診断の確定
以上の点を総合して、身体的性別とジェンダー・アイデンティティが一致しないことが明らかであれば、これを性同一性障害と診断する。 性分化疾患( 性染色体異常など)が認められるケースであっても、身体的性別とジェンダー・アイデンティティが一致していない場合、 これらを広く性同一性障害の一部として認める。

(参照:日本精神神経学会

性同一性障害の治療と疫学

性同一性障害の治療と疫学
上記にも出てきた通り、国内においては ”性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン” が存在しており、性同一性障害の治療は基本的にこのガイドラインに沿って行われます。まず治療の最初のステップとなるのは精神科専門医への受診で、前述した手順で患者さんにとって本当に性別を変えることが妥当な判断なのかを一緒に確認していきます。

十分な検討の後に、“身体的治療に進んだ方が良い”と判断された場合には、次のステップへ進みます。

①ホルモン治療

②乳房切除術や性別適合手術

といった身体的治療の順で、患者の希望に合わせて治療を進めていきます。(参照:いのちとこころの情報サイト

それぞれの身体的治療の概要は以下になります。

FTM に対する乳房切除術

FTM の場合、身体的治療のひとつとして乳房切除術を選択することができる。 ホルモン療法と同時にあるいは時期を違えて行うこともできる。 あるいはホルモン療法を行わず、乳房切除術のみを行うこともできる。 両者を同時にあるいは時を違えて行うこともできる。 乳房切除術を性別適合手術と同時に行うことも可能であるが、身体的侵襲の程度などを考慮して、個々に判断すべきとされている。

性別適合手術(sex reassignment surgery;SRS)

性別適合手術に関しては、2 通の意見書をもとに「性別適合手術適応判定会議」において、その適応を判断する。
ここで規定する性別適合手術の範囲は、基本的には内外性器の手術に関わるものであり、

MTF の場合:精巣摘出術、陰茎切除術と造腟術および外陰部形成術
FTM の場合:第1 段階の手術―卵巣摘出術、子宮摘出術、尿道延長術、腟閉鎖術
:第 2 段階の手術―陰茎形成術

などがある。どのような範囲の手術をどのように行うかの選択は、 それぞれがもたらし得る結果と限界やリスクについて十分な情報を提供する中で、本人の意思を尊重しながら決定される。

(参照:日本精神神経学会

性同一性障害に対する心理的サポート

性同一性障害に対する心理的サポート
性同一性障害に対する認知が広まりや治療面でのサポートが整う中で、当事者への心理的サポートの重要性が浮き彫りになってきています。
特に身体が大きく変化していく思春期の当事者の自殺念慮や自殺未遂、不登校の割合が多いことから、学校や家族の認識や対応を変化させていくことが求められています。

岡山大学ジェンダークリニックで行われた調査では、受診者の56.6%が小 学校入学以前,また,89.7%が中学生までに性別不合を感じていたことがわかりました。
さらに、当事者が希望するホルモン療法開始年齢を調べると、FTM当事者は二次性徴の発現後でもよいと考える比率が高く,平均すると15歳頃(中学校~高校)を希望していましたが、MTF当事者の多くは二次性徴の発現前を希望しており、平均 すると12歳頃(小学校高学年~中学校)とより早い時期を希望していました。

これには、MTF当事者は二次性徴後のホルモン投与でも満足のいく効果がみられるのに対して、FTM当事者は、声変わりをして、ひげが生え、男性的な体型になってからホルモン投与しても変化は少ないということが起因しているようです。

このような調査や実際に、女児として通学している小学6年生のMTF児に対して、二次性徴の発現を抑制するためのホルモン投与が行われたことが報道されるなどの風潮をを受け、2012年には一部の条件付きでホルモン投与開始年齢を条件付きではありますが、18歳から15歳に引き下げるなどの変化がありました。

この年代での精神的サポートや治療の選択肢の幅を拡充させていくことで、大人になる過程での当事者の多大な苦悩が少しでも軽減されるのではないかと思います。

(参照:性同一性障害と思春期

性同一性障害とは?まとめ

性同一性障害とは?まとめ
性同一性障害について、昔と現在での捉えられ方の違いや法律的な変容などを中心にまとめてみました。性同一性障害という言葉もなくなっていくでしょうが、当事者の人たちにいつどういったサポートや治療があれば、より生きやすいのかというところが少しずつ明確になっていっているのかなと思いました。

法律であったり海外の医学会の動向などが絡んでややこしい部分も実際あるのですが、そういったところから理解していくことでより知見が深まって、正しい認知や対応につながっていくのではないかと思います。