陰茎形成術とは、ペニスをつくる手術のことをいいます。日本では戸籍上の性別を変更する要件の1つに、「外観要件」が挙げられます。つまり、移行する性別の性器に近似する外観を備える必要があるとされています。

FtMに関しては、陰茎形成術をしない状態(子宮卵巣摘出のみ)でも法律上の性別の変更は可能ですが、個人により、陰茎形成術、乳房切除術、睾丸・ペニスの摘出、ホルモン治療など、どのような治療を受けるかは異なります。なかには男性として社会生活が送れているという理由で、陰茎形成術を受けない人もいます。陰茎形成術は合併症のリスクが高いともいわれている手術であり、慎重に検討する必要があるでしょう。

本記事では、陰茎形成術の基本情報や実際に手術を受けた当事者の経験などを紹介します。

2種類の陰茎形成手術

2種類の陰茎形成手術
主に陰茎形成術には、「陰茎形成術/phalloplasty」と「陰核陰茎形成術(ミニペニス形成術)/metoidioplasty」の2種類が存在します。これら2つの違いとはなんでしょうか。それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。

陰茎形成術

陰茎形成術とは、多くのFtMの人が選ぶ手術です。腕や太もも、すねなどの皮膚を用いて、10cm〜15cm程の陰茎をつくります。陰茎を形成するだけでなく、性器の先天異常や外傷などが原因となる、陰茎の修復を目的とするケースも考えられます。

合併症や傷跡が残る可能性があるため、手術を受ける前にしっかりとリスクを知ることが大事です。以下、メリットとデメリットです。

  • 形成した陰茎から排尿が可能
  • より自然な見た目の陰茎が形成される
  • パートナーとの性行為は可能な場合もあるが、性的な感覚が今までよりは減ったという声も
  • 合併症のリスクがある(詳しくは後ほど解説します)

陰核陰茎形成術(ミニペニス形成術)

陰核陰茎形成術は、男性ホルモンを投与することで肥大したクリトリスを用いて、小さなペニスをつくる手術です。

術前のクリトリスの大きさは3cm以上は必要とされ、陰核靭帯を切り離すなどの再配置を行います。膣は排除され術後のサイズは5cm〜7cmほどが目安です。

  • 通常のペニスと比べるとサイズは小さい
  • 勃起が可能で性的感覚も残ることがほぼ保証されている
  • パートナーと性行為は可能だが、相手によっては性的に満足できないことも
  • 陰茎形成術ほどの合併症のリスクは少ない
  • 陰茎形成術と比べると低費用で手術を受けられる
  • 手術後の治癒時間が短い
  • 立居での排尿が可能

FtMが陰茎形成手術を受ける条件

FtMが陰茎形成手術を受ける条件
陰茎形成術を受けるには条件をクリアしていることが必須です。以下、条件になります。

  • 20歳以上であること。20歳未満の場合は、親またはそれに代わる責任者の同意が必要
  • 少なくとも1年以上、継続して男性ホルモンを服用していること
  • 少なくとも1年以上、男性として生活を送っていること
  • 精神医学的評価を受け、精神科によって精神的に安定していて健康であることが宣言されていること
  • 身体的に健康であること
  • 少なくとも乳房切除術および子宮全摘出術・卵巣摘除術を受けてから6ヶ月以上経っていること

気になる陰茎形成の費用は?

気になる陰茎形成の費用は?
陰茎形成術を受ける際、さまざまな懸念点が挙げられますが、そのなかでも費用は気にするところです。費用は日本もしくは海外で受けるかで大きく左右されます。国内と海外の費用を見ていきましょう。

日本の場合

行徳総合病院を参考にすると、入院費用含めた陰茎形成術の費用は約220万円。病院によっては300万円ほどかかる場合もあります。以下、FtMのGID(性同一性障害)の手術費用の詳細です。

手術 費用
子宮卵巣摘出術 110万円
乳房切除のみ(自費) 65万円
子宮全摘+乳房切除 145万円
子宮全摘・尿道延長・膣閉鎖 140万円
子宮卵巣摘出+乳房切除+尿道延長+膣閉鎖術 170万円
子宮付属器癒着剥離出+膣閉鎖+尿道延長(子宮卵巣摘出後) 120万円
尿道延長 80万円
陰茎形成 225万円
乳頭縮小術 9万円

参考:「GID(性同一性障害)治療」、 行徳総合病院

海外の場合

タイでの性適合手術のトータルサポートを行う会社「G-pit」を参考に、費用を紹介します。日本で手術を受けるのとは異なり、海外では飛行機や滞在ホテルの予約、出国前の準備などを要します。それら全てをサポートしたセットプランを利用することで、安心して海外でも手術を受けられるでしょう。以下、費用の詳細です。

ガモンコスメティックホスピタル

手術 費用 滞在日数
膣閉鎖・尿道延長・形成準備 171万円(鼠蹊部皮膚使用)、185万円(腹膜使用) 約28日
陰茎形成 314万円(上腕 )、303万円(太腿) 約30日
ミニペニス 213万円 約30日

ヤンヒー国際病院

手術 費用 滞在日数
膣閉鎖・尿道延長・形成準備 125万円 約28日
陰茎形成 200万円 約30日

参考:「【タイ】FTM男性化 SRS料金プラン」、G-pit

日本と海外どちらで手術を受ける人が多いの?

日本と海外どちらで手術を受ける人が多いの?
性別適合手術を日本ではなく、海外で受けるトランスジェンダーの人は多くいます。その理由の1つとして、「ブルーボーイ事件」が挙げられます。「ブルーボーイ事件」とは、1964年に性別適合手術を行った医師が、麻薬取締法違反、優生保護法違反の容疑で逮捕された事件です。これにより日本では性別適合手術がタブー視されたと同時に、一部医師によりヤミ手術が施され、表に出ないものとして認識されるようになりました。

また、海外と比べると日本ではまだまだトランスジェンダーに関する認知が浸透していないことから、海外で手術を受けることを選ぶ人が多いのも事実。特にタイでの性別適合手術は主流となり、技術力も日本よりも圧倒的に優れているといわれています。

言語の違う国で手術を受けることに抵抗感をもつ人もいるかもしれませんが、性別適合手術コーディネーターという人が存在し、手術のみならず、ホテルの予約、現地スタッフの手配、手術内容の説明など、しっかりとケアしてくれます。

適切な手術の選択をするために

適切な手術の選択をするために
手術の種類、病院、リスク、メリット・デメリットなど、あらゆる点を理解した上で、最終的な判断をする必要があります。実際に陰茎形成術を受けた当事者、親しい友人、カウンセラーなど、さまざまな人の意見を求めることも1つの手段かもしれません。

また、手術を受けたからといって、必ずしも満足できる結果が伴うとはいえません。医師によって技術や患者の理想の理解度などは異なるため、場合によっては満足できるまで再度手術を受ける人もいるのです。さまざまな意見を聞く1つの手段として、セカンドオピニオンは有効でしょう。また、オンラインでの相談や電話受付を行う病院もあるため、そこで話を聞くことも可能です。

体への大きな負担、陰茎形成を選ばないFtMも多い

体への大きな負担、陰茎形成を選ばないFtMも多い
陰茎形術は、尿路系の合併症のリスクが高いとされています。ほとんどの場合、それらは治療可能な程度であるといわれていますが、100%安心であるとは言い切れません。どのような合併症を伴うのかを理解し、手術を検討することが求められます。以下、考えられる陰茎形術の合併症です。

尿道狭窄

血流が不十分な場合に形成される瘢痕組織により、尿の排出が遅くなったり、妨げられたりすることがあります。

創感染

皮膚を縫合している創部や尿道は、感染しやすい部位となっています。

その他合併症

そのほか、考えられる合併症は以下の通りです。

  • 薬剤副作用・アレルギー
  • 輸血の必要性
  • 異常出血
  • 肺塞栓
  • 皮膚組織の壊死 など

陰茎形成手術に関する動画

陰茎形術について調べてみても、専門的な用語が使われていたり、日本では主流ではないことから、情報を収集することは難しいと感じられます。そこで、わかりやすく陰茎形術についてまとめられた動画を紹介します。

玉あり竿ありFTM。挿入出来ますか?

FTM、元女子の陰茎形成術についてのチャンネル「はじめマンの【作成おちんちんTV】」では、ほとんどの人が知らない陰茎形成手術の情報が積極的に発信されています。というのも、トランスジェンダーへの理解がまだまだ不十分である日本では、陰茎形成手術を受けたほとんどの当事者が実体験を表に出さずに過ごしているのです。さまざまな疑問が存在する陰茎形成ですが、そのなかでも特に気になるのが手術後の性行為について。「性行為はできるの?」「感覚はあるの?」「手術したことは相手にバレてしまう?」など、性生活を送る上での疑問を解消します。気になる人は「玉あり竿ありFTM。挿入出来ますか? ”おちんちんを付けた【FTM】’’ が語るHについて(性転換)Transman」を要チェック!また、陰茎形成術の前日、手術当日から術後の生活、帰国までの動画もあので、併せて見てください。

SRSから陰茎形成まで終えて…ストーリー動画 (FtM)

Kamol Cosmetic Hospitalのチャンネルでは、タイのガモンホスピタルにて、乳腺摘出、子宮卵巣摘出、陰茎形成までの手術を受けたある方のインタビュー動画を出しています。「SRSから陰茎形成まで終えて…ストーリー動画 (FtM)」では、手術を受けた理由、手術後の感想など、個人的なストーリーを交えて紹介しています。

「僕の身体は女だった。だから僕は男性器を作りました」

LGBTs当事者のストーリーを発信するかずえちゃん。実際に手術を受けて男性になったFtMの人にインタビューした「『僕の身体は女だった。だから僕は男性器を作りました』」では、手術を受けようか迷っている人へのメッセージが込められています。

まとめ

まとめ
本記事では、陰茎形成術についての詳しい情報を解説しました。現状、日本ではトランスジェンダーに関する情報が少なく、海外のサイトなどから調べる必要があります。まだまだ認知が広がっていませんが、少しでもこの記事が参考になれば嬉しいです。

手術を受けるか受けないかは個人の選択です。手術のメリット・デメリット、費用、リスク、内容などをしっかり理解した上で、自分にとっての最善の選択肢は何かを考えてみてください!